「本当にやりたいこと」を選ぶ。宇田川寛和がコーチ&カレー屋を生業にするまで

様々なキャリアの人たちが集まって、これまでのステップや将来への展望などを語り合うユニークキャリアラウンジ。第493回目となる今回は宇田川寛和さんをゲストにお迎えします。

株式会社ガイアックスの社内コーチでありながら、ソーシャルバーPORTO(ポルト)品川でカレー屋を週2回営業している宇田川さん。その他にも自分らしいスモールビジネスの立ち上げを支援する「コアキナイ」プロジェクトの中核メンバーとして活動中です。

今でこそユニークな働き方をしていますが、就活の時期まではレールに沿った人生を歩んできたそう。どうやって自分らしい人生を切り拓いたのか、その物語をお聞きしました。

「コーチング」と「料理・カレー」を軸に活動

ー自己紹介をお願いします。

宇田川寛和(うだがわひろかず)です。

本業は、株式会社ガイアックスで社内コーチをしています。社内コーチは、社員がパワフルに働けるように、個人の願いを引き出し背中を押す仕事です。事業部長や、投資先のベンチャーのCEOを中心にコーチングを行っています。

また、最近は「Command”N」というキャリア支援サービスの立ち上げにも関わっています。こちらもコーチングをベースにして、転職のアドバイスをする仕事です。

ーコーチングを軸に、仕事をされているのですね。宇田川さんは副業もされているとお聞きしたのですが、どのような活動をされていますか?

副業では、ソーシャルバーPORTO(ポルト)品川の昼営業で、カレー屋店主を週2回しています。また、個人が「らしさを生かした小さな商い」を始める支援を行う「コアキナイ」プロジェクトの運営を行っています。

ー副業でカレー屋の店主する働き方があるなんて驚きです。宇田川さんがカレー屋をしているソーシャルバーPORTOとは、どのような場所でしょうか。

色んな人が日替わり店長としてカウンターに立って、友達や知人を呼ぶことができるバーです。「居場所を感じられる場所を提供したい」という、設立者の嶋田匠さんお想いから始まりました。

店長の繋がりで、起業家・個人で働いている人・会社員など、色んな人が集まり、新たな出会いが生まれるコミュニティになっています。

ー今までなかったコンセプトのバーなのですね。どのようなきっかけで、PORTOで働き始めたのですか?
実は最初、私もPORTOのお客さんとして、この場所を訪れていました。頻繁に通っていると、私が料理に想いがあることが知られ、嶋田さんから「じゃあ、ここで何か作ってみる?」と誘われたのです。

ー最初は、働く側ではなく、お客さんだったのですね!
驚きましたが、誘われて嬉しかったのを覚えています。

何を作るか悩みましたが、「バーで料理を作る」と考えたときに、雑誌「dancyu」の「バーのカレー特集」を読んだ時のワクワクを思い出しました。そして、インスピレーションに従って、カレーを作ることに決めました。

昼営業なので、会社の昼休みに来てくれる人が多いです。みんな頑張っているから、昼休みくらい肩の力を抜いてリラックスして欲しい。そんな気持ちを込めながら、日々スパイスと具材を煮込んでいます。

ー宇田川さんは「料理」に想いがあるのですね。もう1つの副業「コアキナイ」は、どのようなものでしょうか。
自分らしいスモールビジネスの立ち上げを支援する取組みです。個性を大事にする「個商」と、小さい商売を表す「小商」の意味を込めて、この名前をつけています。

「やりたいこと」があるなら「やってみる」ことが大切だと考えています。やってみた実体験がないと、社会に戻った時に、周りの声に飲み込まれてしまうからです。

でも、起業や転職で本業を変えることは負荷が大きくて、多くの人がチャレンジできるものではありません。だから小さく商売を始めることをサポートする。それがコアキナイの思想です。

ー素敵なコンセプトですね。具体的にはどのような活動をされていますか?
3ヶ月かけて自分らしさの発見と商売の立ち上げをサポートする「コアキナイゼミ」を立ち上げました。0期生、1期生が卒業して、現在2期目に向けて準備しているところです。

コアキナイゼミは、自分の個性や物語を探求する「Plow編(Plowは耕す、の意味)」と、実際に商いに仕立てる「Grow編」の2つで構成しています。私は特に、本業でも磨き続けているコーチングを活かして、Plow編の企画から運営までを担当しています。

楽しかったけど、煮え切らない気持ちもあった学生時代

ー「料理」や「自分らしさを引き出すコーチング」など、宇田川さんには「軸」がある印象を受けました。どのようにして軸を見つけたのか、ルーツをお聞きしていきたいと思います。

今でこそ異色のキャリアを歩んでいますが、幼少期から大学にかけては「真面目に勉強する、いい感じの子」といったキャラクターで、過ごしていました。

ー真面目なタイプだったのですね。
元々は、野球の好きな活発な少年でした。でも、小学3年生から中学受験の塾に通うようになって。友達はみんなは遊んでいるのに、自分は塾に行かなくちゃいけない。それが嫌で仕方がなかったのですが、我慢しました。

そうしているうちに、自分を肯定するためだったのか、遊んでいる人を馬鹿にするようになりました。「中学受験をしていない人に勉強で負けるわけにはいかない」という気持ちが大学受験の原動力になったくらいです。しかしその代償として、自分が本来持っていた「遊び心」を抑えるようになってしまったように思います。

ー本来の自分を押し殺してしまった時期だったのですね。
その後も、中学、高校は一貫校で真面目に過ごして、大学受験をしてICU(国際基督教大学)に入りました。大学では野球部に入り、塾講師のバイトをして過ごします。

人間関係もよく楽しい日々でしたが、どこか情熱を捧げきれていないような気がしていたのを覚えています。でも、大学3年になって個人経営の飲食店でバイトを始めた時に、かっこいい大人に出会って世界が広がりました。

ー「かっこいい大人」とは、どんな人だったのでしょうか?

その飲食店を経営しているオーナーです。面白くて、センスがあって、バイタリティのある人でした。イギリスや、イタリアなど世界を放浪しながら、料理を学んだ人で。純粋に料理を作るのが好きで、心から楽しんでいる人でした。

その人が「やりたいから」「面白いから」という気持ちにまっすぐ生きていることに、心が動かされました。「もっと自分も好きにやっていいんだ」と思い始めたことを覚えています。

「本当にやりたいこと」は、やれていないと気づく

ー店長との出会いは、宇田川さんにどのような変化をもたらしたのでしょう。

「やりたいこと」はやっているけど「本当にやりたいこと」はやれているのだろうか? と考え始めるようになりました。野球部も、塾や居酒屋のアルバイトも「やりたいこと」ではあったと思います。

ただ「なんでもありなら何がしたいか?」と考えると出てくるのは「海外で料理の勉強をしたい」「居酒屋で一年くらいフルコミットでキッチンをやってみたい」「もっとプラプラして、色々な人と話す仕事をしてみたい」といったものでした。

ー心の底に眠っていた、本音に気づき始めたのですね。
でも「本当にやりたいこと」をやってしまうと、今まで「いい感じに生きてきた自分」から外れてしまう。だから、それを実際にすることはありませんでした。

しかし、オーナーにはそういった意識の制約がなく「本当にやりたいこと」をやっているように私の目には映りました。それと比べた時に、自分に対してどこか「もったいないな」と感じるようになったのです。

ー本当にやりたいことを選べていないことに、違和感があったのですね。
就職活動も、ベンチャーのWEBマーケティング事業を行う会社に内定をもらい、大学4年の6月頃にはインターンとして働き始めていました。当時の自分は納得して決断したと思いますが、どこか「もったいない」と感じている自分もいました。

その感情があったからか、就活が終わった後もキャリアを考えるワークショップに参加していました。そこで仲良くなった友人と飲みに行った時にあることを言われたのです。

ー何があったのでしょうか。
「お前もったいないな」と言われたのです。自分では感じていたものの、誰かに言われたのは初めての経験でした。周りの人に「いい感じに楽しそうに生きている人」と見られたくて頑張っていましたし、実際そのように見られていたと思います。

でも本当は、今の自分を否定するのが怖くて、「もったいない」という感情を、見て見ぬふりをしていたのかもしれません。そんな自分を見透かされたような気持ちになりました。彼に言葉を突きつけられたおかげで、ようやく「もったいない自分」について向き合ってみようと思えたのです。

ー自分の課題を直視できるようになったのですね。具体的には、どのように行動されたのですか。
ちょうどそのタイミングで、彼があるプログラムのパンフレットを渡してきました。「勧誘だったのか」と思いつつ、内容を見てみると今の自分にぴったりでした。最初こそ怪しいなと思いつつも、ドンピシャな言葉を投げてきた彼がいうのであればと思い、説明会に参加することを決めました。

ーどんなプログラムだったのでしょうか。
「株式会社はぐくむ」という企業が行っている「ライフデザインスクール(以下LDS)」です。6ヶ月間かけて、自分の生き方・働き方を見つめ直して、自分の実現したい未来を描く私塾のようなプログラムでした。

プロのコーチと、20人ほどのメンバーと一緒に「自分は何者か」「どんな未来を実現したいのか」という問いに対峙していくものです。私は東京15期に参加しました。出身から性格まで多種多様な人がいて、世界が広がる経験でした。

ーLDSに参加されて、どのような感想を持ちましたか。
参加して良かったと心から思っています。週1回のクラスや、合宿を通じて、自分の過去を振り返って、自分が大切にしているものを言語化していきます。それを他の参加者に発表して、質問を受けて言葉にして、それを繰り返すうちに、自分という人間が分かっていきました。

「自分の好きなことは、これだ」「辛いときは、こう考えるんだな」自分の気持ちを抑えるうちに忘れかけていた、大事なものを思い出す時間でした。

ー自分と向き合えた時間だったのですね。
「真面目に生きてきたけど、色々と我慢してたのかもしれない」「本当は子供っぽさを、外に出したかったんだな」「自由奔放な母親のこと、本当は好きなんだな」

本当の自分を知って、それを受け入れることができて、涙が溢れてしまいました。

自分らしい選択をし直すために、3ヶ月で退職

ー本当の自分を見つけられた喜びと、安心があったのですね。その経験を経て、宇田川さんの人生はどのように変化していったのでしょうか。
LDSを通じて、自分のことを深く知れましたが、内定も既に決まっていたので、まずはその会社での仕事にトライしました。

でも、すぐに違和感を感じてしまって。Web広告代理店のコンサルタントとして、広告運用の仕事をしましたが、それが自分のど真ん中から遠くにあるように感じたのです。

ーギャップを感じてしまったのですね。
LDSを経て、自分は「料理」と「人との対話の場」に情熱を燃やせると分かっていました。だから、広告運用の仕事だと、何か違うと思ってしまい、仕事に身も入らなかったのです。

当時、LDSの卒業生と一緒にシェアハウスをしていたので、同居人からの刺激もあって、その気持ちを抑えられなくなっていました。

ーその時、どのように行動されたのですか。
知り合いのコーチングを受け始めました。彼と話していくうちに、このまま会社に中途半端にいることを選んでいると、LDSで見えてきたイキイキした自分はどこか奥底にいってしまうと危機感を感じました。

会社から逃げたいという気持ちもあったと思いますが、それ以上に「本当にやりたいと思っている料理や、対話に振り切る時期をつくりたい」という気持ちが大きかったのです。だから退職することを決めました。

ー3ヶ月で辞める決断は、勇気のいることだったと思います。
この決断は、逃げとも捉えられるし、挑戦とも捉えられることです。だからこそ「周りにどう言われるか」ではなく「自分がどうしたいか」を大事にしました。

まずは、この気持ちの背中を押してもらおうと思って、応援してくれる人で自分の周りを囲みました。そういう環境を自分で作れたら、自分も迷いなく進めると思ったのです。

ー大きな転機だったと思いますが、思い出されるエピソードはありますか。
会社の人から「今までのような生活はできなくなるんだぞ」ということも言われましたが、当時の直属の上司は、想いがあるなら仕方ないと理解を示してくれた後に、こう言ってくれました。

「そんなに想いのあることにチャレンジするんだ。次は逃げるなよ」今でも自分の中に楔のように残っている言葉です。前職の人たちには迷惑をかけたからこそ、これからは「本当にやりたいことをやる」という気持ちを貫こうと誓ったのを覚えています。

自分の軸にぴったりの会社、ガイアックスとの出会い

ー新卒の会社を3ヶ月で辞めた後、どのように次の道を探したのですか。
決断して辞めたのだから、お金ではなくて「やりたいかどうか」だけを大事にしようと心に決めて、興味のあるイベントに参加したり、人に会ったりをし続けました。ソーシャルバーのPORTOの存在を知って通い始めたのも、この頃です。

ー行動して探した結果、何からすることにしたのでしょうか。

まず始めたのが、LDSを運営していた「株式会社はぐくむ」と、NPOグリーンズでの社会人インターンでした。グリーンズはFacebookをきっかけに知りました。「いかしあうつながり」という言葉にピンとくるものがあり、すぐに連絡してインターンを決めました。

ー想いを大事にして、それに沿った場所を選ばれたのですね。
はい。すると、チャンスが舞い降ります。「株式会社はぐくむ」のインターンで、サマーキャンプのお手伝いに行ったのですが、それが私が今在籍しているガイアックスと提携していたイベントでした。

ガイアックスには「tiny peace kitchen」というレストラン事業がありました。「家庭料理を毎日食べよう」をコンセプトに、ヘルシーで美味しい日替わりの定食・弁当を提供する食堂です。ここの事業部長が、コーチングや対話の領域にも関心の強い方だったのです。

ー料理と、コーチング、いずれにも興味を持つ方と出会えたのですね。
当時の私は飲食店で働きたいと思っていたものの、飲食店でコーチングや対話の世界に理解のある人が少ないように感じていて、お店を選ぶことができませんでした。そんな中で、tiny peace kitchenの事業部長の方は違い「ここで働きたい」と強く思えたのです。

事業部長からも声をかけてくださり、2019年9月からキッチンスタッフとして働く機会をもらいました。残念なことにコロナ禍の影響で、2020年4月に休業、10月に閉店となりましたが、かけがえのない経験を積むことができました。

ー素敵な場所がクローズになってしまったのは悔しい経験でしたね。閉店後は、どうなったのでしょうか。
tiny peace kitchenの事業部長が、心のhappyと向き合える事業として「社内コーチング」の事業をスタートしました。私もジョインすることになり、今に至ります。

自分らしさを表現できるカレー教室。アパナ・マサラ

ーその後、PORTOでカレー屋の営業を始められたのですね。
tiny peace kitchenが休業になって料理の仕事から離れたものの、料理を作りたい自分がいてウズウズしていました。ただ、社内コーチの仕事にも魅力を感じて頑張りたいと思っていたので、同時に飲食関連のチャレンジは難しそうだなと諦めていたのです。

そんな時にPORTOの誘いを受けました。複業として、週2日の営業であれば無理なくできるし、大好きなPORTOの仲間にジョインできるのが嬉しくて、喜んで引き受けました。

私はPORTOでカレー屋を始めるともに「カレー」と「コーチング」を掛け合わせた事業ができないかと考え始めました。そこで作った事業が「アパナ・マサラ」です。

ー「カレー」×「コーチング」は面白い発想ですね。どんな取組なのでしょうか。
カレーで自己表現してもらう料理教室です。5日間で行うのですが、前半はカレーのスパイスを勉強して、後半では自分らしさを言語化するワークを行って、最後にそれをカレー時の作り方・味で表現してもらいます。

世界に1つだけしかないカレーを作ることを通じて、自分らしさを表現する楽しさを味わってもらう体験をつくりたいと思っています。

ー宇田川さんの想いが詰まっている、素敵な取り組みですね。
自分らしさを表現することは、本当に楽しくて価値のあるものです。私自身がコアキナイを通じてそれを実感しています。

ーだから、その価値を他の人にも届けるために活動されているのですね。宇田川さんの今後の展望について教えてください。
「やりたいことを仕事にする」という風潮が生まれていることは良いことだと思います。一方で、転職でライフワークと言える仕事に出会えるか分からないし、皆が起業したい訳でもないはず。本業をやりながらだと忙しすぎるかもしれない。

そんな状況でも「小さく早く無理のない範囲で」例えば週0.5日くらいの稼働の商いにすることで「やりたいことを仕事にする」が実現できると思っています。

転職か、起業か、といった数少ないライフシフトの選択肢の中に、「コアキナイ」が入っていくための活動を、これからもしていきたいです。

ー本業以外で小さくチャレンジするのが第一歩なのですね。<
はい。とはいえ、本業が充実しているからこそ、本業以外にもエネルギーを割けると思っています。だから、ガイアックスでのキャリア支援を通して、本業も楽しく働けるためのサポートもしていきたいと考えています。

ー副業に加えて、人生の多くの時間をすごす本業も、みんなが楽しめる社会になるといいですね。最後に、U-29世代のみなさんにメッセージをお願いします。
「葛藤の中にこそ、美しさがある」と思っています。自分らしさを出すのは怖いものです。「これ言ってしまったら、周りにどう思われるだろう」と弱気になることもあります。

でも綺麗にまとまっていなくても、個性がドバドバ出ている、自分らしい生き様を見せている人の方が「美しい」と思います。その人らしい物語を応援するために、私はこれからも頑張っていきたいと思います。

ー怖くても自分らしさを表現するところから、すべてが始まるのですね。宇田川さん、本日は素敵なお話をありがとうございました!

取材者・執筆者 武田健人(Facebook / Instagram / Twitter
デザイナー・安田遥(Twitter