「目標を周りに公言しよう」Ayumi代表理事・山口広登の大切にしている価値観とは

様々なキャリアの人たちが集まって、これまでのステップや将来への展望などを語り合うユニークキャリアラウンジ。第639回目となる今回のゲストは、山口 広登(やまぐち ひろと)さんをゲストにお迎えし、現在のキャリアに至るまでの経緯を伺いました。

一般社団法人Ayumiの代表理事として、障害者「にしか」生み出せない経済圏の構築を可能にするバリアフリー認証を展開する山口さん。「障害を新たな価値へ」と話す彼は、いったいどのような考えを持っているのでしょうか。サービスをはじめたきっかけから、人生で大切にしている価値観まで幅広くお話を伺ってきました。

身体障害者の本来ある価値にに着眼し、バリアフリー認証を展開

ーまずはじめに、自己紹介をお願いします。

障害を価値に変えるバリアフリー認証を展開している一般社団法人Ayumi・ 代表理事の山口 広登と申します。

具体的な事業内容は店舗がバリアフリー対応をしているかどうかを「身体障害者」の目線で調査・審査・認証を行ないます。認証内容をもとにバリアフリー対策に関するアドバイス・障害者接客に関するアドバイス、SNS告知を通じ顧客獲得につなげる。

最終的な目標として、認証を通して店舗と障害者が歩み寄り、1つでも多くの不自由・区別をなくすことです。身体障害者が「また来たい」と思う店舗作りを目指しつつ、店舗には身体障害者のバリアフリーに関する経験という価値を還元できるようにしていきたいです。

ー「また来たい」と思う店舗作り、具体的な取り組みを教えてください。

はい。たとえば、店舗にある床の段差や店舗通路の広さ、エレベーターのドアが閉まるスピードなど、健常者は気づかなくても身体障害者が不自由だと感じる箇所が、実は多く存在しています。そういった箇所を、我々が定めた規格・基準をもとに策定した「バリアフリー対応チェックシートを用いて、調査・審査を実施するのです。

全部で85項目以上あるチェックリストをクリアすることは容易ではありませんが、見事認証を受けられた飲食店は、新規の身体障害者のお客様が来店するほど、変化を遂げています

ー全部で85項目だと、かなり細かいチェックが予想できます!そもそも、なぜ身体障害者のニーズに着眼したのでしょうか?

現在、全国の身体障害者は436万人いると言われており、同行者が1名以上必ず同行されるというデータもあります。これをカウントするとおよそ872万人規模の市場があります。店舗への来店に関しては、リピート率が健常者に比べておよそ3倍まで高まる予想もされており、店舗側も約6〜7倍の売り上げを見込めるのです。

ー市場のニーズを分析した結果、現在のサービスにつながっているのですね。

そうですね。個人的な話ですが、身体障害者として長年車椅子生活をしている親戚の存在も大きなきっかけになっています。

過去にいちど、「身体障害者のお客対応ができているかできていないかで、飲食店を決めている」と述べていたことがありました。彼らにとって、そういったバリアを壊す取り組みの必要性があると感じたのも、現在のサービスにつながっています。

「妥協しない人生を歩もう!」と生き抜いた過去

ーこれまでのお話を聞かせてください。山口さんはどのような過去を送られていたのでしょうか?

はい。幼いころから神奈川県で生まれ育ち、一般的な日々を送っていました。大きな転機として、2011年に発生した東日本大震災が挙げられます。

テレビに映っていたのは、津波で巻き込まれた被災地や原発事故の様子。自然災害の恐ろしさと、人の命が一瞬で終わってしまうはかなさを感じました。当時、高校1年生でしたが、この経験から悔いのない人生を送ろうと決意したのを、今でも鮮明に覚えています。

ーたしかに。山口さんのように、東日本大震災がきっかけで自身の人生を見直す人が多くいたと思われます。

その後、桜美林大学リベラルアーツ学郡に進学しましたが、当時の決意が色あせることはありませんでした。他大学に比べ、学歴コンプレックスを抱えていたにもかかわらず「妥協は絶対しない」と心に誓い、学生生活を送っていましたね。

具体的には、大学2年生のころから会社のインターンシップに参加し、人より「何倍も努力すること」を意識していました。常に100パーセントで行動している様子を評価され、就職活動では7社から内定をいただくことに。その中でも成長軸と挑戦できる環境を大切にしている株式会社クイックに入社しました。

ー話を聞く限り、充実した学生生活を送られていたのですね。ファーストキャリアではどのようなお仕事をされていたのでしょうか?

人材紹介事業部の営業部に配属されました。先輩と2名体制で新規エリアに配属されたときは、胸が高まる気持ちでしたね。人一倍頑張ろうと努力を続けましたが、新入社員時代の営業成績は常にビリ。上司・先輩にも迷惑をかけた問題ありの社員でしたね。

ー散々なスタートでしたね。努力が実を結ばれない経験はとても悔しかったのではないでしょうか?

そうですね、新入社員のときが1番苦しかったです。そのような自分を見捨てず救ってくれたのが、当時お世話になっていた上司や先輩の3人でした。

彼らは、自分を守るために嘘をついていた自分に対し「2年目の4月から6月の3ヶ月間、1回も嘘をつくな、自分と数字に向き合え。山口の強みであるまっすぐで誠実な部分を伸ばせ」と指導してくれました。ネガティブではなく、ポジティブな部分を評価していただいた上司の言葉は今でも忘れられません。当たり前のことですが、社会人の基盤を学んだ経験でした。

目標を公言することで見えてきた「やりたいこと」とは

ー人材会社での経験をされたあと、集客支援・拡大サービスをしている会社に転職をされています。そのころについて、教えてください。

もともと就職活動をしていたころから、ベンチャー企業で働いてみたいと考えていました。人材紹介サービスからまったく違う世界に挑戦しようと思い、株式会社Canlyに転職。Google Mapに掲載している店舗情報を一括管理するを展開し、カスタマーサクセスを担当していました。

そこで働く代表や役員との出会いが、わたしにとって大きなターニングポイントとなりました。

ーその代表や役員はどのような人でしたか?

自身が目指している世界を周りに公言し、結果を出している人でした。どんなことでも「こうしたい!」と思っていることを伝え、挑戦している姿にわたしも感化されましたね。

会話のなかでも「山口はどうありたいの?どんなことをやりたいの?」と自分と向き合う質問をしてくることも。彼らとの出会いなしに、現在のわたしは考えられないです。

ー山口さんの夢を応援してくれる、そのような出会いだったのですね。その経験がきっかけとなり、起業に至ったのでしょうか?

そうですね。冒頭でお伝えした親戚の存在や、リウマチが原因となり26歳の若さで職を失った祖母の存在が「身体障害者を救いたい、そういったサービスを始めたい」と思ったきっかけでもありました。

当時は、そのような知見もなければ経験もない状態。正社員時代から休日には身体障害者のコミュニティに参加をしたり、自ら車椅子生活を送りながら困りごとを感じていたり、身を持って学ぶ期間を設けました。

ーそのような経験を通じ、山口さんが改めて感じた課題は何でしたか?

車椅子生活のときに、友人から「なんで車椅子に乗ってるの?」と聞かれ、次第に距離を置かれるようになりました。車椅子に乗っているだけで別物扱いをされる。これが現状であり、そういった認識自体が課題だと感じましたね。

今後の目指している世界について

ー車椅子利用者をはじめとする身体障害者の課題を解決したい。その想いから現在のサービスが始まったのですね。

はい。現在、一般社団法人Ayumiでは7名体制で運営し、かつ18名のバリアフリー認証者(障害者)が在籍しています。

具体的なサービスの流れは、バリアフリー認証・集客支援を希望している店舗に赴き、認証者と一緒にバリアフリー認証活動を行なう。健常者には気づかない新たな発見を、身体障害者の目線で気づき、障害者だからこそわかる視点でアドバイスをしてもらうことで、障害が価値として生まれ変わるのです。

ー「障害が価値となる」名言ですね。山口さんが考える今後の展望について、教えてください。

わたしたちが目指すべき世界は「健常者と障害者との区別を無くすこと」です。

より詳しくお話すると「身体障害者にとって将来の選択肢が増える社会を築き上げる」「障害=弱者のイメージを変え、世の中が障害者に対して、風通しが良くなる」ことを目指しています。すぐに結果は出ない取り組みですが、着実に努力を積み重ねていきたいと思います。

ー最後に、この記事を読んでいるU-29世代へメッセージをお願いいたします。

わたしはこれまで「目標を周囲に公言し、行動する」ことを大事にしてきました。それはどんな夢の大小問わず、どんな夢でも同じことです。

清く・正しく・素直に・誠実に何事にも向き合えば、きっとあなたを応援してくれる人が増えてきます。そのような人を信じて、夢や目標を周りに伝えてみてください。

最後に、起業した際に師匠でもある理事の2人から送られた言葉をみなさんに届けます。

「他の人たちが過ごせない1日を過ごすから、他の人たちが過ごせない人生を過ごすことが出来る。他の人たちが過ごす1日を過ごさないから、一般の人では手に入れることが出来ない未来が掴める」

勇気を振り絞り、将来を切り開きましょう!応援しています。

ー心強いメッセージありがとうございました。山口さんの今後の活動を応援しております!

取材・執筆:田中のどか(Twitter/note
デザイン:高橋りえ(Twitter