学割で貧困を脱出せよーーGAKUWARI代表 齋藤 峻輔のライフハックのススメ

様々なキャリアの人たちが集まって、これまでのステップや将来への展望などを語り合うユニークキャリアラウンジ。第450回目となる今回は、学割まとめアプリ「GAKUWARI」を運営する齋藤 峻輔さんをお迎えし、現在のキャリアに至るまでの経緯を伺いました。

アメリカへ留学するも、コロナによって帰国を余儀なくされた齋藤さん。描いていたキャリアを歩むことが困難になったとき、次なる一歩をいかにして見つけたのか。苦境を脱した考え方と行動力に迫ります。

 

*高校卒業後アメリカへ留学

人と異なるキャリアを歩もうとアメリカへの留学を決意。語学学校を経て短期大学でマーケティングを学ぶ

*インターンでビジネス開発を経験

アメリカに居ながらアメリカや日本の企業インターンに参加し、ビジネスアイデアの作り方を学ぶ

*コロナの流行によって4年制大学編入を断念

一時帰国するもアメリカへ戻ることができず、国内でのキャリア形成を模索し始める

*「GAKUWARI」をリリース

学割を活用してきた独自のライフハック術をもとにアプリをリリース。学生の貧困問題解消を目指す

ライフハックのノウハウを誰もが使えるアプリに

ーはじめに自己紹介をお願いします。

学割情報をまとめたiOS専用アプリ「GAKUWARI」を運営する齋藤峻輔です。

「GAKUWARI」には、東京都内を中心に、飲食点をはじめとした多様なサービスの学割情報を掲載しています。学生はクーポンをアプリ上で取得し、店舗で見せることで各種サービスをお得に受けられるという仕組みです。

ー例えばどのようなクーポンがあるのでしょうか?

飲食で言えば、かつやのカツ丼が550円で食べられる学割や東京たらこスパゲティの学割などお得なものが掲載されています。台湾茶を提供する「ゴンチャ(Gong cha)」さんのクーポンなども人気です。

ー私自身、学生時代は学割を良く利用していました。学生にとっては非常にありがたいサービスだと思います。どのようにして着想を得たのでしょうか?

もともとは僕自身が割引クーポンを良く利用していた経験が生きています。高校進学後、アメリカのカリフォルニアへ留学していたのですが、物価が高い中でなるべく安く食べ物を手に入れたいと試行錯誤する内に、UberEatsで累計200万円以上のクーポンを獲得するなどしていました。いわゆる経済的なライフハックに凝っていたんです。

そこで得たノウハウを、特にお金に不安を持つ学生に向けて提供していきたいと思い、アプリの開発に着手しました。

ーアメリカでのご経験が、現在のキャリアに繋がっているのですね。そもそもアメリカ留学を決められた経緯を伺っても良いですか?

最初は、単に人と違うキャリアを歩みたいと考えたんです。地元新潟の高校では、ほとんどの生徒が当然のように進学を選んでいました。その人たちとは異なるキャリアを選ぶにはどうしたらいいか考えると同時に、漠然とお金持ちになりたいなと思ったんです。自然と世界でも有数の資産家が集まるアメリカへの留学が候補に上がりましたね。

―英語は得意だったのですか?

全く得意ではありませんでした。アメリカへ渡った当初は語学学校に半年通い、その後で短期大学に入学しました。

ーもともと語学が得意ではないなかで、アメリカ留学を決意するというのはかなりの行動力ですね。

母方の祖父が町会議員をやっていたり、父も学生時代に個人でラジオ放送局を運営していたりしました。行動的な血筋なのかもしれません。振り返れば中学生ぐらいのころから生徒会に挑戦したり、高校ではあえて難しい理系を選択したりと、常に困難な選択肢を選ぶようにしてきました。案外、困難な道を選んだ方が結果的に競争相手も減ってチャンスをつかみやすくなるのだと思うんです。

アメリカで夢見たスタートアップへの参画

ーアメリカではどのようなことに挑戦されましたか?

短大では主にマーケティングを学んでいました。一方、基本的な学問、語学や数学なども履修していましたね。

ただ、大学での授業以上に刺激となったのは住んでいた環境ですね。シリコンバレーに近いところに住んでいたので、有名なスタートアップ経営者の話を聞く機会に恵まれていました。

自身もスタートアップで働きたいと思うようになり、短大卒業後、学位取得に伴い与えられる1年間の就労許可を用いて、いろんな企業のインターンに参加しました。

ーどのような企業のインターンに参加しましたか?

印象に残っているのは、LINE社のインターンプログラムですね。2,000から3,000名規模の応募があった中で、最終的に20名ほどしか参加できないものでした。合格者はチームを組んでLINEの新規ビジネスを考え、経営陣に提案するんです。最後まで残っていた学生たちは、本当に優秀な人ばかりで、何気ない会話から学ぶことも多かったですね。

この時の経験が忘れられず、その後もいろんな経営者コミュニティに参加して人脈を広げ、インターン先を見つけたりしていました。

ー当時は将来のことをどのように考えていたのですか?

そのままアメリカで4年制大学に編入して、卒業後も現地で暮らすつもりでいました。しかし、編入を間近に控えた2020年初頭にコロナが流行したため、様子見のために一時帰国したんです。しかし、未だにアメリカへ戻れるような状況ではありませんね。

ー描いていたシナリオがコロナによって崩れてしまったんですね。

オンラインでアメリカの大学に通うという手もありましたが、学費も高いためリアルで受けれない状態に価値を感じられなかったんです。日本に戻るとフリーターのような状態になってしまって、宙ぶらりんな自分に焦りも感じました。

そんな状況を打破するため、日本でもインターンを始めたんです。帰国後は地元新潟に住んでいたのですが、インターンのために初めて上京しました。参加したのはまだ社員数人のスタートアップで、資金調達に奔走しているようなフェーズでした。創業間もないスタートアップの雰囲気を学ぶ良い機会となると同時に、忙しさが将来への不安をかき消してもくれましたね。

インターンをやりながら、2020年の初頭には、学生向けの起業家育成プログラムにも参加していました。特にビジネスアイデアがあったわけではないのですが、そのコミュニティにいることで、自身も起業をしようというモチベーションが湧いてきたんです。

「GAKUWARI」のアイデアが形になってきたのは、今年になってからですね。起業家が集まるシェアハウスに引っ越したことで、同世代の起業家と話す機会が格段に増え、自分が「割引サービス」というものに強いこだわりを持っていることを自覚し、何をしたいかが明らかになっていったんです。

「GAKUWARI」支援で学生に多様な選択肢を

ーあらためて「GAKUWARI」の立ち上げ期についてもお伺いします。当初はどのように開発をすすめたのでしょうか?

最初は、一人でノーコード開発ツールを使い、世の中の学割サービスをキュレーションするアプリを作っただけでした。それを数十名のテストユーザーに配布して試してもらったところ、有用性の高さを再確認できたんです。

テストに参加してくれた人のなかから事業を手伝ってくれるメンバーも出てきました。ほかにもスタートアップ企業を紹介するインスタアカウントを運用していたところ、それがきっかけでエンジニアなどが加わってくれました。

ー今後「GAKUWARI」を通じて実現したいことは何でしょうか?

コロナ禍でお金に困る学生というのはかなり増えています。ある調査では60%の大学生が、経済的不安を抱えているというのです。そうした学生を学割で救える可能性があると自分は信じています。

従来の学生は、中学入学から大学卒業までに推定で平均90万円程度の学割を受けていたんです。「GAKUWARI」でより多くの学生に割引サービスの存在を伝えることができれば、あるいは全く新しい学割を作ることができれば、この金額を200万から300万円ほどに増やすことも不可能ではないと思っています。国の学生に対する支援よりも手厚いものとなるでしょう。手始めに、普段使いするスーパーなどの学割サービスなどを導入していければと考えています。

学割サービスの拡大は、学生が多様な経験をお得に得られるだけでなく、お金を稼ぐために行っていたバイトの量を減らすことにも繋がります。学割によって、学生がもっといろんなことにチャレンジできるようになり、将来の選択肢を増やしていける社会を実現したいです。

取材者:山崎貴大(Twitter
執筆者:海崎 泰宏
デザイナー:安田遥(Twitter