やりたいことを言い続けて、『あんよ』をリリース

ー実際に大学に入学されてみて、想像されていた環境とのギャップはありましたか?
はい。起業を押し出している学部とはいえ、起業を本気でしようとしている人はほとんどいませんでした。僕の期待と周囲の学生とのギャップに苦しみました。
僕は起業することを周りに宣言していましたが、「お前大丈夫か?」みたいな目で見られたり、言われたりしていたからこそ「じゃあやってやるよ」と、反骨精神が芽生えました。
大学に入ってよかったところは、情報学部自体が先進的で、スタートアップもたくさん輩出しているので、起業した先輩方にも気軽にアクセスができ、情報交換ができる。教えてもらえる機会に恵まれたことが、大きな収穫かなと思います。
起業することしか頭になかったので、全く就活もしませんでしたね。めげずに「起業する」と言い続けていたからこそ、様々な人から声をかけてもらい、ご縁もあって、大学2年生の9月に合同会社ジークス(現:ジークス株式会社)を起業しました。
ー合同会社ジークスでは、どのような事業をされていたのですか?
当時は医療の知識や人脈もなかったので、まずはできることから始めようと思い、Deep Learning(主に画像生成や言語処理など)を中心に受託事業を始めました。
Deep Learningをわかりやすい事例で説明すると、検品作業をAIでやっていきましょうとか、工場内の移動をAIで効率化しましょうとか。
特にGANやVAE、GPTを用いた生成AIを強みにして、写真から3Dアバターを作ったり、議事録自動生成のWebアプリを作ったりしていました。
それと同時に、名古屋大学や名大病院などの医療関係者とコミュニケーションをとり、「医療分野でやりたいって言っているAI起業家がいるよ」「何それおもしろそうじゃん」と話が広がっていき、ご縁や機会をつないでいきました。
ーご縁もあって、そこから医療事業を始められたそうですが、苦労もあったのではないでしょうか?
ご縁あって念願の医療事業をスタートしましたが、自社プロダクトの開発に難航しました。
実は最初は大人の領域で、その人がかかるべき診療科や病院をピックアップして、提案する事業をやっています。課題を出しては工夫して、提案しては工夫してをくり返し、12回以上ピボットを繰り返しました。
使っていただいた方にヒアリングをしてみると、「子ども用がほしい」「大人は年に1回使うか使わないかだけど、子どもなら毎月使うかもしれない」とご意見をいただきました。
小児医療にチャンスがあることに気付き、小児の切り口から始めることにしました。そこでリリースしたオンライン診療アプリが『あんよ』です。
熱などのわかりやすい症状に至らなくても、例えば便秘や肌荒れ、鼻水などのちょっとしたことでも、インターネットで調べてもわからないので不安になってしまう。小児のオンライン診療で、価値を提供できるんじゃないかなと思いました。
お子さんを連れて病院へ行かなくても、診療してもらえて薬ももらえる。ライフイベントのために、現場から離れざるを得ない女性医師も働ける。両者がWin-Winの形でマッチングするプラットフォームです。
ありがたいことに「使いやすい」とフィードバックをいただき、手応えを感じています。
それから小児科学会にも出席して話をさせていただいて、女性医師が増えていくなかで、在宅で医療のために働けることはすごく価値があると教えていただいたので、さらに自信につながりましたね。
シンプルな仕組みで、分け隔てなく最適な医療を届けたい

ー村上さんが今後挑戦してみたいことや将来の展望はありますか?
私は、「シンプルな仕組みで、分け隔てなく最適な医療を届ける」というミッションを掲げています。
医療は命が関わるところなので、人によって差があってはいけないと思っています。その人が必要としている医療にすぐアクセスができる。あるいは、アクセスするきっかけを作るのが僕らのミッションです。
現在はミッションに向けて、小児のオンライン診療をやっているのですが、今後は成人にも広げていきたいと思っています。
忙しいビジネスマンが、なかなか病院に行けずに、体調不良をズルズル引きずらせてしまう。これはある意味、医療難民だと思うんですよね。
時間が取れないという理由で医療にかかれない。そこに対して、便利さや手軽さで医療提供をしたいなと思っています。
すぐ手に取れるところに、自分のだけの医療のポータルがあり、アクセスしたらどうすればいいのかわかるし、診療も受けられて薬ももらえる。1番身近な窓口を作っていこうと思っています。
今後も『あんよ』を起点に、ミッションに基づいたプロダクトをやっていきたいです。
ー最後に、やりたいことに挑戦したいと考えているU-29世代の方や、現状を変えたい方へ村上さんからメッセージをお願いします。
先ほどお話ししたエピソードもそうですが、僕はとにかく前に進み続けていました。
医療従事者でもなく、ビジネス経験もないなかで、それでも「医療業界で事業をしたい」と言い続けたら、結果的には医療従事者のような形で関わらせていただいています。
「無理だろう」と言われ、やらない理由が無限に見つかるなかでも、やり続けたいことがあるのであれば、本気で発信していくと、自然に周りが同じ方向に向かってくれることを僕は経験しています。
23歳の若輩者が、医療業界で事業を起こすことは、普通はありえないことです。
それでもやりたいことを言い続けて、自分の信念に基づいて前に進み続けたからこそ、現在のところまで至れたんだなと思っています。
ー素敵なお話をありがとうございました!村上嘉一さんの今後のご活躍も応援しております!
取材:落合慶太(Instagramr)
執筆:後藤ちあき(Twitter)
デザイン:高橋りえ(Twitter)



