今回は、株式会社セキララカードを創業し、代表取締役を務める藤原紗耶さんをお招きしました。
これまでのキャリア、「セキララカード」を通じて実現したいことについて伺います。
対話のきっかけを提供し、ヘルシーな関係を実現
–現在の仕事内容を教えてください。
コミュニケーションカード「セキララカード」の企画・制作販売を行っています。私自身は「セキララカード」全体の企画、販売戦略設計、制作など全般的に携わっています。
既存商品はSNS担当、サイトエンジニア、デザイナーと共に制作と販売を推進しており、デザイナー、カメラマン、監修者と共に新商品の企画制作も行っています。
–事業を通じて実現したいことはありますか。
ヘルシーリレーションシップの普及をしていきたいと思っています。「ヘルシー」というと、日本では「健康志向」というイメージがありますよね。海外では「健全」「自分が納得している状態」などの意味で扱われます。
逆に、ヘルシーじゃない状態は「自分が我慢している」「言いたいことが言えない」などの状態であり、例えば対等ではない関係性に囲まれた状況などを指します。日本においては「恋愛は苦しい」「結婚生活ではお互いに我慢するもの」という前提があるように感じますが、本来は恋愛も結婚生活も、自分のためにしていいものだと思っています。「セキララカード」は、パートナー双方にとってヘルシーな関係性を築くために必要なコミュニケーションを行うきっかけを作ってくれるアイテムです。
–やりがいを感じた場面について教えてください。
一番最初に頂いた感想が記憶に残っています。子どもを2人抱えた結婚20年目のご夫婦のケースでした。
「口数が少ない夫で、自分のことを話さない人でした。もとからそういう人だよね、と諦めていたけど寂しい気持ちもありました。旅行中にセキララカードを持って行って、旅館でやってみました。(夫が)自分のことをたくさん話してくれて、自分への愛も言葉にして伝えてくれました。これまではそうしたことはなかったので、とても嬉しかったです。
それをみていた子どもたちも嬉しそうにしていて、家族みんなでカードの効能と対話の大切さを感じた機会でした」
「セキララカード」が日頃作りにくい対話機会を作るきっかけになることができ、結果的に夫婦の関係性がよくなったという例でした。
–全体的にみて傾向や共通点はありますか。
過去の利用者アンケートをみていると、「話した方がいいとわかっている大事なことほど話にくい。セキララカードがあることで、将来、家族、SEX、お金の話などについて初めて真剣に話しあえました」という声が多いです。
お互いに話す必要があるということはわかっていると思うので、きっかけが必要なんですよね。
他にも、別れそうなカップルが「最後にカードをやってみよう」と言ってやってみると、お互いの知らなかった気持ちを知ることができ、仲直りができたというケースもありました。
–「対話」が必要なタイミングはどのように見極めたらいいのでしょうか。
「言いたいけど、言えない」と感じ、コミュニケーションの中で我慢しなければいけないことがあったら、それはひとつのサインです。
また、対話の中で理解が追いつかなかったり「??」と思うシーンがあっても「今、理解できていない。今わかっていない」という意思表示ができず、その場ではわかったふりをして後から友人に「あれって、どういう意味だったかわかった?」と聞いている人もいますが、素直にその場で聞けないということも対話が必要なサインと言えます。
米国留学経験からアンコンシャス・バイアスに気づく
–子供時代のご自身のことで覚えていることはありますか。
4歳からバレエを習いながら、小学生になってからは部活動で陸上も始め、両立していました。
(バレエと陸上は)正反対なものなので、それぞれの先生から「どちらかをやめた方がいい」とアドバイスを受けていたんですが、どちらも楽しかったので自分の意志で続けていました。
中学生になってからは、YouTubeで洋画映像を見ることにハマりました。踊ることがずっと好きで、アメリカの高校の合唱部を舞台にしたミュージカル・コメディ・ドラマ『Glee』をよくみていました。アメリカでダンスをしたいと思うようになり、進路を検討しました。
高校では英語を身につけると決め、英語科がある高校へ進学しました。実際に授業を受けてみると自分がイメージしていたほどスピーディーに上達できるレベルの内容ではなく、不足を感じ、高校2年生の時にノースカロライナ州へ留学に行くことにしました。
–進学先はどのように決めましたか。
1年間現地で英語学習に徹した後、高校3年生で帰国し、AO入試での進学を検討し始めます。受験後、進学先の大学が決まったんですが、入学式3日前に断念し、バイトをしながら自分が師匠と思っている方がいるダンススタジオに通う日々を送るようになりました。その後、貯めた費用で渡米し、アメリカのサンタモニカカレッジへ入学します。
–在学中はどのようなことを学んでいましたか。
ジェンダー学と女性映画学を通して多くの学びを得られました。
ジェンダー学ではジェンダーの視点からみた社会の大枠の理解を深めることができ、女性映画学では女性監督作品の鑑賞を通じたケーススタディから社会にあるさまざまなバイアスを知る機会を得ました。ネットフリックス作品を作っているような女性監督の話を聞ける授業もあり、女性が声を上げる姿から刺激を得ました。
–授業から得た気づき、変化はありましたか。
「女性の肌は白い方がいい。痩せてた方がいい」などのバイアスを無意識に持っていたことに気づき、その後社会問題への関心が芽生え始めました。
日本にある社会問題に関心を向けた際、日本の中年男性の自殺率が高いことを報じるニュースが目に留まりました。調べていくと、多くの男性が「男性の価値が稼ぎや社会的地位によって定義されることが多いことに苦しんでいる」という背景があることも知りました。ふと自分の父の姿も頭によぎり、多くの方が悩みや不安を抱え込まず、周囲にシェアできる機会が必要なのではないかと感じました。
–カードゲーム制作の経緯を教えてください。
新型コロナウイルスの流行を機に帰国した後、オンラインで現地大学の授業を受けていました。必要な単位を取得し、日本で卒業を迎えたのですが、就活の準備等が十分にできておらず、大卒就職の流れに完全に乗り遅れてしまいました…。
今後の生き方について考えていたところメンタルが落ち込んでしまい、1年半ほどの療養生活を送りました。体調が回復してきた頃にかつての自分の経験から「コミュニケーション」にまつわることをやりたいと思うようになります。ここで取り組み始めたのが、「セキララカード」のカップル編でした。
発想のもとは当時数年前に知った海外のカードゲームで、カップルで対話を楽しむためのものとしてとても良い機会を生み出せるものでした。
「セキララカード」の詳細や制作工程については、過去のインタビュー記事をご覧ください。
https://yogajournal.jp/21304
https://yoi.shueisha.co.jp/body/sdgs/7886/
関係構築のための対話習慣を新しい当たり前に
–目標、展望を教えてください。
日本では100万人に遊んでもらえるカードゲームになり、「セキララカード」というブランドもアジア中で認知されるものにしたいです。
「食事や運動は必要で、努力して習慣を身につけよう」という空気が生まれ始めていますが、人間関係構築や対話も同じように努力や心がけ、トレーニングが必要なもの。(普及を通して)自分自身のために努力して対話に取り組む人を増やし、新しい空気・ムードも醸成していきたいですね。
新しいムードが浸透していった先には、月に一回夫婦会議が行われることが当たり前になっていると思います。
私たちが夫婦やパートナーとのコミュニケーションを大切にしている理由は、一番身近な人との関係がよくなることで他の関係性をより良くするためのヒントが得られたり改善のきっかけになる機会を得られたりするからです。
多くの方が自分を大事にしつつ、周りとの人間関係をより良くしていけると、中年男性の自殺、望まない妊娠、モラハラなど…さまざまな社会問題の件数が減少していくはず。次第に安心して生きる人が増えると、やがて国民の幸福度が上がることにも繋がると感じています。
取材・執筆=山崎 貴大