「この時間なら働ける」人と「この時間だけ働いてほしい」企業をつなぐスキマバイトアプリ「Timee(タイミー)」を運営している株式会社タイミー(以下、タイミー)は、2017年8月の設立以降、多額の資金調達に成功。
そんな破竹の勢いで成長し続けているタイミーですが、社長の小川 嶺(おがわ・りょう)さんは、1997年生まれの若手起業家で、高校生の頃からすでにビジネスを生み出してきたと言います。
そんな小川さんの起業のきっかけから「Timee」が生まれた経緯、そしてアイデアを生み出す方法や成長するための思考法まで、U-29世代の背中を押してくれる話をたっぷりと伺いました。
「人生の時間は有限」だと気付き、走り始めた高校時代
ー 小川さんが起業したいと思ったきっかけは何だったんでしょうか?
高校で生徒会長をやったことです。リーダーとしてマネジメントしていくということ、学校から予算をもらって文化祭の集客を増やしたこと、そして組織を作って何かをやるということに興味を持ったのが大きかったですね。
ー 小さい頃から起業を目指していたわけではない、と。
はい。高校で生徒会長を経験したりビジネスコンテストに出たりして、ビジネスに興味を持ち始めたという感じです。また、曽祖父が起業家だったんですが、祖父の代でビジネスが上手くいかずにそのまま祖父が亡くなったのが高校生のとき。だから祖父のやり遂げたかったことを自分がやりたいとも思いました。
初めての身近な人の死だったので、「いつ自分も死ぬかわからない」「人生の時間は有限だな」と感じ、早く行動しなくちゃなと思うようになったんです。
ー 大学に入ってまずはじめにチャレンジされたのはどんなことだったんですか?
僕が入学した立教大学には起業を志す人が少なかったので、仲間を増やしたいと思って起業家を育成する学生団体を作りました。実践的なビジネスを学ぶ場で、OB訪問に行ったりベンチャー企業の社長さんに会いに行って話を聞いたり、自分たちで事業を作ってみたりしていましたね。
ー 自分たちで商いを作る経験をされたわけですね。他にはどんなチャレンジを?
KBC(Keio Business Community=慶應義塾大学のビジネス学生団体)に参加し、そこのビジネスコンテストに出場して優勝しました。それがひとつのターニングポイントになっています。
ー そのビジネスコンテストで出したのは、どういうサービスだったんでしょうか?
「FASTU」という、ファッション系のマッチングサービスです。自分の写真を撮ったら、それに合った服をバーチャルで接客してくれるという、簡単にオシャレになれるというもの。
ただ、そのサービスはプロジェクト止まりでした。オシャレな女性向けのサービスにしたほうがいいというアドバイスをいただいて「Recolle(レコレ)」というサービスにピボットしたものの、「これ本当に自分がやりたいことなんだっけ?」と思うようになってやめることに。
ー やめる決断をするのは簡単ではなかったと思うのですが。
自分が悩むような事業をやっちゃいけないと思っているので、「時間の無駄だ」という結論で撤退を決めました。自分の腑に落ちる事業を見つけて全力で走ったほうが近道ですし、他のメンバーもついてくる時間がもったいないと思うので。
ー 起業家がそのサービスに情熱を持てなかったら、どこかで限界がきてしまいますよね。
自分が心底困っていたから「Timee」が生まれた
ー その後はすぐに「Timee」のアイデアを思いついたわけではなく、模索していたそうですね。
そうです。学校に通い直して授業を受け、バイトをする生活を送っていました。「Timee」を思いつくまでは長かったですよ。アイデアを考え、実証実験をして…というのを繰り返していたので。その期間中はずっとプログラミングを勉強していて、自分でもアプリを作れるようにしていました。
ー 「Timee」は何回目の試作でできたんでしょうか?
ちゃんと作ったものの中では6回目です。作ったときは「当たった」という感覚はなくて、とにかく自分が欲しいと思えるサービスだったんです。いろんな人にアドバイスをもらった中で「人間の欲求の課題度がより深いサービスを作るべきだ」と言われたのが印象に残っていて。どこまでそのサービスが「なくちゃいけない」世の中を作れるかというのが一番大事だな、と。それがすごく腑に落ちて、そこからアイデアの質もけっこう変わりました。
RecolleやFASTUは「あったらいいな」というサービスで、課題度は低かった。「Timee」の場合、僕がお金がなくて「稼がないと死んでしまう」という中で日雇いバイトをやっていたので、課題は大きいなと思ったんです。
ー アイデアが思い浮かんだ瞬間、というのはあったんでしょうか?
毎日アイデアが思い浮かんでいるので、日常化されているんですよね。たまたま日雇いバイトをしていて、毎回面接会場に行くのが面倒だったしお金をもらえるのも後だったので、「もっと簡単に働けて、すぐにお金がもらえたらいいのにな」と思っていました。ここが変われば、世の中というより自分自身が楽になるな、と。だったら自分のためにサービスを作ろうと思ったんです。
ー アプリをリリースしてからは、どんな風に事業を展開していったんですか?
リリースしてからは順調で、3ヶ月ごとに売り上げが2倍になっていきました。その分、やることもメンバーも倍になって…というのを繰り返していった感じです。
ー トラクションもない状態で結構な額を出資してもらえた小川さんですが、投資家から信頼を得るためにやっていたことってありますか?
素直であることですかね。「世の中を変えたい」とか「世の中のためになる事業をこれからやり続けます」と素直に言えるかどうかが大事。投資家も人間なので、お金儲けだけでなく、世の中にどれだけインパクトを残せるかということを見られるんです。
あとは、ロジックでしっかり深く考えていること伝える。そして、どこまで夢をリアルに見ているか、自分が踏むべきステップとゴールをしっかり考えられているかという点が大事かなと思います。
採用のポイントは「バリューフィットしているかどうか」
ー 上場も考えられているそうですが、上場に向けて一番知恵を絞っていることは何でしょう?
とにかく採用ですね。最近は1日2人以上、最終面接を行なっています。うちは組織を大事にしているので、どんなスキルがあってもバリューフィットしない人は採用しないようにしているんです。健全な組織を保ちながら、人を増やして攻めていきたいなと思っています。
ー バリューフィットが大事だというのは小川さんらしいなと感じるのですが、具体的にどのようなバリューを持っている人を採用するんですか?
「スーパーフラット」「ハイスタンダード」「やっていき」という3つのバリューを大切にしていて、それを体現できている人を採用しています。
「スーパーフラット」というのは、年齢問わずピュアな若い心を持っていて、他の世代の社員とも同じ目線で物事を言える人のこと。「ハイスタンダード」は、ロジックでしっかり話せるかどうかということで、ちゃんと会話のキャッチボールができる人のことですね。かつ向上意欲がある人。新卒でスキルがなくても、向上心を持って「自分はこういう風に成長していきたいんだ」と言える人はポテンシャル採用する場合もあります。「やっていき」というのは、行動力を持っていてしっかりPDCA回せるかどうかということです。
この3つの条件のうち、ひとつでもなければ採用していません。あとは、自分が一緒に働きたいかと直感的に思うかどうかもありますけどね。
ー これらの3つのバリューは、どのように見極めるんですか?
話していたらすぐわかります。質問して深堀りしていく中でロジックが崩壊する人もいますし、マネジメントの方法を質問すればその人がどのようなスタンスなのかわかります。今の就活状況から行動力を図ることもできます。その上でタイミーでなくちゃいけない理由は何なのかを聞くとけっこうわかってくるかな、と。
ー タイミー出身の起業家が生まれたと聞いたんですが、メンバーのチャレンジを応援する企業風土なんでしょうか?
その通りです。うちでは「自分のステップアップのための踏み台にしてくれ」と言っていて、ずっといて欲しいとは全く思っていません。タイミーでどういう能力をつけたくてどうなりたいのかを各自に設計してもらい、その中で「複業したい」というのであれば応援しています。ゆくゆくは出資なんかもしたいですね。
僕自身が若手ベンチャーとしてやっているので、若い人に夢を与えるのも自分の役目だと思っています。夢のある人がタイミーに憧れて入ってネクストタイミーを作る、みたいなことができればスタートアップ業界も盛り上がっていくと思いますし、それが自分にできるバリューなのかなと。成長したい人はぜひ来ていただきたいですね。
小川流・成長するための思考法&アイデア発想法
ー 小川さんのお話を聞いていると「自分ができないこと・知らないことを誰より勉強して吸収してアウトプットする」というサイクルがすごいなと感じるんですが、意識していることはあるんでしょうか?
思考力や市場を見極める力、どうしたらビジネスは上手くいくのかといったところを先輩起業家たちに会って聞き、自分なりのフォーマットに落とし込んでいます。僕はただ「タイミーにはどこが足りてなくてどうすれば成功するのか」を常に考え続けているだけですね。
ー 先輩起業家に会って話を聞いて学ぶ、というスタイルが多い?
はい、むしろそれしかしていません。一歩先にいる超えたい先輩に聞けば、ちょっと前に経験したことなので、リアルなアドバイスがもらえるんです。すごく参考になりますね。そのアドバイスを一旦実践して自分の会社に合うか試したり、自分なりにカスタマイズしたりしています。
ー すごいスピード感で会社が成長していて順風満帆に見えるんですが、これまでで大変だったことはありますか?
たくさんあります。自分が雇った人を辞めさせなくちゃいけないことや、子供がいる人を雇うことへの責任感など、考えるものがありました。あとは、残キャッシュがなくなって資金調達できなかったら潰れていたかもしれないという状況に陥ったこともありました。
他にも色々と大変なことはありましたが、どちらかといえばポジティブなことのほうが多いので、あまり辛いという印象が残っていないですね。
ー 客観的に見れば失敗でも「糧になる」というマインドを持っているのが小川さんかな、と感じます。課題にぶつかったとき、乗り越えるためもしくは解決するための思考法はあるんでしょうか?
課題に対してやるべきことが見えているんだったら、やるしかないんですよね。とりあえず動く。やらざるを得ないことなら、腹くくってやるしかない。資金調達もそう。結局は行動力なので、やってPDCA回すのが一番早いと思っています。
ー 小川さんはアイデアを生み出すことも習慣化されていますよね。小川さん流の発想法があれば教えてください。
自分が不満に思ったら、それがアイデアなんじゃないでしょうか。生きていて不満に思わないことってないので、些細なことでも一回アイデアとして考えてみる。そのトレーニングを繰り返すことで、本当にクリティカルな課題が見つかったときにアイデアを思いつきやすくなります。
ー 不満に対して敏感になることがスタートなんですね。
そうですね。不満をただ「不満だな」と思うだけでなく、しっかりそれに反応できるようにするのが大事です。「Timee」も同じで、みんな心の中では不満に思っていたのに行動に移さなかったというだけ。不満を課題だと捉えて取り組めるかというのがポイントだと思います。
ー 不満に気づく、不満の解決策を思いつく、それを形にする……というステップがあるわけですね。
夢を追う人が幸せに生きられる世の中を目指す
ー タイミーの今後の事業について、どんな風に考えていますか?
まずは国内のクライアントにいいサービスを提供できるプロダクト作りと、ユーザー・クライアント獲得をやっていきたいなと思っています。数字はあえて決めないようにしていて、それよりは、どこまで世の中にインパクトを出せるかを考えたい。もちろん事業計画では数字を決めていますけど、それを気にせず突っ走っていきたいですね。
あと、グローバルで戦える会社になりたいと思っているので、しっかりデータを蓄積して、グローバル展開を見据えた動きができればなと思っています。
ー タイミーには「一人一人の時間を豊かにする」というビジョンがありますが、今後は仕事以外でも時間を豊かにするようなマッチングを提供することもあるんでしょうか?
「Timee」を開けばその人の時間が豊かになる、というものを作りたいので、やったことのない趣味を広げる機会のマッチングでもいいですね。自分が見えていない選択肢ってたくさんあると思っていて、本当は暇な時間でできることってたくさんあるんですよね。
今後は、買い物代行や家事代行のようなCtoCサービスを広げていけたらな、とも考えています。
ー 他に考えている新規事業はありますか?
クラウドファンディングのようなものもやろうかなと思っています。「Timee」を、夢を応援できるプラットフォームに転換していきたいなと。せっかく夢を持っていても、バイトが夢に直結していない人がいるのがもったいないなと思っていて。だから、「Timee」でバイトをすればその人に信用度やファンがついて…という仕組みまで持っていけたらすごく面白いなと思っています。
あくまで一人一人の時間を豊かにする上での最終的なゴールは、みんなが夢を追いかけて幸せそうに生きることだと思っているので、そういう部分の支援ができればいいですね。まだアイデア段階ですけど。
ー 2020年はどんな勝負を仕掛けたいですか?
圧倒的ナンバーワンになる、というだけですね。2020年はそれを成し遂げられる組織づくりと、学生起業家としてではなく一経営者として実績を出せるようなフェーズにしたいと思っています。
(取材:西村創一朗、写真/デザイン:矢野拓実、文:ユキガオ)