挑戦するときは自分のペースで。絵本の店omamori店主、まるのさきさんらしい挑戦の仕方

知人と一緒に作った絵本で受賞

ーそこから絵本作りを始めることになったきっかけを教えてください。

自分から行動したのではなく、知人に引っ張り上げてもらったという感じです。

絵を描いて発信したり知人に見せたりしていたときに、その知人が絵本作家を志していることが分かり、「絵が描けるんだったら一緒に絵本を作ってほしい」と声をかけていただきました。

そのころ私が、家の中で苦悶していたのをくみ取って誘ってくれたところもあるのかなと思っています。それでもいい機会だなと思い、一緒に絵本を制作させてもらったのがきっかけですね。

ーお声かけいただいたときは、どんな気持ちだったのでしょうか?

うれしかったです。文章を書くことも好きで、小説を出したいなと思っていたこともあり、形は違いますが、自分の作品が紙の本になることに憧れがありました。

自信があるわけではなかったのですが、いただいた機会を大事につかっていこうと思い、前向きな気持ちでいっぱいでしたね。

私はなんでもオープンに話すことが多いです。悩みごとや今の状況、絵を始めたことなどを周囲に話していたことが、今回の機会にもつながったのかなと思っています。人に助けられることが多いので、自分のことはあまり隠さず、素直に話すようにしています。

ー実際に絵本作りを始めてみていかがでしたか?

実際にやってみるとすっごく難しくて(笑)。主に知人が文章の担当、私が絵の担当です。ゼロから物を生み出す苦しさをとことん味わっているところです。

まだ出版はできていないのですが、新人賞に応募して出版の機会をいただきました。受賞はしたものの、自分たちの中で納得できていない部分があったので、改めて作品を作り直しているところです。

自分たちで出版の費用を一部負担しているので、クラウドファンディングを行い、目標額以上のご支援をいただきました。私達の文章と絵のスキルの部分ではなく、思いのところに共感していただいたのだと感じています。

現在は制作が予定よりも遅れていて、支援者の方々をお待たせしてしまっているので、申し訳ない気持ちです。作り出すことは、すごく難しくて苦しいことだなと実感しています。

それでも、自分の内面にあるものを何かの媒体で表現することに楽しさを感じています。集中して作品の世界観を作り上げることや、自分のこだわりを外に出せる感覚があり、自分に向いているなと気が付きました。

挑戦はマイペースに

ーその後退職をされて、絵本屋さんになることを決めたきっかけを教えてください。

仕事は楽しかったのですが、コロナ禍を経て当たり前や常識が崩れ、自分自身にも変化がありました。そんなときに、違う環境に行ってみるのもいいのかなと思いました。

自分の好きなことを見つめ直したときに、いろいろな選択肢がありましたが、絵本屋さんになることに決め、退職をしました。会社がすごく好きだったので、その環境から離れる寂しさはありましたね。

ーそこからは絵本屋さんオープンに向けて、どのような行動に移されたのですか?

お店や空間作りもしてみたい気持ちがあり、本屋のことを調べ始めました。そこで新潟県三条市が本屋事業の担い手を募集していたんです。

私は本屋さんをやる上でどうしてもお金の不安が拭えなかったので、行政の支援を得ながら、好きなことができる環境もあるんだなと思い、さらに詳しく調べ始めました。

大胆にみえて安定思考なところがあり、自分が感じている不安などをあらかじめ徹底的に潰し終わってから動きました。ひとつずつ不安なものを書き出して、どうしたら自分が不安じゃなくなるか具体的な対処法を考え、納得できてから動き出すことを大事にしてます。

その後、2022年の7月に新潟県三条市に移住し、10月15日に『絵本の店 omamori』をプレオープンしました。

約3ヶ月の準備期間があったのですが、弱音や相談事を気軽に話せる相手が身近にいなかったことが最初は寂しかったですね。1人でやっているってこういうことなんだなって実感しました。

孤独感のある中でしたが、プレオープンをすると、本当にいろいろな方々がお店に来てくださって。それこそ1回しか会ったことない方やイベントにいらっしゃったお客様とか、少し遠くに住んでいる方とかもわざわざ足を運んでくださったんです。

皆さんの温かいお気持ちをいただいて、「私1人じゃなかった」って実感しました。

思いがけないところで、誰かが自分のことを大事にしてくれているんだなって。皆さんから愛情をたくさんいただいたので、それをちゃんと素直に受け取って、自分のものにしていきたいと思いました。

自分自身も改めて、名前も知らない相手であっても愛情を素直に出していきたい、そういうお店にしたいなと思います。

ーさきさんの中で、移住や絵本屋さんのプレオープンは大きな挑戦ですよね?

挑戦って、自分には全然合っていない言葉だなと感じています。

「すごい挑戦的だね」「なんでそんな挑戦できるの」と言っていただける機会はとても多いんですが、挑戦って「挑む」「戦う」という感じですよね。

私は挑んだり戦ったりはしていなくて(笑)。怖がりで弱々な性格なので、何かを達成したくてそのために困難に立ち向かったりとか、高い壁を壊したりとかはできないタイプなんです。私は、自分が楽しめそうなものだけを行動に移しています。

本屋さんもそうですが、実行できる確信を得てから動いていますし、これまでのことも挑戦的なことをしているというよりは、ただマイペースに行動しているだけです。

挑戦って、困難に立ち向かって成長したり、リスクを背負いながら道を切り開いたりすることだと思いがちですが、そういうことが楽しめない私でも、自分のペースで挑戦してやりたいことを叶えられました。

ーomamoriをオープンしてから、うれしい出来事はありましたか?

最近特に印象的だったことは、「悲しい気持ちになってしまっているので、そういったときに読めるような絵本を探しています」と来店されたお客さまにお声かけいただいたことです。

omamoriは、そういう方がもしいらっしゃったら、少しでもお力添えできればいいなという気持ちで開けていたので、、店内でゆっくりとお話ししながら、いろいろな絵本を試しに読んでいただきました。

最後に「これにします」と笑顔で帰って行かれたときは、すごくうれしかったですね。

私も、人から絵本を誕生日にプレゼントしてもらったことがあり、そのときにすごく心が救われた経験があるんです。同じような方がもしいるのであれば、絵本をお渡しして少しだけでも気持ちが上に向いたらいいなと思っています。

お客さまとは、少しでもお話をしようと思っています。お話する中で、その方の人生に触れることで、心が動かされる瞬間がたくさんありますね。

毎日小さな幸せをいくつも感じることができ、自分が理想としていた以上の働き方ができています。