Voice Up Japan福井 周に聞く社会運動の始め方

様々なキャリアの人たちが集まって、これまでのステップや将来への展望などを語り合うユニークキャリアラウンジ。第394回目となる今回は、一般社団法人やNPOに参画して社会運動を行う傍ら、医師になるための勉強を続ける福井周さんをゲストにお迎えし、現在のキャリアに至るまでの経緯を伺いました。

社会運動への参画を「やらずにいられないこと」だと語る福井周さん。その思考法や、活動の中に見出した自己実現に迫ります。

人権を守るためのアクション

ーまずは簡単に自己紹介をお願いします。

性別やセクシュアリティ、人種や肌の色に関係なく平等な世界を作ることを目的とした”Voice Up Japan”という一般社団法人で活動しています。

また、これとは別に“世界の医療団”というNPOでも、路上生活者を支援する取り組みに参加しています。

ーいくつもの社会運動に参加されているんですね?具体的にはどのような活動をしているのでしょうか?

Voice Up Japanでは、主に、ジェンダー平等などをテーマとして啓発やエンパワーメントのためのセミナーを開いたりしています。現在は、入管法の改正に対するプロテスト(抗議行動としてのデモ活動)を、他団体と一緒に行なっているところです。

※本記事の執筆時点(2021年7月)で、入管法改正案は廃案となっています。

ーVoice Up Japanにジョインされた理由は?

自分自身、中学時代にボランティア活動を行ったり、高校時代から社会運動に参加してきたりしたのですが、大学入学後から卒業まではしばらく遠ざかってたんです。そんなとき、大学でひとつ上の先輩でサークルも一緒だった山本が、Voice Up Japanの立ち上げ活動をしていることを知って、こうした活動にあらためて取り組むきっかけになりました。

ー世界の医療団ではどのような活動をされているのですが?

様々なプロジェクトがありますが、僕はハウジングファースト東京プロジェクトというプロジェクトを手伝っています。医療や福祉支援が必要な生活困窮者が地域で安心して暮らせるような仕組みを作ることを目的として、様々な活動を行っているプロジェクトです。

僕が主に担当しているのは、隔週土曜日に行われている、生活困窮者の方向けの相談会ロジスティックなどです。

実は、将来的に医者になりたい夢があって通信制の大学にも通っているんです。こうした”医療”の現場と今から向き合っておくことが大事だと思い取り組んでいます。

ーありがとうございます。私もその一人ですが、多くの日本人は社会運動と縁遠い生活を送っているかと思います。Voice Up Japanで取り組まれているプロテストについて、もっと詳しく伺ってもいいですか?

具体的には、国会で入管法の改正が審議される時間に、反対意見を持つ人たちで議事堂前に集まって抗議活動をおこなっています。コロナ禍もあり大勢の人を集めることはできませんが、それでも多い日には100-200人程度集まってくるんです。また、私はSNSでの拡散にも力を入れています。

ただ、本来我々は抗議活動だけを行っている団体ではありません。現在、プロテストという手法を選んでいるのは、入管法の改正、我々は改悪と言っています、がそれだけ重大なイシューだから。他団体が中心となって集めた改正に反対する署名は10万を超えています。

ー入管法改正のどのような点を問題視しているのですか?

これはあくまでも一つの例ですが、実は日本にも多くの難民がいます。ただ、日本の難民認定の基準は厳しく、ほとんどの方が認定を受けていない状況なんです。

そんななかで、今回の入管法の改正案が成立してしまった場合、日本で何年、何十年も暮らしている難民が、本国へ強制送還させられるようになってしまうんです。

国に帰ることで身に危険が及んでしまうなど、日本に逃れてくるのにはそれなりの理由があります。当然強制送還を拒否することになるでしょう。改正案では、そうした人に対して刑事罰が課せられるようになっています。

猶予があるうちは入国管理局の劣悪な収容施設で過ごし、刑事罰を受ければ刑務所へ行く。出所できてもまた入国管理局の収容施設に入ることになるかもしれない。無限ループのような状況になる可能性があるということです。

この国に住むのは日本人だけではないんです。外国人の人権をまったく考えていない、法律の改悪と言えるでしょう。

社会と個人の間で見つかる「やらずにはいられない」こと

ー大変厳しい法案なのですね。とはいえ、そうした社会運動に自ら参加することはなかなかできることではないと思います。参加されるようになったきかっけをお伺いしてもよいでしょうか?

初めて社会運動に関心を持ったのは高校1年生のときでした。当時、メディアではヘイトスピーチが問題視されていたんです。在日コリアンに対して集団でヘイトスピーチを繰り返すような団体もあったほどでした。

その逆に、ヘイトスピーチを行う団体に対して反対活動をするグループもあったんです。たまたま知人がそのメンバーの一人で詳しく話を聴く機会がありました。「なんてひどいことをしているのか」と率直に思いましたね。そこから人種差別に反対する運動に興味を持って、自らも参加するようになりました。

ヘイトスピーチに対抗するため、僕がいたグループはシットイン(座り込み)でデモの進行を妨害するといったことをしていました。高校生の僕がシットインに参加することは危険だと忠告を受けて、歩道から声をあげたり、その様子をSNSにあげたりしていました。

ーシットインでヘイトデモは止められたのでしょうか?

デモがはじまってしまうと実際は止められないんです。はた目からみると衝突して喧嘩しているように見えるかもしれません。すごく難しいですが、それでも悪いことには反対の声をあげなくては行けないんです。ヘイトを受ける人たちとの間に入ることで、少しでもダメージを緩和したい一心でした。

ー運動を続けるモチベーションはどこから来ていたのですが?

そもそも差別とは人権侵害です。人権は守られなくてはいけません。ただ、そのようなことをマジョリティ属性が多い、つまり日本国籍を持っていて、男性で異性愛者という属性を持つ僕が言っても説得力が薄いかもしれません。

それでも、そういう立場だからこそ差別する側の人たちに対してものが言えるのだと思うんです。差別を受ける当事者が声を上げることは簡単ではありませんから、言える人が言わなきゃいけないと思っています。

困っている人に何かしたいという、上から目線では決してないんです。自己肯定感を満たしたいわけでもありません。僕にとって、これは「やらずにいられないこと」なんです。

ー「やられずにいられないこと」とは?

差別に対する反対行動はやる「べき」だと思えても、「べき」だけ人が動くのは難しいですよね。

社会運動に限らず、ものごとに過剰にコミットすることって難しい。だから自分ができることをすることがとても大事だと思います。

できることで、やりたいことで、やるべきことだったら、それはやらずにはいられないことだと思っています。

もちろんそれは、夜にスナック菓子をついつい食べちゃうことを指すのではありません。やらずにはいられないことは、社会と自分との関係を考えたときに自然と見えてくるものでしょう。

例えば、先ほどは僕自身の属性の話をしました。しかし、一人の人間は色んな属性を有しています。あるときはマジョリティであっても、あるときはマイノリティである場合もある。こう考えると、みんな違ってみんないいという捉え方ではいけないでしょう。それぞれの違いをしっかりと把握しなくてはいけません。同じ人間という普遍性を持ちながら、明確な違いを持つ個人だと捉えないと、悪気がない素振りで人を踏みにじってしまうことすらある。

ただ、だからといって人とコンタクトすることを恐れてはいけません。緊張感は持ってもいいが、恐怖心を持ってはいけない。

一人ひとりにしっかりと向き合うことでそこに関係性が生まれ、それが自分を形づくられる。私は私だけで存在するのではありません。他者との関係をないがしろにするとうことは、自分をないがしろにすることでもあるんです。

社会問題もイシューとして捉えるのではなく、社会と自分の関係のなかにあるものと捉えることができれば、自ずと「やらずにはいられないこと」が出てくるんだと思うんです。

ーなるほど。社会と自分の関係性のなかで社会問題に対してどうしたいかという自分の思いが生まれるんですね。一方、福井さんの場合はさらにそこから一歩先に踏み込んでいるような感覚があります。何が後押ししているんでしょう?

個人的な性格として、自分が何もしないことが許せないのはありますね。例えば50年後を考えたとき、差別がない社会が実現していればいいと思います。ただ、それが現実となったときに、自分がそのためにどれだけの努力をしてきたかで、その変化を心から喜べるかどうかが決まると思うんですよね。

なんでもいいから社会課題のために、小さなアクションを起こしておくことは、世の中の変化を作り出すことに自分が参加できたかどうかということは大切なことではないでしょうか。

また、実際に被害を受けている人を目の当たりにした経験は大きいでしょう。それこそ何もせずにはいられなくなる。だから現場に行くことってハードルが高いんですよね。皆さんにお願いしたいのは、不意にそういう現場に出くわしたときに、ただ目を閉じ、耳を閉じるのではなく、ちゃんと受け止めてほしいということです。

ー活動の意義を感じる瞬間はありますか?

SNSを運用しているなかでは、自分の発信が多少役に立っていることを感じる瞬間はあります。しかし、そこに本質的な意味はありません。差別を受ける人が一人でも減ること、差別する人が一人でも減ることが願いです。SNSのなかで得る小さな反応は、活動を続けていくことが無駄ではないと希望になります。

社会問題と向き合い続けるために

ー社会運動に携わりながら、通信制大学で学ばれているそうですね。今後の目標をうかがっていいですか?

もともと大学では哲学を専攻していました。哲学に興味をもったきかっけは、中学生のころに生きている意味を見失ってしまったことです。地球ができてから今に至るまでの時間のスケールに比べれば、自分が生きている時間のスケールはあまりに小さく意味もないものだと思ってしまったんですね。だからといって諦めたくはない、生きていたいとは思う。そんな悩みを持ち始めたころ、ニーチェの入門書に出会い、「意味はないけど作ることはできる」と学びました。

一方で、子どものころから医師になりたいという夢を持っていました。大学卒業後もその夢を捨てきれず、現在、通信制大学で理系の各学問を学び直しています。

自ら哲学を学び、医師を志し、社会運動にも参画するなかで、意味のないと思えた人生にも意味を見出し始めていると思います。

具体的には、社会構造のなかで苦しい生活を強いられている人の現場にかかわりケアすること。叶うなら精神科医として、人の心をケアできる存在になりたいですね。

 

取材者:武海夢(Facebook
執筆者:海崎 泰宏
デザイナー:安田遥(Twitter

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