難しい選択をすれば人生は変わる。リエゾン共同設立者・清野紫苑が大事にする価値観

グローバルヘルスの活動を通じて価値観がさらに形成された

ー悩みながらも大学時代を過ごしていた清野さんが、グローバルヘルスを知ったきっかけを教えてください。

大学3年生の時期に、友人のインターン先がイベントに出展するので手伝ってほしいと声をかけてもらったんです。そのイベントとは、外務省が主催する「グローバルフェスタ」でした。

友人のインターン先である、グローバルヘルス関連のシンクタンクがブース出展をするので、当時何もわからないままお手伝いをしに行きました。そこで、ポリオという感染症を知ったことがきっかけで、グローバルヘルスに興味を持ち始めたのです。

ポリオは小児麻痺とも言われており、ほとんどは無症状ですが、一部の方は罹患すると治療法がないため次第に麻痺してしまう病気です。日本は2012年頃から症例がないのですが、アフガニスタンとパキスタンなどでは野生のウイルスが残っているため、日本でも子どもたちは定期予防接種として合計4回のワクチン接種が必要です。

そのようなことを何も知らずに生きてきましたが、何度かイベントに関わるようになると、さらにグローバルヘルス分野を詳しく知ることができて面白く感じるようになったんですよね。そこから私もインターンとして関わるようになりました。

ーグローバルヘルスの領域に就職をする決め手はなんだったのでしょうか?

正直なところ、未知の世界だったので自分には向いていないんじゃないかと思うこともありました。それでも興味があったのと、グローバルヘルスが目指す内容が自分にとってしっくりきたんですよね。

またその団体では、当時女性3名で世界レベルの保健について議論したり、プロジェクトを生み出したりする姿が素敵でした。私は彼女たちのような経験や肩書きはないけれど、今ここで挑戦しないとチャンスを逃してしまうのではないかと思ったのです。

不安の方が大きかったですが、やってみようと思いました。難しいからこそやってみる価値があると思い、グローバルヘルスの団体に就職を決めました。

ーその当時から、”難しい方を選ぶ”ように心がけていたのですね。それを意識するようになった出来事はありましたか?

元々は楽な道や方法を探してしまうタイプでしたが、当時の上司から「人生は選択肢の連続なんだよ」と言われたことがありました。例えば朝に目が覚めて、目覚ましアラームのスヌーズをもう一度押すかどうかも選択肢のひとつですよね。

そのあと別のメンターからも、「自分がどう選んでいくかで人生は決まっていくんだよ。いろんな選択肢があるなかで難しい道を選ぶと、そのときの経験が積み重なるから人として上に昇っていける。でも、楽な方法を選んだ人たちも人生の時間は過ぎていくよね。どう生きようが個人の自由だけど、時間はコントロールできない。ここで生まれた差は取り返せないからこそ、僕は選択肢を目の前にしたときは難しい方を選ぶようにしている」と言われました。

その話を聞いてから、私も何かを選択するときは意識するようにしています。

ーこの瞬間の行動が、未来の差に繋がっていくに違いないということですね。大事な考え方だと思います。そこから24歳で転職されたと伺いました。

はい。組織改編をするにあたり、国内事業にシフトする株式会社になることが決まりました。私としては、もう少しグローバルヘルス領域で挑戦したかった。そのため、ニューヨークに拠点を移し、海外のグローバルヘルス事業を日本に持ち込もうと考えて渡米しました。

アメリカでは、様々な団体や会社がグローバルヘルス領域に取り組んでいます。そのなかでも、若い世代に関心を持ってもらう活動をする大きな団体に転職することにしました。

ーこの決断に対して、どう感じていますか?

大変なことはありましたが、渡米する選択をしてよかったです。後悔はないですね。実際に自分の目で見ないとわからないことはたくさんあると思います。

ただ27歳の頃に、あるイベントで大きな失敗をしたことがあります。周りにも多大な迷惑をかけてしまい、これまで積み上げてきたものがゼロになるような感覚でした。私の人生はこれで終わりだと思いました。周りの人たちに励ましてもらったおかげで、少しずつ立ち直ることができました。

これからどうしようと考えていたときに、連携していた財団のポジションが空いたからどうかと声をかけてもらったんです。大失敗した私に受ける資格はないと感じていましたが、せっかく訪れた機会なんだから再挑戦してみようと思えるようになってきて。それで上手く行かなかったらそういう運命なんだと。

やってみて何かが動くのと、やらずに何も変わらないのでは無限の差があると思います。前者の方が、たとえダメだったとしても前向きになれそうだと思って挑戦することにしました。あとから知ったことですが、上司も後押しをしてくれたそうなんです。自分がどん底だと思っていても巻き返せるし、どんな状況でも再スタートができることを実感しました。

ー失敗から立ち直ろうとしたときに、何か取り組んだことはありますか?

こつこつと頑張りながら状況の見える化をしたことですね。自分はどこまで立ち直ってきたのか、今の自分の立ち位置はどこなのかを可視化するためにスプレッドシートを活用しました。

今までは蓋をして見ないようにしていたものを全部さらけ出し、自分で整理するために書き出す。そこから俯瞰すると状況が見えてくるので、立ち直っていく様を自分でも見ることができました。

あとは、家族と友人に支えてもらったのは大きいですね。何があろうと一緒にいてくれる存在が一番励みになりました。いろんな人から「大丈夫だよ」と言ってもらえたので、頑張ってこれたと思います。

失敗を恐れず、できる限り難しい選択をしながら愛に満ちた人生に

ー挫折もありながら立ち直ることができ、これまで清野さんらしい人生を歩まれたと思います。清野さんが大事にしている価値観を交えて、U-29世代にアドバイスをお願いします。

私からみなさんにお伝えしたいことは次の3点です。自分もなかなかできていないからこそ、自分にも言い聞かせていることでもあります。

まずは、失敗を恐れない。失敗から学べることはたくさんあります。それに、失敗しても仲間や家族と一緒に乗り越えることができる。だから決して失敗を恐れないでください。

ふたつ目は先ほど話したように、できる限り難しい選択をする。もちろんご自身が無理をしないレベルで大丈夫です。心身の健康が一番大事なので。その上で難しい選択をすることが未来の自分につながると思います。

最後に、憎しみより愛情を抱くようにしてください。実は愛も憎しみも同じくらいのエネルギーを使うものです。それなら、愛に満ちた人生の方が楽しいですよね。

ーありがとうございます。最後に、清野さんが考えている未来の展望を教えてください。

グローバルヘルス領域で、今できること以上に課題を解決したいですね。現在取り組んでいる活動を淡々とやるのではなく、次のステージを考えながら仕事をするように意識しています。

例えば感染症だと、どうすれば薬やワクチンを行き届かせられるのかが大事だと思っています。薬が届けば、感染症が広まらずに助かる命があるはず。医療物資の物流をよくするために貢献できることを探りながら挑戦していきたいです。

取材:黒澤朝海(Twitter
執筆:スナミアキナ(Twitter / note
デザイン:高橋りえ(Twitter