LOVST TOKYO代表 唐沢海斗が、植物由来のヴィーガンレザーブランドを立ち上げた理由

様々なキャリアの人たちが集まって、これまでのステップや将来への展望などを語り合うユニークキャリアラウンジ。第574回目となる今回はLOVST TOKYO(ラヴィスト・トーキョー)代表取締役の唐沢海斗(からさわかいと)さんをゲストにお迎えします。

リンゴなどの果物や植物で作る植物由来の「ヴィーガンレザー」動物にも環境にも優しいこの素材を使いバッグなどのアイテムを企画・販売しているのがLOVST TOKYOです。日本のヴィーガンファッションを牽引しており注目を集めています。

唐沢さんはアメリカにいる時に、起業を通じて実現したい想いを見つけます。しかし、日本ではまだ新しい分野で困難にも直面したそう。唐沢さんはなぜ起業したのか? どうやって高い壁を乗り越えてきたのか。その強さの秘訣をお聞きしました。

 

動物にも環境にも優しい、未来のレザーブランドを展開

ー自己紹介をお願いします。

唐沢海斗です。LOVST TOKYO(ラヴィスト・トーキョー)株式会社で代表取締役をしています。LOVST TOKYOはリンゴ由来のヴィーガンレザーなどを使ったバッグや小物を企画・販売している未来のレザーブランドです。

ヴィーガンレザーという素材をご存知でしょうか? 一般的には、動物の革ではなく合成樹樹脂で作られているレザーのことです、しかし、その中でもリンゴ、グレープ、コーン、他にはサボテンなど、植物由来のの成分から作られるバイオレザーと呼ばれるものもあります。

バイオレザーのような植物由来のヴィーガンレザーは、本来は廃棄されるはずだったリンゴなどを使って、耐久性もありレザーのような高級感のある素材を作ることができます。動物だけではなく、環境にも優しい新素材として世界中で注目を集めています。

ーヴィーガンという言葉は知っていましたが「食」のイメージが強かったです。アパレルにもヴィーガンがあることに驚きました。

ヴィーガンというコンセプトを「食」とは別の切り口で届けることによって、ヴィーガンのような選択について考えたり、多様性に共感する人が増えることを願っています。

これまでの食生活は中々変えづらいけど、まずは身につけるものから動物や環境に優しいものに変えることならできそう」という人にとってその第一歩を後押しする存在になれたり、何かに挑戦するきっかけになれたら嬉しく思います。

ー動物に優しいだけでなく、本来は廃棄されるはずであったリンゴを使っているのも素敵ですね。

このような取組は「アップサイクリング」「創造的再利用」と呼ばれています。

リンゴジュースなどを作る際に、大量のリンゴの搾りかすが廃棄されており、生産段階のフードロスが大きな問題になっています。アップルレザーに生まれ変わることにより、その問題が緩和されるのです。

他にも、梱包材にもこだわっていて、コンポストすなわち堆肥にできる素材を用いています。事業全体で、環境に優しい事業運営を心掛けています。

ー最近は首都圏でポップアップイベントも増えていると聞きました。

2021年6月にはImpact HUB Tokyoとトークセッション・植物由来のヴィーガンレザーを用いたレザークラフト教室を共催しました。また9月には有楽町マルイにて、社会起業家が手がける事業を紹介・製品を販売するイベントに参加して、アップルリュックをはじめとする商品の販売を行っています。

応援してくれる方々の顔が見えるのが何より嬉しいですし、植物由来のヴィーガンレザーの存在や僕たちの取り組みを知ってもらう機会にもできているので、とても充実した場となりました。

また2021年12月〜翌年1月にかけて銀座のショールーミングストア「The Crafted」でポップアップ販売をしています。

ーLOVST TOKYOへの注目がますます集まっているのですね! この事業を展開していて楽しいと感じる瞬間は、どのような時でしょうか?

このブランドは、クラウドファンディングで資金調達して実現しています。応援してくれる方・お客様の声を反映しながら製品をアップデートしてきました。それが完成してお客様の喜びの声を聞けた時「やってて良かった」と心から思います。

これからもお客様の声を取り入れながら、求められている製品を作り出していきたいと思っています。

最初からやり直すために大学2年の時に渡米

ー唐沢さんが、どのような幼少期を過ごし、なぜヴィーガンレザーの事業を展開するようになったのかお聞きしていきたいと思います。

静岡の伊豆市で、2人兄弟の末っ子として生まれました。その後、引っ越して小中高は栃木県で過ごします。

性格はアウトドアで、わんぱくな少年だったと思います。「勉強しろ」とは言われず「好きなことをやりなさい」と言われて育ったので、サッカーに打ち込んでいました。

活発ではありましたが目立ちたがり屋ではありませんでした。手をあげて発言するというより、クールを装って縁の下の力持ちとして頑張る、そんなタイプだったように思います。

ー今は起業して前面に立っていらっしゃいますから、その後の人生で何かが変わったのですね。

高校の頃は自分が起業するなんて夢にも思っていませんでした

高校は、地元の工業高校の電子工学科に行きました。その頃は、自分も友達と同じように就職して働き、20歳くらいで結婚して地元で過ごす人生を送るのだろうと、ぼんやりと思っていたのです。

高校に入ると国立大学の推薦という道もあることを知りました。それに向けて準備をしましたが残念ながら落ちてしまい、流されるように志望度の高くない大学に行きました。この頃は目的なく生きていて、エネルギーもあまりなかったように思います。

ーまだその頃は、自分のやりたいことが見つかっていなかったのですね。唐沢さんの人生が動き出す、きっかけになったような出来事は何だったのでしょうか?

大学2年の時、2つ上の姉がアメリカに留学をしていたのですが連絡がありました。「海斗、人生が変わるから、あなたもアメリカに来てみない?」モヤモヤしていた私は、何かが変わるかもしれないと期待して、姉の留学先を訪問することにしました。

それが人生の転機になったのです。

アメリカに行って驚きました。目に見えるものすべてのスケールの大きさ、言葉のできない自分でも受け入れてコミュニケーションしてくれる多民族国家ならではの懐の大きさ。そういったものに感動するとともに、今までの自分の無力さを痛感したのです。

ー外の世界に触れて、今まで感じたことのない衝撃を受けたのですね。

もう一度、アメリカで一から勉強し直したい……!

そう考えて留学方法を探したところ、当時住んでいたところの姉妹都市に留学できるプログラムがあることが分かりました。それに申し込みしたところ合格して、学費無料で留学できることになったのです。姉が留学で変わったことを見ていたのもあり、親も私のチャレンジを応援してくれました。

大学2年の時に、もう一度大学を1年からやり直すという決断でした。決断するのが遅かったとも感じましたが、目的があるなら間違っていないと思いました。自分のペースで、自分の人生を生きようと思ったのです。

ヴィーガンで起業して日本の価値観に変革を起こしたい

ー勇気を出して、自分の目的に沿ってチャレンジされたのですね。留学先では、どのようなことがありましたか?

ここで私は人生で初めてヴィーガンに関わる経験をします。でも実は……最初はヴィーガンに対する印象は最悪だったのです。

ーえっ! それは意外です。何があったのでしょうか?

アメリカの価値観の多様性に惹かれていたので、なるべく自分と異なるバックグラウンドの人と出会いたいと考えて、ブラジルから来た留学生の女性とお付き合いしました。

ある日のこと、彼女は畜産と地球温暖化のドキュメンタリーを見て「私は今日からヴィーガンになる!」と宣言しました。それまでは肉が大好きだった彼女ですが、その日以降、肉は一切食べない生活に切り替わったのです。

ヴィーガン自体は素晴らしい考え方ですが、異なる価値観を持つ人に対して何かを強要したりするのはどうかなと感じます。彼女は「私の前で肉の話はしないで!」と、私に対して強く当たりました。彼女と居ると険悪なムードになってしまい、私のヴィーガンに対する印象も悪いものになってしまっていたのです。

ー最初はそのような印象だったということは、その後ヴィーガンに対する印象が変わる出来事があったのですね。何があったのでしょうか?

その印象が変わったのは、社会に出てからでした。

私は大学卒業後、アメリカのサンノゼにある大手の人材派遣会社で働くことにしました。大学もビジネス関連の学部で、アントレプレナー(起業家)の勉強をしており1〜2年で起業したいと考えていたのでシリコンバレーの地を就職先に選んだのです

この選択は正解で、シリコンバレーにいると名だたるIT起業の本社が自然と目に入りますし、世界中から集まる起業家志望の人たちとの交流ができて、自分の気持ちも高まりました。ただ、まだ「どの分野で起業するか」は自分には見つかっていませんでした。

そんな時、街でヴィーガンのレストランを見かけたのです。過去の苦い経験を思い出しながらも「ちょっと食べてみようかな」とお店に入りました。彼女とも別れていましたので、意固地になる自分もいなくて自然とチャンレジしてみることができました。

ー初めて経験するヴィーガンの食事はいかがでしたか?

びっくりしました。想像以上に美味しかったのです。そこで改めて考え始めました。なぜこのエリアに住んでいる人は、ヴィーガンに対してこんなにもオープンマインドなんだろう?

考えた結果、2つの仮説に行き着きました。1つ目は、シリコンバレーには多様な価値観を受け入れる文化が他のエリアよりも根強くあるから。2つ目は、ヴィーガンや新しい事業にチャレンジする人がたくさんいるからこそ競争が起こりサービスが洗練され、イメージがよくなるから。

その時、私の中にあるビジョンが思い浮かびました。

ーどのような想いを持ったのでしょうか?

自分が日本でヴィーガンの事業を作り人々のライフスタイルにそれを浸透させることができたら、日本人の価値観をイノベーションできるのではないか? と思ったのです。

今では恥ずかしく思いますが、保守的なスタンスでヴィーガンのことを受け入れられなかった時期が私自身にもありました。しかし、体験してみることによって、その価値観が180度変わったのです。そういった変化を、自分が日本に起こしたいと考えました。

ヴィーガンを調べるうちに、食以外にアパレルでもヴィーガンが広がっていることを知りました。私自身、食べることについてはヴィーガンではないので、ファッションの領域で起業することを決めました。

どんな困難があっても乗り越えられる理由

ー自分が起業で何をしたいのかが決まったのですね!

やりたいことが見つかった私は帰国して、ヴィーガンのアパレルを海外から輸入してオンラインで販売する日本初の事業を始めました。26歳の時です。

意気揚々とスタートしたのですが……しかし、思うようにいきません。想像以上に売れず収益は悪化し続けました。試行錯誤しても変わらず「日本ではニーズがないのだろうか」と考えしまうこともありましたし、仲間ともすれ違うようになりました。

そして2年が経った頃、事業を存続するのが難しくなりました。一緒にやってくれていた仲間に事業の解散を伝えた日のことが忘れられません。そして、私のもとには300万近い借金が残りました

ーとてもハードな状況ですね……! そんな時、どのように行動されたのですか?

また起業するために、死に物狂いでアルバイトをして資金を貯めました。新聞配達やUber Eatsの宅配、バーの店員からWeb系の作業まで、何でもやりました。寝る時間は1日3時間くらいだったように思います。

そのような生活をしながら新しい事業の構想を練るのはハードな日々でした。でも「のしあがってやる」「俺はこんなところで終わる人間ではない」と自分を奮い立たせて頑張り、1年半ほどでまた挑戦できる土台を作ることができました。

そして現在の新しい事業をスタートさせています。今回はクラウドファンディングや、社会起業家ファンドからの出資など、応援しくれる人も増えました。前回の起業の失敗があるからこそ、そこからの学びを新しい事業に反映できているからだと思います。

ーそのような大変な時期を乗り越えて、またチャレンジされる姿に脱帽します! なぜ、そこまで起業に対して頑張ることができるのでしょうか?

いくつか理由があるように思います。

1つ目は、楽観主義なこと。きっと何とかなるし、どんな経験も楽しめるし、失敗も糧になると思っています。借金ができても全力で数年働けば返せますし、それはチャレンジしない理由にはなりません。

2つ目は、組織にいるときっと自分は流されてしまうことです。アメリカの会社にいた時も「君は自己表現しないんだね」と言われたのがショックで覚えています。本来の私は目立ちたがり屋ではない。それを分かっているから、あえて前面に立ちたいと思うのです。

そして最後に、辛いときでも原体験に戻ること。私が事業を起こした理由は、日本人の価値観にイノベーションを起こしたいからです。自分の目指したものは達成されていない。だからここで諦められない。そう思っています。

ー困難を乗り越えてきた唐沢さんの言葉は、とても響きます。これからも唐沢さんはチャレンジを続けるのだと思いますが、どのような展望を持っていますか?

まずはLOVST TOKYOの商品のラインナップを増やしたいです。トートやリュック以外にも、お財布やライフスタイルグッズなどを展開して、より多くの人が手に取りやすいようにしていきたいと思っています。

実は、LOVST TOKYOには、「Love + Vegan + 1st (愛を持って、ヴィーガンなどのライフスタイルや多様性を尊重するライフスタイルを作り上げていく)」というメッセージを込めています。このブランド名に込めた想いの通り、これからも世の中に優しい選択肢を増やしていきたい。

そして、日本人の価値観にイノベーションを起こしていきたいと思います。

ー唐沢さんの事業によって日本人の価値観が変わる未来。とてもワクワクしますね! 最後にU-29世代の皆さんへ、メッセージをお願いします。

同世代と自分を比べて焦らないことが大切だと思います。

私自身、横を見れば自分と同い年で、起業を大成功させて事業をバイアウトして投資家になっているような人もいます。でも自分は自分のペースで、自分の目的に向かって頑張っていこうと思っています

もしかしたら理想の自分より10年も遅れていると感じるかもしれません。でも挑戦し続けていたら、過去の自分より驚くほどの成長をしているはずです。

そのことに自信を持ち喜びを感じながら、みなさんにもマイペースに自分の道を進んでいって欲しいと思っています。

ー周りと比較せず、自分の目的を見つけてマイペースに進むことが、ユニークなキャリアに繋がっていくのですね。唐沢さん、素敵なお話をありがとうございました! これからも応援しています。

 

取材・執筆:武田 健人(Facebook / Instagram / Twitter
デザイナー:安田遥(Twitter