考えや決断は曖昧でいい。農家民宿オーナー・唐崎翔太の人生哲学

心が疲れた人が立ち寄れる宿・島旅農園「ほとり」を開業

ー民宿を始めた経緯を教えてください。

就職した職場でパワハラに遭い、退職をしました。

退職後に何をしようかと考え、「組織で働くのは無理やな」と思いました。独立の不安と、組織に入って今後パワハラに遭う不安を天秤にかけたところ、独立の不安のほうが小さかったのです。

僕の場合は、親や友人など手を差し伸べてくれる人がいましたが、辛いことがあった時に助けてもらえない人もいますよね。辛いことがあった時には行く場所があると良いと思っていて。喫茶店に通ったり宿のオーナーと話したりなど、どんな場所でもかまいません。

僕に何ができるか考えたところ、「民宿ならできるのではないか」と思い、島旅農園「ほとり」の開業に向けて動くことにしました。

ー民宿を立ち上げるに当たり、不安はありませんでしたか。

お金の知識が少なかったので、見切り発車でのスタートでした。それで良かったのだと思います。事前に知識をつけていたら、恐れが先走って前に進めなかったかもしれません。田舎は生活コストが低いので、小さな金額で起業を始められたのも良かったです。

失敗してもいいから、まずは1年間がむしゃらに働こう」という気持ちで始めました。お金や経営に関しては最近になって考えるようになり、慌てているところです(笑)

ー民宿を開業するまで、大変な思いをしたのではないでしょうか。

島や市、県などの地域の方たちのおかげで開業までスムーズに進みました。民宿を始める前から、アルバイトを通して地域とのつながりがありました。島の方はおしゃべり好きな人が多いので、普段からコミュニケーションを取っていたんです。「民宿をしたい」「唐辛子を育てたい」と話すと、詳しい方につないでもらうことができました。民宿を立ち上げるための補助金を取るときもサポートしていただき、周りの方のおかげで現在に至っています。

ないよりあったほうがいい。現実を良くするためにできること

ー唐崎さんの運営している民宿は、どのような雰囲気ですか。

民宿ではお客さんとの距離が近く、お話をすることが多いです。僕の旅行の話をしたり、お客さんにお話を聞かせてもらったりしています。

僕は本に影響されたタイプなので、「偶然が起こるきっかけになれば」と宿に本を置いています。

ー偶然が起こることを意識しているのですね。

偶然の積み重ねによって、素晴らしい偶然が起きる可能性が上がります。

民宿をしていると、人が集まったり農業をしたりと、たくさんのきっかけが作れます。僕の民宿がどれだけ影響するかわかりませんが、泊まりに来てくれた人の何かしらのきっかけになると嬉しいですね。

ー民宿の他にも活動していることがあるそうですね。どのようなことをされているのですか?

電話でお話を聞いています。会社員時代、僕自身も逃げたいぐらい辛い思いをしたので「辛かったら逃げてきてくださいね」と民宿のホームページに書いています。しかし、遠い場所にいてすぐに香川に行くことができない人もいますよね。それなら辛い時に電話をしてもらえたら良いのではないかと思い、電話番号を公開しています。

ー今後していきたい活動はありますか。

不登校支援をしてみたいと思っています。とある不登校の中学生が、1ヵ月程度島に滞在したことをきっかけに考えるようになりました。不登校の問題は今も残っています。そこで、僕の民宿を居場所として活用できるのではないかと考えています。民宿に遊びに来てもらったり、休憩場所として使ってもらったり。まだまだ構想を練っているところです。

戦争やいじめも世の中にないのが理想ですが、現実にはなくなっていません。僕が生きている時代には解決しないかもしれませんが、「とりあえずの逃げ場」を用意できると良いのかなと。その点で、僕の民宿もないよりはあったほうがいい気がします。「民宿が心が疲れた人の拠り所になれば」という思いのもと、日々活動しています。

ー最後にU-29世代にメッセージをお願いします!

判断に迷っているなら、迷ったままでいいと思います。旅行でも目的地を決めずに行くと、偶然の出会いがありますよね。

民宿の名前である「ほとり」も、まさに曖昧さを表しています。「海のほとり」という言葉があります。海のほとりである波打ち際も、どこからが陸でどこからが海なのか一秒一秒変わっていて、曖昧じゃないですか。

人生において生きるレールや成功論は、座標軸で考えられがちです。しかしあえて軸を決めずに過ごしてみれば、別の軸が生まれるかもしれません。

曖昧なまま進んでみることで生まれる偶然を、楽しんでほしいです。

ーありがとうございました!唐崎さんの今後のご活躍を応援しております!

取材:あすか(Twitter
執筆:馬場史織(Twitter / note
デザイン:高橋りえ(Twitter