やるからには全力で。強い信念を持って努力する。スピードクライミング日本代表・赤羽陸

タイムが伸び悩む

ースピードクライミングに転向してタイムが伸び悩んだ時期もあったそうですね。

スピードクライミングに転向してから、ある程度のスピードでタイムは縮まっていったのですが、あるときを境にタイムがまったく縮まらなくなってしまって。周りの成長速度から見てあまり焦る必要はない範囲ではありつつも、パリ五輪を目指すためにはもっと早くタイムを縮めなければと自分のなかで焦りが出てきました。トレーニング方法を変えてみても、どれだけ練習しても、何をしてもタイムが縮まらず焦りと不安でいっぱいでした。

ー伸び悩んだ時期を乗り越えるきっかけは何だったのでしょうか?

アルバイト先のボルダリングジムのオーナーさんの言葉ですね。オーナーさんはもともとボルダリングの選手で、選手として大事なことを厳しく指導していただきました。「いろいろやるのはいいかもしれないけど、自分の今までやってきたことを信じて、繰り返しやるだけだよ」という言葉は、悩んでいた自分の心に刺さりました。

スポーツクライミングを始めるまでは本格的にスポーツをしたことがなかったため、スポーツに関して知らないことが多くあって。プラトーという時期があると教えてもらったときに肩の力が抜けました。スポーツ選手にはそんな時期もあるのだと知ってからは、自分でやってきたことを信じて繰り返し取り組んでいました。

ーそれからは毎月自己ベストを更新しているとか。

今では2週間に1回のペースで自己ベストが出ています(笑)。自信を持ってやり通した成果ですね。もちろん、今まで取り組んできたことを継続しながらも、内容を見直して変えてみた部分もあります。壁を乗り越えてからはとんとん拍子でタイムが縮みました。

ースピードクライミングの魅力を教えてください。

気持ちいいぐらいスムーズに壁を駆け上がれている感覚があって、特に自己ベストを出せたときは最高です。世界では通用しない自分のタイムでこの感覚なら、さらに突き詰めれば、より最高な気分を味わえるのだろうと思えるところも魅力的ですね。

ー普段はどのくらい練習されているのですか?

スピードクライミングの壁で練習するのは週に2・3回、1回あたり4〜5時間です。アルバイトのあとにはウエイトトレーニングをしています。

壁を使ってトレーニングする日は、登って下りて2〜3分休憩してまた登るのを繰り返します。始めた当初は4時間のトレーニングで体がボロボロになって疲れ果てていましたが、最近は筋力がついてきて物足りなさを感じるようになりました(笑)。

さらに、スポーツクライミングでは指を使うため、指先の皮がむけてボロボロになります。出血することもありますが、テーピングを巻いて登ります(笑)。スピードクライミングは同じ動きの繰り返しでひとつの部分に負担がかかりやすい競技でもあるため、ボディケアも欠かせません。

ー赤羽さんが人生で大事にしていることは何ですか?

笑顔で過ごすことを大切にしています。競技をしているなかで、メンタルの部分がパフォーマンスにも影響しているのを感じたからです。

もちろん、真剣なときは笑顔を作れないのですが、心の中では笑顔でいたいと思っています。人付き合いの部分でも、笑顔でいることで周りに人が集まってきてくれている感覚もありますね。

ー最後に、これからのビジョンと同世代の方々へメッセージをお願いします。

ビジョンとしては2024年のパリ五輪はもちろん、その先の2028年にあるロサンゼルス五輪も視野に入れて活動していきたいです。

メッセージとしては、やりたいことを無理に探さなくても良いということを伝えたいです。やりたいことが見つからないと悩むよりも、今はやりたいことがない時期なんだと思って過ごすのが良いと思います。生活のなかで何かきっかけがあれば、それに対して全力になれればいいのかなと。私のように、偶然聴いた音楽がきっかけになることもあると思います。

夢を持っていても周りの目が気になるという人には、自分の信念を曲げないことが大事だと伝えたいです。1人で抱え込んでしまうと辛い部分や難しい部分もあるため、支えてくれる人を見つけるのも大切です。最終的に決断して進むのは自分自身だからこそ、夢や目標があるのであれば、強い意志を持つべきだと思います。

ーありがとうございました!赤羽さんの今後のご活躍を応援しております!

取材:八巻美穂(Twitter / note
執筆:竹山瑞香(Twitter
デザイン:高橋りえ(Twitter