子どもたちの可能性を広げたい。地域おこし協力隊で活動する豊泉元歌の “教育観” とは

様々なキャリアの人たちが集まって、これまでのステップや将来への展望などを語り合うユニークキャリアラウンジ。第584回目となる今回のゲストは、長野県内の地域おこし協力隊として教育をテーマに活動している豊泉 元歌(とよいずみ ゆきか)さんです。

豊泉さんが特別支援教育に携わった後に、地域おこし協力隊として活動を始めるに至った経緯や、大事にしている教育方針について伺いました。

大人も子どもも同じ “1人の人間” 。そこに優劣はない

ーまずは簡単に自己紹介をお願いします。

豊泉 元歌と申します。山梨県の上野原市出身で、大学では教育学部で特別支援教育について学んできました。

社会人になり教師として働いた後に、長野県木曽郡南木曽町で地域おこし協力隊として、教育をテーマに活動しています。本日はよろしくお願いいたします。

ー地域おこし協力隊として、どのような活動をしているのでしょうか。

様々な大人の方々にインタビューをして、いろんな生き方や働き方があるということを子どもたちに知ってもらうことで、子どもたちが自分で納得できる生き方をするためのお手伝いができればと思っています。

また、中学校と連携して、中学生のキャリア教育にも携わっています。その他にも、稲刈り体験などのイベントも実施してきました。

ー本日は、豊泉さんが教育に興味をもち、地域おこし協力隊で活動するに至るまでの道のりについてお聞かせください。幼少期に思い出に残っていることはありますか?

小学4年生のときの担任の先生がすごく素敵な方で、「こんな人になりたい」と思ったのを鮮明に覚えています。憧れの方がたまたま小学校の担任の先生だったので、私も自然と小学校の先生になりたいと思うようになりました。

ー担任の先生は、どのようなところが素敵だったのかお聞かせください。

子どもにも大人にも対等に接するところが印象的でしたし、そんな姿がとても素敵でした。

ー豊泉さんも現在、子どもたちと関わる機会があると思いますが、子どもたちと対等に関わるには何を意識すれば良いのでしょうか。

私は、基本的には大人のほうが上だとはまったく思っていないです。もちろん、今まで経験してきた中での知識や知恵は大人のほうがあると思いますが、じゃあ子どもは何も知らないかというと、実はそうでもなくて。

例えば、木工ボンドの中の液体が固まって出にくいときに、子どもが他のものでボンドを挟んで圧力をかけて出す工夫をしていて。「そんな出し方があるのか」と気づかされたのです。

子どもは発想力や想像力がとてもあるので、同じ “1人の人間” として見ています。教えてあげるというスタンスではなく、「何をしてるんだろう?」「何でこれをやっているんだろう」と観察していると、子どもならではのロジックがあるので、発見の連続です。

トランポリンで大怪我した挫折経験を糧にした高校時代

ー中学校や高校へ入学した後も、将来の夢は変わらなかったですか?

そうですね。中学生や高校生のときも夢は変わらず、教師になりたいと思っていました。

ー中学・高校時代で印象的だった出来事があればお聞かせください。

高校時代に活動していた器械体操部で、大怪我をしたのが強く印象に残っています。大会前の練習でトランポリンを使っていたときに、靱帯を断裂してしまいました。

頑張ってリハビリをしている中で、引退前の最後の大会にはどうしても出たいと思い、大会の1〜2週間前に練習をし始めました。すると、練習の開始時期が早すぎたせいかまた怪我をしてしまい、結局大会には出られませんでした。

ーつらい経験だと思いますが、当時はどのように現実と向き合っていたのでしょうか。

怪我をしたばかりの頃は、「一生懸命やっても必ず報われるわけではないんだ……」と落ち込んでいました。

ただ、同じ体育館内で活動していたバスケットボール部の子たちや先生方、担任の先生など、一生懸命練習している様子を見て応援してくれる方がいる事実に気づき、すべてが無駄なわけではないと思えたのです。

周りの方々もそうですし、自分自身も、今まで練習してきた過程を知っているのでそれを糧にしていこうと、捉え方を転換しました。

ー子どもたちも必ず全部上手くいくわけではないと思うので、豊泉さんの挫折経験は、子どもたちと接するうえでも良い経験だったのかなと感じました。

ありがとうございます。おっしゃる通りで、同じような体験をしてると、子どもたちが似たような状況に面したときにより想像力が湧きます。

子どもたちの一つひとつの発言に対して、関わる側がどれだけイメージして言葉を返せるかが大事だと思うので、そういった点で挫折経験はプラスになっているかもしれないですね。

違和感を無視せず納得いくまで試行錯誤したことで導いた答え

ー大学ではどのように過ごされていましたか?

教育学部に入り、小学校教諭と特別支援学校教諭の免許を取るコースで学んでいました。

ー教師になるという夢に近づくため、着実に進めていたのですね。どうして特別支援に興味をもったのでしょうか。

経緯をお話しますね。もともと体育の先生もいいなと思っていたのですが、私は当時怪我をしていたので、実技試験を受けられないかもしれないと思って、事実を確かめるために大学見学で学生に話を聞きに行きました。

そこでたまたま出会ったのが、特別支援教育について学んでる学生さんでした。その方が、特別支援学校にはいろんな感覚や考え方をもっている子どもがいるというのを魅力的に語ってくださって。

その方自身とても素敵な方だったので、小学4年生の頃と同じように「この方のように働きたい」と思ったのがきっかけです。それから、特別支援教育に携わる教師を目指すことにしました。

ー大学卒業後は、特別支援のお仕事に就かれたのですか?

はい、そうですね。小学校の普通学級で、算数を理解するのが難しい子たちに教えると同時に、自分の好きなことでもあるカフェの店員としても働いていました。

当時は、「子どもたちに本当に必要な教育とは?」「自分にとって仕事って?」という問いの答えを探しながら、いろいろ挑戦していましたね。

ー問いの答えは見つけられましたか?

自分の中での答えが見つかりました。私自身いろんな経験をして気づいたのは、「この選択をすれば幸せになる」という確実な正解はないということです。

そうなると、選択をするまでに自分が納得のいく過程を経ることができたかが重要だと思うのです。子どもたちも、自分が納得する人生を送れると結果的に幸せな状態に近づけるのではないかと思っています。

ー納得するためには、具体的にどんなことを意識すれば良いのでしょうか。

自分がやってみたときに、「ちょっとこれ違うんじゃないかな?」と違和感を感じるときってあると思うんですよね。その違和感を無視せず、自分の感覚に素直になって「この選択で良いんだ」と思えるところまでやってみるのが1つの方法としてあります。

でも、それは私にとっては良い方法だけど、いろんな感覚をもっている方がいると思うので、これが必ずしも正解ではないです。その人自身が、自分の中で納得がいくまで試行錯誤するのが1番だと思います。

地域おこし協力隊で “好き” や “得意” を引き出していく

ー特別支援教育に携わる教師として働いた後に、現在は地域おこし協力隊で活動されていますよね。協力隊に入ったきっかけについてお聞かせください。

きっかけは2つあります。1つは、南木曾町でゲストハウスの経営をされている方が学習支援をする方を募集していて、たまたまその記事を読んで会いに行ったときに、私が大事にしている価値観に共感してもらえたことです。同じ方向を向いているように感じて、南木曽町に行ってみようと思いました。

もう1つは、これからの教育において、好きなことや得意なことを伸ばしていけるきっかけ作りをしたいと思ったことです。今までは先生に言われたことをきちんとやるのが重要視されてきましたが、自分の好きなことや得意なことを仕事にできる時代になってきていますよね。

やらなきゃいけないことに時間を費やすのではなく、やりたいことをどんどんやっていける教育を実現するにはどうしたら良いのだろう……と考えていたときに、ゲストハウスの経営者の方と出会い、南木曾町の地域おこし協力隊として活動していこうと決めました。

ー子どもたちは、どのようにすれば好きなことや得意なことを見つけられると思いますか?

きっかけは操作できないものなので、こちらから何か提供したからといって、全員が好きなことや得意なことが見つかるわけではないと思っています。

でも、何もしないのも違うと思っていて。学校では “余白を作る” のが大事だと考えています。決められているやるべきことに子どもたちが取り組んでいるときに、「この子はこれに興味をもっていたな」「目をキラキラさせていたな」とよく観察するのが重要です。

それを子どもや親御さんにフィードバックすると、子どもは「自分はこれに興味があるんだ」と気づき、親御さんは「自分の子はこういうことにワクワクするんだ」と気づけますよね。

そうすると、「今度家でもこういうことやってみようかな」となるし、自分の好きなことが見つかる可能性も高まるのではないかと思います。

ー余白を作るというのは大人でもなかなかできないからこそ、地域おこし協力隊での活動の中で余白を作っているんですね。

そうですね。教師の方々はものすごく忙しいので、教師以外のポジションからのアプローチもあるといいなと思って日々活動しています。

ー地域おこし協力隊での活動について、もう少し詳しくお聞かせください。

地域の方々へのインタビューは、子どもたちの進路選択のときに、「そんな選択肢もあるんだ」という気づきになると良いなと思い実施しています。

そのため、クライミングとイラスト作成の両方をやりながら生活されている方や、民宿を経営しながらジビエ料理を提供している方、会社員の方など、本当に様々な方の人生について発信しています。

ーインタビューの実施や中学校との連携以外に、イベント企画もされていますよね。

最近は稲刈り体験を実施しました。南木曽町はお米を育てている地域もありますが、都市部に近いので農家は少なく、子どもたちが稲に触れる機会は少ないのではないかと思って。自分で稲刈りしたお米を炊いて食べて、「美味しい」と感じる体験をしてほしいと思ったのです。

稲刈り体験だけでなく様々な体験をして、進路選択のときに「あの体験楽しかったな」というのがきっかけになることもあると思うので、機会づくりをどんどんしていきたいですね。

ー他にも豊泉さんが大事にされている教育方針があればお聞きしたいです。

教育では「ありのまま」を大事にしています。子どもたちはすでに個性をもっているので、その子がやっている行動をそのまま受け止めることで、子どもたちは目の前のことにのめり込んでいくので、より可能性を引き出せるのではないかと思います。

ー最後に、これから豊泉さんがチャレンジしてみたいことについて教えてください。

子どもたちと直接関わる機会を増やしたいです。そのためにも、子どもたちの好きなことや得意なことを引き出す教育に共感してくれる仲間を増やして、一緒に活動していきたいと思っています。

ー豊泉さんが子どもたちの可能性を引き出すために、活動の幅を広げていくのが楽しみですね!本日はありがとうございました。豊泉さんの今後のご活躍、楽しみにしています。

取材:武海夢(Facebook
執筆:もりはる(Twitter
デザイン:高橋りえ(Twitter