散歩のような人生を。事業開発・國井仁が新しい視点で世界を捉え直す人生観とは

多様な視点を行き来しながら、自分の世界を拡張していきたい

ー國井さんは現在の会社に新卒でジョインしたそうですが、決め手はなんだったのですか?

ジョインを決めた理由は二つあります。一つは、これまでお伝えしたように新しい技術をどのように社会に役立てられるかに興味があったから。もう一つは、これまで宇宙に興味があったわけでもなく、先が不透明だからこその漠然とした好奇心です。宇宙が何なのかを自分なりに理解したかった。

弊社はハードウェアの開発も含むスタートアップであるため、ソフトウェアのサービス開発とくらべると時間もお金もかかります。2020年にジョインする際、代表から「サービスができるのは早くても2023〜24年頃だ」と言われて驚いたのを覚えています。けれども、そんなスケールでリソース配分しながら事業を作っていくプロセスに惹かれて入社を決めました。

ーその時間軸を聞くと衝撃ですね。実際に事業開発に携わってみていかがですか?

入社直後から一年ほどは、自分のロールモデルを探していた時期がありました。でも、僕のような文系の新卒で宇宙系スタートアップに入って事業開発をしている人ってなかなかいないんですね。誰を目標に自分のキャリアを作るべきかを探したけれど、全くロールモデルがいなくて焦りを感じていました。

また、携わっている事業が世の中に求められているのかがわからなくなったこともあります。コロナの緊急事態宣言時に入社したので、医療従事者をはじめとするエッセンシャルワーカーズにフォーカスが当たっていた時期というのが要因の一つです。

でも一年経ってみて、自分がロールモデルになればいいんだと思えるようになりました。そうすれば、この業界全体が盛り上がるかもしれないぞと。逆転の発想ですね。

ーその視点の転換はどこから生まれたのですか?

おそらく自分のなかで覚悟が決まったタイミングだったのかもしれません。長期的な視点に立ったときに、自分たちの事業が世の中の役に立つと信じる覚悟ができたから、ロールモデルを探すのをやめられたと思います。

そもそもスタートアップ自体がリスクをとり、投資家や様々な人に共感してもらいながら事業を進めていくものなので先がわかりませんよね。先がわからないからこそ挑戦する価値があるというか。それは個人というミクロの視点で捉えても同じだと思ったんです。

また、2020年のアメリカ大統領選挙の際、カマラ・ハリス氏の副大統領就任演説にも影響を受けました。特に「100年前や50年前、女性の権利のために闘った人たちがいるから今私はここに立っている。女性初のアメリカ副大統領を私で終わらせてはならない」という内容を聞いたときに、そのスケールの時間軸で考えればいいんだと気づきました。

もしかしたら、自分のしていることがいつか誰かの役に立つかもしれない。僕たちがいま享受できている便利な暮らしは、よりよい社会を願ったかつての人々や、ハリス氏が言ったような権利や自由のために闘った歴史の延長にあります。ほんの100年前、参政権が与えられていたのは極めて限られた階層の人々だったのが、いまでは年齢以外の条件はありません。すでに返しきれない過去からのギフトをもらってしまっていることに気づき、僕たちも未来につないでいこうと覚悟が決まった瞬間でした。

ー今後、國井さんはどのように未来をつくっていきたいと思いますか?

多様な視点を獲得することで自分の世界を拡張し、再構築していくことを生涯かけてやっていきたいです。いまは宇宙の通信事業にフルコミットしていますが、興味があることはたくさんあるので、いろんな視点を行き来しながら世界を見ていきたい。ただその時々で自分が信じられるもの、あるいは信じたいものを大事にしていたいと思っていて、いまの事業の成功が、きっと豊かな未来につながると信じてます。

あとは人生のどこかで教育に関わりたいですね。あらゆる課題は教育に帰結すると考えていて、教育を改善していくことでしか日本の現状をよくしていけないのではないかとさえ思います。

僕の人生のテーマは「散歩」です。自分の行動のモチベーションを抽象化したら、新しい世界をみたいことなんだと気づいて。だから、異なる視点を行き来すること=「視点の散歩」と表現しています。自分の世界を拡張し、越境することを大事にしながら楽しく生きていたいです。

ー國井さんの視点というのは、これまでの経験が積み上がって形成されたご自身の見方ということでしょうか?

そうですね。これはキャリアのおかげというよりかは、大学時代から様々な大人と話をしたり、一人で旅をすることが多かったからです。特に一人旅のときは、自然と内省の時間が増えますよね。孤独な時間を経て、人と人が本当にわかりあうのは難しいんだと気づきました。

例えば、同じ映画を観ても本を読んでも、人によって心に残るシーンやセリフは違いますよね。個人のこれまでの経験に紐づいているから、「よかったね」と一言で言ってもその中に描かれている世界は違う。だから共感はできても、本当にお互いを理解し合うことはできないと気づいたんです。

自分が理解できない対象と常に接しているんだと思ったら、その視点を、対話を通じて疑似体験することでしか自分の世界を拡張することはできないんだと。そうやって理解できないものに少しずつ触れながら、自分の視点を拡張させるのが本質的なコミュニケーションだと思っています。

ー國井さんは自分と他人との違いや視点の行き来を楽しみ、そこから得られた気づきを自分のものにしている印象があります。最後に、どうすれば國井さんのような視点を得られるのかを教えてください。

先ほど人生のテーマは散歩だと言いましたが、そもそも僕は散歩自体が好きなんです。

散歩をするとき、目的地に辿り着けなくて焦ることはあまりないと思うんですよね。目的地を定めた散歩って僕にとっては楽しくない。散歩が楽しいのは、目的地がないままふらふらと歩き、自分しか知らない素敵なお店や、Googleマップには出てこない面白いお店を見つけた瞬間です。そうやって知らない街を歩き回ってるときに、散歩的に人生も生きられたら楽しそうだなと思って、ゴールや世界観を固定せず発見を楽しむという意味を込めて、散歩的な生き方をテーマに据えました。能天気な印象を持たれるかもしれませんが(笑)。

僕も当然迷ったり悩んだ時期もあるし、今でも立ち止まって考えることはありますが、そんな時は、負の感情であってもフタをせず味わうことを大事にしています。喜怒哀楽はキッパリと分けられるものではなくて、混ざり合う中でバランスを見つけていくものだと思うので、自分にとっての心地よさみたいなものを探求し続けていたいですね。

取材:山崎貴大(Twitter
執筆:スナミアキナ(Twitter / note
デザイン:高橋りえ(Twitter