公務員からスポーツのあり方を変える。元プロチームスタッフから公務員になった伊藤遼平のキャリアとは

様々なキャリアの人たちが集まって、これまでのステップや将来への展望などを語り合うユニークキャリアラウンジ。第494回目となる今回は、スポーツ系公務員の伊藤遼平さんをゲストにお迎えし、現在のキャリアに至るまでの経緯を伺いました。

JリーグFC東京のスタッフを経て、公務員になられた伊藤遼平さん。国際貢献活動を経て、子どもたちに伝えていきたい想いを探りました。

インターハイ出場が、大きな自信へ

ーまずは自己紹介をお願いします。

現在、スポーツ系公務員として働いています。大学卒業後、サッカーJリーグFC東京に就職しました。その経験をもとに、田舎町にもスポーツの感動や子供たちに夢を届けるために公務員に転職しました。2021年度に地方公務員アワードという公務員の表彰をされました。

今日は1時間ありますが、自分のキャリアを振り返りながら、未来を生きる若者やU29以下の皆さんに、多様な経験がお伝えできればと思いますので、よろしくお願いいたします。

ーよろしくお願いします!伊藤さんがバレーボールを始めたのはいつ頃だったのでしょうか?

小学校5年生くらいからですね。最初、野球をやっていたのですが、ボールが小さすぎてバットに当たらなくて(笑)

子どもながら挫折しまして、もう少しボールが大きい競技にしようと思ったときに、姉がバレーボールをやっていたので、競技を変えました。肩が強いことを強みにできたこともあり、どんどんバレーボールにのめり込んでいきました。

父親が野球好きだった影響もあったので、本当は続けて欲しかったみたいですが(笑)バレーボールは、ずっと強豪校でやらせてもらったこともあって、進路も推薦で決まっていきました。

高校時代は、全国大会に出場することを目標に練習していました。自チームが、埼玉県で優勝したのが29年ぶりで、目標を達成した気持ちが大きかったですね。

ー素晴らしいですね!どんなところが要因で優勝することができたのでしょうか?

チームの団結力という言葉に行き着くのですかね。合宿を通して共に過ごす時間が長くなり、戦術を考えたりする中でコミュニケーションがよく取れてたんだなと感じています。

自身のアスリート経験を活かし、スポーツビジネスの世界へ

ー学生時代、目標を達成された経験はものすごく伊藤さんにとって大事な転機だったように思います。将来の夢はあったのでしょうか?

将来の夢はその頃は教員になれたらいいなと思っていました。「社会」が好きだったんですよ。社会の中でも特に現代社会が好きで、将来役立ちそうだなあと授業を聞いていました。

あとは、高校生活で素晴らしい体験を得たので、若い世代に価値提供できたらいいなと漠然とした想いがありました。

ーその後、学校の先生ではなくてFC東京に就職されることになると思うのですが、これはどのようなご縁があったのでしょうか?

大学に入ったときに、スポーツビジネスの方に興味を持つようになりました。アスリートのキャリアとして、鍛錬を積めば2部リーグにギリギリ入れる程度の実績はあったので、選手としてキャリアを歩む選択肢もありました。

そのときに「スポーツをうまく活用して自分のキャリアと繋げられるのでは?」と考え始めました。ただ、特に勉強に力を入れていたわけでもなかったので、いかに勉強せずにスポーツビジネス方面で関われるかと考えていましたね(笑)

ーそうだったんですね。伊藤さんのような考え方を持たれる学生さんは少なかったのではないでしょうか?

はい。かなり少なかったと思います。恵まれていたと思うのが、大学関係者の方にFC東京で関係者として関わっている方がいらっしゃったことです。その方とお話しさせていただいたことを機に、コーチングスタッフとしてのきっかけをもらったのが、その後のキャリアに繋がっていきました。

ー選手としての道も考えられていた一方で、コーチとしての道を歩んだ理由は何だったのでしょうか?

選手としての道を歩むことに恐縮している自分がいたこともありますが、もう一つの理由はプロの世界を覗けることも魅力的だったからです。

大学生時代、勝てない日々が続いてしまったことがありました。そのときに、チームが勝った負けた関係なく、子どもたちにバレーボールを教えたり、遊んだりするのも楽しいなと思ってきたのですよね。

大学生の3年生の終わり頃から、FC東京にインターンのような形で参加させてもらいました。入社してからは、バレーボールだけでなく、サッカーの活動も関わらせていただいたことが今の人生に大きな影響を与えました。

国際貢献活動で得た、スポーツの新たな価値観

ー伊藤さんが、転機として挙げられていた国際貢献活動もクラブ活動の一貫でしょうか?

はい。そうです。コーチ業自体がSPORTS FOR TOMORROW という事業になっていて、オリンピックや国際的なスポーツの醸成するような活動として、日本政府が取り組んでいるプログラムになっています。その組織から、「FC東京のバレーボールチームとサッカーチームで国際貢献活動に行ってきてください」と声が掛かったことがきっかけで、参加させていただきました。

ーどちらの国に行かれたのでしょうか?

ネパールにサッカーチームから3~4名、バレーボールチームから2名派遣されました。ネパールの子どもたちとスポーツを通して交流をする活動を行いました。

選手時代、国際試合で海外に行ったことはあったのですが、仕事として海外に行ったのは初めてでした。期間は1週間程度だったのですが、その間に幼稚園の子どもから中学生の子たちが通う学習施設のような場所で、スポーツを教えることは、本当に貴重な経験でした。

僕と子どもたちの間の言葉は「ナマステ」しか伝わらないし、向こうは日本語の「こんにちは」も知らない状態で。コートは、ネットもビロビロの状態だし、屋外コートで砂も舞ってしまっている様な状況の中でも、子どもたちに楽しんでもらえたことを通して「スポーツって人を笑顔にするものなんだな」と実体験として得ることができました。

ー貴重な経験をされたんですね。国際貢献活動の前後で、変化はありましたか?

ネパールに行く前は、クラブの収益にも関わってくるので、上位を目指す気持ちは非常に大きかったです。ネパールにいったあと、スポーツは勝ち負けだけじゃない素敵なところがあるというのは身にしみて感じました。

商業的にも勝つことは大切なのですが、それ以上に地域の人たちと深く関わって、子どもたちから愛されるような存在でならなければならないというところが、国際貢献活動前の自分に欠けていたところだったなと思います。

「スポーツ×社会課題解決」への挑戦!

ー現在、子育て支援の部署にいらっしゃるとのことなのですが、どのような活動をされているのでしょうか?

子育て支援センターという親子が遊びに来るような施設がありまして、そちらの企画運営をしています。わかりやすくいうと児童館のような場所です。そのほかにも、ママたちのサロン事業であったり、虐待に関わる業務も私の部署が担当なので、これらの仕事を3人で行なっています。

ー「日本一おもしろい児童館」を目指しているとのことですが、これは伊藤さん個人の目標ですか?

はい!そうです。今、子どもたちが安心して元気よく遊べる場所が地域に少なくなってきています。ボール遊びは禁止、あれもダメ、これもダメと遊びがどんどん制限されてきていて。子どもたちが遊べる機会を公共事業として関わりながら届けつつ、親御さんにとっては安心して遊べるような場として提供できたらいいなと思っています。

それらの企画の部分に、自分のスポーツの経歴やネットワークを活かして、児童館の親子イベントに日本代表選手やプロスポーツチームを招待する事業をやっています。

ー現在いらっしゃる部署は子育て支援がメインの事業だと思いますが、伊藤さんのご希望されていたのでしょうか?

3年ごとに定期異動があり、そのタイミングで異動になりました。第一希望はスポーツ復興だったのですが、上司と私のビジョンや想いを活かせる部署はどこかを話し合ったときに、子どもたちに対して、自分のキャリアを上手く活かしたいのであれば、子どもへの支援ができる子育て支援センターの部署でも、やりたいことが実現できるだろうという話になりました。

ー今、伊藤さんが行われている事業は、元からあったものではないのでしょうか?

基本的には全て新規事業ですね。

8割以上は新しく考えて、やっています。今まで足りていなかった部分を自分が補いたい想いがあるので、地域社会で親子が元気よく遊ぶ場が少ないなどの課題を解決していきたいです。

人生の選択肢は一つじゃない

ー伊藤さんご自身が、記事を読んでくださる方に対して伝えたいことはありますか?

自分自身も、転職して次のキャリアを進んでいったので、「人生の選択肢は一つじゃないよ」と自分と同じように悩んでいる人や、若者たちに伝えたいなと思います。例えば、自分のように「スポーツを活かしたまちづくり」を評価をしてもらったりもするので、いろんな選択肢の中から、自分だけの組み合わせを見つけられるととてもいいのではないかと思います。

あとは、29歳以下の世代はアスリートにとって重要な時期だと思っていて、多くのアスリートは競技を続けるかやめるかを選択するタイミングなのですよね。サッカー界でも30過ぎて活躍できる選手はかなり限られているので、ほとんどの選手は25歳までに引退します。今までやってきた競技を生かす選択肢として、こんなに公務員は楽しいんだよと伝えていきたいです。

今の自分の仕事って、アスリートも笑顔にできるし、子どもも笑顔にできるし、親御さんも笑顔にできるし。こんなに面白い仕事ってないなと思っていて。今後も、関わっていく学生アスリートの方たちとも一緒にこういった仕事をやっていきたいなと思います。

ー最後に、伊藤さんの今後の活動をお伺いさせてくださたい!

今後挑戦したいことは、「スポーツ版の子ども食堂」をアスリートやスポーツチームと連携しながら実現していきたいなと思っています。スポーツの力で子どもたちに夢や希望を与えながら地域の中で子どもたちの居場所を作っていきたいと思っています。

前例がないキャリアの中で事業を推進しているので、結構追い風に当たることもあると思うのですが、それを楽しみながら進んでいきます。今後スポーツをやっていく若者の指針になったり、参考になったりするような前例が作れたらいいなと思っています。

また、スポーツって勝ち負けだけじゃないという価値を広めるためにも、パラスポーツなどの障がい者スポーツを通してダイバーシティを届けていけるような事業にも挑戦していきたいですね。

ーこの記事を読まれた方が、興味を持っていらっしゃった場合、伊藤さんに直接ご連絡をしても大丈夫でしょうか?

もちろんウェルカムです!一緒に子育て支援事業を企画したり、実際に連絡を貰って実施している事業もたくさんあります。また元々プロバレーボールチームのコーチをしていたので、自分自身が子ども向けの講座をすることもできますし、いつでも呼んでいただけたらと思います。

TwitterやFacebookのDMでメッセージをいただければと思います。

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ーありがとうございました!伊藤さんの今後のご活躍を応援しております!アスリートやスポーツに関わる方が新たなロールモデルになることを楽しみにしています!

取材者:あおきくみこ(Twitter/note)
執筆者:本庄遥(Twitter)
デザイン:高橋りえ(Twitter