草ストローを広める大久保夏斗が抱く、環境問題への想いとは

様々なキャリアの人たちが集まって、これまでのステップや将来への展望などを語り合うユニークキャリアラウンジ。第405回目となる今回は、合同会社HAYAMIの代表を務めている大久保夏斗(おおくぼ なつと)さんをゲストにお迎えし、現在のキャリアに至るまでの経緯を伺いました。

現在、東京農業大学国際農業開発学科3年で大学の授業と両立させながら、草ストローの普及活動を行う大久保さん。なぜ草ストローを普及しようと思ったのか、またなぜ2足のわらじを履こうと決めたのか。その背景を大久保さんの半生とともに紐解いていきます。

着実に進む、草ストローの普及活動

ーまずは簡単に自己紹介をお願いします!

初めまして!大久保夏斗と申します。現在は合同会社HAYAMIの代表として日本で草ストローの普及活動を行っています。

ーさっそくですが、草ストローとは一体どんなものですか?

ベトナムで栽培しているレピロニアと呼ばれるイネ科に近い植物の茎をそのまま使用したストローです。僕たちはそれをベトナムから輸入し、販売しています。

ーそうなんですね!いつごろ作り始めたのでしょうか?また、当時日本に草ストローはありましたか?

ベトナムで製造が始まったのが2018年か2019年あたりで、自分たちが日本で販売を開始したのが2020年4月下旬ですね。

いえ、当時は全くありませんでした。元々ベトナムには存在していましたが、高価なため普及はしていなかったんです。2mくらいの草なので割と丈夫で、元々は編んでかばんなどにしていました。ストローにし始めたのはここ最近の話ですね。

ーやはりストローにしても丈夫ですか?また、リユースはできるのでしょうか?

そうですね。エシカルやエコというと紙ストローが有名ですが、紙ストローはふやけたり口に張り付く感じがあったりするので苦手な方もいらっしゃいます。

でも草ストローは、口に張り付くこともなく、長時間使ってもふやけないんです。むしろ草の茎なので水を吸うことで耐久性が増し、ふやけなくなります。

また、衛生面の観点から使い捨てを推奨しています。製造工程で防腐剤や添加物を一切使用していない「無農薬・無添加」なのでリユースは推奨しませんね。ただ個人使用で10分や20分のような短時間のうちに2回使うというような場合なら問題はありません!

ーなるほど……!今はどんな普及活動をされているのですか?

メールや問い合わせフォームを中心に飲食店の方にメッセージを送り、導入店舗を増やす活動をしています。現在は160店舗まで増えました。このコロナ禍で厳しい状況ではありますが、環境問題への想い草ストローの背景・ストーリー性を理解し、購入していただけているのですごくありがたいですね。

ー飲食店のみなさんは具体的にどんなところに共感して購入されているのでしょうか?

主に共感していただいている点は3つあります。1つ目が、脱プラスチックで環境保護になること。2つ目が、ベトナムのホーチミンから離れたところにある農村の雇用創出になること。3つ目が、紙ストローより使用感がいいことです。3つ目に関しては、草の緑の感じがオシャレだから飲み物もオシャレに見えるという声もありますね。

販売を始めたのがコロナ禍でしたが、多くの飲食店の人が賛同してくれたのは本当にありがたかったです。「こんな時期だからこそ、何か環境問題に取り組まないといけないと思った」という方もいらっしゃいました。

自然が大好きな幼少期

ー自然の多い環境で育たれたとのことですが?

そうですね、今も実家にいるので生まれてからずっと周りに自然がある環境です。家を出て10秒のとこに大きい公園があるので、小さいときは毎日そこで遊んでいました(笑)。ゲームやテレビよりは外で走って遊ぶのが好きでしたね。

ーかなり活発に過ごされていたんですね!ご家族もアウトドアがお好きなのでしょうか?

そうですね!家族もアウトドアが好きで、長期休みはキャンプに連れて行ってもらうことも何度もありました。川で遊んだり、昆虫を捕まえたりして過ごしていました。

ーそうなんですね!当時の夢は何だったのですか?

小学生の時にサッカーを習っていたのもあって、夢はサッカー選手だったと思います。もちろん当時はまだ草ストローは知らなかったです(笑)。

ー自然とたくさん触れ合われていて、まさに原体験がつまった幼少期ですね。

それこそ小学校3年生くらいの自由研究で昆虫を調べましたし、そのとき昆虫検定という昆虫に関する知識をはかる検定を受けて合格するくらい虫が好きでしたね(笑)。

ーちなみに現在大学生の大久保さんですが、中学校や高校は受験で入られたのですか?

中学受験をして東京の中高一貫に進学しました。当時いとこがその高校に通っており、中学受験をしたほうがいいと言われたので「とりあえず受けてみよう」と思い、受験をしました。

衝撃を受けたウミガメの動画が転機に

ー高校生の時にSNSで人生の転機となる動画に出会ったとのことですが、どんな動画だったのでしょう?

ウミガメの鼻にストローが刺さって血が出ている動画でした。小中高とサッカーに夢中だった僕は、その時に環境問題の深刻さに気づきました。「こんなにも自分の知らないひどいことがあるんだ」と衝撃を受け、そこから環境問題に興味を持つようになりました。

ほんとうにたまたま見た動画でしたね。毎日学校に通って部活やって帰ってという生活を繰り返した分、より衝撃だったのを覚えています。あとは血が出ていたのがかなりショックでした。こんな風に人の生活が環境に影響を与えているんだと。

ーそうだったんですね……。当時何か行動を起こしたことはありますか?

いいえ。当時は具体的なアクションを起こせずにいました。普段の生活が慌ただしかったのもありますし、自分が無知だったのもあります。

ーやはりもどかしかったですか?

そうですね。「何かできることがあるならやりたい」とぼんやりと思っていました。

ーそんな中迎えた大学進学ですが、大学を選んだ基準はどんなものでしたか?

基準は大きく2つありました。1つ目が自分の興味のある分野ということで、農業や自然、食・農について学べるところを探していました。

2つ目が海外との関わりでした。兄がアメリカやオーストラリアに留学していたので漠然と海外って面白そうだなと思っていたので、海外との関わりがあればいいなと。

そして、どちらも満たしていた東京農業大学の国際農業開発学科へ進学しました。

ー大学の授業を受ける中で環境問題への認識は変わったのでしょうか?

そうですね。授業内でSDGsに触れる機会が多いですし、環境と農業の両立が目標の1つにあるので、農業的観点から環境問題への知識が深まっていますね。

草ストローとの出会い、感じたその可能性

ーここまでまだ草ストローの話は出ていませんが、草ストローを知ったのはいつごろですか?

大学1年生の夏から秋ごろです。

ーそうなんですね!どんなきっかけで知ったのでしょうか?

当時はいわゆる普通の大学生で、サークルで活動していたものの「何か違うな」となっていたんですよね。そんな中、大学1年生の春に兄が長期留学から帰国して、そのときに「向こうにこんなのがあったよ」と教えてくれたのが草ストローでした。

兄は長期留学中にバックパックによく行っていたのですが、バックパック中たまたま飛行機の隣の席の人が、日本に留学経験のあるベトナム人だったんです。その人から草ストローを教えてもらったそうです。

ーもしかして、その隣の席の人が今一緒に会社をしている人ですか?

そうです、本当にすごい縁だと思います(笑)。その人はミン君というのですが、飛行機で兄と意気投合してそのままミン君の家に兄が泊まったそうです。バックパックはプランがないのでそういうのが起こるんですよね。

ミン君は日本での留学経験がり、日本の分野や日本語も知っていたので話がとんとん拍子に進んだのかなと思います。兄も僕も元々ベトナムに詳しかったわけではなく、この出会いがベトナムに触れる機会になりました。

ー本当にすごい出会いですね…!2人の会話の中でなぜ大久保さんにお話が来たと思われますか?

草ストローということで、僕が学んでいる分野との繋がりを考えて話してくれたのかなと思います。兄はベトナムで見たときから可能性を感じていたと思うので、「やろう!」という感じで話が来ました。

ー最初聞いたときはどのように思われましたか?

最初は「草ストロー?何それ?」となりましたが、実際見てみたいなと。そしていざ見てみると驚くほどストローとしての使用感がよく、また農薬不使用かつ環境にも優しいということで、草ストローの可能性を感じましたね。そして「この草ストローで社会に貢献できるのではないか」と考え、日本で普及させようと思い、僕と兄とミン君の3人で起業しました。

草ストローを普及させるため、起業に挑戦

ー当時、みなさんビジネスのご経験はありましたか?また、最初は何から始められたのでしょうか?

全員初めてでした(笑)。本当に0からのスタートだったので、ネットで会社設立や輸入の方法を調べたり、電話で問い合わせて確認したりなど、試行錯誤しながら形を作っていきました。

また、僕たちは会社設立よりも販売を先に始めていたんです。それはコロナの影響で売れるか分からなかったからでした。しかし、反響が思ったよりも良く、また様々な方とやりとりをするうちに「個人事業主よりも法人の方が信用できる」「法人相手にやりとりをするなら法人の方がいい」という声をいただいたことで、より草ストローを普及させるために起業を決意しました。

ー初めての経験かつコロナ禍での起業となったわけですが、不安はありませんでしたか?

やってみること自体については、不安はありましたが「とりあえずやってみよう」「やってみないと分からないから」という風に思っていました。もし誰にも買ってもらえなくてもまだ会社を作っていないし、無理だったねで終わればいいかなと。

販売にあたってはリスクは考えましたね。特に衛生面(衛生検査や残留農薬の検査など)は、お客さんに害を及ぼさないように意識していました。

また、会社設立に関しては、僕たちは販売から設立という流れ進めており、設立時も売れる見込みがあったのでから特に不安はありませんでした。起業というとハードルが高いと思われがちですが、以外とハードルは高くないと思っています。それこそ会社の種類にもよりますが、資本金が10万円ほどでも設立できます。今起業を考えている方には、ネットで調べるのでも全然できるよということを伝えたいですね。

ー社名にはどんな想いが込められていますか?ロゴも素敵ですよね!

実は3人のアルファベットを並べ替えただけなんです。今思えばもうちょっとかっこよくおしゃれな感じにしたら良かったなと(笑)。

ロゴは自分たちで考えました。「農」に関係する部分で「土」と「草」。そして「草ストロー」から繋がりが生まれるようなイメージで「円」をモチーフにしました。

ー大久保さんは現役の大学生ですが、大学生とCEOの2足のわらじを履こうと思った背景は何でしょうか?

「環境問題に取り組みたい」というのがありました。大学で自分の学んでいることをビジネスに活かせたらいいなと思っていことが大きいですね。サークルもやってみたものの、何か違うと思っていましたし、いろんな経験をしたかったので「やってみよう」と思いました。

エシカルの選択肢を増やしていきたい

ーやはりこれからもっと草ストローを広めていきたいですか?

はい!日本で多くの方に使っていただきたいです。また、草ストローならではの特徴を活かしたいと思っています。ただ使うのではなく、使用後の部分に焦点を当てるイメージです。

具体的には、草ストローをゴミにするのではなく、生分解性を活かして堆肥として土にしたり、家畜のエサにしたり、資源としての活用もできたりしたらいいなと。そしてその堆肥で作った作物を飲食店に返すというようなサイクルを構築していきたいと考えています。

ー本当に草ストローの可能性がまだまだありますね!また、特に若い世代に知ってもらいたいとのことですが?

そうですね!最近は小学生でもSDGsを勉強しており、環境への意識は高まっていると思うのでぜひ知っていただきたいです。また、今の生活の影響が環境に現れ出てくるのは、20~30年後といった今の子供世代が大人になったときですよね。

だからこそ、自分たちの子供世代が安心して安全に暮らせることを意識し、当事者意識を持って行動することが大事ですし、それが同時に今の大人たちを感化するきっかけになると考えています。若者の行動・情熱・影響力が大きいと思うのでそこからどんどん変えていきたいですね。

ー大久保さんは「とりあえずやってみる」ことを大切にされていますが、この記事を読んでいる一歩踏み出せていない方にどんな言葉をかけられますか?

僕と同じ大学生に向けての言葉ならば、やはりとりあえずやってみることが大切です。大人になってから始めるのと、大学生のうちに始めるのはリスクが全然違います。失敗してもリスクがほとんどないことを考えると学生であること自体が貴重だなと。自分がやりたいと思ったことはやってみたほうが後悔しないと思います。

僕自身リスクをよく考える人間で、「こうしたら大丈夫かな?」と考える慎重派ですが、「やれるかも?」と思ったら挑戦してみた方がいいなと感じています。

もちろんやってみて気づくこともたくさんありました。最初は名刺の渡し方も分からなかったほどです(笑)。とりあえずやってみることで自分に合っているかどうか判断できます。そう思うと、たとえいい方向に転ばなくても、判断できることが収穫ですよね。

ー最後に、大久保さんの考える今後の展望がありましたら教えてください!

事業の循環サイクルを構築させたいです。草ストローの普及はもちろんですが、エシカルの選択肢を消費者の方に提供し続けるのが目標ですね。草ストロー以外のエコ・エシカルの選択肢を増やすという意味でも、商品のラインナップを増やせたらと考えています。

そのラインナップの1つとして、今年の3月よりサボテンからできた革の財布を販売開始しました。動物性の革を一切使っていないのが特徴です。特許技術を持っているメキシコのDESSERTO社でサボテンを革に加工してもらい、それを日本の革職人の方に財布にしてもらっています。

こんな風にどんどん消費者の方にエシカルの選択肢を増やしていきたいですね。

ー本日は素晴らしいお話をありがとうございました!大久保さんの今後のさらなるご活躍を楽しみにしています!

取材:あおきくみこ(Twitter/note)
執筆:yuri shoji
デザイン:安田遥(Twitter