家族のカタチを探求し続ける。NPO法人で医療的ケア児支援領域に携わる安野早紀子

様々なキャリアの人たちが集まって、これまでのステップや将来への展望などを語り合うユニークキャリアラウンジ。第238回目となる今回のゲストは、NPO法人に新卒で入社し、医療的ケア児の支援領域に携わっている安野早紀子さんです。

京都大学へ入学後、女性起業支援を行う企業でのインターンや、スウェーデン留学を経験してきた安野さん。そんな安野さんがNPO法人に就職し、医療的ケア児の支援をテーマに活動するまでの経緯について伺いました。

母を通じて “女性の社会進出” に関心を持つ

ーまずは簡単に自己紹介をお願いします。

今は親子の社会課題を解決する認定NPO法人で、医療的ケア児の支援領域を中心に活動しています。

ーNPO法人への就職に行きついた原点をお伺いしたいです。

母の存在が大きいですね。私の母はもともと小学校の先生で、出産前に一度退職したのですが、非常勤という形で復職しました。

復職してからは担任を受け持つほど忙しかったので、私も家事をするようになって。高校生になり、本格的に勉強に取り組むにあたって家事が重荷に感じ、母に何度も「仕事を休んでほしい」と伝えていました。

年度末のある日、母が生徒や親御さんからたくさんの手紙やお花をもらって帰ってきたので、それを読ませてもらったんです。

すると、生徒や親御さんに必要とされていることを感じる言葉が並んでいました。家では感じなかったですが、母は日々、人の人生に関わっていて、学校では輝いているということを一瞬で突き付けられたようでした。

「休んでほしいという自分の願いは、母のこの素敵な出会いをなくすことだったのか」という申し訳なさで、涙が止まりませんでした。

ー安野さんの中で、きっと葛藤があったのですね。

そうですね。時期を同じくして、高校で「女性の生き方」をテーマとする特別授業がありました。自分が今後働く姿を想像したときに、母の姿が浮かんできて。

家族からは、「お母さんは家にいて当たり前」という向かい風があってもなお、自分の価値を発揮できる場を持っている母を、次第に尊敬するようになりました。

女性の生き方について調べていく中で、我が家だけでなく日本中で同じ問題があることを知り、女性の社会進出というテーマに取り組んでいきたいと思うようになったんです。大学や学部も、その軸で選びました。

ー働き方について考えを深める最初の機会だったんですね。

関心は “男性の家庭進出” へとシフトする

ー先ほど、女性の社会進出というテーマを軸に、大学や学部を選んだというお話がありました。進路選択から、大学入学後までのお話をお聞かせください。

女性の社会進出はとても複雑な課題なので、分野を横断してアプローチする必要があると感じていました。

そこで、京都大学の総合人間学部に入り、政策とジェンダー論について学び始めたんです。

ー入学後、何か転機はありましたか?

大学1年生の春休みに、女性の起業を支援する会社で1か月半ほどインターンをして。私にとってその経験は、大きな転機になりました。

社員は社長だけで、女性の起業支援に関する新規事業を作っていくタイミングだったので、社長と一緒にいろんな女性に会いに行き、話を聞きました。

すると、自分のスキルを活かして活躍している女性が思いのほか多くいらっしゃって。「女性の社会進出は進んできているんだな」というのが率直な感想でした。それと同時に、「男性の家庭進出が進みにくい社会構造があるのではないかと考えるようになったんです。

ーなぜ、男性の家庭進出について考えるようになったのでしょうか?

色んな女性にヒアリングする中で、フルタイムでの仕事は難しいというお話を聞いたのがきっかけです。

当時、奈良にいる女性にヒアリングしていると、奈良の方は大阪や京都に出勤されることが多いという事実を知って。そうなると、より家事や子育てに関わる時間は減りますよね。

子どもが生まれたときに女性が世話をしていると、それが当たり前になってしまって、夫婦間での家事や子育てのバランスを変えづらくなるみたいです。

女性は本当はバリバリ働きたいけど、バランスを変えづらくてフルタイムでは働けない。逆に男性は、県外へ出勤しているので家庭に時間を割けなくなってしまう、という構造ができていました。

スウェーデンで脳裏に焼き付いた暮らしの映像

ー男性の家庭進出に関しては、その後どのように学んでいきましたか?

高校で女性の生き方について調べていた頃、スウェーデンでは男性の家事参加率が高いことを知って。大学生になり、男性の家庭進出について気になり始めたときに、その頃のデータを思い出したんです。

なぜスウェーデンでは男性の家事参加率が高いのか、その数字は本当なのかを自分の目で確かめたいと思ったので、大学3年生で交換留学制度を使い、1年間スウェーデンで暮らしました。

ーすごい行動力ですね。スウェーデンへ行って気づいたことや、感じたことをお聞かせください。

スウェーデンでの家族の在り方は、日本とは違うものでした。

当時いろんな方に紹介していただいて、いくつかの家庭に行かせていただいた中で、気づきがたくさんありました。スウェーデンでは性別によって働き方を区別するわけではなく、それぞれの夫婦で話し合って役割の配分を決めていたんです。

私は少し前まで、50対50など、男女でちょうどいい役割の比率があるのではないかと思っていたのですが、そうではなく、お互いのタイミングを見て「今はこっちが頑張る」とか、話し合って決めることが大事だと知りました。

私がずっと追いかけていたのは、この話し合う関係性だったのかもしれないと気づいたんです。

ー安野さんの中で、答えに近いようなものにたどり着いた瞬間ですね。いろんなご家庭へ行ったときに、印象に残っている出来事はありますか?

あるご家庭に4日間ほど泊まらせていただいたときに見た風景が、ずっと心に残っています。

料理を作るときはご夫婦で台所に立ち、前菜はお父さん、メイン料理はお母さんが作ったり、休日のお昼ご飯はお父さんが作ったり。些細ではありますが、そういう暮らしの映像が宝物です。

ー他にも当時の気づきがあれば教えてください。

スウェーデンの歴史を学ぶ中で、今のスウェーデンでの暮らしは長年一貫した方針で行ってきた政策の結果であることに気づきました。スウェーデン式だけが正解ではなく、日本には日本のやり方があると思ったんです。

どんな政策を行っても、メリットとデメリットのどちらもありますが、大事なのはメリットが現れるまで続けていくことではないかと考え始めました。

NPOに就職。目で見て、耳で聞いて、心で感じる

ー大学卒業後の進路はどのように考えていましたか?

「家族の在り方」に関わる仕事に就きたいと考えていました。関わり方は色々ありますが、その中でも人々の行動に大きな影響を与えられるのは、国の制度だと思ったんです。

ただ、机上の空論になってしまっては良くないですし、自分の目で見たり聞いたりしたいという想いがありました。「 “国の制度” と “生の声” 、2つを行き来できるところはどこかな?」と探しているときに、NPOと出会ったんです。

ー安野さんは「直接聞く」ということを大事にされていますが、それはなぜでしょうか?

聞きに行くと、聞いたこと以上の情報が得られたりするからですね。言葉以外でも、現場でしか感じられない情景があると思うんです。

やり取りを交わすことで生まれる新しい関係とか、新たな道が見えてくるとか……そういう偶然の産物に惹かれているのかもしれません。

ーNPOに入ってみて、ギャップはありましたか?

日々の仕事はまさに思っていた通り、現場と仕組みづくりを行き来するようなことでした。

意外だったのは、財務を重要視していることです。NPO法人と聞くと、お金よりも人助けという印象があるかもしれませんが、助けるにも持続性がないといけないので、永続的に成り立つモデルを目指していることには驚きましたね。

ー良いギャップですね。今されているお仕事についてお聞かせください。

現在の仕事の領域は、医療的ケア児の支援です。医療的ケア児というのは、呼吸や食事などをするために医療的なデバイスを使っていて、そのケアを必要としているお子さんです。

預かるには専門のスタッフが必要だったり、外出が難しいお子さんもいらっしゃったりするので、親御さんが離れる時間をなかなか取れないのが現状です。私はそういったお子さんを、看護師が預かる事業に携わっています。

関われば関わるほど多くの声に触れ、何とかしたいという想いがどんどん湧いてきますね。

ー具体的に、何とかしたいと思うのはどのようなときですか?

現在東京都エリアを中心に活動しているのですが、他の地域の方からも日々お問い合わせをいただいていて。東京以外でも、支援制度を必要としている人はいるということを実感したときに、「何とかしたい」と強く思いますね。

他の地域にも真似してもらえるようなケースを作ることで、「こういうやり方もあるよ」と広めていきたいです。

もう少しだけ、生きやすい世の中に

ーいろんな家庭の在り方を見てきた安野さんだからこそお伺いしたいことがあります。夫婦間のパートナーシップを良好に保つには、どうすれば良いのでしょうか?

とても難しい質問ですね。まずは自分が今、どういう状況にあるのか知ることが大事だと思います。

自分の感情に無自覚なまま表面的な反応をしてしまうと、通じ合えないと思うんです。なので、表面的な感情の奥にあるニーズを知ることが、第一歩として必要な動きだと思います。

ー自分の感情を知ることは、シンプルですが難しいですよね。自分の感情にアプローチするために、安野さんが普段されていることはありますか?

昔から日記を書いています。人に話すのが苦手だったので、とにかく感情を書き出してきました。

書いてあることを見て、「何でこう思ったんだろう」「何が気になっているんだろう」と深掘りしていくことで、頭の中が整理されるんです。

パートナーシップに限らず、日々の仕事の中で感情が駆け巡ったときは、紙に書き出していますね。

ーすぐに実践できそうですね!最後に、安野さんの今後のビジョンを教えてください。

近い将来としては、現在東京で行っている事業を、他に必要としている地域にも伝えていきたいです。

長期的な目標でいうと、目に見えない生きづらさや、人との関わりづらさについて考え続けていきたいです。私自身、人と関わる中で「親しい関係を築きにくいなあ」と悩むことがあるので。「みんなが暮らしやすくなる仕組みを生み出せたらいいな」と思っています。

そのための1つのプランとして、まずは子どもが安心して育つ場を作りたいですね。

ー安野さんの描いている未来が実現できれば、今よりもっと生きやすい社会になると思うので、今後のご活躍をお祈りしています!本日はありがとうございました。

取材者:山崎貴大Twitter
執筆者:Moriharu(Twitter
デザイナー:五十嵐有沙 (Twitter