周りから受け取った優しさを還元したい。真宗大谷派教師・武田浄信の傾聴の心得とは

様々なキャリアの人たちが集まって、これまでのステップや将来への展望などを語り合うユニークキャリアラウンジ。第599回目となる今回は、真宗大谷派教師・武田浄信(たけだ きよのぶ)さんをゲストにお迎えし、現在のキャリアに至るまでの経緯を伺いました。

現在大学に通いながら、ボランティア活動や遺書動画伝言サービス「TETOTE」の考案など、さまざまな側面で活動している武田さん。武田さんの原動力となるものは一体何なのか、お話を聞きながら深掘りしていきます。

東日本大震災を機に、何かできることはないか考え始める

ーまず、簡単に自己紹介をお願いします!

龍谷大学3年生の武田浄信です。現在大学に通いながら、ボランティア活動や遺書動画伝言サービス「TETOTE」の考案を行っています。

ー武田さんのご実家はお寺だそうですね?

はい。実家がお寺の家系で、僕自身も3年生に進級する前に大学を休学し、僧侶資格を取得しました。

ーご実家がお寺だからこそのエピソードを一つ教えてください。

子どもの頃、友達と同じような悪さをしても「お寺の子なのに!」と、なぜか友達よりも怒られるんです。それもあったからかお寺のことが大嫌いでした(笑)。

お寺に生まれたという理由で1人の人間として扱ってもらえないこともあって、当時は悲しかったですね。

ー当時抱いた葛藤が武田さんの人柄を形成しているのかもしれません。現在、勉学に励みながらボランティア活動も行っていますが、10歳の頃に見たニュースがきっかけだそうですね。

はい。僕の実家がある兵庫県は1995年に阪神・淡路大震災があったので、家族からよく話を聞いていましたが、実際どんなものか想像ができませんでした。

そんなある日、授業が終わり自宅に帰ると東日本大震災のニュースが流れていて……。自分が住んでいる地球で、こんな恐ろしい事態が起きていることに衝撃を受けました。

その光景を見た瞬間「この人たちのために何かしたい!」と思ったのです。でも小学生という立場である以上思った通りに動けず、自分の無力さを実感しましたね。

ーニュースで流れる映像は衝撃的だったのを覚えています。小学生ながら行動に移したいと思ったのは何か理由がありますか?

お寺は幅広い年齢層の方々が訪れる場所で、団らんの時間もたくさんありました。そのニュースを観たときに「いざ自然災害が起こったら、周りの人々の笑顔が見られなくなる」と悲しくなってしまって……。

自分自身ができることは何かと考えた結果がボランティアでした。

ボランティア活動を経て、微力かもしれないけど、無力ではないと知れた

ー大学に入学後、ボランティアに参加されたそうですね。

はい。大学1年生の4月から「NPO法人国際ボランティア学生協会」に所属し、現在はリーダーを務めています。活動としては主に環境保護や地域活性化、児童養護施設に入所している子供たちに勉強を教えたり、一緒に遊んでいたりしています。

ー実際にボランティアに参加してみて、学んだことはありますか?

人と向き合う難しさを学びましたね。

僕が「その人のために何かしたい」と良かれと思って行っているのに、かえって迷惑をかけてしまうことがあると感じました。本当の意味でその人を理解することは不可能だと。だからこそ、その人と話をし続け、100%理解できる訳ではないけれども、できるだけその人の理想に近づけるように心がけました。

ーその活動自体を通して、やりがいはありましたか?

地域活性化となると何年、何十年もかかるのであまり実感が湧きません。現在のボランティアとは別で災害救援に行った際に、3日ほどの活動だったのにもかかわらず「ありがとう」と言われたときは、とても嬉しかったです。

「微力かもしれないけど、無力ではないな」と実感できました。些細なことでもできることはやっていきたいと思い、現在も続けています。

ーボランティアを続けていくうちに、苦しかったこともあったそうですね。

ボランティアに参加する機会が増えていくうちに「助けられない命がある」と知りました。また、ボランティアをしているときに「その人をしっかり理解して、僕らは助けられているのか」と疑問を抱くようになったのです。

さらに役職を積んでいくにつれてプレッシャーを感じたり、業務的になってしまったりして、自分の軸である“人に寄り添う”ことができなかった時期もありました。

自分と同じような経験をしてほしくないと思い考案した「TETOTE」

ーその後、大学を休学することになったそうですね。

はい。ボランティアのプレッシャーで疲れてしまったのに加えて、大学3年生に進級する前に兄が体調を崩してしまって……。「家族に何かできることはないか」と思い、大学を一度休学し、大谷専修学院に1年間通って僧侶資格を取得しました。

ー大谷専修学院に通って何か心の変化はありましたか?

そこに通っている方々の悩みを聞いたり、授業を受けたりするうちに自分の考えが広がっていきました。また学院の「選ばず・嫌わず・見捨てず」という理念に感化され、人それぞれの意見があるのは当たり前で、その意見を受け入れる心が大切だと感じるようになりました。

ーでは次に「TETOTE」について教えてください。

「TETOTE」は遺書動画伝言サービスです。亡くなる前に伝えたいことや、自分の後世に伝えたい思いを動画にして、生きた証を残すサービスです。亡くなったときに、「亡くなった」という事実だけではなく「命を繋いでいきたい」と思っています。

ー「TETOTE」を考案したきっかけはあったのでしょうか?

東日本大震災の翌年、祖母を亡くしたのが大きなきっかけです。当時の僕は幼く、いつも祖母と喧嘩していました。そして喧嘩したままお別れすることになってしまったのです。

祖母が亡くなって約10年経ちましたが、祖母との思い出はうっすらと残っているだけでパッと思い出せず……。それはとてつもなく寂しいことだなと思いました。

子どもの頃は、なぜ怒られているのかわからなかったけれども、大人になった僕であれば祖母が伝えたいメッセージを受け取れていたのではと考えてしまうことがあります。

ー確かに。子どもの頃は大人が言っていることが何かよくわからなかったですよね。

そうなんですよね。たとえば、親に「後悔するからやめておけ!」と言われても、親とは年齢や立場が異なるので、納得できず反抗してしまいます。でも年齢を重ねるうちに「親はこういう理由で僕を叱ってくれていたのか」と、理解できるケースもありますよね。

もし親や友人が亡くなったときに、その人からアドバイスがほしいと思う機会も増えていくでしょう。

そんなときに動画を観て「頑張ろう」「親がこういう風に言うならば、行動をしてみよう」と、死後に繋がっていくものを僕は大切にしたい。動画を通して伝えていく大切さが、今の世の中だからこそ必要だと思います。

ーリリースはいつ頃の予定ですか?

2022年の夏頃にリリースしたいなと考えていますが、まずは身内から実験的に始める予定です。

また、さまざまなお寺が経済面や宗教離れで困窮していて「TETOTE」は命だけではなく、お寺同士が繋がるきっかけになればと思っています。そして動画を通して、仏教についても興味を持ってほしいですね。

周りの人が笑顔でいられることが、自分の幸せに繋がる

ー今後の展望を教えてください。

まずは経験を積むために企業に就職し、社会の荒波に揉まれたいと思っています。いろいろな方々の悩みを聞いて、皆さんが笑顔になれるよう全面的にサポートしていきたいですね。

人材派遣の企業に就職希望ですが、派遣の方々も仕事をしていくうえで、辛い経験や納得いかない機会もあると思います。そのような人々の働く環境を整えて、支えていきたいです。

ー最後になりますが、武田さんの「人を支えたい」という気持ちはどこから湧いてくるんでしょうか?

もともと自分のために行動するのではなく、他人の気持ちを考えて行動する性格で(笑)。あとは幼少期の環境でしょうか。先ほどもお伝えしましたが、小さい頃からいろいろな方々に可愛がってもらいました。優しくしてもらった経験は今でもしっかり覚えています。

だから今度は自分が受け取った優しさを誰かに還元したい。還元することで、周りの人が笑顔になってくれることが僕の幸せにつながると思っています。

ーありがとうございました!常に周りに支えられていることを忘れずに生きていきたいですね。武田さんの今後のご活躍を応援しております!

取材:増田稜(Twitter
執筆:Risa(Twitter
デザイン:安田遥(Twitter