色々なキャリアの人たちが集まって、これまでのキャリアや将来への展望などを語り合うユニークキャリアラウンジ。第17回目のゲストは、株式会社TBMで中途採用や組織開発など労務を除くHR領域を幅広く担う増田稜(ますだ・りょう)さんです。
同志社大学在学中に1年間休学、上京してサイバーエージェントで長期インターンを経験し、株式会社TBM(以下、TBM)と出会って「大学生 兼 正社員」という働き方をするという、異色のキャリアを歩んだ増田さん。
彼の大学生活から振り返っていただき、インターンのきっかけや週5日働く正社員と大学生をどのように両立させたのか、そしてキャリアを築くために大切にしている考え方などを伺いました。将来のキャリア像が描けず悩むU-29世代が、勇気をもらえるインタビューです。
インターンのきっかけは「稼がなくては」という焦燥感
ー 増田さんは大学生活後半にインターンをされていますが、前半はどのように過ごされていたんでしょう?
大学1年の終わりに、中学校の時からやりたかったヨーロッパ一周をしました。1ヶ月弱で6か国ほど、ひとりで旅したんです。その旅の最中に、自分の考え方や生き方について内省する機会があり、人生のターニングポイントになったなと感じています。
また、大学の近くに学生のみで経営している営業会社があり、そこで営業として働かせてもらっていました。学内活動では、勉強に力を入れているゼミに2年秋から所属していたので、その活動にも多くの時間を投じました。大学2年の時はこの2つがメインだったと思います。
ー 普通の学生生活を送っていた中で世界を旅してみた、と。そこから「インターンに行ってみよう」と思うに至ったプロセスを教えてください。
端的に言えば、「焦燥感」があったんです。このままでいいのかな、と。元々親は会社経営をしていて、比較的不自由なく過ごしてきた幼少期でしたが、中学生のときに親が離婚し、そこから「自分で稼がなくてはいけないな」という意識が芽生えたことと、短い人生の中で何も成し遂げず死にたくないという思いがあったんですね。
でも「このままの大学生活だったら凡人のまま終わってしまう」と焦る気持ちが出てきて、一方で当時関西には長期インターンシップの機会もほとんどなかったため、目の前にあったことに挑戦したという感じです。
ー 稼げる力が身につくなら、なんでもやるという感じだったわけですね。そこからサイバーエージェントに出会って休学をし、インターンをされたとのことですが、どういう経緯があったんでしょうか?
もともと、中学生の頃からずっと海外が好きで「留学したい」という思いがあったんです。そして留学に行くなら大学2〜3年生が一番いいタイミングだろうと思っていたんですが、僕はゼミに入ってそこでやりがいも感じていた。ゼミを辞めて留学に行くのは、もったいないと思いました。
そこで「一度休学して、そのあと留学し、またゼミに戻ってくるのが一番だ」と考えたんです。ただ、留学するためにはお金が必要なので、どうせなら楽しく勉強しながら稼げたらいいな、と。そう考えているときに、サマーインターンでいろんな企業を見て、一番面白そうだったサイバーエージェントにインターンに行こうと決めました。
ー なるほど。そしてインターンでお金を稼いで留学に行くつもりだったわけですが、結局留学には行かなかったんですね。
そうなんです。サイバーエージェントでのインターンが想像以上に面白くて、3〜4ヶ月で終わるつもりが、気づけば9ヶ月にもなっていました。僕が働かせてもらっていたところで新事業の提案・企画をするように言われ、提案したら実際に採用されたんですよ。
それで事業の企画責任者をさせてもらうようになったら仕事が面白くて。このタイミングでインターンを辞めるのはもったいないなと思い、「留学は次の年でもいいかな」と考えるようになりました。学生期間が延長することにネガティブな感情は全くなかったですし。
ー 留学より面白いと思えるものを見つけたんですね。では、卒業後はサイバーエージェントへの就職も考えていたんでしょうか?
ご縁があってサイバーエージェントに入らせてもらえるなら、それはひとつの選択肢だと思っていました。
初対面で一目惚れした企業へ就職を決意
ー しかし、2017年の夏にTBMとの衝撃的な出会いを果たした増田さん。TBMとはどのように出会ったんでしょうか?
僕には、中学生の頃から尊敬していた地元企業の経営者の方がいるんです。その方が実は、TBMの社長と繋がりがあったんですよね。それでTBMという会社を知り、自分の友人の繋がりもあり、現執行役員 CMOの笹木さんに会える機会を作ってもらったのが出会いのきっかけでした。
今考えると失礼ですが、カジュアル面談なんかよりもっとカジュアルに「目的もなく会ってみる」くらいの感覚で笹木さんに会いに行ったんです。その出会いが衝撃的でした。
ー 笹木さんとどういう会話をされて、TBMや笹木さんに衝撃を受けたんですか?
僕の好きなことを聞かれたりTBMの事業について話を聞いたりしていた中で、3つの魅力を感じたんです。
一つは、サイバーエージェントでインターンとして働いていた中で「IT業界で僕は地球規模の大きな挑戦ができるのか」というイメージを持つことができなかったのに対し、笹木さんからTBMの話を聞いたときには、「日本発のベンチャーで世界に挑戦できる数少ない会社だ」と直感的に思ったこと。
二つ目は、今のタイミングでTBMに入ったら、かつてのトヨタやソニーといったグローバルカンパニーの創成期に創り手として携わることができるのではないかという期待があったこと。今この会社と出会えたことは自分の人生にとって非常に幸運なことだと思いました。
そして三つ目が、笹木さんの人柄です。笹木さんはよく「右脳イン・左脳アウト」(=まずは感性を元ににインプットして、相手に伝わるようロジカルにアウトプットする)という言葉を使っているんですけど、初めて会ったときにも、「感性と論理のバランスが優れていて、人間性に深みがあるかっこいい人だな」と感じたんです。この人の下だったらがむしゃらに働けて、後悔もしないだろうなと感じました。実際、今は自分の人生の師匠です(笑)
ー 事業内容、会社のフェーズ、そして人。この三つの魅力に惹かれたわけですね。初めて会ったその場で入社を希望したんですか?
いえ、その時はまだTBMに新卒やインターンとしての入社の枠がなかったんです。ただ、会話の中で笹木さんがこれまでのサイバーでの経験や世のHRパーソンに求められる資質の変化を汲み取り、僕に可能性を見出してくれて。「今、採用や組織開発の専任者が一人もいなくて、組織づくりを戦略から実行まで一緒にできる人を探しているから、もし本当にうちで働く覚悟があるんだったら、検討してほしい」とパスを渡されたんですよね。
ー 向こうから機会を提供してもらった、ということですね。
そうです。それで僕は「やってみたいです」と伝えました。ただ、ベンチャーの中でも生きるか死ぬかのフェーズだったので「生半可なメンバーやインターンは求めていない、本気でこの会社に貢献できる人間が必要だ」と言われました。そして約一週間後、「大学を辞めるので選考を受けさせてください」と返事をしたんです。
経営者意識で「大学生×正社員」を両立
ー 「大学を辞める」と伝えて入社を決意したわけですが、結局大学は辞めなかったんですよね?
はい。最初は覚悟を決め「辞める」と伝えて選考を進ませてもらったんですが、最終的に社長が僕のことをすごく考えてくれたんですよ。
社長は僕と同じ関西出身で、中卒で大工になって20歳で起業して…という異色のキャリアの人で。だからこそ、僕に「大学行ったのなら卒業しないと親も悲しむだろうし、将来を考えると卒業しておいたほうがいい」と考えてくれたんです。恐らくご自身が苦労された経験も踏まえてのことだと思います。僕がお世話になっている経営者の方とも、「大学を辞めさせてまでTBMに入るべきなのか」と相談してくれていて。
面接を進めている途中、その経営者にお時間を頂き相談をしました。彼から伝えられたことは「経営者というのは本来両立しえない2つのことを両立させるものだ」ということ。そこで僕も、正社員と学生を両立させることを考えました。そして社長に、卒業することを約束して正社員で入社することを認めてもらったんです。
ー ある意味、経営者的タスクを与えられたんですね。関西の大学に行きながら東京の会社で週5日働くというのは大変だと思うのですが、どのように両立したんですか?
ゼミや言語の授業があったので2週間に一度は関西に戻ったり、卒論を書いたりしていました。実は僕、4年生の時点で取得しなければいけない単位がけっこう残ってたんですよ(笑)だから、夜遅くまで仕事をしたあと終電の新幹線で関西に戻って朝からテストを受け、そのまま東京に戻って出社…という日もありました。上司の理解があってできたことです。
ー 緊張感のある中で単位を取り切ったんですね。
そうなんです。しかも、大学の学費を最後の半年ぶん納入できておらず、3月中旬の卒業式のタイミングでも本当に卒業できているのかわからなくて卒業式には出席できませんでした(笑)
3月末頃に、社長の海外出張に同行させていただいたんですが、その出張の最中に親から「卒業通知が届いた」とLINEがあって、やっと安心できましたね。社長の思い出の場所でもあるインターコンチネンタルホテルのロビーでみんなで食事をしているときに卒業できたことを報告したら、社長が号泣して僕もみんなも泣いて……というメモリアルな出張になりました。
会社を自分ゴト化するから「甘っちょろいことは言ってられない」
ー 2019年に大学を卒業されていますが、2017年からTBMで働いていていらっしゃるので、現在3年目ですよね。入社したときと比べて会社のフェーズもだいぶ変わってきていると思うのですが。
僕が入った当時は製造工場のメンバーを含めて社員は70名程度だったんですが、今では約2倍の140名に近づき、日本経済新聞の「2019年 NEXTユニコーン調査」で企業価値ランキング2位、ユニコーン企業として紹介されるなど、驚くほど成長しています。1年で10年分くらいの密度の経験させていただいている感覚がありますね。
ー それはすごい。増田さん自身は、ビジネス経験のほとんどない状態で入社して、無力感に苛まれるようなことはありませんでしたか?
それはありましたし、今でも感じていますよ。仕事ではかなり権限移譲してもらっているので、求められている結果に対する責任の大きさも感じています。笹木さんと普通に食事をしているときに、自分の不甲斐なさが悔しくなって泣いたこともありました。
ー しかし本当にパフォーマンスが低かったなら、会社はもうその仕事を任せなくなるはず。つまり増田さんは会社の期待に応え続けることができている、ということだと思うんです。期待に応えるために意識していることや実践していることはありますか?
求められている期待に対しては全く応えられておらず心苦しいですが、「会社を自分ゴト化する」ということは意識していますね。「自分ゴト化」というキーワードは会社でもすごく大切にされていて、役員も「会社の経費を使うときも自分の財布だと思え」とよく言っています。
会社と自分は一心同体だ、と思って日々の仕事に責任を持つように心掛けていますね。たとえば僕のメインミッションのひとつは採用なので、「株主や証券会社にコミットしている事業計画や売り上げがあり、それを達成するための人員計画を立案しなければ全社の成長機会損出につながる」というように、会社の全体像から自分のミッションを結びつけて考えています。
それに、国からの補助もいただいているので失敗は許されません。もう、やるしかないんです。だから「この仕事に対してはモチベーションが低い」とか、そういう甘っちょろいことは言ってられなくて。できることは全てやる、という気持ちで仕事をしています。
ー 「自分ゴト化する」ということ以外にも、意識されていることはありますか?
あとは、真似ることも大事だと思っています。これも笹木さんからの教えですが、「パクリエーション」というものを大切にしています。パクって、そこからクリエーション(創造)する。新卒でスキルもリテラシーも全然ない中、いかに早く結果を出していくかと考えたら、結果を出している人のやり方を真似るのが一番早いんですよ。そして、真似るためには一次情報を取りに行くことと、教えてもらうときに最低限の礼儀礼節や感謝を持つことが大事ですね。
ー 今後チャレンジしていきたいことや、これからのビジョンを教えてください。
僕は、プランド・ハプンスタンス(個人のキャリアは予期しない偶然によって形成される、といったキャリア形成理論)という考え方にしっくりきているので、とにかく目の前のことを愚直にやっていった先にキャリアを積み上げていきたいですね。
なので、現時点で明確に「今後これをしたい!」と考えるよりも、TBMをサステナビリティ×グローバル×メガベンチャーの領域で想起されるような存在にしたいと思っています。デジタル情報革命の次はサステナビリティ革命が必ず起こるし、自分達がその革命を起こすプレーヤーにならなければいけないという思いで、120%の力を注ぎたいです。
(取材:西村創一朗、写真:ご本人提供、文:ユキガオ、デザイン:矢野拓実)