生きづらさは努力不足ではない。村松麻衣が取り組むギフテッド・2E教育とは

唯一の拠り所だった学力で挫折を経験

ー大学受験のときに大きな転機があったそうですね?

はい。大学受験がうまくいかず、数年間引きずりました。

当時は周りとうまく馴染めない中で、勉強だけが拠り所になっていました。大学受験に失敗したことで、唯一の拠り所である学力が揺らいでしまったので、結構落ち込みましたね。

自分は何を軸にしていけばいいんだろうと悩みました。

ーどういうふうに乗り越えていったんでしょうか?

第一志望ではありませんでしたが、選んだ大学がすごく良かったと思っています。それぞれに個性や得意不得意を持っていて、それを尊重しようという校風の、初等科から附属校がある女子大でした。

相変わらず浮いてはいましたが、仲がいい子もいたし、それなりに心地よく過ごしていました。

大学に入って一番驚いたのが、同級生の親御さんに、社会的に成功している富裕層や日本や海外の名だたる大学を卒業している方が多かったことです。

そんな親御さんが、子どもに自分と同じ大学を目指させるのではなく、中堅女子大の一貫校に小学校から入れたんだろう?と疑問に思いました。

そこから教育にも興味が湧いてきて、いろいろな価値観があって面白いなとか、その価値観が育まれていった教育ってどんなものなんだろうとか。教育に関心が移っていくにつれて、落ち込んでいたのが和らいでいきました。

ー大学以外でもいろいろなチャレンジをされていたそうですね。

両親の影響や教育への興味もあり、個人契約で家庭教師をしていました。一番大きな企画は、千葉から仙台へ中学受験生の4人を連れて行き、年末年始に5泊6日の勉強合宿を開催したことです。

趣味でバックパッカーをして、いろいろな文化にも触れました。でも一番良かったのは、自分が行きたい・やりたいと思ったら叶えられるんだな、という感覚が得られたことだと思います。

好きなことや得意なことに没頭していく中で、周辺知識として「あれも必要だな」「これも必要だな」と、知識やスキルを取り入れていくやり方が、楽しいし成長も速いことに気がつきました。

結果的に自分への信頼感も上がっていきました。今までは学力にとらわれていましたが、得意なことに没頭して生きていくのもありなんだなと気付けたのが大学時代の大きな学びでしたね。

大学卒業後の進路選択のときは、少し悩みました。やりたいことがたくさんある中で、やりたいことや実現したいことができて、私と一番雰囲気が合いそうな会社を選んで就職をしました。

ギフテッド当事者としての経験を活かして起業

ーギフテッドだと気付いたきっかけは何だったんでしょうか?

去年の4月に、知能検査を受けたことがきっかけになりました。大学生時代にアルバイトをしていた会社で、社員全員が知能検査を受けるちょっと変わった取り組みをされていました。その流れで「村松さんも受けてみる?」と言われて、軽い気持ちで受けました。

まさかそんなに高い結果が出るとは思っていませんでした。会社の方にも見せましたが、「うちの社員の中でもトップぐらいだよ」と言われて、驚きが大きかったですね。

最初は、知能が高いのに大学受験は落ちるし、できないところはあるし。自分の持っているものを活かせていないのかなと、自己肯定感が下がる方向の発想になりました。

しかしその後、IQやギフテッドのことを調べていくうちに、どうやら知能だけではなく、性格面にも特徴があることが分かりました。今まで自分が抱えていた孤独感や、同じような困り感を抱えている方がいることに気が付いたんです。

今までは、孤独なはみ出し者だと思っていましたが、まさに自分のことじゃないかって。完璧主義や好奇心の旺盛さ、性格面の繊細さが私の場合の特徴でした。

これは自分のターニングポイントになりそうだなと感じました。

ーそこからどんなふうに今の活動に繋がっていったんでしょうか?

孤独だった過去の自分のような子を救いたい、力になってあげたい気持ちが芽生え、まずは転職をしました。

新卒で4年働いたIT系の会社から、児童発達支援をする会社に入って勉強をしました。そこから知識を得て、経営も学び、独立しました。

日本ではまだ、ギフテッドのお子さんに特化した支援や居場所が限られています。なので自分が作るしかないと思ったんです。

今年の1月1日からTwitterで、ギフテッド教育や2E教育の発信活動を始めたのですが、9ヶ月でフォロワーが約2000人。困っている親御さんや当事者がほとんどです。

毎月のようにご相談のDMをいただき、これだけ困っている人がたくさんいるのなら早く行動したいと思いました。10月からは、YouTubeでも教育に役立つ情報の配信を始めています。

ー具体的にはどんなふうにアプローチをされているんですか。

ご相談を受けるのがメインになっています。ギフテッドのお子さんを育てている親御さんってすごく孤独なんですよね。

例えば、発達が遅れていて言葉が出ない場合や、コミュニケーションが取れない場合などは、乳幼児健診で指摘されて専門機関に繋げてもらうのが一般的です。

けれども、高IQで困り感があると言うと、なかなか医療機関にも理解してもらえないんです。「IQが高いんだから問題ないでしょ」とか、「なんで困るの?」と言われてしまう。

周りに相談しても、「頭が良いのに、それで困ってるなんて自慢してるの?」と捉えられてしまうこともあるんです。困っているのに、人に話せなくなってしまう方が多いんですよね。

親御さんのお話を聞く中で、「初めてこうやって本音で相談できました」と言われるとやってよかったなと思います。

お子さんの個別支援をする中で、自己理解が深まったり、より前向きに物事にチャレンジできるようになったりする姿を見ているとやりがいを感じます。

ギフテッドと聞くと、アルベルト・アインシュタインやレオナルド・ダ・ヴィンチのような歴史上の天才を思い浮かべる方が多いんですが、実はそんなにレアな存在ではないんです。クラスに1人か2人、身近に存在しています。

周りと馴染めないと、「もっと努力しなきゃ」「頑張って克服しなきゃ」と自分を追い詰めてしまう方が多いと思っています。

ですが、生きづらさは努力不足ではないです。

実際に背景を紐解いていくと、その人が悪いわけではなく、脳の特性や環境要因で、苦手な部分が表に出てしまっているケースが多いです。

なので生きづらさを感じるのであれば、その原因を丁寧に紐解いていって、どういうふうな環境調整や工夫をしていくとより生きやすくなるかを前向きに考えてほしいなと思います。

私もそのお手伝いがしたいなと思っています。