『empathie』発起人・佐藤綾音が完璧主義から抜け出せた考え方「ベストよりもベター」

今回は、宮城第一高校の国際探究科に在学している佐藤綾音さんをお招きしました。

これまでのキャリアの歩み、メンタルヘルスに関する発信・イベント開催を行う学生団体を立ち上げた経緯について伺います。

 

友人、家族に話せないことを打ち明けられる場作り

–現在通っている高校について教えてください。

現在、宮城第一高校の国際探究科に通っています。グループワークやアクティブラーニングの機会が多く、英語学習にも注力しているため東北大学の留学生に会う機会も多いことが特徴の学校です。

–入学を決めた理由を教えてください。

主な入学の決め手は2つあります。1つ目は、私服で通えること。多くの高校が制服の着用を義務付けていますが、寒い冬でもスカートを無理して履かなければいけないのが嫌で、自由な服装で過ごせる高校であることは大事なことでした。

2つ目は、学科で学べる内容に興味があったこと。先生からお薦めされて学校見学に行った際、国際探究科の魅力について教えてくれた先生がいて、話を聞くととても面白そうでした。初めは普通科を志望していましたが、同じ3年間ならより色んな経験ができそうな方を…と思い、前者の理由と合わせて決断の決め手になりました。

–自身で立ち上げた取り組みについて教えてください。

学生団体「empathie(エンパティー)」を立ち上げました。同団体では、オンラインイベントの開催やメンタルヘルスに関する発信などを行いました。

「身近な人に話しても否定されそう」「家族など関係の深い人に打ち明けられないこともある」などの理由から悩みを抱えている人がいた時、その人の気持ちを全肯定しつつ、悩みを抱え込まずにいられる居場所を作りたいと考えたことが立ち上げ背景です。

–利用者の事例を教えてください。

とある子は初めてイベントに参加した時、もやもやした気持ちを抱えていました。安心できる空間でその気持ちを打ち明け、周りに受け入れてもらう経験をすることで、「しんどい時期を脱することができた」と話してくれました。最終的には団体の運営メンバーにも入ってくれました。

–団体運営の際に心がけていたことを教えてください。

悩んだり困ったりした時に頼れるものとして、スクールカウンセラー、心理カウンセラーなどの手段があります。ただこれらはハードルが高く、利用者側が身構えてしまうと聞きます。

それに対して、私たちのイベントや活動はハードルを低くして、入りやすいようにすることを心がけていました。例えば、温かみがある印象が伝わるようなInstagram投稿を作成したり見た人が安心できるプロフィール文章を書いたりしました。また、投稿を通して運営している人自身が過去に苦しんだことなどを伝え、親近感や共通点を感じられるように意識しました。

現在、この団体は後輩に引き継ぎ、私は後方から一部サポートをしています。

 

うつ状態を経験して変わった考え方「ベストよりベターを」

–ご自身の子どもの頃について覚えていることはありますか。

読書が好きで、小学生の頃は学校の図書室や図書館に行ってよく本を借りていました。小説、ファッション誌など、手に取るジャンルはさまざまでした。ものを集めることも好きで、文房具を集めていました。

–小学校、中学校時代の経験で印象に残っているものはありますか。

1つ目が、小学校4年の時。友達を傷つけて泣かせてしまうことがありました。担任の先生に叱られ、相手の気持ちを考えることの大切さを学んだ機会でした。

2つ目が、中学校時代。生徒会に所属し、学校行事の運営にやりがいを感じていました。過程を通じて主体性や積極性も磨かれ、やりたいことがあればすぐに手を挙げるようになりました。

失敗しても伸び代への期待を込めて接してくれる生徒会担当の先生の存在、周りの生徒会所属の生徒たちと協働することで組織における動き方を学んだ機会は、自身の成長にとって大きな糧になりました。

–ご自身がうつ状態になった経緯を教えてください。

高校には首席で入学しました。入学式挨拶を担当したので、元々私を知らなかった同級生にも注目されるポジションでした。

入学当初は勉強、部活、学校生活環境などに新たに慣れることが大変で、塾に通っていたこともあって時間に追われる日々でした。「全てをうまくやりたい」「1番になりたい」というモチベーションを支えにしながらも、1位を取れないと自分を責めたり小テストの小さな間違いでもショックを受けたりしていました。

先生や周りの生徒からの目線が気になり、弱いところを見せられず、悩みや弱音を誰にも言えないまま、どんどん自分を追い込んでしまいました。

–どのように復帰されましたか。

一度うつ状態になってしまった後、担任の先生から「気持ちを紙に書いたらいいよ」と助言を受けました。「信頼できる大人や保健室の先生に話してみたらどうか」というアドバイスももらい、スクールカウンセラーのもとを訪れてみたりノートに書き出したりするようになりました。

元々のハードなスケジュールのままでは同じ症状を繰り返してしまうと思い、優先順位を検討した結果、部活を辞めました。スクールカウンセラーと話をして、「完璧主義をやめよう」という話になり、自分でも次第に意識を変えていきました。

「60%でいい。完璧じゃなくて、大体でいいんだよ」

「ベストを出し続けるのは難しい。ベストよりベターだよ」

さまざまな言葉に気づかされ、支えられ、肩の力が抜けていきました。

 

「話す」「書く」悩みを抱え込まないためのコツと習慣

–学生団体「empathie(エンパティー)」の立ち上げ経緯を教えてください。

関わりたい社会課題を選び、課題解決方法をチームで考えるプログラムに参加したことがありました。起業家がサポーターに付き、アドバイスを受けられることが特徴でした。

私が選んだテーマは、「自殺・他殺」。過去に自分自身を追い込み生きるのを辞めたいと思った経験があったこと、学生の自殺数が増えていたことに問題意識を覚えたことが選んだ理由です。

チームで考えた改善策を発表後、通常ならばそこでチームは解散するはずでしたが、「考えたプランを実行に移したい」と考えました。それぞれに実体験を抱えていたメンバーが初期メンバーとなり、学生団体を作る運びになりました。

–団体運営を通して苦労したこと、学んだことを教えてください。

まずは、メンバー不足という壁にぶつかりました。発信を続けるにつれて、発信を見てくれた人やイベントに参加してくれた人が徐々に運営メンバーになってくれたことで人手が揃っていきました。

次に、高校生主催のイベントは珍しく、イベントの参加者集客にも悩みました。諦めずに発信や告知を行い、イベント内容や告知内容の工夫を続けたことで次第に参加者が集まってくださるようになりました。

下の写真は、後輩が最近開催した「悩みカフェ」の様子です

最後に、メンバー間の熱量差についても悩みました。初期に入ったメンバーと後から入ったメンバーとの間に熱量の差分が生まれ、それが互いのコミュニケーションを難しくさせていたんです。まず、それぞれの人の熱量の違いを認めました。次に、チームとしての時間の使い方、会議の仕方などを工夫し、メンバーがそれぞれ多様な度合いで関われるようにしました。SlackやLINEを活用してプロジェクトごとに連絡を取りやすくしたりメンバーごとに仕事を割り振って責任を担い合えるようにしたりする改善も重ね、やがてチームとしての一体感が生まれていきました。

–悩みを抱え込んでしまう人が抱えている原因や心境はどのようなものなのでしょうか。

悩みを抱え込んでしまう人の心境は、「弱音を吐きたくない。弱い部分を見せたくない」「言ってもどうせわかってくれないだろう。周りは否定してくるだろう」「自分一人で考えたい」のいずれかであることが多いのではないのかと思います。「自分一人で考えたい」という場合は、マイナス・ネガティブな方向へ1人で転がっていってしまわぬように注意が必要です。

対処法として挙げられるのは、まずは「人に話す」こと。行き詰まってから重たい気持ちで相談するより、もやっとすることがあったら「最近〇〇なんだよね〜」ぐらいの温度で愚痴をこぼすように話しておくと、自分も話すときに負担が小さくなると思います。次に、「ノートに書く」こと。書き出した内容を客観的に見ることで、冷静になれたり改善できる点が見つかったりします。近頃はSNSやインターネットを通じて発信している人がいるので、それを見て自分に合った方法を取り入れてみることも効果的です。

–今後の展望、目標を教えてください。

地元が好きなので、将来は仙台市で働きたいと思っています。一方で、まだまだ自分の可能性を探っていきたいので、行ったことがない国や地域に行ってみることもしてみたいです。仕事で言うとデザインやマーケティングの業界に興味があるので、ゆくゆくはデザイナー、マーケターとして働けるチャンスを掴めたら嬉しいです。

 

取材・執筆=山崎 貴大