様々なキャリアの人たちが集まって、これまでのステップや将来への展望などを語り合うユニークキャリアラウンジ。第146回目のゲストは、旅好きITコンサルタント 細見渉(ほそみ わたる)さんです。
「No Day, But Today,(未来でも、過去でもなく、あるのは今、この瞬間なんだ。)」
ブロードウェイミュージカル映画「RENT」の劇中歌に強く影響を受けた細見さんは、学生時代に75カ国を一人旅した冒険家。大学入学をきっかけに主体的に人生を選択し、ドイツ留学、インドネシアで日本語教師、世界一人旅、世界青年の船事業を経て、「ワクワク」を見つける方法を確立しました。二年間の海外滞在を経験し、旅でさまざまな現場を目撃した細見さんに、世界に飛び出す勇気を取材しました。
幼いときから海外とのつながりをもつ
ー自己紹介をお願いします。
細見渉です。現在社会人2年目で、外資系のIT企業でシステム導入のコンサルタントとして働いてます。具体的には、製造業のお客さんが使用するシステムの設計書を書いたり、プロジェクトマネジメントの支援をしたりすることが業務です。旅が好きで、いままで75カ国を旅してきました。
ー学生時代には75カ国も訪れたそうですね。記念すべき一カ国目はどこだったのでしょうか。
小学校のころのシンガポールへの家族旅行が、はじめての海外渡航でした。ナイトサファリが印象的で、暗闇の動物園が心底怖かったことを覚えていますが、小さかったのでほとんど記憶に残っていません。
ーその後、海外へ対する関心が増していったのでしょうか。
中学生のときにはイギリスへ行きましたが、海外への関心が高く、積極的に行きたがったわけではありませんでした。両親がチケットをとっていて、僕としては部活を優先したいなっていうのが本音だったくらい(笑)エマ・ワトソンみたいな容姿端麗な人が普通に街中を歩いていたり、当たり前ですけど、みんな英語を淀みなく流暢に話していたり…国の違いをまざまざと実感しました。当時の僕は、「ハンバーガー、フィッシュアンドチップス」などの食事の名前しか話せず(笑)
「宿題はいいから、ミュージカル見てこい」。RENTはモチベーションのスイッチを切り替えた
ー国際関係の学部への進学を目指していた浪人生活の中でも、海外への関心は育まれていたのでしょうか。
大学の進路選択ではたまたまテレビでやってた神戸特集をみてこの街に住んでみたいと思い、神戸大学を第一志望に掲げていました。しかし、本格的に受験勉強をはじめたのが高校3年生の後半で…残念ながら不合格という結果に。
あるとき、予備校の講師に「お前ら、宿題はいいから、ミュージカルでも見てこい」と言われたんです。「浪人生なのに勉強しなくていいの?」と内心驚きつつ、息抜きとして鑑賞しました。そのときに観賞したのが、『RENT』と呼ばれるブロードウェイ発祥のミュージカルです。
若者がニューヨークで生活を送りながら、それぞれにさまざまな問題を抱えながらも前を向いて生きる様子を描いています。リアルなアメリカ文化を目にすることができて、英語を勉強したいという意欲は高まりました。
劇中で特に印象深かったのが、「No Day, But Today」というフレーズです。これは「彼らが生きているのは、過去でも未来でもなく今なんだ」という意味が込められた言葉。当時、僕は大学受験に失敗し、浪人生活をなんとなく過ごしていました。しかし、この言葉が受験に真剣に向き合うきっかけを与えてくれたんです。それを機にミュージカルというものの素晴らしさに気づき、英語や海外文化についてもっと学習したいと思うようになりました。
ー無事に東京外国語大学に合格し、それ以降たくさんの国へ渡航されていますが、最初のきっかけはなんだったのでしょうか。
上京した僕は学生寮に住んでいて、ルームメイトがインドネシア出身だったんです。僕に現地での暮らしをいろいろと話してくれました。僕が「インドネシアいいな、行きたい」と口に出したら、その日を境に彼が「いつくるの?」「ホテルとったの?」と質問をしてくるようになって(笑)それに答えていたら、知らないうちに旅行計画がどんどん決まっていたんです。そして、彼が帰省するタイミングで一緒にインドネシアに渡航しました。
ーその後、長期留学の経験も積まれていますね。
もともとはイギリスに留学したいと思っていましたが、私費留学では学費が高く、交換留学で行けるほど校内の成績がよくなかったため、断念。文部科学省の「トビタテ!留学JAPAN」という政府奨学金プログラムを利用して、ドイツに1年間留学するという道を選択しました。
ドイツに留学に行くので公用語も理解できた方が、現地での学びをより多く吸収できると思い、日本でドイツ語を学習していました。そしたら思いのほか勉強が楽しくなり、英語でも可能だった大学出願を、ドイツ語で書類提出し、現地の授業もドイツ語で受講しました。
ードイツに滞在している間も旅をされていたのでしょうか。
ドイツはヨーロッパの各国に足を運ぶのが簡単なので、留学中にヨーロッパ各国をほとんどめぐりました。イタリアなんて、公共交通機関を利用して片道3,000円で移動できちゃうんです。モロッコやトルコなど、合計で30〜40カ国は行きました。
現地では友人に案内してもらい、そこにしかない魅力を発見することを楽しみにしていたんです。観光地に加えて、地元民が通う場所に多く訪れていました。人との交流も旅の醍醐味でしたね。宿泊するときには、ホテルやアパートを借りるのではなく、ゲストハウスを選択し、そこでの出会いも旅の思い出となりました。
ー地元の人と近い体験や、人との出会い…さらに旅でこそ得られた経験はありますか。
大自然を体感したことですね。世界周遊の旅で、チリの砂漠で満天の星空を眺めたり、アイスランドで壮大な氷河に向かい合ったりしました。大自然に触れると、自分の五感すべてで目の前のことをでまるごと体感する感覚があり、身震いするくらいのワクワクを憶えました。
ー世界青年の船事業も、価値観の形成に強く影響を受けたそうですね。
10か国240人の青年と1ヶ月船上生活を過ごす中で様々な価値観や文化に触れて、色々なことを議論し、社会全体そして自分自身について深く考える機会を得られました。特に印象強かったのは、音楽が国境を超える実感を得たことです。船上では毎晩のようにパーティーがありました。音楽が鳴り始めると、みんなが歌ったり踊ったりするんですよね。言葉という共通言語を共有していなくとも、音楽や踊りで同じ気持ちを共有している感覚が最高に楽しかったですね。
乳搾りロボットや配車サービス、移動中の夜行バスが就職の選択軸を形成
ーITコンサルタントを選択された理由として、ITへの興味や考えることが好きだとありましたが、何がきっかけだったのでしょうか。
ドイツ留学中、僕はHofgut Oberfeldという牧場で1ヶ月の間、ファームステイをしていました。ドイツでのファームステイ以外でも、エストニアで2週間・アイスランドで2週間農場で働いたり、ドイツやオランダのいくつかの農場を訪問しましたが、そこで、、ロボットが乳牛の乳を自動で絞っているのを目の当たりにしました。「農業にも、ITが導入されてるんだ!」と衝撃を受けました。
大学4年生のときには、国際交流基金アジアセンターの日本語パートナーズ派遣事業に6ヶ月間参加し、インドネシアで日本語教師のアシスタントとして働いていたときには、ITが交通インフラを劇的に変える瞬間を目撃したんです。僕が滞在をはじめたばかりのときには、運賃が法外な値段のタクシーしか移動手段がありませんでした。しかし、その半年後、ITを利用した配車サービスが登場していました。運営の基準を満たした運転手のみ登録が許されているので、利用者は安心して乗車できます。さらに、既存タクシーよりも低価格で運賃を設定する運転手が多いので、利用者は既存タクシーよりも低価格でタクシーを利用することができるようになったんです。短期間で便利なサービスが一気にまちに普及し、人びとの生活を変える。IT分野の可能性を強く感じました。
また、旅は、僕に考える時間を多く与えてくれるものでもありました。夜行バスに乗車しているときには、その日めぐった場所を思い返しその国の時代背景や社会情勢について思いを巡らせていました。カンボジアの虐殺現場を訪れたときには、「なぜ虐殺が起きてしまったのか」と考え、3つの宗教の聖地であるエルサレムを訪れたときには、「もし3つの宗教が聖地として認定すれば、周辺諸国にどのような影響が及ぶのだろうか」と。そんな時間を過ごし、目の前の問題や課題に対して考えることが好きなのかもしれないと気付きました。そして、将来は、思考力を使う仕事をしたいと思ったんです。
ワクワクを発見するコツとは
ー周りの方の助言を受け入れて一歩踏み出し、そこから世界が広がっているような印象を受けました。周囲に対しての柔軟性が高いのはどうしてですか。
いろいろなことに対しての好奇心が強く、新しいものを敏感に認知するからだと思います。通販番組を見かけると、つい買いたい衝動に駆られますよね。その衝動が、他の人よりも強い感覚があるんです。それは、ワクワクを主体的に選択する考えを根本に持っているからだと思います。自分の考えが人生の選択の軸にあるからこそ、他人の意見にも柔軟に耳を傾けられると思います。
ーワクワクを発見するコツはありますか。
自分の周辺をもっと注意深く見渡してみてください。FacebookやInstagramで友人が食事の写真を投稿していて、それを目にしたとき、なにに目がいきますか。店内の内装、一緒に写っている人、料理…どれに関心が引かれるかが、ワクワクの合図です。料理にワクワクしたのなら、提供するレストランの名前や料理の材料などを調べたり、自分でレストランに行って味を確かめたり、行動に移してみましょう。
旅も、ワクワクに触れるための一つの選択肢だと思います。旅は他者の日常を経験することができるんです。その土地で出会う人、建物、乗り物は地元の人にとっては日常。しかし、僕にとっては非日常です。非日常を体験し、自分の日常を振りかえると、新しい発見や価値に気づきます。そういうことにワクワクするんです。
ーいままでたくさんの挑戦を重ねてきた細見さん。今後の展望はありますか。
誰かの人生や生き方を後押しできたらいいなと思っています。人にきっかけを与えてもらい進んできた人生だったので、自分自身も誰かにきっかけを提供できたらと考えると、ワクワクしますね。そのためにはまず、僕自身がワクワクする生活を営むことが大切なので、日常生活を丁寧に送ることも心がけたいですね。
また、2022年から世界をめぐる旅を計画しています!ホームステイをして世界各国を転々としながら、それぞれの国の家族や生活のあり方を観察したいと考えています。そこで出会った価値観を、日本に暮らす人たちに発信する活動がしたいです。
ーとても楽しみな未来ですね!本日はありがとうございました。
取材者:山崎貴大(Twitter)
編集者:野里のどか(ブログ/Twitter)
執筆者:津島菜摘(note/Twitter)
デザイナー:五十嵐有沙(Twitter)