メンタルダウンを乗り越え、日本茶を仕事にしようと思ったきっかけ
ーゲストハウスに就職後、毎日楽しく働いていた桐原さんですが、コロナ禍は大変だったとお聞きしました。
2020年は一番しんどかったですね。新型コロナウイルスの流行で宿泊予約がすべてキャンセルになり、結果的に4〜6月はゲストハウスを閉めていた期間でもありました。当時は、人となるべく会わないことを推奨されており、オンラインで話す機会はあっても僕はリアルで会うことのほうが好きだったので、孤独でメンタルダウンしてしまったんです。
人と話せなくなるだなんて想定していなかったし、何をしていいのかわからなくなったんですよね。人と関わるのが生きがいだったので、かなり落ち込んだ時期でした。
ー辛かったですよね。そこからどう立ち直ることができたのですか?
休養で静岡帰省をする頃から、なるべく外で人と会うようにしたことが大きいです。リアルで人といろんな話をするようになってからは、メンタルも徐々に上向いていきました。
もう一つは、日本茶の存在です。静岡の実家に帰った際に、祖母が急須で静岡茶を淹れてくれました。祖母にとっては当たり前ですが、僕は飲んだ瞬間に体も心も回復してホッとした感覚が体中をめぐったんです。
ー桐原さんにとって、人との関わりが生きがいなのだと伝わってきます。それに、日本茶の良さをここで再認識されたのですね。
そうですね。日本茶を好きになれたのは、祖母が淹れてくれた静岡茶と福岡にある日本茶専門店との出会いがきっかけです。
日本茶専門店では、淹れていただいた日本茶の美味しさと店員さんの佇まいや所作、日本茶の知識に心から感動して、僕もこの人のように淹れてみたいと憧れを抱くようになりました。最初に日本の旨味だけが凝縮された部分をいただいたのですが、今まで飲んだこともない美味しさだったんです。日本茶の新たな発見と驚きがあった素敵な体験でした。
祖母と日本茶専門店の方に人生を変えてもらったと言っても過言ではありません。
ー桐原さんは日本茶や人との出会いで、ご自身の人生の針を動かしていったのですね。現在は、御茶人としてどのような活動をされているのでしょうか?
僕は一定の場所を持たずに、「出張お茶屋さん」という形でどこかに赴いて日本茶を淹れています。そのため、知り合いやお茶会で出会った人からの紹介で日本茶を淹れることが多いです。シェアハウスやゲストハウス、間借りカフェなどの場所をはじめ、ユニークな活動をしている人ともご縁が広がっていき、今の僕の活動に繋がっているのでありがたいです。
お茶会では、お客様分の急須を用意して日本茶を淹れています。目の前で淹れている様子を見ていただくことで、日本茶の楽しみ方を知ってもらえるのが嬉しいです。地道に伝えていくことが大切だと思っています。
ーどういう方々がお茶会に参加しているのですか?
20代、30代の女性が圧倒的に多いですね。ただお茶会というと、高価な茶室で偉い先生が点てた抹茶を正座しながら飲むイメージを持たれている方がほとんどなんです。僕が主催しているお茶会は、抹茶ではなく急須の日本茶を淹れることと、もっとフラットで交流できる場だと伝えています。
お茶会のイメージを変えていくのは大変ですが、新しいスタンダードとして、外で日本茶を飲む文化になるように頑張りたいです。
日本茶の道へと繋がったのは、人との出会いのおかげ
ー桐原さんが今後やっていきたいことを教えてください。
御茶人として、メンタルを崩した人や引きこもりの人たちに日本茶を淹れたいです。それは、メンタルを崩していた頃の自分に日本茶を淹れてあげたい気持ちと重なります。
僕自身、日本茶で心が回復した実体験があるので、日本茶を淹れながらその人の話を聞いてあげたいと思っています。それだけでは完全に回復しないかもしれないですが、何かのきっかけになりたいんですよね。
また、お茶会や間借りカフェで日本茶を淹れることは継続しつつ、異業種とのコラボレーションもやってみたいです。例えば、整体師の施術後に僕の日本茶を飲んでもらって、体も心も完全にリフレッシュした状態になってもらう活動や、オーガニックレストランとの料理と日本茶のペアリングなどもそうですね。健康にフォーカスした活動ができると嬉しいです。
ー最後に、U-29世代に向けてメッセージをお願いします。
僕自身、日本茶の活動をやっている原点が人との関わりなんです。行動してみたら素敵な人との出会いに恵まれた経験があるので、自分の人生で迷っていることがあればとりあえず行動することをお勧めします。とにかく人と会って、いろんな価値観を取り入れた上で自己形成をしていけば、自分にとって良いと思える方向に進めるはず。僕と会うことも選択肢の一つに加えていただけたら嬉しいです。お茶会で会えることを楽しみにしています。
取材:和田晶雄(Twitter)
執筆:スナミアキナ(Twitter / note)
デザイン:安田遥(Twitter)