起業はあくまで表現手段。エシカルでかっこいい世界をつくりたい|ラントレ代表・塗野直透

様々なキャリアの人たちが集まって、これまでのステップや将来への展望などを語り合うユニークキャリアラウンジ。第482回目となる今回は、株式会社ラントレ代表取締役であり近畿大学3年生の塗野直透さんをゲストにお迎えし、現在のキャリアに至るまでの経緯を伺いました。

どんな背景で何を目的に学生起業家になったのか。塗野さんの起業家精神のルーツや事業に取り組む姿勢は、あなたのチャレンジ精神を刺激するはずです。

大学入学と同時に事業構想。若い世代に向けたフェアトレードの伝道者に

ー簡単に自己紹介をお願いします。

近畿大学に通いながら会社経営をしています。事業は2つあり、法人向けにSDGs施策の戦略コンサルや研修の提供と個人からソーシャルグッドに取り組めるフェアトレードなどのエシカル商品の販売促進を行なっています。会社は現在2期目を迎えています。

ーどんなきっかけで起業されたのですか?

もともと母子家庭育ちで、小さな頃から漠然と母子家庭の母親を救えるサービスを展開したいと考えていて。志望大学に落ちたことがきっかけで即起業を決めました。

まずは売上の作り方を学ぶ必要があると思い、入学直後から営業の仕事を始めて。明治乳業の訪問販売から新卒のキャリア支援のベンチャー、経営者の損金対策向けヘリコプターの販売までいろいろと行いましたね。

しかし、自分が本当にやりがいを感じるビジネスは何かと考えていて。2020年3月起業仲間に出会うためにカンボジアに行き、現地の貧困層向けに商品やサービスを開発するプログラムに参加しました。

自身も施設で育ったので、関わったスラムのストリートチルドレンと自分が重なるところがあり。日本よりひどい環境にいる孤児がたくさんいることを知り、自分とのギャップに憤りを感じました。

貧困国に住む人を救う事業をしようと決めました。コロナ禍になり自分が現地で商品開発をすることは難しくなったので、まずフェアトレードを広める活動から始めました。

ーフェアトレードを広める活動とはどんな事業なのですか?

日本のNPOが手がけるカンボジアやミャンマー、バングラデシュのフェアトレード商品を仕入れて直接販売しています。取り扱い商品はアパレルや雑貨、カフェも経営しているのでコーヒーなどの食品まで幅広いです。良い商品をもっているのにプロモーションやマーケティングが苦手なNPOが多いので、販売促進を支援しています。

日本は安くて良い商品が出回っており、フェアトレード商品は比較すると高いので、多くの購買層は40、50代です。若者にリーチできていない現状に目をつけ、Z世代のSDGsに対して意識が高い方に買ってもらうための活動をしています。

ーお金がない若い世代に高い商品を広めるのは大変ではないですか?どのように販促活動をしているのでしょうか?

ドレスコードがあるおしゃれなイベントにフェアトレード商品を組み込む企画や学生目線のSNS運用を通して広めています。Z世代はソーシャルネイティブといわれていて。学校教育のおかげか大量生産・大量消費・大量廃棄は「イケてない」と感じている方が多いです。30、40代よりエシカルな商品にアンテナが立っていると感じますね。

ー若者との価値観の融合が大切ですよね。

エシカル消費でビジネスの概念を形ごと変えていきたい

ーSDGsの戦略コンサルはどのように活動しているのでしょうか?

対象は、SDGsの活動にとりくみたい東証一部上場大企業の従業員です。エシカル消費などのサステナビリティ浸透を目的に企業研修を行い、さらにZ世代と一緒にコラボレーションをしてSDGsに関連する企業独自の施策を実行するところまで支援しています。

いきなり大きな枠組みであるSDGsの施策を考えるのは難しいですよね。企業研修では、まず個人単位で取り組めるエシカルなアイデアについて考え、自分ごとに捉えてもらうことから始めます。それから企業内外部の環境分析をして、オリジナルの施策を決めて行くのです。

ー年代が違う人へアプローチすることに苦労はありますか?

紹介から始まるプロジェクトが多いですが、経営者が行うパーティーに参加して提案することもあります。学生だということで足元をみてくる方もいますね。しかし、よく話し合い、表面的なSDGs活動ではなく施策を必要としていて10、20年後の未来のために本気で取り組みたい企業とだけ取引をしています。

ーなぜ2つの事業を行うようになったのですか?

名前もない、いち学生が消費者に向けてフェアトレードを広めるのは難しいと感じたので、toB向けにコンサルも始めました。SDGsとエシカル消費は相互関係があります。社会や環境に配慮した商品が広まれば広まるほど社会により良い企業しか生き残れない世界が広がり、さらにエシカル商品の市場が大きくなるのです。

消費というビジネスを形ごとエシカルに変えて社会を変えていきたいです。法人に100%のうち1%でもエシカル商品へ投資してもらえれば世界は変わると信じ活動しています。

ー多角的な経営をされていますがどんな運営体制なのでしょうか?

従業員はカンボジアで出会った仲間の3人です。また、学生団体を3つ運営しており活動に関わってくれている方は100名ほどいます。その学生団体と支援企業を連携させてコンサルしています。

それぞれ活動内容が違う団体で、①フェアトレード商品の販促に特化した団体、②エシカル商品を取り扱うカフェの運営を行う団体、③エシカルや社会課題に関心がある学生と企業をつなぎ、学生がビジネススキルを身につけるコミュニティの3つです。

大学生の時点でやりたことが明確な人の方が少数です。あえて何をしたいかわからない学生をターゲットに成長する場を提供し、勝手にエシカル商品やフェアトレードをインプットできるような体制にしています。私自身も初めからソーシャル系やカンボジアに興味があったわけではなかったので。

また、せっかく国際協力に関心があっても結局畑違いの業界に就職する学生が多くもったいないと感じていて。いかに活動を続けてもらうか、ちゃんと仕事につながるように支援をしたいと考えています。

育った環境×リーダー気質×描画好きが合わさり起業家に

ー幼少期から中学まではどんな学生でしたか?

小学生までは母子家庭で広島の施設寮で育ったのであまり良い記憶がないです。保育園のお迎えも親ではなく施設の先生が来たり、土日も母親と遊べず先生と遊んでいました。育った環境が今の活動の原動力に影響していますね。

小学校からは祖父母と住むことになり、知人がいない大阪に引っ越して。母親が友達を作るきっかけとして習い事を提供してくれて、サッカーやソフトボール、格闘技などに取り組みました。また、中学生では3年間学級代表でした。

ーもとからリーダー気質なんですね。

誰かに責任を取られたくない思いが強く、自分が先頭に立っている方が良くて。例えば自分が悪いことしているのに、自分以外の人と連帯責任になると納得が行かないですね。

本来の性格は人見知りでシャイなのですが、日の目を浴びたいタイプで。しかし、先頭で一番声を出してリーダーシップを取るというよりは、誰かに自分の思いを伝えて動かすタイプです。人の特性を見極めて適材適所に置くことは得意だと思います。

ー進路選択がせまる高校時代はどう過ごしましたか?

高校は校則がなく自律性がある学校で、普通科ではなく総合学科で学んでいました。絵を描くのと運動が好きだったので、美術と体育ばかり履修していて。卒業制作は、100cm×150cmの油絵を書きましたね。

起業は美術に影響されていると思います。何か描きたい世界があるから絵を描くわけで、油絵を手段にして表現していました。同じ感覚でエシカルでかっこい社会を作りたいというビジョンがあって手段として起業を選びました。

ー進路選択はどんな経緯があったのですか?

施設で育ったこともあり物質的な豊かさを求めてもともとお金持ちになりたいと思っていて。金持ちになるためにはバカとつるんでいたらダメなので早稲田を目指していました(笑)。

しかし、育ててくれた祖父に余命宣告があり、家族から家から通える範囲の大学にして欲しいと言われ。母親にも経済的な負担をかけないよう同志社大学の経営学部だけ受けたところ落ちてしまい。近畿大学に進学しましたが、人と同じことをしていてはいけないと火がつき即起業しました。

ー常に目的と手段を意識されているんですね。大学に入られてからはどうでしたか?

経営学部では学術的な論点から勉強するので、教授も経営者ではないし正直身にならないです。学んだ経営理論をアウトプットする場がないなと。

営業活動の方が役に立っていますね。コミュニケーション力である顧客の課題・要望の引き出し方、表情の読み方などを学びました。

ー興味があることでも、実際行動に移すのはフェーズが違うと思います。リスクに対する不安や心のハードルを高く感じることはないですか?

いいえ、したいことがあればやるタイプなので。自分がかっこいいと思うことに取り組む時はそこまでハードルを高く感じません。

事業はフリーランスから始めましたが、企業と取引するためには法人が必要で、必要に迫られて登記しました。30万さえあればだれでも設立できますよ。

手段にはこだわりがないです。自分がありたい姿を実現することに集中すると、脳は壁やハードルが低いと錯覚すると思います。

自分の感性でかっこいいと思う方にチャレンジしてほしい

ー今後チャレンジしたいことを教えてください。

ソーシャル系のビジネスは難しい面もあり、1年活動してようやくフェアトレードの事業と戦略コンサルの事業の土台ができてきたので引き続き頑張ります。個人としては自分ひとりで稼ぐのではなく、従業員のメンバーが稼げる環境を構築していきたいです。あとは、亡くなった祖父が学費をはらってくれているので、学校を卒業することですね(笑)。

ーやりたいことがまだ定まっていない同世代の方向けに、どう目標設定をしたらいいかアドバイスをください!

2つあります。まず、大きなことから考えること、つぎに自分がかっこいいと思う方を選ぶことです。

1つ目は、どんな世界を作りたいからどういう手段でするのかを意識することです。小さいことから大きいことは考えられません。起業は手段であり、小さいこと。

現実を見ることも大事ですが、小さいことに囚われると選択肢やサービスの幅が狭まり競合も増えてしまいます。大きい世界を見ないと足元で地道にやるべきことは見えてこないと思います。

2つ目は、選択を迫られた時には自分がかっこいいと思う方を選ぶことです。私は、自分がかっこいいと思う方を選んできました。

起業家は、「稼ぎたい」タイプか「実現したい」タイプかの2種類います。私は自己分析をした結果、ソーシャル系の経営をかっこいいと思い、自分の作りたい世界感だと思いました。

起業に限らず、就職でも旅人でもなんでいいと思いますが、かっこいい方を選んでください。まず、自分がなにをかっこいいと思うかポリシーを決めるといいと思います。

ーありがとうございました!塗野さんの今後のご活躍を応援しております!

取材:高尾有沙(Facebook/Twitter
執筆:竹内佳奈子(Twitter
編集:えるも(Twitter
デザイン:安田遥(Twitter

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