自分の声を大事に、文化の継承となるヒントを探し続ける伝統工芸とらくら代表・佐伯葉奈

ミュージカルの世界から伝統工芸の世界へ

ーその後、立教大学に進学されたかと思いますが、そこからどのような経緯で伝統工芸に興味を持つようになったのですか。

大学入学後、初めはミュージカルを続けるつもりで、早稲田のインカレサークルに入りました。運よく演目とマッチしたことで大きな舞台に立たせてもらうことが決まったのですが、重度の熱中症になったことでいくつかの公演を欠席せざるを得なくなりました。

療養中に時間ができたことで、ミュージカルを続けていいのか、という問いと向き合った結果、もう少し自分の好きなことを勉強したいなという思いに気づくことができました。そんな時に出会ったのが椎名林檎さんの「神様、仏様」というPVでした。

日本文化とジャズが組み込まれたPVで、日本文化をとてもかっこよく伝えているところに感動。私も文化の魅力を引き出すプロになりたいと思ったのです。

ーそこからなぜ伝統工芸とらくらに辿り着いたのでしょうか。

大学内で日本文化に関係するサークルを探す中で見つけたのが伝統工芸とらくらだったのです。そして工芸に関する知識は全くなかったのですが、積極的に活動をしていたところ2ヶ月後には代表を引き継がないかと打診されました。

私はもっと伝統工芸を発信する上で文化的側面を強めた継承を行いたいと思い団体の方向性を少し変え、現在のような活動に至っています。

ー現在は大学を休学され、ニュージーランドでマオリ文化を学んでいるとのことですが、それも伝統工芸とらくらでの活動がきっかけだったのですか。

そうです。活動する中でアイヌ民族の工芸に触れる機会があり、それまではアイヌ民族の暗い歴史しか知りませんでしたが、背景の神話や奥深い歴史に触れ、こんなにも素敵な文化を持っている方達なんだと知ることができました。

実際にその工芸が生まれた背景をもっと知りたいと思い、北海道を訪問。現地では訪問前に読んでいたアイヌアートに関する本にも登場されたアイヌ工芸家の貝塚徹さんにもたまたまお会いすることができたのは嬉しかったです。

ニュージーランドでマオリから学ぶ、文化の継承

ー佐伯さんが思う、アイヌ工芸の魅力を教えていただいてもいいですか。

背景にある神話や歴史もそうですが、色使いがとても素敵なところに魅力を感じています。

また、アイヌの方々は全ての自然や動をカムイ(神様)からのプレゼントとし、その返礼の儀式があります。鳥の鳴き声をベースにした歌が儀式では歌われたり、喜びを表現した舞いが儀式では踊られたり。これらの純粋な反映が真っ直ぐで素敵だなと思っています。

ーアイヌ工芸との出会いが、現在の留学にも繋がっているのでしょうか。

アイヌ民族について学ぶ中で、アイヌ民族とマオリ民族が交流していることを知ったのが留学を決めた理由です。アイヌ民族とマオリ文化には口の周りにタトゥーを入れるなどの共通点があります。

ニュージーランドではマオリ文化の継承に国全体で取り組んでいるため、マオリ民族の勉強をすることで「文化の継承」に関して何かヒントを得られるのではないかと思ったのです。

残念ながら大学の提携先にはマオリ文化を学べる場所がなかったため、休学をしてニュージーランドに留学することになりました。

ー現地に行っていて、マオリ民族について勉強してみていかがですか。

街中にいるホームレスの方を見るとマオリの方が多いなど差別の名残を感じています。また、国の呼び方が「アオテアロア」ではなく、イギリスの植民地だったことによって名付けられた「ニュージーランド」が選択されていることへの議論も起こっています。

一方で、混血が進んでいて、ピュアなマオリの方はもういないのですが、言語がしっかりと継承されており、文化も根付いている点には驚きました。

ルームメイトはマオリと中国のバックグラウンドを持っているのですが、マオリの神話に基づいたネックレスをつけていたり、マオリの伝統料理を作っていたりと彼らの日常には文化がしっかり浸透しているのです。

ー勉強したかったこと、触れたかった文化を知る絶好の環境がありそうですね。

勉強する中でマオリ文化の奥深さを感じています。家系図(whakapapa)を大事にする民族で、これまでの歴史を次世代にしっかり伝えてきていることが分かり、そのコミュニティに飛び込むことに抵抗も少し感じています。

私が日本人というのもそうですが、私はイギリスのクォーターでもあるからです。彼らにとって「外部の人」であるからこそ、彼らの歴史や文化をもっと学ばないといけないなと思っています。

自分に素直に生きることが一番のエネルギー

ーまだまだこれから、というところかと思いますが、大学在籍中の目標や将来の目標などがあれば教えてください。

アイヌ民族やマオリ民族を通して、文化の継承に関しての研究を進めていきたいと考えています。マオリの文化がどのように学校教育に取り入れられたかなどは継承へのヒントになると思っているので留学中にできるだけ多く学びたいです。

また、伝統工芸とらくらの活動をする中で、日本では工芸が産業として捉えられていることに違和感を感じるようになりました。技術の高い工芸品が売れる工芸品という訳ではありません。

市場を回さないと継承が難しいのは分かってはいますが、伝統工芸をビジネスの文脈で語っていいのかという疑問が残っています。この文化継承のヒントも、マオリを通して見つけたいです。

将来的にはアイヌ文化をもっと多くの人に広める活動と日本の工芸を若者に広げる活動をしていきたいと思っています。

ーこれからが本当に楽しみですね!最後に、佐伯さんのこれまでの人生を通して、同世代に伝えたいメッセージがあればお願いします。

自分のオタクになることをお薦めしたいです。自分の声を聞くこと、自分を知ること、そして自分に素直に生きることが一番のエネルギーになると私は特にニュージーランドに来てから知ることができました。

気持ちさえあれば、どんな環境でも何かできることはあると思います。少しの勇気を持って、自分がやりたいと思ったことを大事に、興味を持った世界に飛び込んでみてください。

取材:あすか(Twitter
執筆:松本佳恋(ブログ / Twitter
デザイン:高橋りえ(Twitter