「就活の最終面接で説教された」等身大の自分で挑む、学生起業家のトライ&エラー

色々なキャリアの人たちが集まって、これまでのキャリアや将来への展望などを語り合うユニークキャリアラウンジ。最終回となる第9回目のゲストは学生起業家の晒名駿さんです。

晒名さんは現在、明治大学の4年生でありながら、今年の4月にHUNT BANK株式会社を設立。「探さない 選ぶだけ」の就活/新卒採用における大学生と経営者のマッチングサービス・ハントバンクは、ローンチ3週間で登録者数500名を突破。

学生起業家という、華々しい肩書を持つ彼。さぞかしキラキラした学生生活を謳歌してきたことだろうと思われるかもしれませんが、彼の口からは次々と意外な言葉が。

「アイデンティティもなく、自分の居場所もなかった」
「最終面接にすすんだ10社で怒られた」

挫折も笑って話し、今の自分を飛躍させる材料に。挑戦に怯まない晒名さんの、いままでとこれからのユニークキャリアに迫る。

「起業」という選択肢に出会うまで

―2019年4月にHUNT BANK株式会社を設立し、10月に学生と経営者向けのサービス「ハントバンク」をローンチされた晒名さん。まずはサービスについて教えてください。

 

ハントバンクは、簡単に言えば就活版マッチングアプリです。毎日お昼の12時に大学生には経営者が、経営者には大学生がランダムに3名ずつレコメンドされます。

お互いが会いたいと思ったら、チャット機能をつかえるようになります。そして面談へ、という流れです。用途は本採用でもインターンでも、好きに使うことが可能です。

学生限定なのですが、就活生に限ってはいないので、1年生から登録可能になっています。また、ゆくゆくは高校生にまで展開していきたいです。

就職、新卒採用における完全無料のプラットフォームを作りたいと思っているので、学生はもちろん経営者の方も完全無料で利用が可能になっています。また、このサービスをマネタイズする予定もいまのところはないですね。広告掲載とかは検討するかもしれませんが。

 

―多くのプラットフォームは、採用側(ハントバンクの場合は経営者側)が課金するシステムだと思いますが、なぜ採用側も無料なのでしょうか。

僕が就活をしていたときに、ある面接官の方に、「自分は今、数字で見られているな」という印象を強く与えられたのがきっかけです。

「この人を雇うためには〇万円払う必要があり、この人が入社したら利益がいくらでるだろうな…
」というような計算をされ評価を下された経験が、なんだか居心地が悪くて。お金で学生と企業の関係が揺さぶられて、アンマッチが起きてしまうって、結局もったいないことになるじゃないですか。

綺麗事だ、と言われてしまうかもしれませんが、お金を一旦度外視して、腹割って話し合ってどう付き合っていくか決めてほしいなと思っています。

 

ー昔から「起業しよう」という思いがあったのでしょうか。

高校生の頃に、経営学に興味をもったのがはじまりでしたね。

僕、未熟児で生まれて、心配した父が、体を強くするためにサッカーを習わせたんです。だけど、中学受験をして入った中高一貫の学校にサッカー部がなくて。

小学校までは、僕は勉強も運動もできて、ちやほやされていて…出木杉くんタイプでした。だけど、わざわざ中学受験して学校に入ったら、個性的で、自分より勉強も運動もできる子たちがたくさんいて、自分の居場所がない、と感じていましたね。

そんなとき、先輩たちの格好良さに惹かれてハンドボール部に入部することにしました。サッカーと違って、手を使うスポーツなので、最初は全然上達しなくて。高校生になってやっとうまくなってきたら、今度はチームマネジメントに興味をもつようになりました。勝つためには、チーム全体を強くする必要がありましたから。

そのときにたまたま流行っていたのが、岩崎夏海さんの「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」で、そこから経営学に興味をもつようになりました。
経営は会社づくりに必要で、その延長で起業という選択肢もでてきました。明治大学には、経営学を学ぶために進学しました。

 

インターンより、社長体験ができる学生団体へ

―大学では、起業につながるような活動をされていたのですか?

ふたつの学生団体に所属していました。ひとつめがアイセック明治大学委員会。アイセックは、日本の学生を海外の企業のインターンに送り出すエージェント団体です。そこで僕は企画と、インターン生のマネジメントを担当していました。

アイセックでは、「自責の念」を勉強しました。他人のせいにはしない、全部の出来事は自分次第、という考えをもつようになりましたね。

ふたつめが、2018年に代表を務めたAGESTOCKです。AGESTOCKは歴史ある学生団体で、「学生の力」を社会に発信するためにイベントなどを行う企画を展開しています。500人ほど所属しているので、AGESTOCKの代表をやれる、ということは、大企業の社長をやることに近いという認識をもっていました。

滅多にない貴重なチャンスだと思い、代表に立候補しました。選挙制だったので、出馬し、選んでもらって代表になりました。

 

―500人いる学生団体の代表、というのは苦労も多いかと思いますが、どのようにしてチームをマネジメントしていったのでしょうか?

昔、ハンドボール部に所属し、チームのために自分が場を引き締めねば、と思い動いた結果、チームメイトがひとり辞めてしまいました。その経験から、まずは自分が変わらなきゃいけないと思い、理想のチーム・理想のリーダーについて考えました。

ハンドボール部のときはピラミッド型の頂点にリーダーとしていましたが、そうじゃなくて、ピラミッドの土台にリーダーがなって、全体を底上げすべきだと思いました。また、目立つのも、メンバーのみんなであるべきだと考え、身近な存在として支えられるよう意識して活動しました。

 

―1年間の代表経験を通し、成功したと感じていますか?

イベント開催に関してですが、成功と失敗、どちらも感じています。動員数と来場者の満足度では成功といっていいかと思いますが、企業との協賛に関してはもっとできたかなと。ただ、最も大事にしていたのが、後輩たちが来年以降も活動を続けていくモチベーションを保つことでした。なので、会場がお客様で埋まる、という景色を見せることができたのは満足しています。

なんだか、ゆるっとした理想を掲げているように思われるかもしれませんが、実は人一倍数字が見える結果にはこだわっていましたね。あたたかいチームを実現するにも、結果が出ていないと意味がないですから。

コアの運営メンバーには毎日、口癖のように「結果を出せ、結果を出せ」と言っていました。言うだけではだめなので、自分がトップセールスになるよう、チケットの販売ランキングでは絶対に僕が1位になろうと奮闘していました。口だけの、ダサい奴にはなりたくないので。

こういった結果に対しての執念や泥臭さが、成功の要因だったのではないかなと思います。

 

―限られた学生の時間をインターンという選択に使う人も多いかと思いますが、なぜ晒名さんは学生団体に加わったのでしょうか?

たまたまのタイミングで出会ったものって運命だと思っているんです。その時々で自分が納得できる選択ができたなら、それが正解だよなあ、と。深く考えて選んだわけじゃなくて、自然に出会って自然に選んだ、という感じですかね。

あとは、せっかくの学生時代なので、学生にしかできない選択であったのも理由にあるかなと思います。

お金をモチベーションとしないものであったことも自分にとっては意味がありました。チームのビジョンに共感し、ひたすら突っ走るって、社会人でももちろできるとは思うのですが、どうしてもビジネス色が強くなると予想しています。金銭の価値から外れたところでひたむきに頑張れるって、大事な経験だと思います。

 

2度の就職活動で学んだこと

ー就職活動はされたのでしょうか?

 

 

はい。学生団体を3年生の12月に引退してから、いろんな経営者の方のアポをとって直接会いに行きました。そのなかで、最初に会った方が、「将来若い人を応援したいから大学生とその経営者がつながるサービスを作っていきたい」と仰っていたんです。学生団体をやっていたこともあり、「僕、大学生とのつながりが多いのですが、それ、僕がやるのどうですか?」と提案しました。そこからハントバンクが生まれました。

 

ー起業には、就職活動をしたことが大いに影響しているんですね。

そうですね。その後、起業することを前提に就職活動をしました。なので、副業ができるスタートアップやメガベンチャーを中心に30社ほどエントリーし、そのうち20社で最終面接まで進ませていただきました。

ただ、そのうちの10社でめちゃくちゃ叱られまして…。

 

ー叱られる、というのはどうしてでしょうか?起業を前提にしていたからですか?

はい。最終面接で起業することを伝えると「君、うちに入る気ないでしょ。こっちのお金と時間を無駄にしないでくれる?」って。当然ですよね…。なかには、「ビジネスパートナーとして仲良くしていこう」と言ってくださった方もいました。結局、自分から辞退したところもあり、内定は1社ももらえず、一度目の就活は終えました。

 

―内定はもらわない状態で、就職活動をストップさせたのには、心境の変化などがあったからでしょうか?

お叱りをうけた最終面接で、印象的だったことがありまして。ある面接官が、「就職するってどういうことだか分かる?」と僕に聞いてきたんです。その方は、「就職するっていうことは、どれだけ企業を愛し、どれだけ企業を伸ばしていけるか、この2つを考えるってことなんだよ」と。それまでの面接で、気付けば僕はずっと自分の成長のことばかり口にしていたな、と。

「自分の成長なんてどうでもいいんだよね。就職にはその2つしかないから、君には就職という道はないんじゃない」と言われて。きつい言い方だったので、当時はうまく受け入れられなかったのですが、時間が経つに連れて納得していく自分がいました。

そして、僕はハントバンクという会社を愛して、どれだけ伸ばせるかを考えよう、って、踏ん切りをつけることができました。

 

ーその後、会社の成長に集中して取り組まれたわけですね。9月から再び就活を再開されたそうですが、なにか変化があってのことでしょうか?

ちょうどその時期に会った友人から、就活の相談を受けていたんですよね。その友人に「晒名も、もう一度就活をしてみたら?この時期まで就活をやっている人特有の悩みってあるし、それはいまのサービスに活きるものじゃないかな」と言われました。

確かに、新卒での就職活動は今しかできないことでしたし、自分がサービスを提供するユーザーの気持ちをリアルに体感できるだろうと考えて、9月から10月末までの間、就活を再開しました。

 

ーそもそも、起業するという道がありながら、就職という選択を捨てきれなかったのはどうしてなんでしょうか?

いまいただいている仕事って、自分が大学生であることが大きな強みになっているんですよね。だからこそ、卒業してその肩書が外れた自分になにが残るんだろう、と正直、不安な気持ちがありました。

なので、二度目の就活は専門性をつけることができる企業を選んでいました。自分の武器が欲しかったんですよね。

そんななかで出会った経営者の方に、「専門性って、ときに足枷になるんじゃない?」と言われたのが印象に残っています。

たとえばデザイナーだったら、デザインをするって決まっている。それはそれでいいんだけど、デザインとなにか他のものを掛け合わせて新しい価値を創造することに起業家や経営者の価値があるんじゃないかって。「君がそういう生き方をしたいんだったら、専門性より、日々の目の前にある課題を自分の力で乗り換えていく適応力の方が大事だよ」と伝えられて、腑に落ちました。

いまの自分にとって必要なのはそれだ、と気づき、いまはいただくお仕事のなかで自分ができることを増やせるよう注力しています。なので、就職はもう考えていません。

…ただ、これも出会いのタイミングだと思いますので、本当にビビッとくる出会いがやってきたらまた違う選択をしているかもしれません。一見ブレブレしていそうですが、そういう柔軟さを大切にしています。フットワークの軽さが強みです!(笑)

 

起業の先に見据えるもの

ーハントバンクは今後、どのように展開していく予定でしょうか?

いまはアプリを開発しているところで、来年リリース予定です。これはあえて公言しているのですが、最終目的はバイアウトです。国内の大手人材会社に買っていただいて、その会社の理想を持ちながら、ちゃんと世の中に残るサービスを作りたいという思いがあります。

もともと、会社を立ち上げるときに、会社経営のなかでも特にチーム作りを大事にし、自分がお皿になって社員のみなさんを幸せにしたいという思いが強くありました。そこを僕のライフワークにしたいんです。

なので、ハントバンクはひとつの通過点だと思っています。こうやって振り切って、目的地が決まっているからこそスピードと成果を重要視していけていますね。

いいサービスであると自信をもっているので、会社にとっての目的の達成は、そのさきに幸せになる人がいるとも信じています。

 

―いずれはハントバンクを手放すということですが、晒名さん自身の今後の展望は?

いま、僕は大学4年生で、リアルに就活のことが分かるからこそ、取り組めている部分もあると思うんですよね。3年後、5年後…と年を重ねるごとに、そのときどきの人生における課題は必ずでてくると思うんです。なので今後も、そのときの自分ならではの目線で物事を見て、挑戦し続けられたらいいなと思っています。

==
執筆・編集:野里のどか(Twitter / ブログ
取材:西村創一朗
写真:橋本岬
デザイン:矢野拓実