東大卒ニートドリブンが教えてくれた”立ち止まる勇気”

ユニークなキャリアの人たちが集まり、これまでの経歴や将来のビジョンを語り合うユニークキャリアラウンジ。

第21回目のゲストは、ホームレスになる為に東大に入学された、ユニークな経歴を持つ今林さん。

東京大学→ITベンチャー→ニート→ホームレス→ボディーワーカーという不思議なキャリアを歩まれています。

今回は、ニートドリブンだった過去から遡り、ボディーワーカーとして活動している現在までたっぷりお伺いしました。

今林淳:1992年生まれ。東京大学卒業後、株式会社じげんに入社し、株式会社ブレインラボと兼務で2年半勤務。『アルケミスト』という本をきっかけに退職を決意し、ニート&ホームレスの道へ。現在はボディーワークに取り組んでいる。

 

東大卒でベンチャー企業へ。でも、本当にしたかったのはビジネスではなく「知の追求」

ーーニートになる前の今林さんのことをお伺いしたいです。大学は東京大学に行かれてたんですよね?

今林:そうですね。なので「ホームレスになる為に東大に入りました」と言うと、だいたい笑いが起こります(笑)

大学時代はラクロス漬けの毎日を送っていて、卒業後に株式会社じげんというITベンチャーに入社しました。

ーー東大からベンチャーへ入られたのですね。じげんの決め手は何でしたか?

今林:僕がじげんと出会ったのは、大学卒業間際の2月でした。

その頃、大学生のうちにしかできない事をしようと思い、ベンチャー企業の社長訪問をしていました。経営者の常識にとらわれない自由さに憧れていたんです。

じげんの平尾社長ともそういうきっかけで話したのですが、僕の人生を深掘りされ、気付いたら「僕はビジネスには興味がありません、知の追求がしたいんです」と、魂の叫びを口走っていて(笑)

そうしたら「それでもいいから、うちで修行してみたら」と言われ、それに心を打たれてじげんに入社しました。

ーーすごい、まさかの展開でしたね…。ただ、どうして退職をしてニートの道を選んだのでしょうか?

ビジネスをしてみた結果、やっぱり知の追求がしたかったんです。ニートになるきっかけは『アルケミスト』という1冊の本がきっかけでした

――僕も大好きな文庫です。

『アルケミスト』は大学生の頃から、僕のバイブルとなっています。事あるごとに読み返していたのですが、社会人3年目の春に読んだら心が全く動かなくなっていて。

社会人3年目にして、不感症になってしまった感覚でした…。「大学生の頃のピュアさが失われてきているかもしれない」と切なくなりましたね。

それで社内での異動や転職を考え始め、スタートアップを手伝ったりもしましたが、結局どれもしっくり来なくて。

――まさか、そこで「そうだ、ニートになろう」と思ったのですか?

そういう事です(笑)

 

約7ヵ月のホームレス生活。100軒の家に泊まったら悟りが開けた

ーーニート生活はどんなことをしていましたか?ホームレス生活をしていたと聞いていますが。

今林:ニートになって最初の4ヵ月で、全財産の120万円を使い切りました(笑)自由になったらやりたい事が多すぎて、止まらなかったですね。

それで家を手放す事を決め、SNSで『俺は、家がなくなったぞー!みんな泊めてくれー!』と投稿したら、『泊まり来いよ来いよ来いよ来いよ』と、30人近くがコメントしてくれて。

――それはすごい!ホームレスと言っても路上で生活していた訳ではないんですね。

今林:そうなんです。いろんな人の家を毎日渡り歩きました。

7ヶ月ホームレス生活をして約100軒の家に泊まったのですが、本当にいろんな暮らしを体験させてもらいました。

虚飾がはがれて人に素直にお願いできるようになったり、「今日泊まる家は今日決まるだろうな」と、流れに身を委ねる感覚が生まれたり。

ホームレスはチャンスがあれば、一度やってみると面白いと思います。

――なんと、ホームレスのススメ(笑)

今林:特にニートになる人は、ニートになるタイミングでホームレスにもなると良いかもしれません。

その方がニートを長い時間楽しめるというのはあると思います。

――ニートとホームレスはセットということですね。

今林:ホームレス生活では「この人ちょっと苦手だな」という人の家に泊めてもらう事もありました。

でも、そういう時こそ腹を決めて本音をぶつけて対話をしてみると、自分の全く知らない世界が開けたり、ものすごく仲良くなったりするんですよね。

ホームレス生活を続けるうちに、自分の中の他者否定的なマインドが徐々に溶けていき、自分と意見の違う人も肯定できるような生き方をしたいと思うようになりました。

正義から愛へのシフトみたいな感じかな、「みんな美しいし、みんな素晴らしいな」と。

ちょうどその時期に “上善如水”という言葉にピンと来ました。「僕は上を目指すんじゃなくて下を目指すんだ」と。

仕事を辞め、お金がなくなり、家がなくなり、というのは表面的にはあまり良くない出来事ですが、生きていく上で必須と思っていたものを失う事で得られる気付きはとても大きいです。

 

とある本に出会いボディーワークの道へ。彼女の肩に20秒間手を当てたら、肩こりが消えた

ーー現在はボディーワークに情熱を注いでいるという事でしたが、どこで出会ったのでしょうか?

今林:知の探求の果てに、ソマティック(身体性)に辿り着きました。具体的な出会いのきっかけは、吉本ばななさん著の『違うことをしないこと』というエッセー/対談本です。

その中で宇宙マッサージをするプリミ恥部(プリミちぶ)さんという方が登場します。

――名前がまた面白いですね。そこからどうやってボディーワークに繋がったのでうか?

今林:プリミ恥部さんの哲学に大変共感しました。そして、「自分でも宇宙マッサージができそう…」と直感的に感じたんです。

たまたま隣に彼女がいたので、肩を借りて手を置いてみました。そうしたら、何もしなかったのに、10秒20秒くらいしたら、肩のこりがなくなったんです。

ーーええ…?ただ手を置いただけで?

今林:そうです。「今すごいことが起きたぞ」と思いました。それから、人の家に泊まらせてもらっては施術をさせてもらう、という生活が始まりました。

施術人数が30人を超えた辺りで質的な成長があって、受けた方が過去の記憶を思い出すという現象が起き始めたんです。

――ただ黙ってやっているだけですよね。例えば、どういったことが起きましたか?

今林:ある20代女性は、僕が手を触れている時だけ「幼稚園時代の実家の光景が見えた」と言っていました。当時のリビングのカレンダーまではっきり見えたそうです。

その女性は腰痛があったのですがその出来事が原因だったようで、施術後に腰痛がなくなりました。

全てがそのケースに当てはまる訳ではないのですが、心・身体の関係性が過去の出来事と密接に関わっていると思っていて。今後も、深みについて探求していきたいです。

 

忙しい世の中だからこそ、心だけでもニートでいよう

ーーエリートからニートまで様々な経験をされた今林さん。U−29世代に伝えたいメッセージはありますか?

「これをしないと自分には価値がない」
「こうしないと愛されない」
「常に頑張り続けきゃいけない」
「常にギバーマインドであらねば」

こういった自己否定を伴う強迫観念があると、人は立ち止まる事ができなくなります。

もし、立ち止まれていない頑張り屋な方がいたら「いつでも立ち止まってもいいんだよ」と声をかけたいし、強迫観念が根底から癒えるような体験をしてほしいです。

その想いで、僕はボディワークと向き合っています。

また、周りから「ニートって何?」と聞かれる事がありますが、僕は「ニートは心のありよう」だと思っています。「心がニートならそれはニート」だなって。

ふと立ち止まって「今日の空綺麗だな」と空を見上げたり、「今日は芝生で寝っ転がろう」と脱線してみたり、そういう心の余裕をみんなが持ってくれたら嬉しいです。

 

取材・編集:西村創一朗
文:ヌイ
写真:山崎貴大