重度の障がい者が社会で活躍できる世の中を目指す、エラフルー代表・山本亮輔

様々なキャリアの人たちが集まって、これまでのステップや将来への展望などを語り合うユニークキャリアラウンジ。第492回目となる今回は、株式会社エラフルー代表の山本亮輔さんをゲストにお迎えし、現在のキャリアに至るまでの経緯を伺いました。

重度の障がい者に焦点をあてたビジネスを展開する山本さん。慈善事業やNPOではなく、株式会社にすることで福祉業界でも社会課題解決と利益の両方を追求し、今後も福祉業界の課題を解決するスタートアップの数を増やしたいという思いもあるそうです。利益を出すのが難しい分野で起業に挑戦する山本さんの思いをこれまでの過程から紐解いていきます。

重度の障がい者が生み出したアートで利益を出す挑戦

ー自己紹介をお願いします。

株式会社エラフルー代表の山本亮輔と申します。2021年6月に創業して、特別支援学校に通う小学生向けのアトリエ教室を主に運営しています。現在アートイベントを企画して事業拡大を目指しています。

ー福祉の分野で起業しようと思ったきっかけはありますか?

身近に重度の障がいを持った人がいて、現在の福祉まわりに課題を感じていたことがきっかけです。実は10歳下の弟が、脊髄の横に染色体7番の疾患があり特別支援学校に通っています。

当時、障がい福祉領域において複数の事業を展開している株式会社LITALICOでインターンをしていて、新規事業として重度の障がいを持った方に焦点を当てたビジネスを展開できればいいなと考えていました。しかし大企業で実現するのが難しそうだったので起業を決意しました。

ー重度の障がいを持つ方々に関する課題は具体的にどのようなものがあると考えていますか?

1つ目は、障がいを持っている子供たちが学校以外の時間でできることの選択肢がとても少ないこと。2つ目は、親が亡くなったあとに誰が子供を支援するかの問題。3つ目は、重度の障がい者が就労することが困難な上に、作業所での賃金が低すぎるという問題。

サービスを普及させるタイミングで上記の課題を解決したいと思っています。

ー福祉の分野は利益を出すことが難しいと感じていますが、どのようにお考えですか?

そうですね。僕がやっているアトリエ教室は重度の障がい児を対象としているのでヘルパーの方を1対1でつける必要があり、人件費や固定費が高くついてしまうんですよ。教室の事業だけで利益を出すことに限界を感じています。

そこで考えているのが子供たちが描いたアートを二次利用して利益を出すことです。展示会や美術館で販売、ESGやCSRの一環として民間企業に買ってもらう、アートのレンタル事業などを検討していて現在チャネルを作り出そうとしています。そのためにまずはアートイベントを開催して社会に発信することで多くの人の目に触れて話題性を作ることを頑張っていますね。

また、福祉の領域で利益を出すために政府や企業をどれだけ巻き込めるかもポイントだと思っています。重度の障がい者に焦点をあてたビジネスとして利益を追求している企業はないと思うので、将来的には、株式会社LITALICOと肩を並べるくらい企業として成功したいと思っています。

ー事業を運営するにあたり意識していることはありますか?

アトリエ教室に参加している子供たちが喜んでくれているかは常に意識するようにしています。創作活動を通して他者と交流できる場になっているかどうかは大事。もちろんお金を出してくれるのは親御さんだけど、親御さんや自分の自己満足になっていないかは気にしていますね。

企業が伝えたい思いを100%顧客に届ける難しさ

ー高校の部活を引退してからさまざまなインターンで新規事業の立ち上げを経験されたそうですが、詳しく教えてください。

初めてゼロから事業を作る経験したのは、大学入学前に知り合いからお誘いを受けてシード期(起業前の段階)の会社でエンジニアとして働いたときです。エンジニア業務以外の雑務もたくさん経験して事業立ち上げの泥臭さを痛感しました。

大学入学後の5月からは、タイミーでフードデリバリーサービスの新規事業開発に携わりました。マーケティング担当として採用されましたが、エンジニア業務や営業もやりましたね。裁量権が与えられていて、KPIをもとに自分がどう行動するべきかを考えられたので成長できました。

しかし結局事業はうまく軌道に乗せることができず失敗してしまって……。改めて難しさを感じましたね。

ー具体的に事業開発のどういうところが難しいと感じましたか?

顧客が感じる価値観と会社が提供している価値観の擦り合わせが特に難しく感じました。

タイミーのデリバリーサービスでは、競合企業との差別化が社内の方針としてはできていても、ユーザーには把握されていませんでした。ユーザーを増やしていく1→100のフェーズではある程度顧客と企業の価値観が共有できているけれど、サービス初期の段階では、自分たちの思いが伝わらないことが多いので難しいと感じます。

タイミーを卒業したあとインターンをしながら自分の事業を回していましたが、リーダーとして事業の立ち上げに挑戦することは別の難しさがありましたね。ゼロから事業を立ち上げた経験が何度かあるからできると思っていましたが、事業の方向修正もたくさんしていて現在手がけているサービスも成功しているとは言えません。

ー事業を作る上で大切なことは何だと思いますか?

自分がやっていて楽しいか、興味が持てているかということは意識していますね。

特にゼロから事業を始める場合は、能動的に行動しないといけないので、自分が笑顔でずっと夢中になれるかは大事だと思います。会社が軌道に乗り上場したあとだとなかなか自分の思い通りにいかないところもあるので、初期の段階では興味を持てることを追求するといいと思います。

お客様と伴走して福祉に新しい風を吹き込みたい

ータイミーのあとに参加された起業家プログラムのMAKERS UNIVERSITYについて教えてください。

尊敬しているタイミー代表の小川さんをはじめとした、さまざまな著名な起業家も通っていた起業家プログラムに入りたいと思う気持ちがありました。当時は、障がい者向けのシッターサービスの仮説検証をしていてそのアイデアで無事選考に通りました。

MAKERSは事業を加速させたい、あるいはシードの起業家にとっては、先輩などの縦のつながりも同世代の横のつながりも構築できてとても理想的なコミュニティだと思います。MAKERSに入ったことで投資家と繋がって実際に出資していただけたり、MAKERS生の先輩にイベントで使うテナントを貸していただけたりしました。

初心者起業家同士として切磋琢磨できる同世代の仲間のつながりができたことも大きかったです。すでに成功している方や上司に聞きづらいことでも気軽に聞けたり、人生の悩み相談をしたりしていましたね。特に大学に入学してからオンライン授業になってしまったのでMAKERSで仲良い友人ができたのは嬉しかったです。

ーMAKERS終了後、LITALICOでのインターンはどのようなことをしていたんですか?

LITALICOは、僕が興味がある福祉領域の事業で上場している企業で、社会的意義だけではなく利益を追求しているところに魅力を感じていました。インターン生として、親御さん向けのポータルサイトの記事を書いたりイベントを企画して開催したりしていました。

今までインターンしていたスタートアップやシードとは違って、上場企業で会社の雰囲気に余裕があり居心地が良かったです。しかし自分が会社の中で動かせるお金が自分の力不足であまりにも少ないことを痛感しました。

LITALICOがサービスを届けているのが軽度の障がいを持っている方、施設や保護者の方だったので、LITALICOではカバーできていない重度の障がいを持っている方を支援したいと思うようになりましたね。

ー今後の展望を教えてください。

現段階では、小学生の重度障がい者にサービスを届けていきますが、今の小学生が大人になってからも就労支援などの形でサービスを届けてお客様とともにビジネスを成長できたらいいなと思っています。

今後の展望は、福祉まわりで笑顔の連鎖を作ることです。アトリエ教室などを通して障がいを抱えている子供たちが幸せな気持ちになりその子供たちを育てる親やサポートする福祉従事者を笑顔にして、その笑顔をみた子供たちがさらに幸せな気持ちになれるような仕組みを作りたい。そのためにも福祉に従事する方々が増えるように福祉従事者の方々が十分に稼げるようにしたいですね。

U29である同世代や下の世代に伝えたいことはなんでしょうか。

自分がやりたいことが現段階でわからなくても少しでも興味のある分野に積極的に挑戦してとにかく行動することをおすすめしたいです。

また僕としては、ぜひ積極的に福祉施設のアルバイトをやボランティアをして、関心を持ってもらえたらいいなと思っています。特に障がいを持っている方々の世界や重度の障がいを抱えている人たちの課題が目に見えてたくさんあることを知ってもらいたいです。

ーありがとうございました。山本さんの今後の活躍を応援しています。

取材:松村ひかり(Instagram / Twitter
執筆:長谷川瑞季(Twitter
デザイン:安田遥(Twitter