家業継承を成長のチャンスに!ポジティブな業界を目指す若き経営者・田城功揮の指針とは

様々なキャリアの人たちが集まって、これまでのステップや将来への展望などを語り合うユニークキャリアラウンジ。第563回目となる今回のゲストは、田城功揮(たしろこうき)さんをゲストにお迎えし、現在のキャリアに至るまでの経緯を伺いました。

創業56年の老舗金属加工会社の取締役を務めながら、外国人就労支援の代表を担う田城さん。家業を継承する以外にも、外国人就労の環境改善に注力をする彼は、どのような思いを胸にトップを務めているのでしょうか。起業のきっかけになった経験から現在の取り組みについて、幅広くお話を伺ってきました。

家業を継ぎ、自ら事業を始めた若き経営者

ーまずはじめに、自己紹介をお願いします。

現在、株式会社タシロ(以下、タシロ)取締役及び協同組合FURUSATO(以下、FURUSATO)の代表理事を務めている田城功揮(たしろこうき)と申します。タシロは創業56年目を迎える金属加工の会社で祖父の代から数えて私で3代目です。FURUSATOでは日本で働く外国人技能実習生の監理事業や中小企業の共同事業として研修などを行なう組織です。

ー2社のトップを務めている田城さん。まずタシロの具体的な仕事内容を聞かせてください。

弊社は主に金属加工の中でも金属の板からモノを生み出す板金加工を強みとしており、BtoBの受託生産がメインです。新規事業でBtoCの自社製品の製造販売に挑戦しており、最近ではキャンプ用品として3WAYピザ窯を開発し、クラウドファンディングで資金を集めた結果、120万円の調達に成功しました。ピザ窯、燻製、焚き火として活用できる商品を、多くのお客さまに届けられて大変嬉しく感じています。

ー3WAYピザ窯!キャンプ好きにはたまらない商品ですね。そのような新アイデアは、田城さん自身で生み出しているのですか?

私だけではなく、社員全員からアイデアを出してもらっています。「思いついたアイデアはどんどん出してください!」と社員に呼びかけたことで、今では社員からの企画立案が1つの会社風土として根付いていますね。

そのほかにも電車のつり革やドアレバーに直接触れずに使用できる「タッチレスハンド」や飛沫防止用アクリル板のステンレス製スタンド部分を販売しています。コロナ禍で需要が高まり、ネット販売では対象カテゴリー内で1位を取得するほど大ヒットしました。

ー聞いている限り、家業での働きがいを感じます。一方で、FURUSATOの活動もお伺いしてもよろしいですか?

FURUSATOでは、外国人技能実習生と実習生を雇用している企業の支援をしています。具体的な活動は実習生が仕事や生活で困ることがないよう相談を受け付けていたり、会社と実習生の間にコミュニケーションの齟齬が生じないように定期的に企業訪問を行ったりしています。

ー家業を引き継ぐ以外に、なぜ自分で起業してみたいと思ったのですか?

幼い頃より社長を務める祖父や父親を見てきて「将来は自分も社長になる」と強い思いを抱いていました。もともと家業で外国人技能実習生を受け入れており、技能実習制度について認識はありました。そのあとネットやテレビを通して劣悪な職場環境で外国人が働かされている現状の課題を知り、外国人就労のネガティブなイメージをより良いものにしようと志し、起業を決意しました。

トップになる性質を培った学生生活

ー幼少期より熱い夢を抱いていたんですね。ここからは田城さんのこれまでについてお話しを伺います。どのようなお子さんでしたか?

小学生の時はバスケチームのキャプテン、中学生では生徒会を務めるなどリーダー経験の多い学生生活でした。当時から1人の力ではチームは成し遂げられない、メンバーの協力が必要であることを学んでいましたね。その経験が、現在代表として組織をまとめる立場に活かされていると日々感じています。

また、高校生のときに語学留学として渡米しました。当時は英語が話せないことにコンプレックスを抱いてましたが、勇気を振り絞り英語で会話をしてみました。それまで苦手意識を抱いていたものに挑戦し、克服した経験ができて私自身の大きな自信となりました。

ー高校卒業までに、現在の田城さんを創り上げるさまざまな経験があったのですね。

そうですね。しかし、大学受験では大きな失敗を経験しました。志望していた大学にことごとく落ち、最終的には当初行く予定がなかった大学に進学することに。「なにやっているんだろう……」と自分のアイデンティティが崩れた瞬間でした。

ー挫折した気持ちを抱きながら、そのあとどのような学生生活を送ったのですか?

大学受験は失敗したけれど、学生生活は充実しようと積極的に行動しました。結果として、外国人技能実習生の監理事業に携わりたいと思う要素にもなったNGO団体の活動に出会い、熱中することができました。今振り返ると高校生時代の語学留学で、何事にもトライしてみる姿勢が功を奏したのかもしれません。

ー素晴らしいV字回復ですね!NGOでの具体的な活動内容を教えてください。

冒頭でもお伝えした通り、海外でのボランティア活動を中心に行いました。歴史ある建造物の修復や農業の手伝いなど、海外の人と寝食をともにしながら活動しましたね。

学生時代には、オリジナルの名刺を作成し、述べ3000人以上の人々と知り合いました。その出会いがきっかけで今でも繋がっている友人もいます。実はFURUSATOの会社ホームページやタシロの採用動画作成も、当時出会った友人に任せました。

ー聞いている限り、人を大事にする田城さんの思いが感じられます。

そうですね。現在、会社のトップにいる立場としてこの頃に芽生えた人を大事にする姿勢は私自身の根幹になっています。

学生生活が終わる大学4年次に、当時NGO団体で理事を務める人からの紹介で「次期理事にならないか?」と声をかけられました。理事として団体を経営することに興味をもっていたので、大学卒業後はパラレルキャリアとして社会人をスタートしたのです。

人や情報を大切にする経営者として働く日々

ー社会人・NGO団体理事と2軸を立てながらどのようなキャリアを歩まれたのでしょうか?

新卒で入社した人材紹介会社では営業担当の傍ら公開ができる求人か判断するチェッカーの業務も担いました。労働法に関する知識や求人票作成のノウハウを得られることは、いずれ経営者になったときにも役立つと思い習得に励みました。入社から3年弱で組織改編をきっかけに「自分の人生の舵切りは自分で行いたい」と退職し起業を決意。家業のタシロにも入社しました。

ー田城さんが家業を継いでから、社内で取り組んだことはありましたか?

そうですね。私が関わったのは主に2点。1点目はBtoBの完全受託生産の業態からBtoCへ事業転換を図っています。顧客を一般消費者へ移したことから商品開発のアイデア出しや販売経路が変化し、会社風土の活性化及び売り上げの安定に影響を与えることができました3年後には売り上げの3割をBtoCへ移行しようと、社内としても取り組んでいます。

2点目は前職で得た労基法など労働に関する知識を活かし、社内の組織体制や就業規則の変革を起こしました。賃金や福利厚生が変わることで、社員のモチベーション向上に結べたことは大きな成果です。

ー素晴らしい変革ですね!ここでも社員=人を大切にする田城さんを感じます。FURUSATOの立ち上げの経緯を教えていただけますか?

そもそも家業に入社したのも外国人技能実習生の監理事業を行うためでした。外国人技能実習制度は国際協力の一環なので非営利団体でしか行えず、その中で*事業協同組合が最も事業を始めやすいと判断しました。そのためには企業の役員になる必要があり、家業に取締役として入社。その後協同組合FURUSATOを設立しました。

家業に入ったきっかけはFURUSATO設立のためですが、元々私のエネルギー源が「人」にあり現在でも「社員がもっとやりがいと誇りを持てる会社にしたい」と燃えています。

*事業協同組合:共通の目的を掲げる会社や個人が集まり、組合員として事業を成し遂げる非営利組織。協同組合を設立するためには最低4社集まらなければいけない。

ー家業継承、起業を経験し現在の働きかたになったのですね。現在、組織のトップに立ってみて社長を務めるお父様と違うところはありますか?

そうですね。経営者と言っても父と私ではタイプが異なります。具体的には経営資源の活用方法が父とは異なっていて、父はお金やモノを大事な経営資源と考える傾向がありますが、私は人や情報を重要視するタイプ。社員1人ひとりを把握し仕事で力を発揮してもらうため、福利厚生を改善するための取り組みやそれらに必要な情報を日々収集しています。

また昔から「自分が注力でき、やりたいことでないと会社経営は成り立たない」と父から言われてきました。私が家業でやりたいこととして取り組んだことは、前職の経験を活かした人事労務の改善からでした。最初は得意なことから取り組み、社員の意欲向上や社内体制を構築することが大事だと感じています。

ー前職の経験が、経営者としての成功へ導いていますね。実際お父様と比べることはありませんか?

単純に比べるのではなく、自身の強みは伸ばし足りないところは補うように日々努めています。家族といえども会社の仲間として日々コミュニケーションをとっていることが、良質な家族経営を担う秘訣かもしれませんね。

ポジティブな業界、そして働く社員のために語る今後の展望

ーこれまでのお話で、田城さんは責任者として常に真摯に向き合っている印象です。一方で自分の軸がぶれそうになったときはありませんか?

正直、これまで何回もありました。対策として毎日自分が何をやってきたか、そして今後何をやっていきたいのか内省をする時間を設けています。多い時だと1日に2〜3回、紙に書き出すことで考えを整理することができるのです。そうすることでもやもやと悩む時間を極力省き具体的にやることを整理できるので、日々仕事にも前向きに取り組めています。

ー2社の今後の展望を聞かせてください。

まずタシロでは、3年後におけるBtoCの売り上げ目標数値に向けて、日々邁進すること。「製造業のコンビニ」として品揃え豊富な会社を目指します。そのためには新規商品の開発や会社のブランディングなど必要な知識を取り入れ、社員が誇れる会社として経営していきます

FURUSATOについては、現在コロナウイルスの影響で新規の外国人実習生の受け入れが難しい状況です。現状日本で働いている実習生はベトナム人が多いのですが、コロナが落ち着いたら対象地域を広げ、ミャンマーやカンボジアからの受け入れも開始したいと思います。

ー最後にU-29世代へメッセージをお願いします。

もしかしたら私のように、将来家業を継承する人もいるかもしれません。家業を継ぎたくないとネガティブに考えている人もいると思いますが、実際は自分の思うように変えられるチャンスだと私は考えます。自分のやりたいことに挑戦できる土壌が広がると捉えてぜひ家業継承をしてほしいです!

起業も興味があるのならぜひ挑戦してほしいですね。これまでの人生で自分が何に注力できるのか見極めることができたなら全力で取り組んでみてください。成功するか失敗するか分かりませんが、必ず次に繋がります。熱中できるものがあるということは人生がより豊かに感じられると思います!

ー今後の田城さんの挑戦を応援しています。本日はありがとうございました!

取材:武海夢(Facebook
執筆:田中のどか(Twitter
デザイン:高橋 りえ(Twitter