様々なキャリアの人たちが集まって、これまでのステップや将来への展望などを語り合うユニークキャリアラウンジ。第228回目のゲストは、Aruga株式会社CEOの木村友輔(きむらゆうすけ)さんです。
少年サッカーのコーチ経験を通じて、「クックパッドのように練習メニューを共有できるサービスがあれば」と思い立った木村さんは、在学中に起業して「シェアトレ」をリリース。その後突然のうつ病を患うも会社に復帰し、「Aruga株式会社」として再スタートを切ります。LINEを用いた選手の個別育成ツールをリリースし、Jリーグなどの幅広い業界で採用されています。
読書家で哲学も学ばれている木村さんの、起業家を志したきっかけやこれからの展望を伺いました!
本との出会いで開かれた起業家への道
ー本日はよろしくお願いします。まずはCEOを務めるAruga株式会社について教えてください。
Aruga株式会社では、「スポーツ×IT×教育」の分野でサービスを提供しています。スポーツチームでは、指導者が選手に対して目標やコンディショニングのチェックを紙で行なうことが多いですよね。そのチェックを指導者に代わってLINEのチャットボットで行なえる「Aruga」というサービスを作っています。
2020年10月にサービスをリリースして現在1ヶ月ほどが経ちますが、Jリーグチームなどを含めて30チームくらいで利用されています。今後はAI、チャットボットの精度を上げて、スポーツ界だけでなく様々な業界で利用されることが目標です。このサービスを通じて、自分でPDCAを回して行動できる人が増えることを願っています。
ースポーツのサービスを提供されているとのことですが、木村さん自身も幼少期からスポーツをされていたのでしょうか?
幼稚園からサッカーをする機会があり、小学校2年生からサッカーチームに入りました。その頃はバスケットボールや水泳など様々なスポーツをやっていましたね。小学校5年生からサッカーのみに絞って活動するようになりました。
ーかなり本格的に活動されていたようですが、プロを目指していたのですか?
小学校5年生で全国大会に出ることができて、自分はプロになれるのではと思いました。そこから中学でもクラブチームに入ったり、高校でも頑張って練習したりしていたのですが、高校のチームがJリーグのチームとも試合をするようなハイレベルなチームで力の差を痛感したんですよね。
さらに股関節の怪我をしてしまって、しばらくサッカーができなくなってしまったんです。僕が練習できない間にも僕より上手い人たちはもっと努力しているし、そんな人たちでもプロになれない世界を知ってしまって挫折したのがサッカーにおいてのターニングポイントですね。
ースポーツの世界は、本当に才能がある人でないとプロでやっていくには難しいですよね。
スポーツに限らず結局どの世界でも同じだと、起業をして感じましたね。逆に高校時代プロを諦めたからこそ、どの世界にも上には上がいて自分より努力している人はいるから、そこで諦めるのはもったいないと気づかされました。今は何事も自分のペースでやろうと思えるようになりましたね。
ーサッカーでの挫折経験が起業にも活きているんですね。挫折からどのようにして立ち直ってビジネスの世界に目を向けるようになったのでしょうか?
挫折をしてサッカーの練習に行けなくなってしまったのですが、親には交通費をもらっていたので、練習に行くふりをして家を出ていました。練習には行かず、近くのファミレスで練習の時間が終わるまでドリンクバーでひたすら粘っていたんです。
そのときに、隣にあった本屋で本を読んでいました。そこでたまたま、京セラの創業者でJALの再建者でもある稲盛和夫さんの本に出会ったんです。ファミレスでひたすらその本を読み、「経営者の生き方ってかっこいい」と思いました。
元々プロを目指したのは、ワールドカップで中村俊輔選手のプレーに人々が熱狂しているのを見て、「自分も人に夢を与える生き方をしたい」と思ったことがきっかけでした。
僕はプロを諦めてしまったのですが、違う生き方で誰かに夢や勇気を与えたいと思い、経営者を目指すことにしたんです。今までスポーツをやっていたので、スポーツ×ビジネスで何かやってみたいと思い調べてみると、「スポーツの東大」と言われる筑波大学の体育学群でスポーツとビジネスの両方を学ぶことができると知り、筑波大学を目指しました。
大学入学後、思わぬケガから学生起業家へ
ー新たな目標ができたんですね。大学に入学して学生時代に起業されたのですか?
そうですね。最初は大学卒業後IT系の会社で修行し、その後起業しようと考えていたのですが、大学1年生の夏にサッカー部に入って挑んだ試合で肋骨を折り、治療に3ヶ月かかることになったんです。しかも安静にしなくてはならず、やることがなくなってしまって。
そこでまたファミレスで自己啓発本を読む日々が始まり、どうせ時間があるなら今から何かやってみようと起業アイディアを探し始めました。
ーケガを前向きにとらえられていたのですね!そこからどのようにしてアイディアを見つけましたか?
サッカー部の活動の一環で少年サッカーのコーチをすることになり、初めて指導者を経験しました。指導環境は劣悪で、指導者の体罰や暴言を受けて泣きながら小学生がサッカーしているのを目の当たりにしたんです。
いざ自分が指導者として入った際には指導が難しく、上手く指導できない自分にもイライラしてしまったんですよね。指導者の経験や実力不足が怒鳴ったり暴言を吐いたりすることに繋がるのだと感じました。では、どうすれば僕みたいな指導経験の浅い人でも指導できるようになるのか、他の人はどのように指導しているのかを知りたいと思うようになったのです。
サッカーの指導に対してモヤモヤした気持ちを抱えながら、一人暮らしで自炊をしていたのですが、そのときに使っていたクックパッドが目に入ったんです。「料理メニューみたいに練習メニューや知識を共有できるプラットフォームがあったら便利なのではないか」と考えて、動き始めたのが大学1年生の秋ごろですね。
ー身近なものからアイディアが浮かんだのですね!練習メニューや知識を共有することは指導環境の改善にどのようにつながっていくのでしょうか?
とても良いコーチがいたとしても、そのコーチが高齢で指導者を引退してしまうと、選手はその人の指導を受けられなくなりますよね。高齢のコーチが自分の体験から指導法を編み出したように、また新人コーチが失敗を繰り返しながら1から指導法を編み出すことになると思うんですよ。
でも、企業なら先輩が過去にどのような失敗をしたのかデータがあります。同様に、過去の指導者がどのような失敗をしてどのような学びを得たのかをデータとして残していけば、指導者界隈全体の底上げが可能になると思ったんです。
最初はトレーニングメニューや練習動画の共有から始まり、様々な情報が集まるサイトにしたいと考えて「シェアトレ」をリリースしました。
ーなるほど。このサービスはどのような結果となりましたか?
月30万PVを集め、ユーザーは6万人ほどになりました。国内のサッカー指導者は十数万人と言われているので、2人に1人くらいはうちのサービスを知ってくれていたことになりますね。
広告収入を得ていたのですが、クックパッドなどに比べると母数が少ないので収入としての限界値はあって。他にも海外版を作ったり他のスポーツのプラットフォームを作ったりとサービスの展開法はあったのですが、サッカー以外のスポーツにそこまで熱量があるわけでもなく、そもそもサイト運営をしたいわけではなかったので僕の情熱が続かなくなってしまいました。
練習メニューの共有だけでなく、もっと本質的なことがやりたいという思いが心の中にあったんです。そこから大学2年〜3年にかけて休学し、様々なサービスを試しては閉じることを繰り返して今の「Aruga」につながっていきました。
自分を追い込みすぎた結果、うつ病を発症
ー起業して現在に至るまでに、病気をされた経験があると伺っているのですが、その当時について教えてください。
様々なサービスを試す中で、一度「これはいけるぞ」と思うアイディアが出ました。すぐに動き出し、1ヶ月で巨額の資金を集めたり、メンバーが5人から40人に増えたりと環境が一気に変わりました。
企業に内定が決まっていたのを断って、僕の会社に来てくれる女の子がいたのですが、その子の親から「うちの娘をたぶらかしてるんじゃないだろうな」と電話がかかってきたり、円満に別れた以前の創業メンバーからお金を要求されたり、人間関係で大変なこともたくさんありましたね。
それでも自分は言い出しっぺだし頑張らないといけないと思って頑張っていたら、ある日体が動かなくなって。
精神科に行ったらうつ病だと診断され、休みが必要だと言われましたね。そこで、共同創業者の人に会社を任せて僕は休養することになりました。
ー知らないうちに体が限界を迎えてしまったのですね……そこから這い上がって新しいサービスを作ることになったと思うのですが、復帰のきっかけは何だったのでしょうか?
自分の体の動く方へ身を任せたことですね。病気になる前は、引きこもってしまう人やうつ病になる人の気持ちが分からず、「頑張れば良いじゃん」と本気で思っていたのですが、自分が実際になってみて、気持ちの問題じゃどうしようもないなと分かったんです。
病気になってうつ病を調べる中で、小さい頃から「あなたはそのままで良いんだよ」と愛情を受けて育っていない人は、うつ病になりやすいと知りました。僕もそのような環境で育ったので、頑張らざるをえない環境で育って途中で疲れて体が動かなくなり、体がSOSの信号を出していることに気付いたんです。
今までは価値を出すことが自分の存在意義につながると思っていたのですが、価値を出せなくてもかまわないと思考を転換できたのが回復のきっかけですね。
それまでは起業家に戻らなきゃとか会社を支えなきゃと思っていましたが、その思いこみを全部捨ててゼロベースからもう一回スタートしようと思いました。自然と体が動く方に身を任せて、それで会社に戻れなかったらそれまで。「自分は何がしたいの?」と自分の行動を観察していたら、徐々にサービスがやりたいと思えて会社に戻りました。
闘病経験から新たなサービス立ち上げへ
ーやはりビジネスをやりたいという思いが強かったのですね!そこから今の「Aruga」のサービスをスタートさせたのですか?
僕がスタートさせたのではなく、僕が休んでいる間に共同創業者が、僕が落ち込まないためにどのようなサービスがあれば良かったのかを考えてくれた結果、「Aruga」につながったんです。
専門家が患者に対してカウンセリングやサポートをしようとしても、週に1回ほどしか関わることができないですよね。その間に患者が落ち込んでいても分からない。24時間サポートするにはITの力が必要だとの結論に至りました。
「今どのような状態なのか」を計測してくれるチャットボットをユーザー1人ひとりにつけて、落ち込んでいる瞬間があったらその瞬間をカウンセラーに教えて連絡できる仕組みがあれば、僕が落ち込まなかったのではないかと考えてくれました。
このサービスをどのような組織に売ろうか考えたときに、医師と患者の関係は指導者と選手の関係に似ていると感じたことから、スポーツチームにアプローチすることになりました。
ー木村さんの闘病経験が元になって「Aruga」は生まれたのですね。この「Aruga」のサービスはスポーツチームにどのような価値を提供するものなのでしょうか?
元々スポーツチームは、紙で選手の目標やコンディショニングの確認などを行なっていて、指導者の負担が大きいんです。ITで負担を無くしつつ、選手が自分でPDCAを回せるようにサポートしていくことが僕たちの提供する価値ですね。
紙だと目標を書いても忘れてしまうので、選手がPDCAを上手く回せないことがある。自分で目標を立てて改善する力は、スポーツを辞めても社会で生きる能力だと思っているので、うちのサービスを通じて能力の育成を行なってもらうのがねらいです。
ITによってより人間味あふれる教育を
ーいずれ学校教育にアプローチしても上手くいきそうですね。
おっしゃるとおり、最終的には学校教育の中に入れたいと考えています。学校の先生は1クラス30人とか40人の担任をしていると、雑務や保護者対応などで多忙な中、生徒1人ひとりと話す時間がないですよね。そうなると誰がどのようなことを考えているのか分からなくなります。
「Aruga」なら交換日記のような形で、その日の授業の感想や今考えていることを生徒がLINEで記入し、教師が簡単にフィードバックできるので、学校教育にも適していると感じますね。
ー学生時代にリリースした「シェアトレ」ではあまりビジネス的な広がりがなく、伸び悩んだとおっしゃっていましたが、今回のサービスはいかがですか?
今回のサービスはサッカーだけでなく、どのスポーツでも使えるのでビジネスの広がりは大きいですね。もうすでに陸上、ラグビー、ラクロス、バドミントン、サッカーなどでも使われています。年齢も下は小学生、上はJリーグのプロまで使ってくれているので幅が広いです。
小学生だったらわかりやすい言葉で質問できたりと、チャットボットの汎用性が高いのが強みですね。疲労度やメンタルの不安度を確認するなど様々な使い方があるので、現時点でも都立学校の部活動やJリーグチームでも何チームか実際に導入していただいていますし、スポーツだけにとどまらず多方面へ展開していける可能性があると思っています。
ーすごいっ!「もっと本質的なことがしたい」という希望にどんどん近づいていますね!
僕が本当にやりたいことは「シェアトレ」をリリースした頃から変わっておらず、「ITで、指導者が生徒に良い指導を行なうのをサポートすること」です。
ITはオフラインが好きな人からすると「温かみがない」と言われますが、ITはよりオフラインの付加価値を上げるものだと考えています。個別の声かけなど感情に訴えることは人にしかできないことだから、人がやるべきこととAIに任せることの選別が大切になってきますね。
僕たちのサービスを通じてどのようにしてAIと人とで役割分担をし、バランスをとれば良いのかを提示していきたいです。
ー今後どのように「Aruga」を展開していきたいと考えているのでしょうか?
後々は教育プラットフォーム、育成プラットフォームにしていきたいと思っています。どのような指導者でも、一人ひとりの生徒や部下の状況をすぐ見られるような使いやすい仕組みにしていきたいです。
少し先の話にはなりますが、振り返りをするだけでなく、振り返りが終わったら自分の進歩が見えるような機能も作りたいですね。
昨日の自分より成長したことが可視化できるものにして、成長が楽しいと思える仕組みを作りたいと思っています。今の世の中、他人との比較でしか自分を評価できなくて疲れることが多いじゃないですか。そうではなく、「昨日の自分よりも1センチでも進めたら良し」と思えるような日記ツールにしたいですね!
ー木村さんの中で「自走できる人を育成すること」がひとつの命題になっていると感じますが、これから先どのような習慣づけをすればうまく自分自身を振り返れると考えますか?
僕は振り返りには二種類あると思っています。「頭で考える振り返り」と「感情を内省する振り返り」。後者は自分が感じた違和感を言語化できる力とも言えますが、感情の内省は苦手な人が多いと思います。
解決策を出さなくても良いから、自分の感情を言葉に出したりアウトプットしたりすると自分が見えてくると思いますね。
「Aruga」のサービスを通してユーザーがこの2種類の振り返りをし、人生の選択に迷ったときの羅針盤にしてほしいと考えています。
ー最後にU-29世代に対してメッセージをお願いします!
これから新しい枠組みを作っていくのは僕らの世代だと思っています。おそらく僕らより下の世代は、社会への違和感を強く感じていますよね。
僕らははざまの世代だと思うんです。上の世代からこれが正しいと教えられて、でもそれは違うと思いながら一番葛藤している世代。
そんなはざまの世代の僕らだからこそ、最前線で既存の制度を変えていくチャンスがある。道筋だけでも示せば下の世代が改革を進めてくれると思うので、僕は地図だけでも書き切って人生を終えたいですね。日本から教育を変えていきたいです!
ー本日はありがとうございました!木村さんのさらなる活躍を期待しています!
取材者:えるも(Twitter)
執筆者:五十嵐美穂(Twitter/note)
編集者:えるも(Twitter)
デザイナー:五十嵐有沙 (Twitter)