社会の不条理をなくしたいと思ったブイクック代表・工藤柊がヴィーガン事業に取り組む背景とは

様々なキャリアの人たちが集まって、これまでのステップや将来への展望などを語り合うユニークキャリアラウンジ。第466回は株式会社ブイクック代表の工藤柊(くどう・しゅう)さんです。高校3年の頃から環境問題と動物倫理を理由にヴィーガンを実践されているという工藤さん。ヴィーガンを実践することとなった詳しいきっかけや、ヴィーガン事業を立ち上げられた経緯をお話いただきました。

ヴィーガンオプションの浸透を目指して

ーまずは簡単な自己紹介をお願いします。

株式会社ブイクックの代表、工藤柊です。5年前からヴィーガンを実践しはじめたことがきっかけで、誰もがヴィーガンを選択できる社会を目指して2020年4月に株式会社ブイクックを立ち上げました。現在はヴィーガンレシピ投稿サイトの「ブイクック」やヴィーガン惣菜のサブスク「ブイクックデリ」などのサービスを提供しています。

ーそもそもの話になりますが、ヴィーガンの定義を教えていただけますか。

ヴィーガンは動物を搾取しない、動物を犠牲にしないといった考え方やライフスタイルを示す言葉です。動物を食べない、動物性由来のものを食べないといったこともそうですが、食事以外にも動物実験をしたコスメは使用しないや動物の皮を使用した服やカバンなども使用しないといったことも含まれます。

ー直近、ヴィーガンという言葉は日本でも浸透しつつあるように感じますが、いかがでしょうか。

そうですね。東京では、主要駅周辺にヴィーガンオプションのあるお店が必ずあったり、チェーン店がヴィーガンメニューを出すようになったりと少しずつヴィーガンは浸透しているように感じます。でもドイツやイギリスなど特にヴィーガンの取り組みが進んでいる国と比べるとまだまだです。私自身関西出身なのですが、東京に比べると関西ではまだまだヴィーガンオプションは少ないと思います。

始まりは環境問題への課題意識から。

ー工藤さんがヴィーガンを実践され、起業されるまでの経緯を教えてください。幼少期の頃からヴィーガンに通ずる考えや価値観をお持ちだったのですか。

もともとは食ではなく環境問題に興味を持っていました。大阪の工業地帯の近くの住宅地に住んでいたので、空気や川が汚れていることに違和感を持ったことが最初のきっかけでした。でも当時は違和感があっても何をすればいいのか、どうすれば解決できるのかわからず何も行動に移せていませんでした。

高校2年生になってから地理の授業で環境問題について深く知ることに。これまで当たり前にみていた景色や体験が、今後環境破壊によりできなくなる可能性があることを知って、何か行動を起こさないといけないと思ったんです。すぐにできるアクションとして、その時はエビを食べるのを辞めました。日本で販売されているエビの多くは東南アジアから輸入されているのですが、エビの養殖のためにマングローブ林を破壊している現実がありました。自分の食べているものが環境を破壊しているのであれば、食べないことを選択しようと思ったんです。先進国のために途上国にしわ寄せがいっていることなど社会には不条理があることにその頃から疑問を持つようになっていましたね。

ーそこからヴィーガンにはどうやってたどり着いたのでしょうか。

ヴィーガンを選択するきっかけになったのは高校3年の時に学校の帰りに轢かれた猫をみたことがきっかけでした。轢かれた猫をみて、人と動物の間にも格差や不条理があると感じ、調べてみるとたくさんの犬や猫が殺処分されていることを知りました。そして、犬や猫の殺処分数を上回る量の畜産動物が屠殺されていることも知ることとなったんです。

畜産動物の屠殺数の多さには肉を食べている自分も加担していると感じ、次の日から肉を食べることを辞めました。実はヴィーガンでいることは環境保護の貢献にもつながっているのですが、それもヴィーガンを始めたきっかけとなっています。

ーヴィーガンを実践することを決めたことに対しての周りの反応はいかがでしたか。

両親、友達など周りの人で否定的な反応を示した人は幸いいませんでした。ただ、母も自分も、動物性のものを含まない食事に関して知識はなかったので、初めはおにぎりと水炊き鍋をポン酢で食べるばっかりの生活になりました。

ーベジタリアンではなくヴィーガンを選ばれた理由は何かあったのですか。

動物倫理と環境問題、両方を考えるとベジタリアンでは不十分だと感じたからです。ベジタリアンの場合、卵や牛乳を食べる方が多いですが、お肉同様、卵や牛乳も動物や環境へのネガティブな影響を与えています。EUでは狭いケージに鶏を飼育して卵を生ませる飼育方法は禁止されていますが、日本ではまだまだ鶏に負荷のかかる方法が許可されています。牛乳も製造時にたくさんの水を使用しているなど環境への負荷が大きいです。

当事者だからこそできることがブイクックだった

ーブイクック設立まではどのような経緯があったのでしょうか。ヴィーガン事業で起業されることは早い段階からイメージされていましたか。

全然イメージしていなかったです(笑)何か社会課題を解決したい、不条理や格差のない社会を実現したいと思って大学入学後いろいろな活動に取り組みました。その中で、自分自身が当事者で、周りに困っている人もいたのでヴィーガン事業であれば自分の力や経験が発揮できるかもと思ったから起業したという流れになります。

ー具体的には大学入学後、どのような活動に関わられていたのですか。

学生団体でフードロスの活動を行ったり、有志で集まって農家のお手伝いをしたり、アイセックという海外インターンの団体にも所属したりしていました。

ブイクックの立ち上げにつながった活動としては、大学の食堂にヴィーガンメニューを導入したことです。食堂のマネージャーに掛け合い、半年かけてヴィーガンメニューを期間限定で取り入れてもらいました。当時は、半年かかっても一大学の一食堂にヴィーガンメニューを追加してもらうことしかできない自分の無力さを感じたのを覚えています。

ー無力さを感じた出来事をどう前向きに捉え、次の活動に活かされたのでしょうか。

たまたまゴッホの映画を見た時に、ゴッホが生前は評価されず、死んでから有名になったことを知りました。それがかっこいいなと思い、自分も生きている時にたとえ評価されなくても死んでから誰かに影響を与えられるような人になりたいなと思ったんです。

すぐに評価されなくてもいいから、とにかく何かやってみようと思えたタイミングで協同組合の考え方に出会いました。一人では無力だと思っていましたたが、協同組合*のようなコミュニティがあれば、何か社会に変化を起こすことができると思ったんです。実際社会からみたらまだまだマイノリティに分類されるヴィーガンですが、それでもかなりの人数がいるので全員で力を合わしたら大きなムーブメントを起こせると思いました。

*共通の目的をもった人たちが、その目的を達成するために自発的に集まって運営する組織のこと。

ーなるほど。ヴィーガンメニュー情報が気軽に手に入るコミュニティのような場がレシピ投稿サイトブイクックということなんですね。

ヴィーガンを始めた当初はおにぎりばかりの生活でしたが、大豆ミートや植物性ハムの存在を知ってから食の選択肢が増えた実体験から、ヴィーガンを始めた人たちが気軽にヴィーガンフードに関する情報を得られる場を提供したいと思いました。

ぜひ実際にブイクックを見ていただきたいのですが、豆腐を使った卵にそっくりな卵サンドや豆腐を凍らせてつくる唐揚げなど工夫を凝らしたレシピがたくさんあります。ヴィーガンでも、お肉なしでも、食が楽しめるのを実感していただけるかと思います。

ヴィーガンの人が困っていることを順番に解決していく

ーレシピ投稿サイト以外のヴィーガン事業にも現在は着手されているんですね。

はい。ヴィーガン惣菜のサブスクサービス「ブイクックデリ」はヴィーガンだけど毎日お弁当を作る時間がなく、会社近くのコンビニではヴィーガンオプションが限られているといった意見をもとに、2021年3月からスタートしました。ヴィーガンレシピが豊富にあっても、作れなかったら意味がないので、レンジがあれば誰でも楽しめる冷凍のお惣菜が届くサービスです。フードロスの活動をしていた観点から、完全に受注生産としていることもこのサービスの特徴ですね。

また、ヴィーガンの人たちが集まるシェアハウス「ブイクックハウス」は6月からスタートし、私自身もこのシェアハウスで生活しています。

ー着々とヴィーガンの方向けサービスを広められているんですね。ぜひ最後に今後の目標やU-29世代へのメッセージがあれば教えてください!

現在はヴィーガン商品が気軽に手に入る通販サイト「ブイクックモール」の開発に注力をしています。誰もがヴィーガンを選択できる社会にするために、ヴィーガンの方たちが困っていることを順番に解決していきたいです。

環境問題や動物倫理に関心があり、何かできることがないかと考えている方にはお肉を食べる量を減らすのも1つの選択肢だということを知っていただけたらと思います。全てをヴィーガンにするのはハードルが高いかもしれませんが、「昨日はお肉を食べたから今日は大豆ミートを食べてみる!」といった選択はそんなにハードルが高くないはず。自分にできる範囲のことを何かしてみることからおすすめします!

インタビュー:新井麻希(Facebook )
執筆者:松本佳恋(ブログ/Twitter
デザイン:安田遥(Twitter