人生で初めて、没頭できた。女子大生がスポンサーを獲得し、ドローンレーサーとして成長するまで

誰かに否定的なことを言われても、「一番のファンになってもらおう!」という姿勢で挑み、楽しんでます。

熱を持った眼差しで、現役の大学生でありながら、プロのドローンレーサーとして活躍中の中川絵梨さんはそう答えました。

まだまだマイナースポーツである「ドローンレース」を極めたいと宣言した時。周りからは応援を受けた一方で、親御さんからは猛反対を受け、心配されたと言います。

そんな彼女が、どのようにして多くの応援を募り、複数のスポンサーを獲得し、女性初となる国内リーグプロクラス昇格まで成長できたのか。そこには彼女なりの葛藤と努力が隠れていました。

 

熱中するものがなかった小中高時代

ー最初に、ドローンと出会う前の中川さんのことをお聞きしたいです。ご自身のnoteにも書かれてましたが、今のように没頭するものがなく、悩んでた時期もあったんですね。

中川絵梨(以下、中川):そうですね。ドローンに出会うまでは、熱中できたと胸を張って言えるものは何もありませんでした。

小中高時代は、周りの同級生がなにかに熱中している姿が眩しくみえて。自分だけ取り残されているような感覚に焦っていました。自分は、好きなことも夢中になれることもなくて。淡泊で情けないなって。

ーなるほど。部活など何か挑戦していたことはありましたか?

中川:友だちに誘われ中学の頃はダンス部に、高校は親の勧めで馬術部に一時所属していました。高校卒業前には、フランスの小さな村に1年間ホームステイで滞在したりも。

実は幼少期にフランスに9年間滞在していたのですが、その頃はとんでもない引っ込み思案で。更に、語学が身についてきたかな?という頃に日本に帰国してしまったんです。内気な性格のせいで語学スキルが中途半端になったのが悔しくて、明るくたくさん話す性格に無理やりシフトしてリベンジに行かせてもらったんです。

ただ、「好き」という感覚や「悔しくて頑張る」気持ちはあっても、熱中とは程遠くて。

辛いことや、怒られたり、不安なことがあると「あぁ、、辞めたいな」「自分で決めたのになんでこんなことしてるんだっけな」と思ってしまいましたね。で、辞めたいと感じるということは、「あれ、これ別に好きじゃないんだな」と思ってしまったんです。

 

大学でドローンに出会い、「空を飛ぶ」感覚に心奪われる

ー今まで没頭できなかった中川さんは、ドローンに出会って変わったわけですよね。ドローンはどこで出会ったのですか?

中川:私は慶應義塾大学のSFCに通っているのですが、そこのドローンサークルで体験会がありました。そのとき、自由に空を飛ぶドローンをみて、雷に打たれたように一目惚れしてしまって。

ー数多いサークルの中でも、何故ドローンサークルに惹きつけられたのですか?

中川:魅力的だったのは、本当に楽しそうに教えながらドローンを飛ばしていた先輩たちの姿でした。楽しく取り組んでいる姿が魅力的に映ったんです。

そんな先輩方に教えてもらいながら、初めて空を自由に飛んだ。

湧き上がる感情がなんなのかもわからず「これだ!」って直感で思いました。ふり返ると、人生初の一目惚れで、そのときからずっと一直線で没頭モードに入っています。

ー本当に好きなんだなって伝わってきていますよ。ドローンのどんなところが魅力でしたか?

中川:ドローンをやっている人の多くが、「鳥になったような感覚が好き」とよく表現します。まさにその通りだと思っていて。自由に空を飛んで、新しい視点で景色が見える。普段の生活では体験できない楽しさに、手軽に触れられる。世界が広がって見えました。

その後さらにドローンの世界を知るためにドローンの研究室に入り、ドローンレースを始めました。レースとなると、さらにスポーツとしても空の旅を楽しめるんですよ。

ドローンレースは最高速だと時速180kmくらい出せるようなパワフルな機体を自作し、ゴーグルを装着してカメラの映像を見ながら操縦します。

これが思った以上に没入感あって。動体視力も、反射神経も、練習を重ねることでどんどん磨かれていく感覚です。成長を感じられる、見る人にも感動を与えることができる。スポーツとして楽しめる要素は充分にあります。

 

ドローンの活動を広げるために、休学を決意

ー中川さんは、今年に9ヶ月間休学をしていますよね。きっかけはあるんですか?

中川:シンプルに、ドローンの活動の幅を広げ、まず国内の女性1位になりたい、そして世界進出にチャレンジしたいと考えて決断しました。

休学が始まってまずしたのは自分のチームを作ること。せっかくやるなら仲間と切磋琢磨し、スポンサードをつけて一丸となり大きく成長していく、ということを経験をしてみたく。なんだか面白そうじゃないですか!

タイミングとしては、時間のゆとりがありつつ、休学という選択肢が前向きに受け入れられる学生期間のうちにした方がいいなって。周りの友達にも何人か休学している人はいたので、特に迷いはありませんでした。

ー思い切りましたね。仲間集めやチーム作りってどのように進めていましたか?

中川:自分はフィーリングがあう人とやりたいなと。他のレーシングチームは、能力や年齢、住んでいる地域などを軸とするチーム構成が多いですが、私のチームの場合は「頭にお花が咲いているかどうか」(笑)。

決して悪い意味ではなく、「一緒にいるだけで安心したり、楽しい気分になれる人」「この人となら辛いことがあっても、柔らかい気持ちを思い出して頑張れそう」など。チーム内の共通認識として、今でも大事にしている軸なんです。 RABBITS-FPV(中川さんが代表を務めるドローンレースチーム)への入会における、唯一の条件になっています。

ーなるほど。スポンサーの方はどんなところを見て、RABBITS-FPVを支援しているのですか?

中川:チームの立ち上げ当初は、実績もお金もなかったんです。そんな私がしたことはまず、今までにドローンイベントの共同運営や場所貸しをしてくださった方々、趣味のドローン撮影でお世話になっていた方々などに、チームを立ち上げたことをお伝えしました。

するとありがたいことに、チームの「パートナー様」としてこれからも関係性を深めていくことを受け入れてくださり。その後もイベントのコラボ運営を増やしたり、レースに必要な物品支援を頂いたりしました。

最も特殊だったのは、今年メインスポンサーになってくださったSkyDRONEショップの大岩社長でした。「自分がドローンレースを楽しむ時間を取れない代わりに、頑張ってる若い人を応援して活躍する夢を叶えたい」と。当初お会いたことがない中でのお願いにも関わらず、紹介を経て前向きにスポンサーシップの相談に乗っていただけました。全力で一緒に走りながら背中も強く押してくださっていて。感謝で溢れています。

そうしてたくさんの応援があり、レースでは一年足らずで全国リーグでプロクラス入り(国内の女性レーサー初)や、全国選手権で予選突破ができるほど成長できました。少しずつですが、ドローンレース界の外からも評価や応援をいただけるようになり、来年度からは金銭面の支援をいただけるスポンサー様が2社、新たにチームに付いていただけるようになりました!

来年は、海外の大会にたくさん出て学ぶ経験に集中、挑戦したいんです。交通費も今年の国内大会への出場に比べると倍以上かかってきます。

そして、自分だけでなく、遠方のレースに出れなかったチームメンバーのチャンスも、来年は広げたい。1年間チームを、リーダーである私を愛してくれたメンバーなんです。ここまで成長や挑戦をさせてくれたお礼がしたい。

機体パーツも世界のレーサーが使う機体に勝てる強さのあるものにどんどん更新して、メンバー全員で大きく成長していきたいのです。

交通費と機体パーツ費、活動費は、来年の年間を通じてしっかり全員に全額支援していきます。

 

スポンサーを獲得するまでの地道な努力

ードローンのスポンサーっていまいち想像ができず。サッカーだと所属契約やユニフォームなどがありますが、ドローンレースはどこがポイントとなってスポンサーがつくのですか?

中川:そこは日々頭を悩ませながら考えています。ドローンレースはまだまだマイナースポーツですから、自分たちがレースに出て活動するだけでは、もちろんスポンサー様の大きなリターンに直接繋がりにくいのが現状です。

ーなるほど、繋がりにくいんですね。

中川:なので、時間がかかってでもいただいた応援支援以上のものを返していくには、どうしたらいいか。自分たちになにがしたくてなにができるか、なにをミッションとしていきたい3人なのか。持てる疑問は日々、すぐに議題に出し、スポンサー様にも隠さず伝え、質問を投げかけています。なんでも「コミュニケーション不足」が失敗の原因だそうです。なので、深いコミュニケーションさえあれば、小さくでも成長し、いつかなにかの喜びに繋がると思っています。

目指すのは、会社のロゴマークを入れるだけの単純な広報リターンではなく、共に新たな価値をつくっていけるような「共創型のスポンサーシップ関係」です。

 

フリーランスではなく、あえて就活を選ぶ理由

ーフリーランスではなく就職を視野に入れている理由は何ですか?

中川:前から、会社員になると時間の制限は学生に比べて大きく、今のように自由な活動ができなくなるのではないかと懸念していました。そして、今年の夏頃にドローンを始めたい子どもたちの力になりたいと、大学のOBと一緒に教育系の会社を作り、いつかドローンレーススクールを運営したいという思いで動いていました。

ただ、自分の練習やレース出場の時間と、急速に成長させていきたい事業の時間。そのバランスが難しくなってしまいました。「好きを仕事にする」が、重なっているようで重なっていなかった。様々な方にお話やアドバイスをいただき、一旦ストップしました。

その後、就活相談を始めた頃にとある大企業の方との出会いがあり、「全国大会のような大きな大会イベントを運営する下積みを経験をすることで、今後のスポンサーリターンに活きるのではないか」という考えに、お話しているうちにたどり着きました。

もしかしたら、ドローンレーサーとして魅力を感じていただけた会社があれば、今のスポンサーシップ関係をそのまま仕事にできるかもしれない。また、大きな大会イベント運営をしている会社で働くことができれば、更に大きなドローンイベントが運営できるようになるスキルアップにも繋がるなと。

なので、共創型スポンサーシップの関係を分解し、そのまま就活で提案しています。実際、私も話しながらすごく震えるし勇気のいることですが(笑)

でももしこれが叶えば、マイナースポーツを生活のメインに続けていきたい人が、夢や環境を諦めず、新しい就職活動のスタイルや仕事のスタイルを見つけるための、一例が生まれるのではないかと考えています。

諦める人をなくそう、これはチームのミッションでもあります。

 

アンチとファンは紙一重。マイナスなことを言われてもめげない

ー中川さんの挑戦って、世間一般的には稀じゃないですか。前例もない。親御さんからの心配や反対はありませんでしたか?

中川:もちろん、最初はたくさん言い合いがありました。休学も猛反対されていましたし。それでもこの強い思いは止められないよなと思って、レーサー仲間に相談して泣いちゃったりしながらも、親を納得させられるまでのアドバイスと励ましを貰いました。

結果勢いではなく、具体的に「なにを目標としているのか。レースに出たりドローンを極めることで、どんなスキルが身につくのか。どう将来に役立てるのか」を伝えたら、ある日納得してくれて。今では一番の応援者です。

ーすごい。何かを挑戦する時、不安があるなかで一歩を踏み出すことって難しいじゃないですか。どうやってその一歩を踏み出していますか?

中川:ドローンレースのことを、または私の挑戦を口にした時に、マイナスなことを言われても、「おっ!?きたな〜!!なんなら味方につけて一番のファンになってもらうからな〜」という姿勢でやってます。

そんな姿勢で物事を進めていくと、意外とうまくいきます。逆にその姿勢を取れず、へこんでしまうこともあるのですが、そういう場合は本当にやりたいこととは違うことをしてしまっているのかもしれないと思うようにしています。

ーかっこいいですね。今までアンチをファンにさせた原体験ってありましたか?

中川:アンチと言うか、人の悪口はあまり言いたくないのですが、一番身近だと両親ですね。きついなと思う「縁を切ろうと思った」という言葉や、失敗したな、と思ったときの「だからこうしろといっただろう」は、愛して心配してくれていたがゆえに出てきた、とっさの言葉だったんだろうなと今では思います。

自分のやりたいことを伝えて、挑戦するってドローンレースが初めてだったのですが、こんなにやりたいことがたくさんがあるのに、言いなりになっているだけじゃダメだなって。

諦めたくないならやりたいことをはっきり伝え、行動に示す。両親との一時的な葛藤から1年が経過しましたが、心の底から成長に喜び、応援してくれています。

 

今後挑戦していきたいこと

ーでは最後に、今後やっていきたいことを教えてください。

中川:チームで大きなミッションがあります。「ドローンレースを諦める人を無くすこと」です。私自身たくさんの方に応援支援をしていただいていたおかげで、心躍る方に向かっていくという選択肢を、あのとき選んでよかったと思えています。

新しいことに挑戦してみたい、あこがれを叶えたい。ステップを踏みながら、応援をもらいながら。誰もが葛藤の中、自分で環境を作り、成長を楽しんでいける可能性が、この国に世代にはあるということをロールモデルとなって伝えたい。例えば「頑張ってるけどお金ないから諦めようと思うんですよ」ってしょんぼりする学生仲間をみると、えっ待って諦めないで一緒に考えよ〜!?ってなっちゃいます(笑)

スポンサーシップ関係や、現に数多くの社会人レーサーの方々がそうであるように、お仕事と並行しながらでももちろんやっていくことも可能です。他にも人それぞれに色々な選択肢が作れると思います。

私はいちドローンレーサーとして、「好きな人達と一緒に、深く繋がった応援者と一緒に、心躍ることに挑戦してみんなで成長する」ということの面白さを、今度こそ自分に諦めず、伝えていきたいです。

 

取材・編集:西村創一朗
執筆:ヌイ