Webメディア編集者からFemTech事業へ舵を切ったMEDERI株式会社CEO・坂梨亜里咲の胸の内 #私のU29時代

10代、20代にとって生き方の指針となるようなインタビューを掲載しているU-29ドットコム。今回は、「自分を愛でる」というコンセプトでFemTech領域に参入するMEDERI株式会社・CEOの坂梨 亜里咲(さかなし・ありさ)さんにお話を伺いました。

宮崎県で生まれ、大学入学までの18年間を地元で過ごした坂梨さん。大学卒業後は通販サイトの会社へ入社するものの、一年後には4MEEE株式会社にジョインして女性向けWebメディア「4MEEE」を立ち上げます。半年のフリーランス期間を挟んで4MEEEでCOO、CEOを経験し、現在は起業して妊娠に関するプロダクト作りの真っ只中。

Webメディアの編集者から社長まで上り詰めたのち、一転してFemTech領域に足を踏み入れた坂梨さんの胸にはどんな想いが秘められているのか……これまでの経歴を辿りながら、彼女が目指す世界に迫ります。

地元でオシャレな服が買えなかった経験から選んだ就職先

— 通販サイトに興味があってEC系の会社に新卒で入社。その前はどんな学生時代を送ってこられたんでしょう?

学生時代は読者モデルをやっていたんです。そして、なんとなく「卒業後はアナウンサーになりたい」と考えるように。兄も福岡でアナウンサーをしていますし、自分もなれるだろうと思っていたんですが、入社試験にはことごとく落ちてしまいました。

その頃ちょうど東日本大震災が起こって就活が一時停止。じっくり考える時間ができたことで自分自身を見つめ直してみたら、地元でオシャレな服が売っていなくて通販をよく使っていたことを思い出したんです。その原体験があったので、通販サイトの会社で働こうと思い、内定をもらいました。

でもそこでは、1つ上の先輩がインターンの私と同じ業務をしていたんですよ。それがあまり魅力的に思えなくて。悶々としているとき、友人が誘ってくれたイベントでルビー・グループ株式会社の社長さんに出会い、「通販サイトの会社に就職したいならうち来なよ」と言ってもらえたんです。話を聞きに行って魅力を感じ、こちらに就職することを決めました。

— 実際にルビー・グループに入社してみてどうでした?

同期はいなかったんですが毎日楽しくて、裁量の大きな仕事をたくさんさせてもらいました。だけどある時、新規事業立ち上げの一貫でラグジュアリーECサイトを担当させてもらったんですけど、新卒の私には、高級なものをどうやって売ったらいいのか分からなくて。

— 身近にターゲット層がいなくてイメージできなかったんですね。

そうなんですよ。だったら自分ごと化できるサービスができたらいいな、と思うようになったんです。その矢先、大学時代の友人から久々に連絡をもらって会ったところ、通販にも集客できるwebメディアをやろうとしているという話を聞きました。それで、今の会社を辞めてそちらにジョインすることにしたんです。

 

ベンチャー企業に転職し、メディア立ち上げを初経験

— ルビー・グループを辞めて、現在の4MEEE株式会社へ転職。坂梨さんは創業に携わっていたわけじゃないんですね。

大学時代の友人たち3人が創業した会社で、そこに私がジョインした感じですね。当時はまだ「4MEEE」はなくて、リスティング広告の最適化ツールを作っていました。社名も「ロケットベンチャー株式会社」でしたし。これからtoC向けにサービスをやる、というタイミングで声をかけてもらったんです。

最初はスタートアップにジョインすることに対して親からも反対されましたけど、一週間ほどで納得してもらえて、2014年に入社しました。

— ロケットベンチャーに入社し、4MEEEを立ち上げ。メディア立ち上げは人生初の経験だったと思いますが、どうでしたか?

立ち上げ時の仕事としてはひたすら記事を書いて更新するというルーティン作業だったんですが、そのときの社長が「どれだけこのサービスがイケてるか」を毎日説明してくれていたので、今振り返ってみればすごく楽しかったですね。いざ自分が起業してみると、そこまでのムードを作れていたのはすごいなと思います。

— 4MEEEにいる間、挫折経験やハードシングスはありました?

いやもう、たくさんありましたよ。一番は、4MEEEをスタートさせて半年後くらいに存続の危機が訪れたことですね。SEOの効果もすぐには出なかったですし、いろいろあって1週間くらいメンバーそれぞれが自宅で仕事をしなきゃいけない状態になったりして。これから先がどうなるかわからない状態で1ヶ月半ほど過ごしていました。

— その危機はどうやって乗り越えたんですか?

そんな状況でも当時の社長がカリスマ的な存在感を放ち、事業を諦めず、メンバーに希望を与え続けてくれたおかげで乗り越えられましたね。株式会社エニグモに自社をバイアウトし、エニグモグループに入った後も、うちの社長の意見を尊重してもらって自由にのびのび仕事をさせてもらっていました。

 

半年のフリーランス期間を経て役員、そしてCEOへ

— 坂梨さんは、フリーランスだった時期が半年間あるそうですね。どういう経緯があってフリーランスに?

4MEEEの編集者として働いていた頃、何をもって給与交渉すればいいかわからなかったんですよ。給与は、可視化される評価なので上げ続けたい。でもスタートアップって給与体制もまだできていないし、社長に交渉することもできなくて。

だから、一度外に出てみて自分がどれくらい稼げるのかを知りたいと思ったんです。それが分かったら今のモヤモヤがなくなるような気がして。26歳になるタイミングでフリーランスになりました。

— フリーランスになってみて、実際どうでした?

その頃はWebメディアバブルだったので、コンテンツ制作やコンサルティングの依頼がどんどん舞い込んできて、会社にいた頃よりずっと稼げるようになりました。でも、全て自分一人でやらなくちゃいけないから休む暇がないということに気付いたんです。

やればやるほど稼げることは分かったし、自分の仕事の相場感が掴めて数字には強くなりました。だけどこのまま一人でやっていくのはきついなと感じ、誰かと一緒に小さく起業するか、どこかに転職して再びインプットしたいと考えるようになったんですよね。

さまざまなメディアから声を掛けてもらったんですが、4MEEEの社長にその話をしたら「それならうちに戻ってきてよ」と言われ、一番いい待遇で迎えてくれることになったので戻ることに。

— 結果的には、フリーランスになってよかったということですね。そして4MEEEに戻り、COOという役職に就くことに。

そうですね。実はその時、社長はすでに違う会社を立ち上げて代表を務めていて、「ゆくゆくは4MEEEを渡したい」と言ってくれていたんですよ。だから、CEOという次のステップが見えていて、仕事も頑張れました。

— 編集者からCOO、そしてCEOヘ。一編集者には、なかなかない道ですよね。

4MEEEに戻るとき、社長から「フリーランスになって(お金やチームでやっていくということに対する)考えが現実的になったね」と言われました。視座が高くなったというか。フリーランスを経験して本当によかったです。

 

「自分の世界を作りたい」という想いからCEO退任を決意

— 再び4MEEEに戻って2年が経ち、約束通りCEOになったわけですね。

はい。でもそのタイミングで、二度目の4MEEE存続の危機がやってきたんです。親会社との方向性の違いで。いろいろと検討した結果、株式会社インタースペースに親会社になってもらうことになりました。

新たな親会社が決まるまでは他言できないので、社内には不穏な空気が流れていって社員もどんどん辞めてしまいました。私自身も社員を信じられなくなり、一時は代表を務める自信もなくなって……結局、インタースペースにバイアウトしたタイミングでは正社員数は以前の約5分の1という状態でした。

— それは辛かったですね……。インタースペースへのバイアウトが決まったタイミングで新体制になり、初めてのことの連続で大変だったんじゃないでしょうか?

私は大企業で働いたことがないから、体制が変わって3ヶ月くらいは、聞き慣れない言葉が多かったり仕事のやり方が違ったりして戸惑いましたね。しかも、だんだん掴めてきたところで、今度は物足りなく感じるようになってしまって。

自分でも経営について勉強しましたが、子会社社長のあり方やモチベーションセットって難しいんですよね。それでも、4MEEEを伸ばすために駆け抜けた日々でした。地方自治体とタイアップをしたりコラボ商品を作ったり、新たな収益源に挑戦させてもらって試行錯誤しながら黒字化できたのは良い経験です。

— では、いつ頃から退任して次のチャレンジをしようと思うようになったんですか?

2019年の7月です。私自身、「4MEEE」と「4yuuu!」どちらのターゲット層にも属していないから、その真ん中の世界を作りたいなと思って。それを今の会社で作るのか、私が新たに会社を立ち上げて作るのか……といったことを2018年の終わり頃から少し考えていました。

Webメディアって、投資がかかる割に先が読めない部分が大きいので、私が作りたい世界観をどういう形でアウトプットするのがベストなのかと悩んでいたんです。自分がお金も時間も費やしたことって何だっけ?と考えたら、不妊治療だったことに気付きました。それで2019年の8月には、親会社に「辞めたい」と伝えたんです。

ちょうどその頃、海外でもFemTechが話題になっていて。「これはまさしく私がやりたい領域だ」「今やらなきゃいけない」と思ったんですね。私の人生の成功体験に共通する点は、先行者優位を取ってきたこと。だから今立ち上げないと出遅れてしまう、と。

なので、任期満了の2019年12月に辞めさせてもらうことになりました。

 

コンプレックスをさらけ出して参入を決めたFemTech領域

— 2019年8月にCEOを辞めることを会社に伝え、同年12月に退任。時期は少し遅くなったものの、早い段階で前に進めたんじゃないでしょうか?

平日の夜や土日を返上して次の準備をしていましたが、私が参入しようとしているヘルスケア領域においては、プロダクトをリリースにこぎつけるのが思ったより大変で。私の行動力や突破力ですぐに実現できると思っていたけれど、なかなか進まなくて。

「想いだけじゃやっていけない」と洗礼を受けました。やりたいことはあるし、作りたいプロダクトもあるけど、Howがないという状態でした。

— どんなプロダクトを考えているんですか?

サプリメントと妊よう力セルフチェックキットです。はじめはチェックキットだけをやろうと思っていたんです。私自身、自分の遺伝子で妊娠することができない可能性があるかもしれないんですよ。でもそれに気づくのが5年早ければ、状況は違ったかもしれない。だから、自分の妊孕力を知れるキットが欲しいなと思って。

だけどそれってあまりにメッセージが強いから、共同創業者に「もうちょっとマイルドに考えてみたら?」と言われ、日常に溶け込むプロダクトを……と考えた結果、治療中も服用していたサプリメントに辿り着いたんです。

もともとメディアを運営していたので、インターネットで販売するサプリメントに対するイメージに戸惑いがあったのも事実で。でも発想を転換させれば「サプリメントもメディアだな」と思ったんですね。私はただサプリメントを届けるのではなく、サプリメント通じて毎月自分と向き合う時間をユーザーに届けるんだ、と。

今までWebメディアという形で情報を発信してきましたけど、サプリメントを通じてFemTechの領域で生活に溶け込むような情報配信ができるんじゃないかと考えるようになったんです。

— ヘルスケア業界って法律の縛りやしがらみがあって、アイデアを形にするのにすごく長い期間を要することって多いじゃないですか。そんな中で、会社を作って2〜3ヶ月でプロダクトローンチまでこぎつけたのは本当にすごいと思います。

何事もスピード感が大事だなと思っているので。最近はFemTech領域もすごく優秀で活躍される方がどんどん出てきていていますし、引け目を感じる部分もあります。でも私には「自分の遺伝子で子供が生まれない可能性がある」という究極の原体験があるから、その想いでこだわったプロダクトを作っていきたいですし、いずれtoB向けサービスも展開したいと思っています。

— ファーストプロダクトは、坂梨さん自身が妊活を経て苦労されてきたということが原体験になっているということですが、コンプレックスを表に出そうと思ったのは何がきっかけだったんでしょう?

実は去年1年間、夫の仕事の都合で離れて暮らしていたことがあり、自分一人で考える時間が増えたんです。その時に、自分の中に引け目があることに気付いて。独身時代は子供が産まれたら仕事を辞めて家庭を支えたいって想いもあったりしたんですが、夫に養われるのは性分に合わないなと。

たとえば結果として子供ができなかった場合、どうやって夫に愛想を尽かされずに過ごせるのか考えた時に、「わたしは働くのが得意だから、20年後も働いて輝いていたいな」って。だから、生涯かけて働ける何かをしたいと考えたんですね。

常に自分がターゲット層となるようなサービスだったら楽しめるなと思い、まずは妊娠出産に関するサービスを。もしも子供を産むことができたり、何かしらの方法で子供を迎えることができたら、次は育児に関するサービスを提供できる。そんな会社を作りたいと思ったんです。

同情を買うようなエピソードは、できれば言いたくありません。でも、自分の中でコンプレックスだと感じていた部分を、「これも自分の人生だ」と受け入れられたのが一番大きな変化でした。生涯かけてやりたいことが見つかったことで、「誰かの幸せに繋がるなら会社をやろう」と腹が決まりました。

— それは本当にすごく覚悟がいることですよね。言いにくい話をしてくれてありがとうございます。不妊に悩んでいる多くの人たちに勇気を与えるエピソードだと思います。

 

女性たちが後悔しない人生を送るためのプロダクトを

— 3月にリリースされるプロダクトは、いろんな人の救いになるサービスになっていくと思います。そのためのクラウドファンディングも始まるそうですね。

はい、CAMPFIREというクラウドファンディングのプラットフォームを使って3月3日にスタートします。今回はまずサプリメントから。

リターンとしては、サプリメントを通常時よりお得に買えるというものと、MEDERIの理念に共感して支援してくれる個人や企業に向けたリターンの大きく2種類を考えています。

— まだ若くて妊よう力を調べたいと思っている当事者の方々や、当事者ではないけれど応援したいと思っている未来の支援者に向けて、何かメッセージはありますか?

私と同じような状況の方々は、何より病院で自分の心と向き合いながら治療をしてもらうのが一番かなと思っているので、「共に頑張りましょう」という想いでいっぱいです。

まず私が作っていくプロダクトは、これから妊活をしようとしている人やタイミング法に挑む妊活中の人、まだパートナーはいないけど子供は産みたいという人向け。そういう方々には、早くから自分に問題意識を持つきっかけとなるようなプロダクトになればいいな、自分自身に目を向けて自分を愛でる時間を一緒に作っていけたらいいなと思っています。

サプリメントには、月ごとに、妊娠・出産にまつわる情報とコーチングカードを同梱します。独身女性には仕事、結婚、出産に関することを考えられるようなカードを。既婚女性には今後の出産や子育てについて、旦那さんと一緒に考えられるようにパートナーさん用のカードも送ります。

このカードを使うことで、妊活特有の孤独に悩む女性も減るんじゃないかと考えているんです。一人でも多くの女性に後悔のない人生を送ってほしいので、私はこのプロダクトに全力で向き合っていきます。これからもMEDERIのプロダクトに注目していてください。

— 記事メディアからサプリメントという形のメディアへ。日本初のFemTechの大本命として注目していきますので、クラウドファンディングも頑張ってください。応援しています!

 

(取材:西村創一朗、写真:小林桜々、文:ユキガオ、デザイン:矢野拓実)