子どもの可能性を広げる機会を届ける川辺笑。周囲の期待や価値観に葛藤した学生時代

今回は、一般社団法人うみのこてらすを設立し、代表理事を務める川辺笑さんをお招きしました。

一般社団法人うみのこてらすの設立経緯、自身の原体験などについて伺います。

 

日本のどこにいても、若者が自分らしくいられる社会づくり

–自己紹介をお願いします。

一般社団法人うみのこてらすを設立し、代表理事を務めています。全てのこども・若者が自分らしく人生を描き、歩んでいける社会を地方まで実現していくことを目指し、不登校や貧困、中退など、悩めるこども向けの居場所づくりに取り組んでいます。

詳しい活動内容は、HPをご覧ください。
https://www.uminokoterasu.com/

私自身が運営全般を担当している他、過去に10年以上先生を務めていた方や公認心理士の方、活動に共感してくれている学生、子ども食堂に携わってくれる地域の方々などと活動を進めています。

–活動を通じて実現したいことを教えてください。

小規模な地方自治体、山間地域などでも、近年様々なニーズを抱えたこどもたちがいます。ただ、どうしても彼・彼女たちを支えていくリソースや機関が少ない現状があります。私たちとの取り組みを通じて、地方だったとしても、人口減少とともに教育機会が減ってしまうのではなく、さまざまな繋がりや資源がある地方だからこそ、その良さも生かしながら、豊かな教育機会があると感じられるようになればいいと思っています。

–やりがいを感じる瞬間について教えてください。

今まで周囲に機会がなく、家に引きこもるしかなかったような子どもがいます。そうした子どもに手を差し伸べ、居場所を見つけられた瞬間に立ち会うとやりがいを感じます。

例えば、通信制学校に通いながら、家に引きこもりがちな子どもがいました。学校を不登校になり、中退した後、通信制学校に通い始めるも周囲に出向く場所がなく、行動するきっかけがないままになっている様子でした。

私たちと出会い、提供する機会を活用してくれるようになり、次第にできる範囲の行動を起こすようになっていきました。徐々に自信がついていき、最終的には次の進路を決めていきました。地域の居場所の中で、たくさんの大人や仲間に出会えたことが大きかったようです。

–2024年6月に行ったクラウドファンディングはいかがでしたか。

2024年6月16日に終了した私たちのプロジェクトは、383人から500万円を超える支援金額を集めることができました。

▼クラウドファンディングページ
https://readyfor.jp/projects/uminokoterasu

当初は身近な方々に直接支援を依頼していましたが、SNSや講演を通じて初めて知ってくださる方からの支援も集まり、取り組みへの共感が集まっていったことで想定よりも大きく目標を達成できました。頂いた支援金は、持続可能な団体運営を実現するために使わせていただきます。

 

コミュニティ内の固定化された価値観に苦しんだ過去

–ご自身の子ども時代について教えてください。

幼稚園時代、器械体操を習っていました。姉の真似をしながら取り組んでいましたが、「この道は厳しいな」と感じ、別の道を探すようになりました。小学生になるとバレーを始め、バレー部の活動に没頭しました。

中学生の頃は、バレーボール部に加えて、生徒会にも所属していました。兄姉の姿を見ていたことに加え、当時のクラスでの立ち位置的にリーダーキャラだったのもあり、生徒会の活動にも加わりました。よくいる、優等生キャラだったと思います。

–生まれ育った地域、通っていた学校環境に馴染めなかった時期があったと伺いました。

当時所属していたクラスは全員で30名、保育園から中学卒業までクラス替えがないまま進級していくような環境でした。その地域では部活動に打ち込むことを推奨していたのですが、バレーと駅伝を両立していたところ、私は駅伝をやめてしまいました。

みんなが頑張っている中で、やめてしまった自分を責めたり「口だけなんだな」と言われたりして、「逃げてしまった」という記憶として残ってしまいました。そのときは、自分でも認めたくなかったし、周りに相談することもできませんでした。比較的、部活に力が入っている地域や学校、家庭だったこともあり、「大変でも、努力してがんばることが大切」という価値観があったため、やめてしまった自分を肯定できる支えや考え方が一切ありませんでした。

今振り返ると、人間関係、価値観が固定していくと評価の軸も固定され、その中で評価されない行動を起こした時に必要以上に自分をせめてしまったということなのだと思います。

その後、普段の様子を見てくれていた先生や親が気づいてくれて、寄り添ってくれたことが支えになりました。

–小学校〜高校時代、ご自身にとって成功体験と言えることはありましたか。

中学3年生の時、地域の中に大学生が運営するNPO法人が設立され、その方々が提供するキャリアプログラムに参加することがありました。グループワークを通して企画をしたりブレストしたりしていると楽しくて、部活動で目指せる実績の限界を感じていた自分にとっては新しい居場所を見つけられたように思えました。

高校受験時は第一志望だったバレーの強豪校に行くことは叶わず、進学校へ入学しましたが、高校1年生から塾に通う友達や、偏差値を意識した勉強に「この価値観ひとつだけだとしんどいな」と感じていました。

自分で「みらい授業」というマイプロジェクトを立ち上げ、先生の人生や失敗談、受験を重視する理由などを聞いたりクラス全体で話し合ったりする機会を設けるようになり、ここでも(マイプロジェクトを通して)改めて自分がイキイキといられる居場所や機会を作ることができました。

–教員を目指した経緯を教えてください。

私が居場所に悩んでいた中学3年生の頃、知り合いが自殺してしまう事件が起こりました。強い人のように見えていたのですが、「人間には、周りからは気付けない弱さがあるんだ」と感じました。一度は自殺する人を減らしたいと考え、その後自殺要因にアプローチするよりもしなやかに生きられる人を育てていけばいいのではないかと思い、教員を目指すことを決意しました。

–学習支援に関わった際、どのような子どもたちと出会い、何を感じましたか。

ニュースや座学では感じ取れない、社会課題のリアルな現場を目の当たりにしました。例えば、両親がいなくて、学校にいきづらい小学5年生の子がいました。なかなか勉強に向かうことができず、意欲も湧かず、「生きている意味がわからない」と話していました。また、とある中学生は兄弟の世話をしながら、受験勉強を進めていました。家庭を支えるために親が夜も働きに出ていて、子ども同士で面倒を見ないといけない状況でした。その子が「これ以上何を頑張れっていうんですか」と話していたことを今でも覚えています。

こうした状況を見て、子どもはそれぞれに生まれた環境が異なり、今目の前の子どもが抱えている環境はその子の努力の問題ではないのだと気づきました。一方で、「子どもたちにこんな言葉を言わせてしまう社会ではなく、誰もが自分らしく人生を描ける社会にしたい」と思うようになりました。

 

オフライン・オンラインに支援の編み目を巡らせていく

–どのような活動から始まりましたか。

これまでの子どもたちとの出会いと自身の経験から、出会う大人次第で子どもの人生が変わっていくことがあると知り、繋がりや機会の重要性を感じてきました。

コロナ禍に地元へ帰省した際、「実は、子どもの頃に家庭環境が悪くて辛かったけど頼れるものがなかったんだ」と話してくれる知り合いがいて、「こうした数は少なくても、大切な声を聴ける地域でありたい」と思い、生まれ育った徳島県から活動を始めることを決めました。

教育委員会をはじめとした関係者の方に話をしつつ、過去5年分のアンケートももとにして、場を作る取り組みの必要性を伝えました。

とある退職後の先生や中間支援の方の協力があり、公民館を借りることができ、お菓子と本を持ちこんで居場所を作るという活動が最初の取り組みとして実現しました。

–設立後、苦労したことはありましたか。

ひとつは、資金面です。活動を続けるためには資金が必要不可欠のため、今年行ったクラウドファンディングも重要な調達活動でした。

もうひとつは、チームづくりです。教育は関わるひとそれぞれ、大切にしたいことがあります。その中で、さまざまな年代や立場を超えて、多様な関わりの中で、ビジョンを描き、方向性を合わせながら、全員が居心地のよい働き方を実現しようとすることに難しさを感じました。自分がまだまだ力不足のところも多くありました。でも、本当に多くの方が協力してくださったおかげで、今があります。地域の力も非常に感じました。

–孤立していると感じている若者へ、メッセージをお願いします。

誰かに頼ったり、話したりすることは、本当に勇気がいること。だから、自分がこのひとならって言えると思うひとに、「しんどい、、」って呟いてみてください。学校の先生も、ソーシャルワーカー、保健室の先生、行政が設けている相談窓口もある。ネット上の相談窓口もある。無理に内容を言わなくても、「しんどい」というその一言でも(言えると)本当にいいと思います。

–今後に向けた展望や目標を教えてください。

こうした取り組みは子どもから収益を上げることができないため、なかなかビジネスでは成立しません。特に地方では課題が取り残されている状態です。

今後の5年間で、拠点数を増やし、オンラインの場も提供することで支援の網目を巡らせることをしていきます。10年先まで見た時には各地にローカルパートナー(団地)をつくり、一緒にその土地に支援の機会を提供できるようにしていきたいです。やがては、政策提言なども行いながら課題の現状と必要な対策の必要性を伝え、さまざまな要因で機会を失ったこども・若者に対して必要な場と機会を提供し続けていきたいと思っています。

そして、都市部でも、地方でも、どこで生まれても、どんな環境で育っても、全てのこどもたちが自分らしく人生を歩める社会を実現させます!

 

取材・執筆=山崎 貴大