READY BOX代表・三上麗が考えるポップでおもしろい性教育とは

様々なキャリアの人たちが集まって、これまでのステップや将来への展望などを語り合うユニークキャリアラウンジ。第566回目となる今回は、三上麗(みかみ うらら)さんをゲストにお迎えし、現在のキャリアに至るまでの経緯を伺いました。

一般社団法人READY BOXの代表である三上さん。NPO法人団体を立ち上げるきっかけとなった高校時代や、海外留学で得た性の価値観、一般社団法人READY BOXに対する想いを教えていただきました。

高校時代に経験した同意のない性行為に違和感を覚える

ーまずは簡単に自己紹介をお願いします。

一般社団法人READY BOXの代表を務めている三上麗(みかみ うらら)と申します。

現在性被害の啓発活動や性教育の大切さについて発信を行い、2020年10月には初めての生理準備BOX「READY BOX」の開発プロジェクトを立ち上げました。

ポップでおもしろい世界観を大切に、性教育を子どもたちに届けるため活動しています。

ー現在のキャリアにたどり着いたきっかけは17歳の頃の経験だったそうですね。

はい。私が高校2年生の頃、お付き合いしていた人から同意のない性行為があったのがきっかけです。

そのときは大丈夫だと思っていたのですが、自分の心が許していない状態での性行為は気づかないうちに、自分の心を傷つけているんですよね。少しの間ご飯を食べられなくなった時期もありました。自分自身辛い経験をしたので、私と同じような思いをする子が増えてほしくないと思ったのです。

性について勉強するようになってから、「自分が嫌だったらNOと言って良い」と誰かに教えてもらっていたら…..と考えるときがあります。

当時の私は「嫌だ」という意思表示で相手がすべてを否定されたと思ってしまうのではないかと不安でした。でも、大切なのは自分の意思。自分の意思を一番大事にしてほしいと誰かに教えてもらいたかった。そして「その自分の意思を尊重してくれる人と一緒にいるべき」ということも教えてほしかった。他にも妊娠や避妊についても詳しく教えてほしかったです。

そういう知識があればお互いもう少し考えて行動できたのかな……と思います。

ー三上さん自身が性被害を受けたあと、どのように傷を乗り越えたのでしょうか?

自分でも、いつどうやって乗り越えたのかははっきりとわかりません。

でも、大人になるにつれて性について話せる友達が増えていったのは1つのきっかけだと思います。大学に入学してから、恋愛の話や性の話をポジティブに話してくれる友達が増えて、ネガティブな気持ちがだんだん和らいでいきました。

海外留学で得た、性を特別視せずに受容するという考え方

一学生時代にアメリカ留学へ行かれたとのことですが、何かきっかけはあったのでしょうか?

性被害を受けたあとに、世界にどのくらい性被害で苦しんでいる人がいるのか調べたときがありました。医療が整っていない地域でAIDSが蔓延したり、幼いながらに売春させられて苦しんでいる人がいたりするのを知ったのです。

「そういう人たちを助けたい!」と思い、当時は国をまたいで活躍できる看護師になりたいと思っていました。活躍するためには英語や異文化の理解も大事だなと。

先生やお父さんからは「大学でいいんじゃない?」「社会経験してから行ってみたら」と言われたのですが、当時の私にとっては大人の言葉が理解できなくて(笑)。何かに背中を押されたようにアメリカへと向かいましたね。

ー何か心境の変化はありましたか?

高校3年生の時にアメリカへ留学しました。アメリカに行って一番印象に残っているのは、自分自身がマイノリティーの立場になった経験です。

留学した地域には日本人はもちろん、アジア系の人も1人もいませんでした。日本にいたら、自分がマイノリティーになる経験をする機会は少ないですよね。

社会問題全般にも通じますが、どうしてもマジョリティーの意見を進めてしまうみたいな現状があると思うようになって……。自分が少数派になったことで、自分の意見を伝える大変さや、マジョリティーに埋もれている課題はたくさんあるのかもしれない、と学べたのが大きかったですね。

また、私にとってホストファミリーとの生活も刺激的でした。お母さんとお父さんが毎日キスとハグをするのが当たり前だったり、ホストシスターがお母さんに学校で起きた恋愛の話やセックスの話もしたりしていました。高校生の私にとってはかなり衝撃的な経験でしたね。

ーなるほど、アメリカと日本では環境が大きく異なるのですね。他の国にも行った経験はあるのでしょうか?

はい。大学3年生の終わりにインターンで8カ月ほどドイツに行きました。

ドイツを含め、ヨーロッパという地域が性にオープンだと日常生活で感じましたね。アメリカ留学と同様にドイツでもお世話になったホストファミリーがいたのですが、お母さんとお父さんは子供たちの前で、当たり前のように性に関する話をしていました。セックストイのCMも普通に地上波で流れていて……!

また、友人がセックストイフェアリーというアルバイトをやっていました。バイトの内容はセルフプレジャーグッズの販売です。新商品があれば、女の子たちを集めてパジャマパーティーをしたり、イベントを開催したりしてその際にセックストイの商品説明をしていました。

ほかに足を運んだのはオランダですね。オランダには”レッドライトエリア”という場所があって、そこは主に売春や風俗で収入を得ている人がいます。

そのレッドライトエリアで働いている人々の働き方を1つの仕事として認めた上で国が守ってくれていたのです。オランダはどんな職業でも尊重される社会なのだなと感銘を受けましたね。以前に比べると、日本も性に携わる仕事に対して、ポジティブなっている実感はありますが、まだまだ尊重が足りないと思っています。

性暴力の被害者も加害者もいなくなる社会をつくりたい。その想いで一般社団法人READY BOXを立ち上げた

ー大学在学中に、国内で性被害者支援を始められたのですか?

高校生の頃からずっと性被害者を減らす方法はないかと考えていました。

いつかは性被害を防止できるようなNPO団体を自分自身で立ち上げたいなと思い、大学生の頃、若者層の性被害を受けた方々の相談を受けるNPO法人ライトハウスにインターンに行きました。

ー一般社団法人「READY BOX」はいつ立ち上げたのでしょうか?

2020年8月にはじめての生理BOXのプロトタイプを製作。それから2ヶ月後の2020年10月頃、任意団体としてREADY BOXの活動を本格的に始動しました。

元々は1人で活動していたのですが、友人に「絶対実現したいんだけど、やること多すぎてどうしよう」と相談したら「そしたらメンバー集めようよ!」と提案してくれたのです。

早速SNSで「このようなものを作りたい」と発信したら、たくさんの方が手伝いたいと声を挙げてくれました。ずっと1人で全部やらねばと思っていたので、この時に「そうか。メンバーを募っていいのか」と気づかされましたね(笑)。そんな気づきをくれた友人には心から感謝しています。

現在は、その友人である三上佑季が副代表になり、さまざまな人と関わりながら進めています。

ー生理BOXを作ろうと思った理由は何ですか?

アメリカや北欧などで「はじめての生理BOX」が製作子供たちと関わった経験も大きく関係しています。リタリコでは主に塾講師と教室運営を担当していて、そこで親御さんと話したり、子どもと1対1で向き合う時間がありました。

障がいの有無にかかわらず、好きなものをどのように学びたいか、どうやって説明したら伝わりやすいか、どういうコミュニケーション方法が好きか、1人1人それぞれ違うんだなと実感しましたね。

また親御さんと話していて、性教育にかかわらず勉強を教えるのが難しいと相談を受ける機会もありました。

そういったところからインスピレーションを受けて、生理BOXはできる限り「楽しい」「ある程度1人でも文字が苦手でも生理について学びを得てもらいたい」「親御さんの負担を減らす」「施設や学校の方が手間なく子供に教育できるツールとして使ってもらえたい」という思いで製作しました。

ー大変だなと感じるときは思いますか?

大変と言ってしまえば大変です(笑)。でも、とても楽しいです。

「よくできるね」と言われることもありますが「性教育がしっかりされていない世の中を見過ごせない!」という気持ちが今の原動力につながっています。

NPO団体を立ち上げた上で、さまざまなことに関わりながら、団体の活動や目的を普及させていくことがとても難しいですね。あまり名が知られていない団体が生理BOXを制作して、どれだけ反響があるのかもわからず不安な気持ちも正直あります。

でもその大変さ以上に「生理を学ぶことがどれだけ大事か」「性教育はどういう幸せに繋がるのか」を知ってもらって、性被害の課題解決へと向かうことが必要です。そのためには私だけではできないので、支えや協力してくれる方々がいないと実現できないなと思っています。

ー最後に、何か伝えたいことがあれば教えていただけますか?

性教育を学ぶことで自分を守ったり、大切な誰かを守る力にもなります。また、危険を回避するだけではなく、その人がその人らしく生きられるための沢山のヒントを得ることができるとも思っています。

学校で学ぶことができる性については話はまだまだ十分だとは言えません。もし「もっと学ぶ機会がほしい!」「気になるけどどうやって学ぼう?」と思っている方がいれば、ぜひ性教育関連のYouTubeやWebサイトを見てみてくださいね!

<三上さんのおすすめサイト一覧>
NPO法人ピルコン
セイシル 知ろう、話そう、性のモヤモヤ
家庭ではじめる性教育サイト「命育」

ーありがとうございました!性教育が普及することで、性に対してポジティブに考えられる人が増えたらと思います。三上さんの今後のご活躍を応援しております!

取材:松村ひかり
執筆:Risa(Twitter
デザイン:安田遥(Twitter

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