様々なキャリアの人たちが集まって、これまでのステップや将来への展望などを語り合うユニークキャリアラウンジ。第326回目となる今回は、アーティストとして活動しているWasaVi Milanさんをゲストにお迎えし、現在に至るまでの経緯を伺いました。
「世に溢れる言葉に復讐を」というコンセプトのもと、楽曲制作を中心に活動されているWasaVi Milanさん。制作の源泉は、理想と現実の間で葛藤した過去だとのこと。
音楽家になりたいという夢、現実の自分、周囲からの言葉。三つの対立の中で感じたこととは?アーティストとして活動する今、曲に込める思いとは?社会に発信したいこととは?WasaVi Milanさんの思想や価値観にじっくり迫りました。
ー自己紹介をお願いします!
アーティストとして活動しているWasaVi Milanです。
House of MilanというニューヨークのVOGUEチームに所属しています。
楽曲制作を中心に活動しており、ゲイカルチャーから生まれたVOGUE Beatsというジャンルをベースにしています。
現在は、プロダンスリーグの「D.LEAGUE」で楽曲提供を行なっており、Round4で優勝した「Benefit one MONOLIZ」というチームが楽曲を使用しています。
ーWasaViさんが活動のフィールドとされている「VOGUE」というのは、どんなカルチャーなのでしょうか?
1960年代頃にニューヨークのゲイ達の間で生まれたカルチャーです。
当時、偏見や差別が横行していたため、彼らは自分のセクシャリティを隠す必要がありました。そうした抑圧の中で、本当の自分を表現できる場所として生まれたのが、VOGUEです。
僕がVOGUEに出会ったのは大学1年の時でした。フラっと訪れたクラブで見た瞬間ビビッときて、その時から今までずっと夢中になっています。
僕自身もゲイでしたが、以前はゲイであることを隠して生きていたんです。
このカルチャーに出会ってから、ゲイであることを恥じなくなったので、自分のアイデンティティには不可欠な要素ですね。
ーWasaViさんのこれまでの人生にも遡ってお聞きしたいと思います!
夢は叶うと信じ、音楽家を目指す
ー幼少期はどんな生活をされていましたか?
たくさん習い事をさせてもらえるような、恵まれた家庭で育ちました。
3歳の頃に始めたエレクトーンから、サックスや三味線、鼻笛など様々な楽器をやっていました。
一人っ子だったこともあり、親からは大切に育てられましたね。何一つ不自由はありませんでした。
ー音楽の英才教育を受けられていたんですね…!
この頃は、純粋に音楽家になりたいと思っていました。
周りの大人も褒めてくれますし、努力を続ければ夢は必ず叶えられると思っていました。
ー生まれた時からゲイだったとのことですが、この頃から親御さんには伝えていたんですか?
今でもトラウマになっているのですが、打ち明ける以前に怒られたことがあります。
小学生の頃に、自分はゲイなんだろうかと気になり、ネットで調べたんです。すると、検索履歴からバレて「こんなものを見てはダメだ」と言われてしまって。
このことから、幼いながらに「ゲイであることはいけないこと」なんだと感じました。
それ以降、女性らしい仕草や喋り方は避け、自分のセクシャリティを隠すようになりました。それどころか、ゲイの人が嫌いになってしまい、セクシャリティを公にしている人達に対し否定的な感情を持つようになりました。
理想と現実の間で生きる意味を見失う
ー自分もゲイであると自覚しながら嫌いになる、とは窮屈な気持ちだったでしょうね…。
中学や高校の頃はどのように過ごされていたんですか?
この頃から、現実と理想の乖離に悩むようになりました。
要因は、自分のセクシャリティに加え、音楽の実力でした。
幼少期は、努力次第で思い通りの人生にできると考えていました。
それが年齢を重ねるごとに、コンクールで賞を獲れなかったり、練習をサボりたいという気持ちに勝てなかったりする局面が増えてきて。
自分の実力を自覚し始め、理想に近付くための努力ができない自分を恨むようになりました。
そんな風に過ごしているうちに、理想の人生を歩めないのは死んでいるのと同じだ、と感じるようになりました。
理想が現実になることなく、ただ幻想を追い求めながら生きる未来は、当時の自分にとっては絶望以外の何物でもありませんでした。
ー理想と現実の乖離に苦しめられていったんですね…。
生きる意味を失った自分に対し、周りの人は色んな言葉で励ましてくれました。
「生きることは素晴らしい」「ありのままの自分でいい」といった、「自分の生」を肯定するものでした。
夢を叶えられていなくても、のうのうと生きている自分を出任せに肯定する。
悩みに寄り添うことなく、ただ価値観を押し付けるように発せられる彼らの言葉からは、とてつもない無責任さを感じました。
そんな時に、自分の心を癒してくれたのは自殺サイトの書き込みでした。
ー自殺サイトとは…。そんなにも追い詰められてしまっていたんでしょうか?
僕自身がサイトに書き込むことはありませんでしたし、死ぬことを実行に移そうという考えもありませんでした。ですが、そこには自分と同じように、それぞれの悩みに苦しみ、葛藤している人々の言葉がありました。
当時、慢性的な生への諦めを感じていた自分は、掲示板のネガティブな言葉に安心を感じました。
社会の明るい言葉によって自分の世界が塗り替えられても、自殺サイトの暗い言葉でまた塗り直すことができる。サイトを覗けばいつでもありのままの自分に還れましたし、そのことによって生を保てていたように思います。
悩みから目を背け、フェイクな幸せに身を任せる
ー自殺サイトの書き込みに、自分らしさを見出していたんですね。
中高時代の葛藤は、どのように折り合いをつけたんでしょうか?
大学進学まで折り合いはつけられませんでしたね。
中高一貫校で、ほとんどの人が大学進学する中で、自分も流れるように大学へ進学しました。
入学後は、それまでの悩みは消えていき、目の前の物事を楽しめるようになりました。
ーそれは良かったですね!どんな変化があったんでしょう?
新しい環境で色んな人や物事に出会ったことで、それまでの苦しみを忘れることができました。
でも、それは決して過去の悩みが解消されたわけではなく、悩む自分に向き合わなくなってしまっただけだと思います。リアルな自分に蓋をし、ひたすらにフェイクな幸せを追い求め、身を任せるように過ごしていました。
ー大学卒業後は、どのような進路にされたんでしょうか?
新卒で広告代理店に入社しましたが、1年10ヶ月で退職しました。
音楽家になるという幼い頃からの夢を、どこかで諦めきれずにいたんだと思います。
自分をマーケティングできるようになる、という構想も就活時にあったので、将来音楽家になることは、当時から無意識のうちに視野に入れていました。
ー念願の音楽家になってみて、どのようなお気持ちですか?
アーティスト活動を初めて間もないので、良くも悪くもなく、これから頑張ろうという気持ちです。
ただ、現実と理想の間で真剣に悩んでいたあの頃に比べ、自分とあまり向き合えなくなってしまったと感じています。当時の感覚を思い出せない点には危機感もあるので、これからしっかり向き合っていきたいですね。
音楽で「世に溢れる言葉に復讐する」
ーWasaViさんの活動はまさに始まったばかりですもんね…!
ご自身が楽曲を通して伝えたいことや、制作におけるこだわりって何ですか?
僕は、「世に溢れる言葉に復讐する」というコンセプトのもとで制作活動をしています。その源泉は、社会による言葉に苦しめられた過去です。
ゲイだと言うと、過去の経験は辛かっただろう、と決めつけ同情する言葉。
職に就き自立した女性はかっこいい、家庭を守る女性は時代遅れだという言葉。
「夢はきっと叶う」「君はオンリーワンだ」「前向きに生きよう」など。
価値観やあり方を強制するような言葉を払拭し、アンチテーゼになりうる楽曲を作りたいと考えています。
ージェンダーに関する社会の風潮については、どう思われますか?
ゲイの人が男性を追いかけ気持ち悪がられている構図や、女装をする人が色物扱いされる様子って、世の中にありふれていますよね。僕はそういう風潮から、ゲイは気持ち悪いものだと思うようになりました。
そんな風に、知らず知らずのうちに常識として形成され、形成されたものだということすら気付けないものがたくさんあると思います。
僕は、VOGUEというカルチャーに出会い、社会に植えつけられた価値観に気付けた。
自分らしく振舞ってもいいんだと思えるようになりました。
社会が多様性に対応していく必要はある一方で、その枠組みを社会が決めてはいけません。
多様性がそのまま受け入れられる社会になっていくと良いなと思います。
ー生き方について葛藤された過去をもつWasaViさんが思う、自分を偽らずに生きる方法とは何ですか?
社会による枠組みに、自分の力で気付くことはとても難しいと思います。無自覚のうちに刷り込まれ、常識になっているものを覆すには、他の全く異なる価値観に触れるしかないのでは。
その全く異なるものが、僕にとっては自殺サイトやVOGUEだった。自分らしさを取り戻すには、自分を救済してくれるものに手を伸ばすしかないと思います。
僕は、自分の考えを取り繕うことなく、ストレートな思いで歌詞を書いています。こんな考え方もあるということを、受け手に気付かせるというよりは、目の前にポンとある状態を目指しています。
ーWasaViさんが今後やっていきたいことについて教えてください!
ずっと作品を作り続けていきたいです。そうすることによって、無駄な悲しみのタネをこれ以上増やしたくない。
僕の書いた曲をどう捉えるかは受け取った人次第であるけれど、世の中に発信し続けたいなと思います。
ーWasaViさん、貴重なお話ありがとうございました!
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取材・執筆:中原瑞彩
デザイン:五十嵐有沙(Twitter)