様々なキャリアの人たちが集まって、これまでのステップや将来への展望などを語り合うユニークキャリアラウンジ。第367回目となる今回は、NousLagus株式会社 代表取締役 兼 ソフトバンク株式会社 AIコンサルタントの守屋恵美(もりやめぐみ)さんです。
ソフトバンク株式会社でAIのコンサル業務をおこないながら、新たに会社を創業した守屋さん。彼女の原動力は「きれいなデータであふれた社会にしたい」というビジョンと、データに対する熱い想いでした。守屋さんのこれまでの人生を振り返りながら、情報やデータの未来を伺いました。
多様な切り口からお客様と共創する仕事
ーまず最初に、自己紹介をお願いします。
守屋恵美と申します。今取り組んでいる仕事は主に2つあります。
1つ目はソフトバンク株式会社で、AIのコンサルティング業務を中心におこなっております。事業としては、主にAIを中心とした事業会社様やパートナー会社様と一緒になにか面白いことや役に立つことをつくるために共創しています。
また社内で子会社がつくれる社内ベンチャーの仕事にも関わり、∞ VISIONという広告関連事業の配信アルゴリズムの開発サポートや、マーケティング領域にも携わっております。その一環で株式会社J.Scoreでデータサイエンティストとして、今後どのようにグロースしていくべきかなど分析のお手伝いをしています。
もう1つの仕事はNousLagus株式会社を今年2月に創業し、DXとAIのコンサルティング業務と、自動化・効率化できるためのツールの開発をおこなっております。
ーいろんな視点から今最適化されるべき問題に着目されて、しかも多様な切り口からお仕事をされているのですね。データサイエンティストはどういったお仕事なのでしょうか?
データサイエンティストというお仕事は、データベースの設計・構築や分析の業務のさらにもう一段上の領域で複雑な予測をおこないます。うちの商品は本当に売れるのかといった人間でもわからない領域を、機械学習で過去の情報を基礎として、現在や未来を予測します。ただ私はそこのアルゴリズム開発をするというよりも、状況の整理やお客様が何を知りたいかをヒアリングしています。
構造物に夢中になった幼少期から学生時代
ー小学生のときはどのように子どもでしたか?熱中していたことも教えてください。
小学校低学年のとき熱中していたのは、宇宙図鑑と漢和辞典を読むことですね。分厚い図鑑を1ページずつ読書していました。
とにかくしらみつぶしにやることが好きな子どもでした。小学校高学年になると、ゴツゴツした車や橋、建物がすごい好きで、そういう絵ばかり描いていました。毎日アイデアを漢和辞典の裏に書くんですよ。あとはチャレンジ隊を結成して、それで毎日いろんなことにチャレンジする遊び方をしていましたね。
ー宇宙図鑑というものを初めて聞きました……!
宇宙図鑑には、ブラックホールはなぜできたのか、ホワイトホールの向こう側、銀河系の話などが書いてありますね。1ページずつ読み込みました。
ーご自身のなかでは、何がそこまでわくわくさせたのですか?
一番わくわくしたのは「この世界ってすごい広がっているんだ」と知れたことですね。自分が住んでいるところよりも日本が大きくて、日本よりも地球が大きくて、でも太陽系や銀河系はもっと大きい。空を見上げて、それにわくわく胸を躍らせていたのを覚えていますね。
ー漢和辞典もけっこう読み込んでいたんですね。
構造物が好きなんですよね。部首がいろいろと組み合わさっている構造とロジックが不思議でした。「なんでこれは”りっしんべん”なのに、こっちは”したごころ”なんだろう」といったことが面白くて。あと言葉にも少し興味があったんですよね。
ー車や建物も、構造として捉えて面白味を感じていたんですか?
そうですね。1歳の時から、保育園にある本を片っ端にひたすらページをめくる子だったらしいです。小さい頃から規則性のあるものがとにかく好きだったみたいです(笑)。
ーその頃からだったんですね!次に中学生の頃のお話を伺いたいのですが、中学受験をされたそうですね。中学生活はどうだったのか、またその後の高校生活についても教えてください。
親が音大附属の学校に進学させたかったので、中学受験を経て国立音楽大学附属中学校に進学しました。音大附属だったので音楽の授業がたくさんありました。いい経験になりましたが、ただ当時は勉強が好きでしたね。音楽より勉強ばかりしていたら、母がこれ以上音楽の道には進まないんじゃないかと気づき、途中でリタイアして元々の公立中学校に戻りました。
転機が訪れたのは高校のときですね。
高校1年生の時に出会ったのが骨格標本です。動物の骨格がなんでこのような形になっているか興味を持ちました。骨格のゴツゴツしている感じが構造物に似てませんか?動物の命が相混じって、自分がどのように生きたかの証が残っている感じがしたので、のめり込んで研究を始めました。
ー骨格はビジュアルとして好きなのか、それとも他の理由で好きな点があるのでしょうか?
完全にビジュアルですね。見た目がきれいだと思います。
ー当時、影響を受けた方はいらっしゃいましたか?
国立科学博物館の川田伸一郎先生が私の恩師です。
スーパーサイエンスハイスクール認定の高校に通っており、その一環でバックヤードツアーという博物館の裏側や倉庫などを見学する授業がありました。それがきっかけで博物館っていいなと思いました。
大哺乳類展を見に行ったあと、生物の先生に骨についてたくさん質問していたら、紹介してくれたのが科学博物館の川田先生でした。
先生のところに毎月質問しに通うのを2年ほど続けました。動物のしくみや構造物がソフトな面とつながっていけることを知れたのは驚きでしたね。
ー恩師との出会いが高校時代だったのですね。学外だけでなく、部活動や学内の生活でも打ち込んだことがあれば教えてください。
部活動も頑張っていましたね。研究も週1でおこないながら部活動を週6で取り組む生活でした。高校生の頃はマンドリンオーケストラというイタリアバージョンのオーケストラに入っていました。当時から構造が好きなので、部員数がどう変遷しているか、どのようにシステムが変わっているかに興味があったんです。だからマニュアル化したり、どこにリーチして部員数を増やすのか作戦を練ったり、副部長をしながら常に戦略を考えていました。
ーすごい、当時から戦略家でマネジメントされていたんですね……!そのあと、大学進学の学部選びはどのようにおこないましたか?
通っていた国立科学博物館の研究棟がつくばに移転すると知り相談したら、つくばにおいでよって言われたんです。それがきっかけで筑波大学に進もうと思いました。筑波大学には理学部寄りの生物学類と農学部寄りの生物資源学類の2つがあるんですね。
研究者のやりたいことと行政側の支援方法がすれ違い、お互いに悩んでいる場面を高校時代に見てきて、シンプルに解決できないのかと思っていました。
経済はひとつの価値なので、価値とはなにかを学んで定義できたらコミュニケーションしやすいのかもしれないと思い、経済学と生物学が学べる生物資源学類にしました。しかも生物資源学類は筋肉などの工学も学べるし、進化や遺伝などさらに細かく目にみえる生物の話もできる。
受験はAO入試(筑波大学ではAC入試)を受けました。AC入試は問題解決能力がある人が受かると記載されていたので絶対受かるなと思ったんですよね。でも泣きながら面接練習をして、結局書類提出前の3日間は徹夜しましたね。2万字ぐらいの自己推薦書と、問題発見能力や科学とはなにかといったテーマで書き上げて合格しました。
ー今まで積み重ねてきたものが重なって、ご自身として「これだ」というのが受験のときに見つかったわけですね。そのあと大学と大学院に進学されてから学んだことや打ち込んだことを教えてください。
大学時代にアイルランドで学会の発表があって、2週間イギリス・ロンドンとアイルランドのベルファストに滞在したことで世界が広がりましたね。
空や空気も全然違うし、いろんな国の人と話して仲良くなりました。そのときに、日本で動物の研究をする意味ってなんだろうと考えたきっかけができたのは大きいです。
ー日本で動物の研究をして深める意味はなんだろうと思った仮説はわかりましたか?
日本だからこそ、文化の中に動物たちがいるんだなと思います。昔の絵にも動物が描かれるように、その文化のことを深く知れるのはそこに元から住んでいて知れることってたくさんある。
日本は世界でも稀な動物がいる豊かな場所で、貴重な動物たちがたくさんいると思います。NousLagusという社名もそれにつながっています。誰でも手に入れられる情報もあるけど、狭くてニッチでも深くてリッチなデータがたくさんあって、そういったデータをもっと活用していきたいし、ニッチな戦略として研究していきたい気持ちで解決はしたかな。
お客様が本当に知りたい情報や人につながるために
ー統計学に近いコンピュータやプログラミングも当時は深めていたそうですが、職業選択するきっかけやその延長線上で創業の経緯について教えてください。
大学院で野生動物の管理システムの分野を研究をして、政策提言もおこないました。きれいな情報を活用したい気持ちがあり、興味が生物研究から少しずつ統計学に近づいてきたんです。
キャリア選択では、以下の条件を軸に探しました。
まずは政策提言ができ、経団連の会長候補になりそうな企業やしっかりと意見を発信できそうな企業。そしてデータをきちんと活用していそうなデータに強い企業です。
そのなかで2社を受けて、最終的にソフトバンク株式会社に内定をいただきました。
ーどのタイミングで創業を考えていたのですか?
会社の新卒研修で考えたアイデアの事業化を検討していましたが、審査に落ちてしまいました。でも知識として共有したいと思い、学会発表をしたんですね。そこから共同研究の話をいただいて、共同研究に必要な二重就業申請をしたら今度は副業の話をいただくようになりました。そこからデータ関連の副業をしていたら、個人事業のアドバイスをいただいたんです。そのとおりに個人事業を開業したら、今度は法人格にすれば今より大きい仕事を一緒にできると言われて。数珠つなぎのような流れで現在に至ってます。
ーさまざまな展開が生まれていくなかで、守屋さんが深まった関心や見えてきたビジョンはありますか?
会社設立は意外と簡単なんですよ。でも、事業をどう始めていくかは大変な部分があります。最初は正直事業のことまで考えていなかった。でも「きれいなデータであふれた社会にしたい」という想いはずっと言っていたので、それを一つひとつ本業と副業どちらも取り組んでいました。さまざま取り組んでいくなかで難しさも感じつつ、一番大きかったきっかけはコロナですね。
コロナによってデジタル庁ができ、データの必要性が世の中に浸透してきた。中小企業でもデータ導入の検討が進んでいますが、大企業と違って中小企業はなかなか進まないと感じました。しかも中小企業様向けのサービスができる人も少ない。お客様の悩みをヒアリングしても、中小企業のお客様がどのように調べたら望んでいる本当に知りたいことが出てくるのか、出会うべきところに出会えていないのではないかと課題を感じました。
優秀な人や会社とつながれるためにも、この課題は解決したいと思っています。
ポジティブな意思決定にデータの力を活用したい
ーデータが役立つものとしてアクセスしやすくなった身近にある社会になると、どのような世界になっていくのでしょうか?
例えば進路選択やキャリア選択も、「自分が何が得意かわからないから選べない」「この先需要がなくなったらどうすればいいのかわからないから選べない」といった課題があると思います。それが前者だと、自分が強みをレポーティングのように細かくわかるようになったら選択できるようになるかもしれない。
また後者の場合も、明確にその人がどうしたいかに合わせた軸で見えるようになったら素敵だと思います。
社会という面でも考えられますね。政策提言につなげるのもひとつの目的です。例えば建造物も、木造建築で今使っている建材の木と昔の建材の木は違うけど、何十年前の法律を使っているところがたくさんあるので、今の時代にあったルールで、今起きている課題に対して解決できる世の中になっていくと思います。
ーわからないことへの不安は、自分自身にとっても大きく感じやすいですよね。
そうですよね。私も大学時代にけっこう悩んでた時期があって、一番意思決定できなかった期間なんです。そういう時間を少しでもなくしたい。不安でできない意思決定ではなくて、「きれいなデータにもっと触れていたい」「みんなの笑顔が見たい」といったようなポジティブな意思決定に時間を割けるような世の中にしたいし、そういう基盤をつくっていきたいと思いますね。
ーまだ構造化されていない物事や、データを求めている人がマッチングしづらい状況だと、お互いにとっての不安や最適化されていないものがあるので、これからやるべきことがたくさんありますね。
そうなんですよ。「きれいなデータであふれた世の中に」の「きれいなデータ」とは、構造化されているデータや整理整頓されている使いやすいデータのことです。データを使う観点でいうと、合意形成がとれているデータですね。
自分が使おうとする情報で誰かが嫌な気持ちにならないかといった認識の整備も進んでいないと思います。情報やデータというと、個人情報がとられているイメージが強くて怖いと感じるかもしれないけど、本当はもっときれいで素敵なものなんです。
みなさんも昔から疑問に感じていることでそれぞれ解決したい課題があると思います。それに対して、お互いにとってポジティブに使ってもらえてわくわくしてくれるのならいいなと思えるような場所がほしいですね。
現在は認証の観点でデジタルアイデンティティというテーマが議論されています。私は、さらにこの概念を拡張させて、デジタルな世界の中でのアイデンティティについて考えていきたいと思っています。デジタル上の自己同一性といった自分がどういうふうに考えているか、このデータに対して自分はこういう存在だというのをジェンダーと同じくらい明確にしたいです。
ーデータに対するリテラシーや扱うレベル感はまだ発展途上だと思います。そのなかで今後乗り越えるために向き合っていることを教えてください。
AIの技術はたくさんあって、特性上AIが業界名についているものは正直何を具体的にするのかわからない業界が多いと思います。これが具体的になにをしたらいいかわかってくると、具体的な名前がどんどん出てきますね。
AIは学習をする力があるので、その場所や領域に特化したものにどんどんチューニングされていく。そのため個別のソリューションや課題解決策が増えていきます。これからも膨大に増えていってしまう。なので誰が何をやったらいいかわからないし、しかもそれに関わる人も多くて、それをどうやってお客様の課題とつなげたらいいのかわからなくなってくると思います。これは関わってくれる人みんな共通で感じている課題だと思うので、一人でも多くの人と協力して、お客様の課題に早く解決策をつなげてあげることをやっていかなければいけないですね。
それに、ITリテラシーが高い人を増やすのも重要ですが、リテラシーが高くなくても使えるものを強化しなければいけません。
簡単な読み取り作業やそのデータをどう活用したらいいのか、今やっている業務全般をAIでどうすればいいのかといった疑問を気軽にご相談いただけたら、ぜひ一緒につくっていきたいですね。
取材:山崎貴大(Twitter)
執筆:スナミ アキナ(Twitter/note)
デザイン:五十嵐有沙(Twitter)