地域の魅力発信を助けたい。ローカルプレイヤー研究者 星 裕方が描く未来とは

様々なキャリアの人たちが集まって、これまでのステップや将来への展望などを語り合うユニークキャリアラウンジ。第421回目となる今回は、地域の情報発信活動を支援するローカルプレイヤー研究者の星 裕方さんをゲストにお迎えし、現在のキャリアに至るまでの経緯を伺いました。

地域の情報発信活動のみならず、経済活性化を支援していこうと長期的なビジョンを掲げる星さんの想いに迫りました。

ローカルプレイヤー研究者への目覚め

ー始めに自己紹介をお願いできますでしょうか?

ローカルプレイヤー研究者という肩書で、地域おこしに尽力されている方々の情報発信支援を行っています。

ローカルプレイヤー研究者という肩書を使い始めたのは今年に入ってのことです。従来はPR会社に所属して企業の広報活動を支援する傍ら、世田谷区用賀の地域活動を主軸としたNPO法人neomuraの活動に参加するなどしてきました。

PR会社に4年勤めたあと個人事業主となり、リソースの半分をローカルプレイヤー研究者としての活動に当てている状況です。

ーローカルプレイヤー研究者とは面白い肩書ですね。活動を始められたきっかけは何だったのでしょうか?

neomuraでの活動を通し、地域が持つ魅力に気付かされたことがきっかけですね。もとは用賀出身ということで、地域活動に参加しようと2020年にneomuraが主催した「用賀の秋の感謝祭」の運営に携わっていたのです。

昨年はコロナということもあり人が集まる屋台形式での開催が困難でした。そのため、地元の飲食店などを応援しようと「用賀テイクアウトマップ」というものを作っていた団体とコラボして、小規模ながら感染症対策に配慮しつつ、地元の食を楽しめるイベントを開催したんです。

用賀に住んでいながら、それまでスーパーやコンビニぐらいしか通っていなかったのだと気付かされましたね。地域のお店の方々と話をするほどに、町のことを知っていきました。それと同時にQOL(Quality Of Life)が上がる感覚を得たんです。町のことを知ることで、人生の幸せ度が高まる。実は幸せとは足元の半径数十メートルで得られるものではないのかと思ったんです。

ーそこから地域の魅力の発信を手伝いたいと考えるようになったと?

はい。一方で、地域の魅力に気付いてもらうことは簡単ではありません。

地域活動をされている方、例えば地域おこし協力隊の方などは、地域での活動や地元住民とのリレーションを育むためにある程度のリソースを必要としています。地域外への情報発信に力を割く十分な時間が無いのです。

これまで企業の街の情報発信に携わる中で培ってきたノウハウをもとに、そうした方の支援を行っていくことが僕のライフワークだと思っています。

現在は、業務委託として合同会社イーストタイムズという企業で、地域の魅力を発信するためのニュースサイト「ローカリティ!」を運営しています。「ローカリティ」はローカルの市民レポーターの記事を、きちんとした校閲を通した上で発信するプラットフォームです。私も記者となって地域の魅力を取材していますが、ローカルにいる人が「ローカリティ」を通じ自ら情報発信できるよう、ノウハウを伝授するためのスクールも開講しています。

PRに興味を持ったきっかけは生徒会活動

ーありがとうございます。大変素晴らしい活動をされていると思います。活動の根源にある感性はどのように育まれたのでしょうか?幼少期からの生い立ちを伺ってよろしいでしょうか?

小さい頃は勉強もそこそこで運動はあまりできない平凡な子どもでした。変わるきっかけとなったのは、小学6年生の時に代表委員になったことですね。いわゆる生徒会のような組織です。

担任の先生に推挙された時は、果たして自分で良いのかと思いましたが、代表委員の活動を通じて人前に立つことができるようになりました。

そのまま中学でも生徒会に立候補しました。当時は小泉政権下。「構造改革」や「改革無くして成長無し」といったキャッチーな言葉で政治への関心が高まっていた時代でした。僕もそうした強いフレーズを使って、生徒会活動に生徒の関心を向かせようと色んな工夫をしたんです。

一時でも生徒の関心を生徒会活動に向けることが出来たという実感もあり、代え難い経験をしました。今思えばこの時の経験が、人に感動を与えるためにどうすれば良いのかというようなことを考えるきっかけになっているかもしれません。人の関心をつかまない限り一方的な発信になってしまうという勘所を得たことでPRに興味を持って行ったのでしょう。

ー大学はどのように選ばれたのでしょうか?

受験期に通っていた塾の先生に「早稲田か慶應どちらが向いていると思いますか?」と聞いたところ、慶應だろうと言っていただいたからという些細なきっかけなんです。

塾での学びは私に色んなことを教えてくれました。その一つが今で言う「ゾーン」です。ゾーンとは、高い集中力を発揮してポテンシャルを超えた力を発揮する状態のことですね。

塾では、テレビでも活躍されている林修先生のオンライン授業を受講していました。生徒をゾーンへ導くのが非常に上手で、僕も短期間で成績を伸ばすことが出来たんです。時には、試験前日に丸暗記した世界史の年号がテストに出るなど、運とも言えるような動物的勘を働かせたことも少なくありません。

ゾーンには基本再現性がありませんが、ゾーンに入るためのモチベーターの機能を本人以外の人が果たせるのだと塾での経験から気付かされました。大事なのは、価値の重点をどこに置いて伝えてあげるかです。目の前のことをやった先に、どんな価値を得られるのかをしっかりと説いてあげることで集中力が高まるのです。大学時代にテニスのチームをマネジメントした時や、PR会社で部下を持っていた時は、この経験を意識して、コミュニケーションを取っていました。

ー就職活動はどうでしたか?

大学生の時、入っていたサークルやゼミには英語が堪能な人が多くて、彼らに比べると自分には市場価値がないのではないかとコンプレックスを感じていました。

3年生の秋に大学を休学して英語やジャーナリズムを集中的に学び、短期留学などにも行きましたが、自分を大きく変えるには至りませんでした。いよいよ臨んだ就活の面接でも話が上滑りしてしまって、「こいつ中途半端だな」と見透かされている感覚すらあったんです。

最終的に、中堅ながら若手社員も多いPR会社からようやく内定を得ることが出来ました。友人たちが超一流企業に行く中で、比較してしまう気持ちもありましたが、20代は地を這い砂をかむような人生も悪くないという気持ちが湧いてきましたね。

実際、入社後は若手のうちから色んな仕事を任せてもらい、多様な経験を積むことが出来ました。ベンチャー規模ならではのキャリアステップだと思います。

ー就活のご経験から、若い人に向けたアドバイスはありますか?

人生の大半は運と縁だと思っています。「計画的偶発性」という言葉もあります。自分自身でキャリアを選択しているつもりが、ほとんどは縁や運、環境に規定されているという考え方です。

仮に悪いことがあったとしても自分の力が及ばない範囲だと思って、その先に待っている新しい出会いを楽しんで待つと良いと思います。運が悪い時は、水になったと思って流れに身を任せることも大切です。しかし、目の前に現れたチャンスは見逃すことなく貪欲につかむことが大切です。

また、PR会社時代、部下には「徹底的に他責せよ」と説いていました。全て自分のせいだと考えるべきだという行き過ぎた自責思考は、かえって問題の本質から目を逸していると思うんです。

問題が起きたとき、原因を分析していけば9割方は環境だったりアンコントローラブルな要因だったりするんです。ただし、最後に残った1割は自分の責任にあるもの。それこそが最も本質的に直すべきところで、絶対に再発させないよう心がけることが成長に繋がるのだと思います。

こんな非常識なマネジメントでしたが、僕のチームメンバーに「手抜きをしてるな」と感じたことは一度もありませんでした。

地域経済の格差是正に向けて地域通貨の発行を目指す

ーこれからキャリアを選ぼうとしている人にとっても勇気づけられるお話だったと思います。最後に今後の目標を伺っても良いでしょうか?

ローカルプレイヤー研究者の活動を通じて、短期的には都市圏の人を地方に循環させることが目標です。また、長期的には地域通貨を作り、流通させたいと思っています。

ー地域通貨とはどのようなものでしょうか?

仮想通貨の地域版ですね。海外では実証実験が進んでいます。国内では長野県でアルプス通貨というものが発行されていますね。

僕は、この地域通貨に資本主義の次の世界を見ているんです。僕が考える地域通貨の条件は、まず地域でしか使えないこと。そして使える期間が限られていること。最後に普通のお金と兌換(交換)されないことです。

3つ目の兌換されない、つまり、各国の正式な通貨とレーティングせずに、投機の対象から除外することが特に重要だと考えています。

資本主義は、一部の資本家が莫大なお金を投資することでエコシステムを回しています。そこで動くお金はあまりにも大きく、一般に生活している人のお金の価値観と比べると違和感を感じるのです。

例えば資本家の活動によってお金の価値が吊り上がったとします。しかし、そのお金を日常生活で使っている人にとってみれば、何もしていないのに急にお金の価値が変わったと感じるわけです。

地域通貨を発行し、従来の市場から分離することで、生活にかかるお金の価値を安定させ格差社会を是正することができるのではないかと考えています。

地域通貨は地域に対する貢献活動や、周囲の人からもらえるありがとうの数に応じて付与されるという形も考えられるでしょう。地域通貨の流通は、自分自身を幸せにすることにも繋がるのです。

地域の魅力の発信と地域通貨をかけ合わせて、地方の経済を活性化させることが私の目標なんです。

ー本日はありがとうございました。これからの星さんのご活躍をお祈りしています!

取材者:武海夢(Facebook
執筆者:海崎 泰宏
デザイン:高橋りえ(Twitter