「やりたいことをやり続ける」天性の”巻き込み力”をもつN高生起業家・中澤治大の挑戦

様々なキャリアの人たちが集まって、これまでのステップや将来への展望などを語り合うユニークキャリアラウンジ。第202回目のゲストは、株式会社Unpacked取締役副社長、株式会社レイテスト代表取締役CEO、Yahoo事業アドバイザーの中澤治大さんです。

現役のN高生にして、起業家の顔も持つ中澤さん。高校生に向けてキャリア支援事業を行う株式会社Unpackedでは取締役副社長として活動し、現在は日本最大級の高校生キャリア支援イベント「U-18 career summit」を計画しています。

アプリ開発を行う株式会社レイテストでは、代表取締役CEOを務めており、その他Yahooでも事業アドバイザーを担うなど、何足もわらじを履いて幅広く活躍しています。

そんな中澤さんに幼少期の家族との関わりやターニングポイントとなった出来事を振り返っていただき、起業家になったきっかけやこれからの展望を伺いました。

自分でゼロイチを生み出していた子供時代

ー本日はよろしくお願いします。まずは簡単に現在のお仕事について教えてください。

高校生に向けたキャリア支援事業をしている株式会社Unpacked取締役副社長と、アプリ開発の会社である株式会社レイテスト代表を務めています。また、yahooのCOOの下で事業アドバイザーという形でコンサルを行なっています。

ーキャリア支援やアプリ開発など多岐にわたる業種ですね。レイテストではどのような事業をしているのですか。

アプリ開発については、MVP(Minimum Viable Product)の制作を専門にしています。MVPとは最小限の機能を搭載した製品のことです。アプリのプロトタイプを作っているというほうがわかりやすいかもしれないですね。その他にも企業のWebページを制作したり、人材業・地方創生業・SNSマーケティング業にも携わっています。

ー高校生という枠組みを超えて活躍されているのですね。現在在籍されているN高と起業部について教えてください。

N高は1万5000人を超える日本最大級の通信制の高校です。その中に起業部という部活があり、選抜された20〜30人が在籍しています。起業部はN高生の中で何か起業をして社会に価値を出したいという人や、もともと起業しているけれどN高というフィールドを使ってもっと上を目指したいという人のハブとして機能しているんです。

ー少し過去のことも伺いたいのですが、小学生時代はどんな子どもだったんですか?

小学生のときは、自分で新しいゲームを作るのが好きでした。両親が基本的に家にいなくて、何かを買ってもらう機会がなかったので自分で作るようになったんです。ポケモンカードも友達は本物を持っていたのですが、僕は紙にポケモンを書いてカードを自作していましたね。

友達と遊ぶときも自分の好きなように遊んでいて、「こういうルールでやろう!」と僕が決めて、クラスや友達を引っ張ってひたすらやりたいことをやりたいようにやっていました。

初めての家出。経営者の父の影響を受けN高へ

ー14歳の頃家出されたとのことですが、どのような経緯で家出をされたのですか?

14歳までは神奈川の湘南方面に住んでいたのですが、親の都合で中学3年の受験期真っ只中に東京に引っ越すことになったんです。当然転校することになったのですが、自分の中では学校が変わることは大問題でした。

反抗期だったことや受験期だったことも重なって、親とのすれ違いが起こり、「もう出て行く」と言って家出をしましたね。両親が離婚していたため僕は母と住んでいたのですが、母と住んでいた家から父の家に駆け込んだんです。

ー家出をした当時のことは、やっぱりつらかった思い出となったのでしょうか?

むしろ、家出をしたことによって自分の可能性が広がったと思っています。経営者である父の姿を間近で見るようになって、ただ勉強するだけが生きていく道ではないのかもと思い始めました。

N高を勧めてくれたのも父なんです。父はホリエモンさんが好きで、たまたまN高起業部を見つけてきて「N高に行かないか」と言われたんですよ。経営者としての父の背中を見てきたので、直感的にN高に興味を持ちました。

何か自分にもできることがあるのではないか、高校生起業家で1番を取ったらとても面白いかも、と思ってN高に入ったのが人生のターニングポイントになりましたね。

ーお父様の背中はやはり中澤さんにとってカッコよく映っていたのでしょうか?

そうですね。父は経営者でありながらITコンサルタントとしても仕事をしているのですが、父もそこまで学歴は高くないんです。大学入学後に頑張ったタイプで、大学在学中に税理士の資格を取ったり、企業と繋がりを作ったりしていたそうなんですよ。

父の昔話を聞いている中で、父のように頑張ることは社会人になってからではなく、高校生の今からでもできるのではないかと思ったんですよね。日々頑張っている父の姿はN高に入ってからの目標にもつながりました。

ー実際に入学してからのN高の印象はどのようなものでしたか?

実はあまり記憶にないんです……。僕が周りに対してガツガツ話しかけすぎて、周りから受けた印象の記憶がないからだと思います。恥ずかしながら、高校に入ってすぐに金髪にしたりして、起業したいと言いながら大学デビューみたいなことをしちゃったんですよ(笑)

仮入学のときに片っ端から「LINEを交換しよう」と話しかけて、100人ぐらいのLINEグループを作りました。そのおかげである意味自分の通っていた代々木キャンパスでは有名になりましたね。目立てたのは良かったのですが、周りにはなんだこいつと思われた気がします。

ー100人ってすごいですね!そこで目立ったことが今のお仕事に生きていると感じますか?

感じますね。最初に自分が発起して最終的に150人ぐらいのLINEグループになったのですが、自分の力だけでその人数を集めるのは絶対に無理だったと思うんですよ。仲間を作って、その仲間が他に6人ぐらいの仲間を作って、どんどん輪を広げたことでグループの人数が増えていったんです。

ビジネスを始めた当初から、1人で仕事をするのは楽ではあるけど時間がかかるというイメージが持てたのは、そのときの体験からきているのではないかと思います。

ーなるほど。その後はかなり遊んでいたようですが両親に怒られたりはしなかったのでしょうか?

怒られることはなかったですね。父は昔から「自分の好きなことをやれ」という教育方針で僕を育ててくれました。父とは小学生のころ3ヶ月に1度ぐらいのペースで会っていたのですが、久しぶりの再会のはずなのに僕はいつも父のスマホを借りてパズドラばかりしていました。父からすれば色々プランを立ててくれていたはずなのにむしろ、「パズドラ楽しいかー?そりゃあ良かった」と全然怒らず聞いていましたね。

「本当にやりたいことを見つけたときに頑張れる人は昔からやりたいことをやってきた人だ」が父の考え方なんです。普段は「あれもダメこれもダメ」と言われてきたのですが、3ヶ月に1度思い切り自分の好きなことができる環境があったのは良かったですね。

起業家への道が拓けた酪農体験

ー遊んでいた期間を経て、もっと青春したいと感じたと伺ったのですが、具体的に何か行動を起こしていったのでしょうか?

はい。N高はキャンパスがビルの一角にあるので、青春風な写真を撮るような「ザ・スクールライフ」みたいなことができなかったのですが、1つ手段があると気付いたんです。

それがN高の職業体験。普通の学校だったら遠足や修学旅行があるじゃないですか。職業体験なら遠足や修学旅行のような体験ができると思いました。いくつか職業体験先はあったのですが、募集が終わっていたため仏教と酪農しか残っていなくて、「北海道に行きたい」という単純な理由で酪農を選びました(笑)

ーなるほど。そのようなワクワクとした気持ちで行った酪農体験はいかがでしたか?

青春できると思って行ったのですが、N高の子ってどちらかというとコミュニケーションが苦手な子が多くて、なかなか盛り上がらなかったんです。これじゃダメだと思って、花火大会やスイカ割りを企画して先生に提案したら、すんなり許可してもらえて。

さっそく次の日の夜に実行することになり、なかなか話さなかった子たちも話すようになりました。みんなが1つになって、最終的にすごく仲が深まって楽しいイベントになったんです。

この経験は「自分が周りに何か価値を与えて、状況を変化させていく」のが楽しいことだと気付くきっかけになりましたね。

ー素敵な学びですね!そこからどのようにしてビジネスへとつながっていったのでしょうか?

酪農体験の際に関わった方が「牛のエサの生産地は90%ぐらいアメリカだよ」とおっしゃっていたんです。その言葉が心に残り、酪農家の抱える課題と、もともと僕が持っていた「ビジネスをしたい」という気持ちが重なって、「酪農アプリを作ろう」と思って。そこから僕のビジネスの活動が始まりました。

ーこの酪農アプリはどのようなものなのでしょうか?

酪農の管理システムを促進するアプリです。理想的な牛の脂身の量や肉質にするためのエサと水の量を、現在の牛の状態と理想の状態とをAIで比較して適切な飼育方法を示すことができるんです。

考えるよりもまず行動。熱意で次々とビジネスチャンスをつかむ

ー酪農アプリを作るまでの過程はやはり大変でしたか?

大変でしたね。酪農アプリの開発を始めたのはいいのですが、僕は当時ビジネスが全然分からなくて。どうしようかと思ったときに、「とりあえず会社に行く」という選択肢を取りました。今思えば学生団体や起業コミュニティに参加してみるなど色々選択肢があると分かるのですが、当時は何も知らなかったんですよね。

働かせてもらいたいと思う会社に行き、社長が出てくるまで外で待ちました。そして、社長が出てきたら、「N高等学校の中澤治大です。あなたの会社で働かせてください」と言う。13社ぐらい訪問して、その中の2社から連絡を返してもらい、そのうち1社でインターンとして働かせてもらうことになりました。

ーすごい行動力ですね。社長さんから相手にしてもらえなかったりすることもあったと思いますが、怖さやつらさはなかったのでしょうか?

あまりなかったですね。僕はコードが書けなかったので、友達のツテを使って大学生のエンジニアを紹介してもらっていたんです。そのエンジニアを雇ったらもう後には引けず、なんとしてでもビジネスを学ばなければならないと思ったんです。

普通の人だったら考えてから動くと思うんですけど、僕の場合は考えても元が0だから分からないんですよ。それだったら動くしかないですよね。だから、冷たくあしらわれてもあまり気にせず次に行こうと思えました。

ー実際にインターンではどのようなことを学びましたか?

IT会社で営業をしていたのですが、ビジネスの基礎や、対人スキルを学びました。あと、営業をするにはしっかりとした商材がないと営業にならないことも知りましたね。

この会社ではそのままカスタマーサクセスのマネージャーに昇級し、12月に辞めて今の活動に専念しています。たくさん勉強させていただきましたね。

ーそのように豊富な経験がある中で、改めてなぜ中澤さんは起業にこだわるのでしょうか?

株式会社レイテストは自分が起業したかったというより、自分の動かしているビジネスがあって、それが形になりそうだったから起業したんです。取引先から信頼を得るために個人事業主ではなく、会社としてやった方がメリットがあったので法人化しました。

起業したいという気持ちはN高入学時はありましたが、実は起業当時はそんなになかったんです。ただ、起業をすると「自分のしたいことを自分の好きな仲間とできる」というメリットがありますね。今日も仲間と一緒に鳥取出張に来ているのですが、メンバーの大半は「鳥取に行きたい」という気持ちだけで集まったんです。それぐらいの軽い気持ちで良いんじゃないかなと思っています。

結局世の中って、誰かに対して価値を与えればその対価が返ってくるようにできていますよね。だから、そのために自分にもwinで相手にもwinな活動をすることが「積極的な最高の自己満足」だと思っています。

仕事も結局は「自己満足」だと思っていて。例えば、貧困問題に対して様々な考えがある中で、自分が貧困問題解決したい理由って結局は「自分が貧困問題を解決したいから」に行き着く。それは自己満足にすぎないけれど、このような自己満足でwin-winの関係が重なっていくことが、結果的に社会の利益につながると思っています。

自分が好きだと思った会社、社風、メンバーで好きなことができることが起業の魅力かなと。ワンピースの海賊王になるみたいな感覚ですね。

次世代に知恵を受け継ぎ、恩返しへ

ー「次の世代に知恵や学びを繋げていくこと」をお金よりも価値があることだと思われているそうですが、その理由はなんでしょうか?

事業をする中で、社会人にご飯をごちそうになることがすごく多いんです。お礼を言った際に、「ありがとうはいらないよ。代わりに俺が君に教えたことを次の世代に受け継いでほしい。俺はそれを昔の人にしてもらってその中で正しいと思ったものを下の世代に伝えている。それを途切れさせないで受け継いだものを次の世代に受け継いでほしい」と言われたんですよね。

この言葉を聞いて知識や知恵を循環させる仕組みを作りたいと思い、高校生に対してキャリア支援を行う「株社会社Unpacked」を立ち上げました。

ーなるほど。そのように何足もわらじを履いて活躍している中澤さんは普段どのような生活を送っているんですか?

学校は通信コースに切り替えたので、通学する必要はなくなりました。学業との両立は頑張っていますが、けっこう難しいですね。普通に学校に通いながら活動している人はすごいなと思っています。

僕は「これもやりたいあれもやりたい」という気持ちが強すぎるので、毎日学校に通っていたらきっと上手くいかないですね。本当は学校に行きつつ仕事もできるのが理想ですが、企業としては自分のやりたいことをひたすらやり続けていき、それに共感してくれる仲間がいてどんどん成長していくのかなと思っています。

ーそれだけ自分の「やりたいこと」に忠実に生きている中澤さんですが、そもそも好きなことが見つからない人はどうすれば良いのでしょうか?

やりたいことがあっても、諦めてしまう人が多いと思うんです。昔はみんな、自分のやりたいことを人に言っていたけど、大人になるにつれ口に出さなくなったのではないでしょうか。

人生には様々なことが溢れている中で、何かやりたいことは必ずある。みんな無意識のうちにやりたいことを落としているのではないでしょうか。

「本当はやりたいけれど諦めていないかな?」と思うものを探して、どう動けば辿り着けるかを逆算していくのが良いと思います。

ー最後に今後のビジョンを教えてください。

今最も力を入れているのが「株式会社Unpacked」での活動で、高校生向けに「U-18 career summit」という日本最大級の18歳以下向けキャリアイベントを行なっています。YMCAや元アリババマーケティング日本社代表の山本さんたちと共に、高校生と企業で社会に価値を提供しようと活動しているところです。

自分が何をやりたいのか分からない人に対して「何か1つやりたいことを見つけて、夢中になることができるフィールド」を提供したいと考えています!

ー本日はありがとうございました!中澤さんの今後を応援しています!

取材者:吉永里美(Twitter/note
執筆者:五十嵐美穂(Twitter/note
編集者:えるも(Twitter
デザイナー:五十嵐有沙 (Twitter