科学に知見があるかは関係ない?!株式会社キュライオ代表・中井基樹の飽くなき挑戦心

様々なキャリアの人たちが集まって、これまでのステップや将来への展望などを語り合うユニークキャリアラウンジ。第102回目のゲストは株式会社キュライオ代表の中井基樹さんです!

浪人生活中に海外大学へ進路変更しイギリスのマンチェスター大学で経営学を学んだ中井さん。在学中は紅茶の輸出ビジネスを手掛け1度目の起業を経験し、大学卒業後は異なる業界の3社を経験した後2019年に株式会社キュライオを起業されました。常に新しいことへ前向きにチャレンジし続ける中井さんに今日に至るまでの経緯をお話いただきました!

経営学専攻にも関わらず科学分野で起業

ーまずは現在のお仕事についてお聞かせください。

バイオベンチャーである株式会社キュライオの代表取締役を務めています。株式会社キュライオでは2017年にノーベル化学賞も受賞したクライオ電子顕微鏡を用いたビジネスを行っています。簡単に説明しますと、クライオ電子顕微鏡でこれまで主にX線でしか解析ができなかったタンパク質の構造を解析できるようになり、新しい薬の開発の可能性が高まっているんです。

ー社名キュライオには何か由来があるのですか。

コア技術であるクライオ(cryo)という単語を使った社名を初めは考えていました。クライオは英語では低温という意味を持つのですが、クライという音は英語のcry(泣く)や暗いという言葉を連想させてしまい縁起が悪いかなと思ったんです。そこで新しい薬の開発可能性があることから、英語で治癒するという意味のcureをcryoと掛け合わせてキュライオ(curreio)という社名に決めました。

ーなるほど…!中井さん自身はこれまで理系の分野で活躍されてきたのでしょうか。

大学では経営を学んでいたので科学のバックグランドはなく、バイオの分野には株式会社キュライオで初めて飛び込んだことになります。2019年1月に前職を退職し、転職するか起業をするか迷っていた際に、転職エージェントを通して出会ったバイオベンチャーの社長さんに起業を勧められました。そしてその方が紹介してくださったのが現在一緒に株式会社キュライオをさせていただいている東京大学理学部の濡木教授です。濡木先生とお話させていただく中で意気投合し、起業を決意しました。

日本には面白くて画期的な技術がたくさんありますが、研究者の方の多くは経営への知識や興味が不十分なためきちんと事業化されるケースは少なく、良い技術であるにも関わらず日の目を見ないことが多くあります。だからこそ、経営に得意な人・研究に長けている人がうまく役割分担をすることがITの分野に限らずバイオの分野でも必要だと感じました。ITの分野でも、ITサービスを作れるエンジニアだけで組織が成り立っているわけではないので。

ーそれでは濡木教授が技術・研究をメインに進められているんですね。

はい。私自身は技術の事業化や中長期でのビジョン作り、資金の確保、採用、組織作り等といった業務を担当しています。特にバイオベンチャーでは研究のための資金は必要不可欠なので資金面での計画を立てて遂行していくのはとても重要な仕事だと認識しています。研究の方に集中していただけるように研究以外の面でサポートをしていくのが私の役割です。

 

野球漬けの日々を送った中高生活

ー少し過去に遡ってお話を聞けたらと思いますが、どのような中高生活を送られていたのでしょうか。

中学時代は野球漬けの日々を送っていました。高校に進学後は、硬式野球部がない高校だったため、入団テストを受け社会人球団に入りました。そのため普通であれば甲子園を目指している予定でしたが、東京ドームで行われる都市対抗を目指して練習に取り組んでいました。

ー大学生や社会人に混ざって野球をされていたということですか。

そうです!プロを目指している人もいれば、仕事の合間に時間を作って野球をしている人もいるチームでした。それぞれ描いている将来プランは違ったものの、全員共通して野球が大好きという人たちに囲まれて野球ができたのはとてもラッキーだったと今振り返って思います。おかげで普通に高校生活を送っていたらみることのできなかった世界を見ることができ、新しい生き方や人生観を知ることができました。好きなことに対して一生懸命で、自分で考えてやりたいことに取り組んでいる人たちと一緒に過ごせたことは貴重な経験となりました。

ーその後どのような進路選択をされたのでしょうか。

当時2つ上の代にハンカチ王子で話題となっていた早稲田大学の斎藤佑樹選手がいました。単純ではありますが、彼と投げ合いたいなという気持ちから受験は東京大学を目指すことに決めました。ただ、野球漬けの日々を送っていたので受験勉強をはじめるのが遅く、現役で合格は難しい状況だったので浪人をすることに決めました。

ーそして1年後、東京大学に受験されたのですか。

実は浪人中に、現役で東京大学に進学した友達と話す機会がありました。その時に彼らが飲み会やサークルに時間を費やしているのを知り、自分が思い描いていた大学生活とは違うなと感じたんです。果たして1年間浪人生活を送ってまで本当に東京大学に行きたいのかと考え、違う進路を考えるようになりました。元々は野球のためにと思って目指した大学への進学でしたが、浪人期間を経たことで、一度立ち止まって自分の人生を冷静に見つめる時間を作れたことは今考えるとラッキーだったと思います。

 

海外大学への進学、初めての起業経験

ーその違う進路とは具体的には何だったのでしょうか。

海外大学への進学です。留学エージェントを何社か訪問し、話を聞く中でイギリスのマンチェスター大学ビジネススクールを知り、そこを目指そうと決めました。イギリスの大学は日本の高校から直接入学できないのですが、まずはファウンデーションコースに入りそこで1年間英語はもちろん、その他のイギリスの高校で勉強するレベルまでの科目を勉強し、そこの成績で大学に入学できるという仕組みになっています。祖父が経営者だったこともあり、高校時代から経営を勉強したいと考えていたので、ファウンデーションコース卒業後はマンチェスター大学で経営学を勉強することにしました。

ーイギリスでの大学生活はいかがでしたか。

海外に行くのはその時が初めてだったので何もかもが新しく感じました。ポジティブなこともネガティブなことも色々とありましたが、交換留学等といった形ではなく正規留学を選んでよかったなと思います。たまたま日本人が少ない環境だったので現地で会う人にとって自分が日本のイメージになるいうことと、退路を絶ってイギリスに行ったことで責任感が芽生えました。日本にいた時は周りに合わせて行動することが多かったのですが、イギリスに行ってからは周りを意識しつつも自分できちんと考えて行動する癖がつきました。

ー大学時代は勉強以外に何か取り組まれていたのですか。

イギリスの紅茶がおいしくて感動し、イギリスの紅茶を日本に輸出してネット販売を行っていました。留学1年目の終わり頃からまだまだ英語が拙いにも関わらず1人でお気に入りの紅茶屋さんに出向き英語で交渉して買い付けていましたね。

これが初めての起業経験となりました。約2年程続けましたが、紅茶の販売はお小遣い稼ぎ程度のビジネスだったので、きちんとビジネスとしてやるにはもっと資金を貯めて違うビジネスアイディアで勝負したいと思うようになりました。

ー卒業後の進路はその後どうされたのでしょうか。

資金集めのために手っ取り早くお金を稼げるのはどこかと考えた結果、投資銀行を就職先に選びました。そしてリクルーターと会う中で、人柄や温度感が自分にあっていたJPモルガン証券の投資銀行本部に入社しました。

ー入社してみていかがしたか。

噂に聞いていた通り激務でしたね(笑)2年間でクロスボーダーM&A、IPO、資金調達に関する業務を担当させていただき、社会人としての基本やビジネスの基本を学ぶことができたのでとても良い経験となりました。

 

起業、就職、転職を経験して辿り着いた今

ーそして退職後は予定通り起業されたんですか。

はい。イギリスから日本に帰国し、引越しした際におしゃれな家具をまとめて買える場所がなかった経験から家具・インテリアの送客メディアで起業しました。高い家具は実物を見ずにネットで買うには抵抗ある人が多いと考え、オンラインショッピングとは違う買い物の仕方を提案しようと思ったんです。おしゃれなインテリアをオンラインカタログで見てもらい、実際にお店で現物を見てもらい買っていただく仕組みを作りました。

しかし当時メディアを運営する中で、お洒落なインテリアを作られる職人さんを含め、業界全体としてあまりネットに対しての友好的ではなく感じられたこともあり、また自分の力不足も非常に感じ、この事業は成長させることができませんでした。

ーそこで再び就職という道を選ばれたんですか。

一度リセットして、事業会社で経験を積みたいと考えDeNAに入社しました。結果的にDeNAは1年程で退職し、当時友人が執行役員を務めていたITスタートアップであるジラフにCFOとして転職しました。当時は10人も社員がいない会社だったのですが、資金調達や上場も視野に入れた成長計画を担当させてもらいました。ジラフでは2年働かせていただき、取締役も務めさせていただきました。

投資銀行・メガベンチャー・スタートアップと異なる企業形態で様々な業界を見れたことはとても良い経験になりました。所属している人の考え方や人生において大事にしていることが違うことも知れてよかったです。

ーそして現在の株式会社キュライオを創業されたんですね。

はい。3度目の起業ということもあり、やるからには他の人がまだやっていない、チャレンジングなことをしたいと思っていたので挑戦してみてよかったと思っています。理系バックグランドはないので苦労することもありますが、知らないことを知れる面白さを噛み締めながら働いています。技術が日進月歩で進んでいる分野でもあるのでこれからどう会社として成長していくかも含めてとても楽しみです。

ー最後になりますが、中井さんの今後の展望やビジョンがあれば教えてください。

キュライオとしてはこれから事業を拡大していくフェーズに入ります。資金調達はもちろんのこと、製薬会社や大学との共同研究もどんどん進めていきたいと思っています。新しい価値を創出することで創薬に挑戦し、様々な疾患に苦しんでいる方に少しでも早く新たな医薬品を届けられることを目標にして頑張っていきます。。

と同時に、長い将来を考えた時にはまた新たなチャレンジを続けていると思っています。どんな仕事をしていても、何歳になっても、何かを理由に諦めることなく、どんどん新しい挑戦をしていくつもりです!

 

取材:青木空美子(Twitter/note
執筆:松本佳恋(ブログ/Twitter