「負のサイクルを止めたい」実体験を起点に法人設立。平井登威が作り出す支援の輪と新たな土壌

今回は、関西大学を休学し、2023年5月にNPO法人CoCoTELIを立ち上げて理事長を務めている平井登威さんをお招きしました。

これまでのキャリアの歩み、精神疾患の親をもつ子どもへの支援に関わり始めた経緯について伺います。

 

精神疾患の親をもつ子どもへの支援の土壌を作る

–自己紹介をお願いします。

NPO法人CoCoTELIを立ち上げ、現在は理事長を務めています。同法人では、精神疾患の親をもつ子ども・若者のメンタルヘルスにアプローチし、長期的なつながりを通して彼ら・彼女らが『自分の人生』を生きるサポートをします。

現在6名のメンバーで運営を行い、オンラインでの居場所づくり、相談対応、研修活動などに取り組んでいます。

▽NPO法人CoCoTELI

https://cocoteli.com/about

精神疾患の親をもつ25歳以下の子ども・若者には全て無償で提供し、活動はオンラインであるため、住んでいる場所に関係なくサポートを受けることができます。

–取り組みを通して実現したいことを教えてください。

精神疾患の親をもつ子ども・若者支援の土壌を作りたいと思っています。

「精神疾患の親をもつ子ども・若者が高確率で自身のメンタルヘルスに不調を抱えてしまう」ということが社会で課題視されていることをご存じですか。当社のサイトでも公開している数字でみると、「精神疾患の親をもつ子どもは、子ども全体の15〜23%」「子どもの精神疾患罹患率2.5倍」ということが明らかになっています。

多くの場合、これは親のせいではありません。「支援がほとんどないこと」「精神疾患のある方やその家族に対する社会の理解が不足していること」など社会側に原因があり、企業・公的機関も介入しづらく、見過ごされています。

NPO法人を立ち上げ後、この課題を解決する必要性を感じて寄付をくださったり情報をシェアしてくれたりする人が次第に増え、支援の輪が広がっていくのを実感しています。

–精神疾患の親をもつ子ども・若者は置かれた環境や心境は、どのようなものなのでしょうか。

親が精神疾患を抱えていると、子どもの生活や心情はそれに大きく左右されます。例えば、親がとある障害を抱えているとします。その障害を抱えている人は、テンションがハイになったりネガティブになったり…気分が不安定になります。それを見ている子どもはどうなるでしょうか。親の姿を見て自分の振る舞いを判断したり子どもらしく甘えられなくなったりすることがあります。そういった様々な影響が重なって、その子ども自身も成長する過程の中で精神疾患を発症してしまう可能性が高まることがあります。

こうした状況に対して、私たちが提供するものが効果を発揮し、構造上の課題を取り除いていければいいと思っています。

 

コロナ禍、SNSを通じて出会った前身の活動

–子どもの頃のご自身のことで覚えておられることはありますか。

子どもの頃からサッカーに打ち込み、高校ではプロ選手を輩出するような環境に身を置きました。もともと何事も飽きっぽい性格でしたが、サッカーが好きだったこと、周りに本気で打ち込むメンバーがいたことで長く続けることができました。中学卒業時、進学先の高校も「プロサッカー選手になる」という夢を軸に選択しました。

高校入学後は夢に向かって一直線…とはならず、スムーズにいかないことが多く、怪我も繰り返していました。怪我によって自分がプレーできない時期にチームが全国大会出場を決めた時には複雑な心境でした。

もちろん、嬉しかったです。でも、それを見ていることしかできなかったことがとても悔しかったんです。

–進学先の大学や学部はどのように考え、選びましたか。

大学はスポーツ推薦で入学する予定でしたが、プロになれる確率や社会に出ることになったとした場合のことを冷静に考えて、指定校推薦で関西大学に入学します。

新型コロナウイルスの影響で入学式はなくなり、授業開始も遅れた世代でした。学校に出向く機会はなく、人と話すことがないため友達もできない。なんとなく時間を過ごしている自分に嫌気がさしていた頃、SNSを通じた出会いを得て少しずつ状況が変わっていきました。

–「CoCoTELI」に関わり始めた経緯を教えてください。

Twitterを見ていた時、ある人のプロフィールを見てビビッとくることがありました。そこに書かれていたことが(自分が)これまでに経験してきた境遇と同じもので、そんな人を初めて見かけたんです。実際に会って話してみるとお互いに共感できることが多く、自分としては抱えていた過去を初めて人に話せた経験でした。

▽平井さんが生まれ育ったご家庭、幼少期などのお話が詳しく書かれたnote

https://note.com/toi_hirai/n/n5ee54a8699fe

「CoCoTELIという心の病をもつ家族がいる人向けのサービスを考えて、チャレンジをしている」と聞き、自分の中で「家庭環境で悩む人を救いたい、寄り添いたい」という気持ちが湧き上がるのを感じ、当時のCoCoTELIの立ち上げに加わることになりました。

–NPO法人として設立することを決めた経緯を教えてください。

取り組んでいくと「お金にならないから取り組めない」「行政が取り組みづらい事情がある」などの状況がわかり、葛藤していました。それでも原体験を抱える自分にとっては見過ごせないことであり、同じ悩みを抱えている人と触れ合うたびに「なんとか解決したい」という意欲が湧いてきていました。

規模を拡大し、解決できる幅を広げたいと考え、NPO法人の設立に踏み出します。

 

負のサイクルを止め、支援の幅を広げていく

–今後の目標・展望を教えてください。

精神疾患の親をもつ子ども・若者支援の土壌をつくることで、精神疾患のある本人もその家族も生きやすい社会を実現することを目指しています。そのためには、精神疾患を発症したタイミングなどの早いタイミングで家族全体に必要とするサポートあれば多様な困難が大きくなる前に解決・予防ができて、負のサイクルを止めることができると考えています。また、寄付型NPOとして私たちが一つの成功事例を作り、社会への提言等を通した支援展開、広がる支援の質向上のための研修やコンサルティングなどを進めることで支援の土壌を拡大していくことも大事だと思っています。

寄付型NPOを運営していると「寄付は持続可能じゃないよね」という方にも出会うのですが、私たちはそうは思いません。月額寄付モデルは時間はかかりますがサブスクビジネスモデルと似ていて、一般的なサブスクサービスよりも月額寄付の方が離脱率が低いとも言われています。非営利団体だからこそ追究できる部分をブラさず、今後も事業に取り組んでいきます。

同じ思いや課題意識で取り組んでいける連携先や仲間を探していますので、もしそのような方がいればぜひ一度サイトも見てもらえたら嬉しいです。

▽NPO法人CoCoTELI

https://cocoteli.com/about

 

取材・執筆=山崎 貴大