幸福度が低いときに得られる学びこそ、自分にとって貴重な経験になる。モクジヤ代表、鈴木粋

アクセラに参加し、大きく事業が前進

ー学びや教育を取り巻く環境に課題感を見つけられた後は、どのように動いていかれたのでしょうか?

大きな指針は立ったものの、どのような課題感に訴求する事業を展開するかは、まだフワフワしていました。

当時は事業が明確に定まらず、大学からの相方2人と大学の空き教室にこもって、ひたすらプログラミングの勉強をしてサービスを作っていました。

人に聞いたり壁打ちしたりすることが、あまりいいものだと思っていなかったので、とりあえず作業をする。今となっては、そこが大きな勘違いだったかなと思います。

楽しくはあったんですが、モヤモヤがあって、もどかしい感じでした。

そんなときに、株式会社talikiと京都リサーチパーク株式会社が共催されていた「社会起業家支援プログラムCOM−PJ」に参加させていただけることになりました。頼ることが苦手なので、少し妥協感はあったのですが、ここが明確な分岐点になりましたね。

事業の伴走をしてくれるプログラム内で事業を立ち上げ、進めていく上での基本的な部分やテクニカルな部分を学び、行動に移す機会を得ました。そこで自分たちのドメインになりつつある、「奨学金」という明確な課題感をつかめました。

ーどういった流れで、軸が奨学金に決まったのか教えてください。

大学1〜2回生で衝撃的を感じた、教育周りのお金の課題感はずっと持っていました。

それを落とし込むフレームワークや、手段を知らなかったんですよね。プログラムに入ってから、基本的なヒアリングの仕方や、それをどう分析したらいいのかを教えていただきました。

実際にやっていくと、明確な答えが得られるようになってきて。僕は教科書にフォーカスしていたんですが、留学とか学費の支払いとか、それにひも付いた奨学金業界の課題感がすごく深いし、多いところにぶち当たりました。

初めは難しそうだなと思って、ひるみかけたんですが、奨学金業界や制度の知見を深めていく方向に踏み込んでいきます。ようやく、ここに全力を注ぎたいと思うような課題感に巡り会えたのかなと思います。

またピッチにも初登壇し、伝えることの大切さも知りました。プログラムに参加したことは、間違いなく大きく前進するきっかけになった出来事です。

ー目標が定まらないときは、あえて手段を学んでみると明確になりそうですね。シュッドリストを作るにあたって、できないかもしれないと思ったタイミングはありますか?

そうですね。シュッドリストも本来作ろうと思っていた形と変わってきた部分があります。

本当は、もっと高性能なサービスを立ち上げようと思っていたのですが、大学2〜3年生で得たプログラミングのスキルでは限界があったり、業務量が2人ではどうにもならない部分があったりしました。

学生さんの課題を解決するためには、何が必要なんやろうっていうところまで、なるべく落とし込んで機能もそぎ落として、シンプルでもちゃんと使っていただけるようなサービスを作りました。

技術的な限界を感じたことはありましたが、ネガティブなことだけではなく、シンプルさもスタイリッシュともいえますよね。

自分ができる範囲で、十分な機能を得ることも可能だと思うので、小規模でもどれぐらい小さいサイクルでユーザーの課題感を払拭できるのか、みたいなところを追求していくと、案外できると感じています。

その1つの形が、シュッドリストだったなと思っています。

給付型や賞与型奨学金は、諸問題を解決する有効的な手段の1つ

ー現在はどんな活動をされているのでしょうか?

現在は、協賛モデルに依存しない支援のエコシステムに着目しています。

既存の給付奨学金にも素晴らしい側面がありますが、やはり社会性やSDGsといった理念に対する協賛モデルがメインになるため、支援制度の数や規模感に頭打ちがあります。

事業者であれば、誰もが避けては通れない「購買検証」。自社の製品は、顧客にお金を払ってもらえるのか、顧客に本来の価値や魅力が伝わっているのか。それらを把握するには、「検証コストと不確実性の高さ」がハードルでした。

私たちは、自社製品やサービスの実購買検証をしたい事業者と、学びや体験のために資金や機会を必要とする若者をマッチングする検証プラットフォーム『モクジヤ』を開発検証中です。

まず事業者に「より手軽でより確実な購買検証」を価値として提供することで、支援の形が持続的に生まれる仕組みづくりをしています。

ー今後メンバーを増やす予定はありますか?増やすとしたら、どんな方を求められているのか教えてください。

まさに今、チーム作りをしようとしているところです。これまでの思考を切り替えて、チームマネジメントを急速に吸収しています。

自分から物事をつかみ取ってきてくれるような方々に、初期メンバーとして入ってきていただきたいです。

僕もまだアマチュアの部分があるので、初めのうちはプロフェッショナルでなくてもいいと思うんですよ。

それでもすぐに動ける人ってなかなかいないので、失敗しても大丈夫だけれど、もちろん学ぶ意欲もある。奨学金業界を深く読み解いて、つかみ取ってきてくれるような人。

端的に言うと、行動力がある人ですね。初めの8人が、企業の風土を作ると言われているので、同じビジョンに向けて、何でも言い合えるような人たちであってほしいなと思っています。

そこを重視して、メンバー集めをしていきたいですね。

ー最後に、鈴木さんが幸福度の低いときに得られた学びの中で、一番大切だと思っていることを教えてください。

先ほども少しお話ししたのですが、幸福度の低いときは、望まない環境にいるときだと思います。僕が辛い環境にいるときに身につけられたスキルは、「逃げる」だと思っています。

部活動を3カ月で辞めたりとか、筆箱に紙人間を入れる謎の選択肢を編み出したりとか。思考を巡らせて、そのときの自分にとって最適な選択をしている。

表向きは活力あふれるような生き方ができましたが、その背景にはほどよく自分に合った逃げ方をして、幸福度の低い環境を切り抜けてきた経験がある。その経験が精神力を鍛えて、強くしてくれたなと思っています。

何でもかんでも逃げたらダメですけれど、辛い環境にあったときは逃げ方を工夫してみる。逃げる方法を探すこともおもしろいし、学びになるなと感じましたね。人それぞれに、おもしろい逃げ方がたくさんあると思います。

ー素敵なお話をありがとうございました!鈴木粋さんの今後のご活躍も応援しております!

取材:丸山泰史
執筆:後藤ちあき(Twitter
デザイン:高橋りえ(Twitter