「何度でもやり直せる環境が必要」挑戦と挫折を通して磨かれた佐藤亘のレジリエンス

今回は、株式会社エムボックスでマーケティングマネージャーを務める佐藤 亘さんをお招きしました。

これまでのキャリアの歩み、イップスを発症した経験から学んだこと、ベンチャー企業で働く中で感じたやりがいについて伺います。

 

3つの大事な心構え「準備」「情熱」「やりきる」

–お勤めの会社について教えてください。

株式会社エムボックスは、「テクノロジーでセルフメディケーションを再定義する」をミッションに掲げ、日本初のAGA(男性型脱毛症)の疾患管理アプリの提供、発毛剤・シャンプー等の商品開発をおこなっている会社です。

疾患管理アプリ「HIX」は専門医監修のもとで開発されていて、スマホで毛髪と頭皮の画像を撮影し、問診に回答すると、最先端の人工知能システムが進行状態等を判定できるものです。

通常AGA治療には数ヶ月かかり、その間の進捗を確認しづらく、疑問が浮かんだ際にもインターネット上のQAサイトを頼りにしている方が多い状況でした。当社アプリを使うことで自身で治療の進捗を確認できるようになり、アプリを使用している方のほうが治療の継続率が高いという結果も出ています。

▽株式会社エムボックス

https://mbox-inc.jp/

▽サービスサイト

https://www.hix-selfcheck.com/

–ご自身の仕事内容を教えてください。

マーケティングマネージャーとして新製品開発、マーケティング戦略策定・施策実行、インサイト調査などをおこなっています。基本的にはインハウスで行っているので、チームメンバーのマネジメントに加え、一部業務を委託してる方々へのディレクションなども私のミッションになります。

–やりがいを感じる点を教えてください。

当社はモノではなく体験を重視しています。業務を進めていると、ユーザーの行動を観察することができ、結果や変容の度合いも確認できます。その変化を生み出せていることを実感できると嬉しいです。また、ユーザーとの接点も近いため、直接嬉しい声が届くこともありがたく、モチベーションに繋がります。

–同社と出会った経緯を教えてください。

大学2年の頃、テニス部に所属していたのですが、コロナの影響が直撃…。外に出づらくなり、時間が生まれました。かねてより抱いていた起業へのモチベーションが高まり、自分のアイデアをもとにPoC検証などに着手していました。当時関心を持っていたのが、当社が扱っている男性向けヘアケア分野でした。ピッチ資料の作成も進めていたところ、ネット上で発見したプレスリリースを通して当社の存在を知りました。

Xを通じて代表とコンタクトを取ってランチへ行き、自分が作成したピッチ資料を見せたりして会話をしているうちに当社への関心も高まり、インターン生として加わることになりました。

–ご自身で起業しよう、とはならなかったんですね。

「面白いことをしたい」「新しい事業を起こしたい」と考えた際、1人ではなく一緒にできた方が良いし、男性が抱える薄毛の悩みを解決できるインパクトを最大化できると感じたんです。

入社後は週4日テニス部の活動を続けながら、大学の授業以外の時間でインターン業務をおこなっていました。

主にマーケティングアドバイザー、代表、私の3人を中心に仕事を進めることが多かったのですが、とても楽しかったです。当初は3人で検討した戦略をもとにした実行部分を担当することが多く、販売数を向上させるための広告運用等を担当していました。

–働く上で心がけていることはありますか。

パーソナルヘルス領域は迷信のようなものが多いため、誠意を持って根拠のある情報を提供していくことを心がけています。

また、ビジネスパーソンとして打席に立つ際にはいい準備をして、情熱を持ち、徹底的にやりきることを意識し続けました。私が大学3年生の頃、代表が助言をしてくれたことからこの意識が生まれ、徹底し続けることで数字、成果も伸びていきました。

 

イップスを患うもレギュラー復帰。過程を成長機会に

–幼少期のご自身のことで覚えている記憶はありますか。

10歳から父とは離れて暮らしていて、数ヶ月に一度会う機会がありました。読書が好きで、父からビジネス書をもらって読んでいて、(もらった書籍の中に)小説仕立てでビジネスノウハウをインプットできる書籍がとても印象に残っています。そこで、父からもらった伊賀泰代著「採用基準」やゴールドラット著「ザ・ゴール」などを読んでいた記憶があり、それが今にもつながっていると感じています。

他には、兄の影響で始めたテニスにも打ち込み、全国大会優勝を目標にしていました。地域のテニススクールに通い、プロを目指す選手たちの中で練習を重ねました。

その後、歴代優勝回数トップクラスを誇るテニス強豪校に入学し、1日5時間以上の練習を週6日続ける日々を過ごしました。必死に取り組むも思ったような成果が出ず、イップスを発症してしまいます。

–イップスを経験した前後で変わったこと、感じたことはありましたか。

テニス自体を諦めることはせず、日本を代表するコーチやトレーナーからのサポートを受けながら試行錯誤を続けていくと、次第に成果が出るようになり、団体戦のメンバーとして全国大会に出場することができました。

選手と兼任する形で主務(マネージャー)も担っていて、大会出場手続き、後輩のサポート、全体のマネジメントに携わるようにもなりました。チーム全体を見る視点が磨かれ、視野が広がるような成長を感じました。

–受験期、大学在学中はどのように過ごしていましたか。

高校の先輩に相談していると、「テニスだけじゃなくて、社会のことも見たり学んだりした方がいい」という助言をもらいました。当時すぐには意味を理解しきれなかったのですが、ボランティア活動に参加したり大学の公開講座に出席してみたりしていました。そこで障害者スポーツの現場を訪れる機会があり、自分がテニス選手として得てきた視点、視野の外側にある世界を知ることができ、大きな学びになりました。ここで見聞きした内容は、自分自身が学部を決める際にとても役立ちました。

青山学院大学の法学部に入学したのですが、入学式の学部長挨拶の内容がとても印象的で、今でも覚えています。

「君たちは等身大でいい。決してエリートにならなくていい。現実を直視し、社会の問題を見るんだ。社会人になるまでの時間を有意義に活用し、社会を多面的に見ていけばいい」

在学中はドキュメンタリー映像、社会問題を扱う書籍などに触れる機会が多く、リアルな人物ストーリーや生活に目を向けることが増えました。まだ自分が知らない世界、社会があることを学び、社会と法律の関係性も深く知ることができました。その学びによってこれまで以上に法学を学ぶ意欲も向上しました。

 

誰もが挑戦できる社会と試行錯誤できる環境を作りたい

–今後挑戦したいこと、展望を教えてください。

当社に入社後はデジタル広告領域が好きで、マニアと呼べるくらいにずっとデジタル広告のことを考えていました。やがて上流のマーケティング戦略を変えないと事業が2倍・3倍という成長は実現できない…という時期を迎え、チームでディスカッションをしたり社内勉強会を通して新たな知識を取り入れたりしながら学び直しました。学んだことを実際の施策に落とし込みながら進めていくと成果としてあらわれ、個人としても成長を実感できました。

現在は日々ユーザーと数字に向き合うことを意識し、「誰の何をどのように」を常に考えています。また、新しい施策を出すときは、自分たちの経験やノウハウにとらわれず自分の器を超えた挑戦を行うことを意識し、壁を突破できる方法を模索しています。

今後に向けては、人が健康で前向きになれて、「(このサービスと出会えて)人生が変わった」といわれるような事業をつくりたいです。事業を通して得られる体験が、今までになかった新しいものだと一層嬉しいですね。

より個人的な観点では、多くの人がチャレンジできる仕組みを生み出し、「誰もが挑戦できる社会」を作りたいです。

例えると、お腹が減っている人に食材や料理を与えるのではなく、食材を調達できる方法を教えることがしたいんです。イギリスには「You can lead a horse to water but you can’t make it drink.[※]」ということわざもありますが、人が主体的に挑戦し、途中で壁がでてきたとしても諦めず、何度もやり直しながら挑戦を続けられる環境が作れれば…と思っていますし、その土台になるのがヘルスケアやウェルネスの領域だと考えています。

[※]You can lead a horse to water but you can’t make it drink.

直訳:馬を水飲み場まで連れて行くことはできるが、馬に水を飲ませることはできない。

意訳:他人がサポートすることはできても、結局やるかやらないかは本人次第だ。

 

取材・執筆=山崎 貴大