自分で選択し、全力でやれば道は切り拓ける。CACTUS TOKYO・熊谷渓司の人生観

様々なキャリアの人たちが集まって、これまでのステップや将来への展望などを語り合うユニークキャリアラウンジ。第859回目となる今回は、株式会社CACTUS TOKYO・代表取締役の熊谷 渓司(くまがい・けいじ)さんをゲストにお迎えしました。

「CACTUS TOKYO」は熊谷さんが2021年に立ち上げた、サボテン由来のレザーを用いたファッションブランドです。学生時代に外交官になる夢を抱いた後、環境問題に興味を持ち発信を続けてきた熊谷さん。今回は、現在のキャリアに至るまでの経緯を伺いました。

サボテンレザーで環境負荷を減らす

ーまずは、簡単に自己紹介をお願いします。

熊谷 渓司(くまがい・けいじ)と申します。北海道出身です。私は一橋大学を卒業後、大手機械メーカーに入社し経営企画を5年間経験しました。その後、2021年にサボテン由来のレザーを用いたファッションブランド「CACTUS TOKYO」を立ち上げ、2022年に独立しました。

ー「CACTUS TOKYO」について教えてください。サボテンレザーに着目したのはなぜなのでしょうか。

きっかけは、自分が環境問題に関心を持ったことでした。ライフスタイルにフィットする形で環境のために何かを変えたいと思った時、植物由来のレザーに魅力を感じたんです。

従来のレザーは動物由来の「本革」と石油由来の「合皮」の2種類。動物の「皮」を腐らない「革」に変える工程で多くの水が必要で、合皮の製造過程においても二酸化炭素が大量に排出されます。

使用する石油を植物に代用できれば環境負荷を減らせると考え、製品化に至りました。

相手国の論理を理解することが外交の要

ー今回は熊谷さんの経歴を遡ってお伺いします。熊谷さんは子どもの頃から環境問題に関わることを目指していたのでしょうか。

小学校から高校までスキー部に入っていたため自然や環境への関心は高いほうでしたが、夢は外交官になることでした。

高校時代に本屋で、対ロシア外交を担っていた佐藤優さんの本をたまたま見つけて。父が中国籍であることや地元の北海道が北方領土問題を抱えていることから外交に興味を持っていたので、この本を読むことにしました。

明確に外交官を目指し始めたのは、本との出会いがきっかけでしたね。

ー本の内容が気になります。本を読んで感じたことを教えてください。

日本とロシアではカルチャーや宗教観が違うと書かれていたのが印象的でした。どの国家も国民の幸福を目指して努力している。起きていることはその結果であり、そこに善悪はないのだと高校生ながらに感じましたね。

外交の要は相手国の政治的な論理を理解することであり、理解なしに友好関係を築くことはできない。共産主義やマルクス主義というロシアの考え方を学ぶうちに、社会学や経済学、哲学にも興味を持ち始めました。

ー外交官になることを前提に進学されたのでしょうか。

そうですね。夢が明確になってから、「外交官 なり方」とインターネットで検索して。国家公務員になる必要があり、そのためには「東大、少なくとも本州の国立大学を出ないといけない」と書かれているサイトを見つけ、行けるところまで行こうと思いましたね。

東京の国立大学に絞って受験勉強をし、手が届いたのが一橋大学でした。

環境問題の原因は、経済の仕組みにある

ー大学入学以降も外交官になるために行動を続けられたのでしょうか。

途中まではそうでしたが、自分のやりたいことと外交官の間にギャップを感じ、方向転換しました。

外交官の方とお話する機会があり、「総理や政治家と外交へのポリシーがぶつかったらどうするのか」と質問をしたんです。振り返ると当たり前ですが、「国民に選ばれた政治家のポリシーに従うことは大切で、その中でどう最善を尽くすかを考えている」と回答をいただいて。

人の方針の中で動くのは自分には向かないと感じ、外交以外にやりたいことを探し始めました。

ーそこで興味を持ったのが環境問題だったのですね。

冒頭でもお伝えしましたが、高校までスキー部で活動していましたし、両親がアウトドア派だったのでもともと自然に触れる機会は多いほうでした。社会学や経済学の知識を得た状態で自然と向き合うと、問題意識が生まれてきました。

たとえば、山の中にプラスチックのゴミが落ちているのを見つけたとします。拾うことで目の前はきれいになりますが、表面的な解決策に過ぎません。大元を削らないといけないと考えたときに行き着いたのが、「経済の仕組み」や「社会の在り方」でした。

資本主義の日本では、売上を立てるためには大量生産し、大量の在庫をストックする必要がある。この体制を変えなければ環境問題は解決しないと思ったんです。

ーサボテン由来のファッションブランド立ち上げに通じる考え方ですね。新卒で大手機械メーカーに就職されていますが、就職活動はどのように進められたのでしょうか。

外交官を目指すのを辞め、民間企業に絞ってからはさまざまな業界を受けました。「環境問題に取り組みたい」はひとつの軸だったので、面接で自分の問題意識について力説を繰り返していましたね。しかし、面接官にはまったく響きませんでした。

就職留年をしましたが、2度目も結果は変わらず。内定式の数日前に内定をいただき、滑り込みで就職先が決まりました。