医療従事者のメンタルヘルスを守る活動に注力するよしのが語る、壁にぶち当たった時の2つの解決法

様々なキャリアの人たちが集まって、これまでのステップや将来への展望などを語り合うユニークキャリアラウンジ。第576回は+base inc.のCOOとしてご活躍中のよしのさんです。ソーシャルビジネスに興味を持っていたよしのさんが、大学卒業後リクルートでの勤務を経て医療業界のメンタルヘルスケア事業に取り組むことになった経緯とは。ご自身が苦難を乗り越えるにあたって気づいた壁にぶち当たった時の2つの解決法についてもお話しいただきました。

コロナ禍だからこそ、メンタルヘルスケアを守る活動を

ーまずは簡単な自己紹介をお願いします。

現在、看護師向けのメンタルヘルスケアサービスを開発しながらニュースメディアのコミュニティマネージャーとしても働いています、よしのです。早稲田大学卒業後はリクルートに入社。その後、リクルートを退職し、看護師向けのメンタルヘルスケアサービスを提供するべく、+baseを友人と立ち上げました。

ー+baseについてもう少し教えていただけますか。

+baseでは「働く人のこころを守るしくみ」をテーマに、命を守る人である看護師のメンタルヘルスケアサービス+Nurseの開発を行っています。急性期病棟の看護師の54%程度が抑うつ状態にあることを問題視し、コロナ禍で医療従事者が大変な日々を過ごしていることからもメンタルヘルスを守る活動を始めることとなりました。

ー同時にコミュニティマネージャーとしても活動されているんですね。

大学時代からシェアハウスに住み、コミュニティという存在の影響を大きく受けてきました。コミュニティで出会う人やコミュニティが作る環境によって新しい機会が創出されたり、何か新しい繋がりが生まれたりすることを自分自身が実感したからこそ、コミュニティの可能性を私は信じています。そのためコミュニティを育てる、作りあげることに関わり続けたいという思いから、コミュニティーマネージャーとしても活動を続けています。

自分の意思を持てなかった中高時代

ー現在に至るまでのお話をぜひ聞かせてください。どのような幼少期・学生時代を過ごされていましたか。

小学2年の頃から父の仕事でアメリカに家族で引っ越しました。アメリカに住んでいたということもあり、両親は様々な価値観に触れてほしいという考えを持ち、小学生の時から植林キャンプのボランティアなどにも参加。広い視野を大事にする教育方針のもと、育てられたと思います。

ー中高時代のよしのさんに大きな影響を与えたエピソードなどはありますか。

中学に入学するタイミングで私は日本に帰国し、親元を離れて中高生活を送っていました。在籍していた日本の高校では卒業論文を書く文化があったのですが、その際に読んだ先輩の論文が社会貢献に目を向けるきっかけとなりました。

当時私は、親が厳しかったこともあり、ずっと息苦しさを感じてたんです。人生には楽しいことも苦しいこともあるのが普通だとは思うのですが、当時は苦しいことの方が多いと感じる人生で…よくなんで生きているんだろうと考えることがあったんです。

でも、先輩の論文で「日本は恵まれた国で、あらゆる機会を私たちは得られる環境にいるから、日本人として生まれたからには自分より恵まれていない人に貢献するべき」と書いてあるのを読みました。その時になんで生きているのかを考えられるくらい余裕のある人生を送っていること自体が恵まれているんだと気づきました。そして自分より苦しんでいる人がいるのであれば、その人たちのためにできることを何かしたいと社会に目を向けるようになったんです。自分にとっての軸が社会貢献・社会課題の解決だと決まった瞬間でしたね。

ーそれでは高校卒業後の進路も、社会貢献ができる場所を選ばれたのですか。

環境問題や国際協力、社会貢献に興味を持ち、国連で働きたいという目標まで見つかったのですが、高校2年の時に両親のいるアメリカに戻ることに。そして両親にその夢を話したところ「あなたには無理」と一蹴されていました。自分に自信がなかった私はその時、無理なんだと思い込んでしまい、目標や夢を失ってしまいました。結局大学は両親が選んだ帰国子女枠で受験できる大学を受験し、その中から早稲田大学を選んだんです。

 

ソーシャルビジネスに惹かれる中、大手企業への就職を決意

ーそこから再び社会貢献に興味を持つことになったきっかけについて教えてください。

ソーシャルビジネスについて初めて知ったのが大学生の時でした。同じ学部の卒業生でソーシャルビジネスをされている方をTwitterで知り、その方にDMで連絡をしてみたところ、シェアハウスを紹介していただくことに。そのシェアハウスでフリーランスやスタートアップで活躍されている方と交流する中でソーシャルビジネスの可能性を感じ、自分も社会課題をビジネスで解決したいと思うようになったんです。

ー具体的にソーシャルビジネスのどこに惹かれたのでしょうか。

それまで、社会貢献というとどうしてもボランティアや寄付など、持続性のないものというイメージが強かったのですが、ソーシャルビジネスであれば、利益を生みながら社会に還元することができるということに惹かれました。

また、シェアハウスのメンバーから仕事の話を聞く中で、ITを活用すればより多くの課題を解決することができるかもと思い、ITを取り入れたソーシャルビジネスに可能性を感じるように。

そこからIT系ベンチャーで長期インターンを始め、トビタテ!留学JAPANを活用してイギリスのビジネススクールに1年間留学もしました。

ー大学卒業後の進路についてはどのように考えられていましたか。

IT系企業を中心に就活をし、外資のIT企業から内定をいただいていました。が、自分が大事にしてきた社会貢献の軸がその企業では抜けていると思ったため、内定を辞退しました。当時はシニア雇用や高齢化に興味を持っており、内定辞退後はその課題に対して何ができるか模索をすることに。しかし自分の無力さを感じ、再度企業への就職を検討することとなりました。

当時、リクルートで働いている友人が周りに多く、会社について調べる中でリクルートが社会の「不」を解決することを大事にしていることを知り、ここであれば学べることがあると感じて入社を決めました。

内省を繰り返し、選んだのは+baseの立ち上げ

ー実際入社してみていかがでしたか。

社会課題に触れ、その課題がどうやってサービスに落とし込まれていくかを学びたかったのですが、求人広告の営業としてテレアポ100件などを行う中で目の前の仕事に精一杯になってしまい、気づいたら目標や目的を見失っていました。

東京で半年働いた後、大阪に異動に。成果も安定せず、しんどい日々が続いていた時に上司に怒られたことがありました。その時に「何をしてたら辛くて、何をしていたら嬉しいのかなどの感情を書き出して自分としっかり向き合いなさい」とアドバイスをされたんです。その時に改めて自分と向き合うことができ、入社前の思いや自分の存在意義や仕事をする意味を思い出すことができました。

ーリクルートの退職は何がきっかけとなったのですか。

徐々に自分に合った営業方法を見つけ、成果がでてきたタイミングでコロナが流行し始めました。そしてコロナで業績に影響を受けたお客様の多くが採用コストや広告費の削減を行う流れがでてきたんです。新規開拓よりもお客様との関係性を大事にお客様に寄り添う営業を行ってきた私にとって、会社が存続できるかの危機にあるお客様に電話で営業し続けるのはとても苦痛でした。

そして社会貢献をしたい、お客様のためになるものを提供したいと思っているのに、お客様に貢献するどころかお客様にサービスを売り付けているという矛盾した行動を取り続けることに疲弊していったんです。

そこから会社に出社してもしんどい日々が続き、ある日急に出社ができなくなったことが退職を考えるきっかけとなりました。

ーその状況に対してどのように向き合い、次のアクションをどのように決められたのか教えてください。

自分としっかり向き合い、改めて自分は何がしたいのかを考えた結果、コミュニティの分野に関わりたいという思いがでてきました。そこで大阪と東京を行き来しながら浅草にあるシェアハウスのコミュニティに関わるようになりました。

同時に、大学時代にシェアハウスで出会った看護師の友人に自分のメンタルヘルスについても相談していました。彼女自身も鬱になった経験があり、仕事に復帰する方法について話す中で、医療業界の課題も知ることとなりました。そして彼女がメンタルヘルスの分野で起業したいという話を聞き、もしかしたら自分にも手伝えることがあるのではないかと思い、転職はやめて一緒に+baseを立ち上げることを決意したんです。

医療業界の現状と向き合い、必要なメンタルケアを届ける

ーこれまで壁にぶち当たりながらも乗り越えられてきたよしのさんですが、壁にぶちあたった時どのように解決されてきましたか。

壁にぶちあたった時の解決方法は2つあると思っています。1つ目は内省して自己解決する方法。2つ目は他者との対話や関係性の中から解決策を見つける方法です。

私はリクルートで自分の目的を見失っていた時は自分の感情と向き合い、それを書き出すことで解決することができました。でも会社に急に行けなくなった時は、周りの人との対話を通して少しずつ答えが見つかったと思っています。第三者から的確なフィードバックをもらいながら誰の意見をどのタイミングで取り入れるかを考えるのは自分に合っていると感じたので、今ではコーチングを定期的に受けるようになりました。

ー退職、そして起業され、環境も大きく変わった1年だったと思います。振り返ってみて意識されていたことや大事にしていたことはありますか。

実は今年は「圧倒的イエスマンになる」を自分の合言葉にしていました。起業というゼロからのスタートには人の繋がりが最も大事だと思っていたので、誘いは一切断らずどこにでも出向いていましたね。でも、人と出会うことは大好きなので苦に感じることなくできたと思います。

ー最後に、そんなよしのさんの今後の目標を教えてください。

まずは必要なメンタルケアを医療業界に届けることを使命に医療業界としっかり向き合い、業界の現状を変えていきたいと思っています。

長期的には、社会貢献を軸に、コミュニティという手法を使って社会課題の解決に取り組むことが目標です。まだまだこれからなので、自分の行動力を活かして頑張っていきたいと思います。

インタビュー:新井麻希(Facebook )
執筆者:松本佳恋(ブログ/Twitter
デザイン:安田遥(Twitter