「実践環境と転ぶ経験が必要」学生主体のカフェ経営を通して堀口かすみが見出した“らしさ”の作り方

今回は、株式会社millenniumを創業し、代表取締役を務める堀口かすみさんをお招きしました。

これまでのキャリアの歩み、学生が主体となって経営するカフェの立ち上げ経緯と裏側について伺います。

 

実践し、転ぶことができる環境が若者を変える

–会社について教えてください。

株式会社millenniumの代表取締役を務めています。コロナ渦に2000年生まれの同世代の大学生3人で立ち上げたカフェ「cafe.millennium」が原点となっていて、2000年代以降の後世世代に向けた事業を行なっています。

創業当初は学生が運営する飲食店を経営し、運営する実践過程を通して(学生が)メニュー開発やデザイン、販売などさまざまな分野における学びを得られる環境を大切にしています。現在は、企業と協働して学生向けの商売体験ワークショップ開発・運営にも取り組んでいます。

ワークショップでは商売を通じて社会の中での自己理解・自身の興味を深めることを目的としていて、さまざまな分野のプロとのコラボを通してコンテンツを学生へと提供しています。アントレプレナー教育の機会になると同時に、「若者との接点が少なく、若者の内面への解像度が低いことで事業開発や集客に課題を抱えている」という企業様への支援機会にも繋がっています。

–カフェ経営を通じて変化や成長を遂げた学生はいましたか。

教員資格を取るために大学の幼児教育コースに通っていた学生がいました。彼女は「日頃子育てに励むママが心落ち着けるカフェを作ってみたい」との想いから、一からPOPUPカフェを企画しました。彼女はカフェの営業後、「この機会を通して自分自身の強みや特徴を理解できたと同時に、弱みや苦手なことにも気づくことができた」と話してくれました。売上の結果は少し赤字でしたが、赤字の原因、改善できる点などを振り返り行動していく中で、気づきや自信を得ていく姿がとても印象的でした。

私たちの取り組みの中で何が一番の価値かと言えば、実践から学ぶ機会があるということであり、「転ぶ練習ができる」ということだと考えています。

こうした学生たちの挑戦を目のあたりにしていくなかで、小さな子供だけでなく、大人にもキッザニアのような体験を通じて試行錯誤できる環境が必要だと感じました。

今の社会を生きる人々は「自分らしさ」というものを見つけなくてはいけないという考えをどこかに持っていて、「自分にはもっと良い環境、最適な環境がある」という幻想を抱いてしまっていると感じます。「自分らしさ」とは、経験の過程で考え、試行回数を重ねて少しづつ『自分』への解像度が上がって輪郭が見えてくるものだと私は思います。

それがすごいとか社会的に良いとか関係なく、心からワクワクしてやってみたいと思ったことがあればまずは取り組んでみて、それが好きと気づけば追求する。そうでなければ、また他のことに取り組んでみる。不完全でいいから行動を繰り返していくことで、自分が気づいていなかった自分の好きや嫌いが見えてきて、自己理解が深まる。その結果、「自分らしさ」が見えてくるのではないかと思います。

私自身、これまで敷かれたレールに乗って転ばないように生きてきた自身の価値観を壊し、自分らしく生きる方法を知ることができた実体験も踏まえ、自分の後世世代に向けてこのような実践の機会と場を事業を通して育み、残し続けたいと考えています。

 

自らの挑戦が周りに勇気を与えていると気づく

–ご自身の子どもの頃のことで覚えておられることはありますか。

実は、幼少期にいじめに遭っているんです。集団から外される怖さを体感したことで、その後「人と繋がりたい」という願望に繋がったのだと認識しています。カフェをつくりたいと思った背景にも、今思えば「誰かと繋がっていたい」という自身の深い願望があったのだと最近になって腑に落ちました。

幼い頃はものづくりが好きで、家の模型作りにハマっていました。小学生〜中学生の頃には、ものづくりがケーキ作りになり、家に友人を集めて自作のケーキを振る舞うことに夢中でした。週に1〜2回の頻度で開催していましたが、自分は振る舞うことで満たされるものがあり、集まった友人と話している時間も楽しかったです。自分でケーキを食べることはほとんどありませんでした。

高校時代には朝作ったパンケーキを学校に持っていって、教室で友人に振る舞ってました。その時間を通して、普段は話さない人と話すきっかけを作ることができ、時には普段はおとなしい人とも話すことができました。様々な人と会話し、色々な価値観を知ることができるのが楽しかったですね。

–大学在学中、カフェ経営に携わるようになった経緯を教えてください。

大学に進学するも、目標を持たずになんとなく日々を過ごしている学生が多く、テスト期間だけ情報交換のためにコミュニケーションを取るようなドライな人間関係が多いことに違和感を覚えました。正直、「高校の方がすごく面白かったな…」と思うこともありました。

また、受験で第一志望に落ちた経験から「次、何かに挑戦してもまた失敗してしまうんじゃないか」という不安や「早くやりたいことを見つけて、何か結果を出さなくては」という焦りが常にあり、モヤモヤした日々を過ごしていました。

そんな中、大学2年の冬に友人から「キッチンカーを一緒にやらないか」と誘われました。以前から経営に興味があったこと、場づくりをしてみたかったこともあり、その誘いに乗っかる形で一歩踏み出しました。

カフェを立ち上げるタイミングで新型コロナウイルスの感染拡大もあり、学校の授業がなくなったことから本格的にお店の準備を進めていきました。

–どのようなことから着手し、始めていったのですか。

当初は友人と3人で企画を始め、事務仕事、集客、メニュー開発、調理など、それぞれの得意な分野に合わせて役割分担をしました。

まず最初は4日間シェアキッチンを借りてカフェを営業してみることにして、準備を開始。Instagramで発信したところ、当日はたくさんの友人が遊びに来てくれて、長く会えていなかった友人にも会えて嬉しかったことを覚えています。

当時はコロナ禍で多くの学生達が家にこもって過ごしていました。コロナにも関わらず、私たちが熱心にやりたいことに取り組む姿を見て、感動してくれる友人もいました。「自分自身はコロナで何も行動できなくて、将来について悩み、苦しんでいた。ずっと家にいて正直病みかけていたけれど、今日ここに来て勇気が出た」その子はそう言葉をかけてくれました。

そこで、私たちは自分たちの価値は「カフェ」ではないことに気づいたのです。私たちは「お菓子や料理」だけを提供しているのではなく、同世代に「勇気」を届けているのだと気づき、その時すごく心が動いたことを覚えています。

必ず自分達のお店を持とうと決意し、下北沢にある雑居ビルの4階の間借り契約しお店を始めることにしました。

 

一人ひとりが自分らしく輝ける未来を作りたい

–実際に経営を始めてみて、いかがでしたか。

当初は7ヶ月間赤字が続きました。大学の22単位分の授業を取りながらアルバイトを掛け持ちして、メンバーとなんとかして赤字分を補填しながら営業を続ける日々でした。今は4000以上の方にフォローいただいているInstagramもまだフォロワーが20人ほどでした。

テナント契約の更新が3ヶ月ごとにあり、その都度続けるかどうか考え込み、先の見えない苦しさに耐えながら創業メンバー達となんとか営業を続けていました。

▽当時の様子が書かれたnote
https://note.com/2000_millennium/n/ne10f256a8a60

–黒字化するまでにはどのようなことに取り組んだのですか。

メニューは100種類以上作っていました。様々な料理を出し、売れ行きを見ながらメニュー開発や販売方法を工夫していました。Instagramによる集客方法も試行錯誤を重ねましたし、他のお店の料理を食べに行ってみたり、独学でマーケティングの勉強をしたりもしました。

テナント契約の更新で諦めなかったこと、考えるだけではなく、とにかく行動量を増やし続けたことが結果的に黒字に結びついたのだと思っています。

–今後の展望、目標はありますか。

「一人ひとりが自分らしく輝く社会」を作りたいと思っています。そのためには個々の人間が自分なりの生き方を自分で見つけ、自律的に行動する力を育む環境が必要だと思っています。その環境をどうやって実現させるのか日々試行錯誤している最中です。

まだまだ道半ばではありますが、自分たちmillenniumの事業を通じて将来世代そしてこれから未来を生きる人々が自分の「やってみたい」にもっと素直になって気軽に挑戦し、活動できる場を作りたいです。

私は自分の作った環境を通して人がワクワクに出会う瞬間を作ることができたと感じる瞬間にこの上ない幸せを感じるので、今後もそうした瞬間をつくり続けて生きていくのだと思います。

▽今後の展望・目標について書かれたnote
https://note.com/2000_millennium/n/n423bd143e2bf

取材・執筆=山崎 貴大