木暮里咲が小学生で体感した寄付文化。非営利団体支援の原点を聞く

今回は、寄付プラットフォームサービス「Syncable(シンカブル)」を提供する株式会社STYZに勤める木暮里咲さんをお招きしました。

これまでのキャリアの歩みと業界に関わり始めた経緯について伺います。

 

挑戦する非営利団体の成功体験を共に作る

–自己紹介をお願いします。

寄付プラットフォームサービス「Syncable(シンカブル)」を運営する株式会社STYZに勤務しています。利用いただく非営利団体に向けてコンサルティングをしています。

それ以外にも業界内の若手の繋がりを作るためのコミュニティ運営、寄付のアクションを広げていくための寄付月間プロジェクトにも携わっています。

▼Syncable(シンカブル)

https://syncable.biz/

–関わっている仕事のやりがいを教えてください。

私たちの仕事は「ファンドレイジング」と言われます。NPO法人をはじめとする民間非営利団体が個人、法人、助成金制度などを通じて必要な資源を集める活動を指します。

常に社会課題や受益者と向き合ってる方々は、中長期計画やビジョンについて考える余裕がないことが多いといいます。そうした場合に私たちのコンサルティングやサポートが求められます。

当社プラットフォームを通じて成果が出た時は貢献実感を得ることができ、利用者からの表情、嬉しい声はとても嬉しいです。また、利用者には立ち上げ初期フェーズの団体が多く、初期の成功体験を一緒に作っていけることにやりがいを感じます。

一方、私たちは直接団体の一員として関わることはできず、外部アドバイザーのような位置となるため、アクションを起こすのは利用者の方々自身。アクションに加わることはできないという点には少しもやもやすることもありますね。

–どんな団体が利用しているのですか。

障害者支援を行っている方々、子育てしてるママさん支援コミュニティを運営している方々、子ども食堂を運営している方々など…さまざまです。

大項目として業界などで分類することはできても、それぞれにビジョンやミッション代表の思い、団体設立背景背景、メンバーなどが異なるため、一つとして同じ団体はありません。

–ファンドレイジングがうまくいくケースの共通点はありますか。

ポイントは2つあると私は考えています。 まずは、代表に起因する要素。「代表の顔が広い」「代表の発信力がある」などは大きな強みになります。どんな取り組みも最初は代表1人を起点に始まり、周囲からの「応援したい」という気持ちが寄付につながります。一方で、代表者に負担が集中したり組織化が難航したりすることもあるため、メリット・デメリットはあります。

次に、「伝え方」に起因する要素。団体の活動の起源や意味を伝える際、ストーリー性を持たせることでより多くの方に情報が伝わります。また、団体外からの寄付や支援を受けて活動していることを意識し、責任を持って行動や報告をすることが求められます。寄付者に向けて寄付金の使い道を掲載する、日々の様子を伝えることは重要なアクションです。そのような発信を通して、寄付者も「寄付してよかった」「もっと応援したい」という気持ちになっていきます。

 

バザーを開き、寄付を呼びかけた原体験

–ご出身はどちらですか。

神奈川県出身で、1〜5歳まではアメリカで過ごしました。日本に帰国した後、9〜13歳までインドネシアで過ごし、また日本に戻っています。

–インドネシアではどのような経験をされましたか。

インドネシアの小学校に通っていた頃のことです。総合的な学習の時間で探求学習に取り組むことがあり、私のテーマは「ソサエティ」に設定しました。具体的に何に取り組もうかと考えていた時、身近にヒントがありました。

当時の家にはメイドさんや運転手さんがいて不自由ない生活を送れていたのですが、学校に目を向けると十分な施設が揃っているとは言えない状況でした。仲の良い友達の家に遊びに行った際、友達の親に相談すると助言をくれました。

「バザーをやって、寄付を募ってみたら?」

面白そうと感じ、実際にやってみることにしました。まず実現するために必要なことを考え、自分が持っていた不用品をまとめたりパワポでポスターを制作したりして準備を進めました。バザー会場はアドバイスをくれた友達の家のガレージを借りることができました。

実際に開催してみると、とても楽しかったです。片付けを終えてから、売上金をどう活用すべきか考えました。はじめは売上金の一部をメイドさん、運転手さんにプレゼントしようと考えましたが一度考え直しました。そのお金でタバコや麻薬を買ってしまったらいけないと思い、一緒に買い物に行くことにしました。スーパーで買いたいものを聞き、その場で買ってあげればリスクを避けることができると思ったんです。実際に一緒に買い物にいくことにし、文房具や食品を買ってあげるととても喜んでくれました。

–帰国後の生活について教えてください。

日本の中学校に通いながら個人で学校や外部のボランティア活動に参加していました。ボランティア部を受け持つ高校の先生が私の活動を知ってくださっていて、ボランティア部に誘ってくれました。その時はボランティアを部活で取り組むイメージが湧かず、ピンときていませんでした。

中学3年生になり、知り合いから誘われて地域について考えるイベントに参加する機会がありました。たまたま日程が空いていたので参加したという程度でしたが、参加してみるとワクワクしました。中高生と大人が地域のこれからや中高生としてできる地域の魅力発信について話し合っている姿が印象的で、その場を企画運営していたボランティア部の活動を理解し、自分もこのような場を作っていきたいと思い、入部することになりました。

入部後は高校1年生の時に副部長、2年生の時に部長を務め、活動内容や組織運営に深く関わり続けました。

–進路はどのように考え、選びましたか。

卒業後にやりたいことや学びたいことについて考えていて、思い出されたのは街歩きをしながら地元の人と対話し、企画を考える活動でした。まちづくりへの関心が高まり、学べる環境を調べていくと慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパス(SFC)を当時の担任の先生に勧められました。

幅広く学ぶ環境があること、実践の機会も多くあること、講義を通して様々な分野で活躍するOBOGに会えることなどの点を魅力的に感じ、進学先として選びました。

–これまでの経験を通して、現在大事にしていることはありますか。

1つ目は、誰とやるか。これまでの経験を通じて、同じ熱量や目的を共有できる方と取り組むことで自分らしい発言や行動がしやすく、信頼関係も作りやすいと感じています。

2つ目は、ワクワクするか。声をかけていただいたり新しい機会との出会いがあったりした際には、直感に従って判断することが多いです。

3つ目は、自分が貢献できるか。私だからこそ提供できること、生み出せることがあるかを大事にしています。

 

より多くの方が参画できる関わりしろが必要

–今後の展望を教えてください。

今後は「エコ」「フェアトレード」など日常の中でも「ちょっとだけ社会に良い方」の選択肢を選ぶ人がもっと増えたらいいなと思っています。そのためには、「強い原体験を持つリーダー」以外の人も参画できる関わりしろが広がることが必要だと考えています。

私自身、「木暮さん“だから”できるよね。木暮さん“は”頑張ってるよね」と言われることがあります。それは、「できる人がやればいいよね」とも聞こえるんです。このような状況が続くと、ある視点からみれば団体のプレイヤーの方々が社会で孤立してしまったり団体のリーダーの方が燃え尽きてしまったりする恐れがあります。また別の視点からみれば、誰かだけが頑張っている、という状況ではより良い環境・社会の実現が遠のいてしまいます。

この間の溝が埋まり、より多くの方に参画していただき、さまざまな協力や思いが団体を支えてくれるようになってほしいと願っています。そしてそのために自分自身ができることを続け、少しでも社会に貢献できるよう活動を続けていきたいと思っています。

 

取材・執筆=山崎 貴大