自分の直感に向き合い続ける。studio yot・四ツ屋卓身が語る人生の切り開き方

実務を経験したからこそ見えた。建築業界の働き方と環境問題

ー23歳で北海道から東京へ上京した理由は何ですか?

東京で建築修行をするためです。設計と施工は、事業所が分かれていることがほとんどなのですが、偶然にもその両方を行っている会社が日本にいくつかあって。

その中の東京の建築チームに直感で興味を持ったんです。改めて職業としてリアルな現場で1年半ほど活動しました。

ー実務に携わりながら感じたことは何でしょうか?

大工さんとデザイナーの両方を行う事務所だからこそ、お客さんへ提案をする際の対話の距離感はとてもよいと感じていました。

一方で、現場に長くいるからこそ建築業界の問題にも気づいて。例えば、大工さんが朝8時に来てくれても、帰るのが遅かったり、人工と呼ばれる作業費も低かったりするのが現実でした。当時は「正しく稼げるか、正しく休めるか」を課題と感じていましたね。

また、環境問題にも疑問を抱いていました。「いかにものを捨てずに、いいものを作れるか」と新たな視点を感じたのです。

建築の世界では解体するとゴミも大量に出る。 新たに作っても切れ端や普通には捨てられない材料もあるので、建築業界での環境問題を解決したいと思っていました。

ーワークライフバランスや環境問題に課題を感じていたのですね。

そうですね。北海道から上京したときは、自分の好きなことができるなら給料は低くてもいいし、休みもなくても頑張れると思っていました。でも、休みがないと、誰かとご飯を食べる時間もなければ、自分の考えを誰かに共有する場も、将来の目標や悩みを話す機会も減ると気づいて 。

お金も同じだと思います。自分の暮らしに余裕があると、新たなインプットのために旅に出られますよね。時間もお金もいらないというモチベーションでは、未来の自分にとっては危ういと感じた時期でもありました。

自分の働き方や価値観を大切にしたい。24歳で独立へ

ー24歳で独立をされたきっかけは何ですか?

「自分の動きに自分で金額をつけるフリーランス」になるのもありかなと思ったからです。独立は本当に勢いでしたね(笑)。

大工とデザインの事務所でアルバイトをしたことで、早めに現場に馴染めたり、作業内容や流れを理解できたりしました。

一方、給料や休みの問題を考えると「自分の動きに対して給料をきちんともらった方がいいな」「もっと正しい金額のものを自分で作りたいな」という気持ちが日を追うごとに湧いてきて。事務所の担当案件が終わるタイミングで独立しました。

ー実際に独立して感じていることは何ですか?

自分の生き方や大事にしている価値観を少しずつ広めたいと感じています。

活動する中で、複雑なデザインによる大量のゴミや負荷を抑えられるようになりました。また、いいデザインのためにうまく休みつつ、いいものを作る両立もできています。

ただ、1人で動いていると、その考えや行動をスケールアップさせるのが難しくて。自分の大事にしている価値観があっても、半径0メートルの会った人しか伝わらない気もしています。

でも今はそれでよくて。半径0メートルの人たちが僕の価値観に共感してくれたり、周りの人が幸せな働き方、休み方ができたりするようになればいいなと思っています。

ー四ツ屋さんの周りには、思いや価値観に共感されている人たちが集まっているのですね。

そうですね。例えば、他の現場では朝早くから夜遅くまで作業している大工さんでも、僕の現場では9時にスタートして17時に帰ってもらうようにしています。

スムーズに業務が終わるから、奥さんと映画を見に行けたとか、家族と銭湯に行けたなどの話ができます。次の日の休憩時間には、何の映画を見たのか、どこの銭湯がいいのか、カルチャーの話ができる。その流れは、建築業界的にはとてもよい気がするんです。

会話が生まれる空間でデザインや大工業ができると、作るものも生き生きしてくると思います。