迷ったときは自分の心の羅針盤に従う!劇団員兼会社員の温井美里が語る、進路の選び方

様々なキャリアの人たちが集まって、これまでのステップや将来への展望などを語り合うユニークキャリアラウンジ。第864回目となる今回は、温井 美里(ぬくい・みさと)さんをゲストにお迎えし、現在のキャリアに至るまでの経緯を伺いました。

劇団員として活動しつつ、会社員としても働く温井さん。学生時代のエピソードや、演劇を始めたきっかけ、これまでのキャリアなどについてお話していただきました。

 

学生時代に見た演劇の舞台に感銘を受け、劇団へ

ー簡単に自己紹介をお願いいたします。

温井美里と申します。富山県出身で、大学進学を機に上京後、都内を活動の拠点にしている劇団「劇団天動虫」で劇団員として活動を始めました。在籍はもう8年目で、役者としての活動以外にも、劇団のマスコットキャラクター「てんてんくん」のデザインをしたりもしています。

劇団マスコットキャラクターのてんてん

この劇団での活動と並行して会社でも働いていて、現在社会人5年目になります。新卒でシステム開発会社の営業として2年間働いたあと、人事労務クラウドシステムを展開している株式会社SmartHRに転職し、カスタマーサクセスとして2年間働きました。2022年7月からは、SmartHRのグループ会社である株式会社Smart相談室の立ち上げにジョインしています。

ー子どものころは、どんなお子さんでしたか?

小中学生までは、絵を描くのが大好きでずっと絵を描いていました。性格は真面目で、先生に気に入られるような優等生タイプでしたね。ただ、進学校に入学できたことで油断しきっていたわたしは高校進学後あまり勉強をしなくなって、一気に落ちこぼれてしまって(笑)。でもこの頃に、「演劇をやりたい」と思うような出来事があり、人生の転機になりました。

当時は、運動部よりも何かと文化部が下に見られてしまうような雰囲気があって。わたしも運動部だったのですが、ある日、全校生徒が演劇部の舞台を鑑賞する機会があったんです。そのときも、やはり舞台を見ている側の生徒たちが嘲笑している空気感を感じていました。

「演劇部の人たち大丈夫かな…心折れてないかな…」と心配してステージを見たら、彼らはまったく気にも留めず、ただただ真摯に舞台へ向かい、芝居を続けていました。そのとき、「かっこいい!」と思って。舞台上がすごく輝いて見えて、反対に観客席側がくすんだ人間の集まりに見えたんです。

今舞台上の人たちを笑っている人たちは、きっとステージに立って同じようには振舞えないだろうと思いました。誰に何を言われようと、しゃんとそこに立っているかっこよさに胸を打たれて、ああいうふうになりたいなと強く感じました。

そして、舞台上は一つの世界で、誰もが何にでもなれるんだと感激したんです。

普段、わたしは日常で「こうあるべき」「こうするべき」という考えに縛られがちだったのですが、本当は「やりたいことをやってみたい」と思っている自分との葛藤にも悩まされていました。そんな中で、「演劇をやったら何者にもなれるのだから、なりたい自分にもなれるのでは…!?」とハッと気付かされたんです。

その後、演劇をやるには東京が盛んそうだと思って、大学進学を機に上京することを決めました。

ーその後、演劇の道に進まれたんですね。

はい。大学の演劇部と、一般の劇団である「劇団天動虫」の2つの団体に入りました。

大学の演劇部は、高校の部活の延長線上で楽しみたい人もいれば、真剣に演劇を極めたい人もいて、人によって重みが違うと思っていて。当時自分はストレッチをかけて演劇を学んで、将来に繋げたいと思っていたので、一般の劇団にも入ることを選びました。

演技はまったくの素人だったので、稽古の中で修行しました。大学の授業を終えた平日の夜や、休日を丸一日使って稽古に打ち込んでいましたね。

一般の劇団ではお客様から観劇料をいただきますので、素人の初めのうちはしり込みしていたのですが、思い切って出演を決め、日々の稽古や本番を重ねていきました。

結果的にそこでチャレンジしたことは大成功で、外部からもオファーをたくさんいただいたり、年間5公演以上に出演できたりと、役者としてのキャリアを順調に築くことができ、非常に充実感を覚えました。

会社員と劇団員、二足のわらじ生活を送る

ー念願の演劇に触れる生活はいかがでしたか。

役者のキャリアは順調でしたが、実力不足というか、いまいち役に入りきれていないかもしれないという悩みも抱えていました。

劇団名には、「たとえ小さい虫でも天を動かすパワーを秘めて」という思いが込められていて、心と体の動きや生命力溢れる作品を売りとしていたので、毎日必死に稽古にあたるのですが、ふと「わたしは何のために演劇をしているのだろう?」と悩むこともありました。

あとはやっぱりお金がなくて(笑)。食パン一斤のみで丸1日過ごす生活が続きましたね。

そんな中、「天動虫」の第5回公演『飛び火』という舞台で、初めて自分と役が一体になれた感覚がありました。これまでも「舞台上で魂を燃やせ」と稽古中に厳しく言われてきたのですが、そうした苦しみも昇華できた気持ちになったんです。

ー現在、社会人としても働かれているそうですが、就活も並行してやっていたのでしょうか?

実は、大学4年生の9月まで全く就活をしていなくて。でも、「演劇で表現をする世界は幅広いのに、このまま演劇界だけにとどまっていて良いのだろうか?」と、狭いコミュニティの価値観にとどまって生きることに疑問を持ち、広く社会を知りたくなりました。より広い価値観に触れたいと考え、土壇場で就職しようと決めたんです。

9月に入ってエージェントの方に相談して、幸い、第一志望の会社に入社できました。案件管理〜入金・支払などの債権・債務管理までを一元管理できるERP(基幹業務システム)の営業として勤務しました。

ここに決めた理由は、これからの社会で必ず必要になるITの知識を身に付けたかったのと、ERPのような難度の高い商材を扱って会計の流れを一気通貫で見られるようになることは、今後のキャリアの役に立つだろうと考えたためです。オウンドメディアの執筆や、セミナー講師としての登壇も、幅広く経験しましたね。

ー幅広く経験をつめたそうですが、なぜ転職を決めたのでしょうか?

1社目では社内MVPをいただいたのですが、それでも「自分の人生はこれで良いのだろうか?」という焦りが消えず、心が満たされなかったんです。あまりやりたいことができていなくて、心が枯渇している感覚になっていました。

心が動くことをやった方が自分は幸せなんだと気づいて、「もっと心が震えるようなことをしたい!」という思いから転職活動を始めることにしました。

転職活動ではエージェント8社に足を運んで、テンプレートメールを一斉に送るようなエージェントではなく、「その人自身のことをしっかり見て、最適なサポートをしてくれそう」と感じた株式会社Izulさんに伴走していただきました。そこでSmartHRに入社を決めました。

ちょうどこの時期に結婚もして、生活が大きく変わりましたね。交際も仕事も、「自分がこの人と一緒にいたいと思えるか?」ということを軸に動いていました。