萩市地域おこし協力隊 和泉宏に聞く、自分らしさを楽しむ生き方について

女川町でさまざまな学生や大人たちと出会う

ー留学から帰国後は女川町に行かれたとのことですが、きっかけをお伺いしてもよろしいでしょうか。

オーストラリアから帰ったら教員になる道も考えていましたが、やりたいことが見つかりやすくなるための環境づくりについて、自分なりの答えがあまりない中で、「このまま教壇に立っていいのかな」ともやもやしていました。

そんなときに、Facebookの広告でNPOカタリバが、宮城県女川町の放課後学校で1年間働く大学生インターンを募集をしていたのです。募集を見つけて、オーストラリアからオンライン説明会に参加しました。

話を聞く中で、「現場を見てみないとよくわからないなあ」と思った結果、羽田に帰ってきてそのまま宮城に行きました。オーストラリアで出会った子たちと様子が似ている子がいたことから1年間向き合いたいと思うようになり、その場で拠点長に「受けます」と言ったのです。

ー女川町にいた1年間で印象的な出来事はありましたか。

6月に1回、クラスが荒れてしまいました。当時は子供たち目線で関わったり、教えたりすることができていなかったのです。その結果、子どもたちが相手にしてくれなくなってしまい、自分のあり方を問われた経験でした。

もう一つ印象的なのは、ある子どもと言い合ったときです。その子とぶつかり合ってしまったのですが、女川町を去るときに「ありがとう」と言ってくれたのです。

僕からすると自分の思いをぶつけすぎたと思っていましたが、その子からすると、向き合ってくれたこと自体が嬉しかったそうです。

2つの経験を通じて「教育ってエゴだな」と思いました。関わる子どもとどのような関わりをしたら一番いいか、何が正解かなのかはわかりません。自分ができるのは、全力で子どもを思い「何が大事なのか」を考えて関わることしかできないことを痛感させられました。

大事なのは「自分のエゴは、本当に目の前の子どものためになっているのか」を問い続け、謙虚に、熱い思いを持てるエゴを更新し続けることだと思いました。

ー留学や女川町で過ごしたあとはどのような日々を送られたのでしょうか。

子どもたちが多様な生き方の選択肢に触れたり、生き方を自分で見いだして選択したりするには、いろいろな生き方をする大人と出会う状況をつくる方が大事だと思い始めました。

一方で、これまで子どもたちとしか関わってきておらず、「大人たちのいきいきとは」

「大人たちが働くリアルとは」がわからなかったのです。学びや育ちに関わる仕事に就きたいと思い、企業の人材育成や組織開発のコンサルをおこなう会社に入りました。

入社して日々研修プログラムを作っていましたが、最初の1年は心が躍らない毎日でした。

最初の1年は、オーストラリアや女川町の子を通じていきいきしてた自分を思い出し、比較しながら、「なんでこんなに自分が心躍らないんだろう」と思っていたのです。

これからの話ではなく、過去のいきいきした瞬間と今を比較していたので、未来にベクトルを向けられていませんでした。研修プログラムを作りながら「本当にこれは価値があるものなのか」と、わからなくなってしまう1年目でした。

ー過去と比較していることに気づき、どのような行動に移したのでしょうか。

目の前の仕事に向き合いました。目の前の仕事に向き合い、どんなことで心が動くのか、アンテナを立てるようになりました。

目の前の仕事に向き合う中で心が動いたと思ったのが、自社の新卒採用のプロジェクトに参加したときです。挙手制のプロジェクトだったので手を挙げて参加し、2年目からリーダーをやらせてもらい、没頭しました。今に集中することで、未来に興味を持ちました。

挑戦しやすい土壌を山口県からつくる

ー現在、大事にしている価値観はありますか。

現在大事にしているのは、今を生きることです。今自分が何を感じ、どのようにしたいのかアンテナを立てて、一歩踏み出し続けることを大事にしています。

高校生や社会人などいろいろな人と関わり、「自分らしさ」の定義に縛られている人が多くいると思います。1年や2年で考え方は変わりますし、人生の経験に対する意味づけは、時間が経つにつれて変わることを体感しました。

自分の生き方に関して「自分らしさを定義しすぎない方がいいんじゃないか?」と思ったのです。何を感じて考えるかを、自分自身で育むことを大事にしています。

ー今後の展望についてお伺いしてもよろしいでしょうか。

今は主に高校生の探究学習に関わっていますが、県内の小学生から社会人まで、関わる世代を広げたいです。踏み出すことを応援したり、挑戦しやすくなったりする土壌を、まずは山口県でしっかりつくりたいです。

感性にアンテナを立てたり言語化したりする習慣があり、やりたいと思ったときに、踏み出す勇気が育まれていることが大事だと思います。「何かやってみたい」「自分で決めてやってみる」と思う人が増える社会に少しでも寄与したいです。

やってみたいと感じて自分で決めて実行する人であふれる社会をつくるために、まずは山口県で動いていこうと思います。

あとは、シンプルに続けることを頑張りたいです。萩市の1年間でシンプルに続けることが大事だと気づきました。続けないと土壌はつくれませんし、目指しているところにはたどり着かないと気づいたので、続けることを大事にしたいです。

ー和泉さんの人生経験を経て、同世代の方に伝えるメッセージはありますか。

今何を感じて、どのようにしていきたいのかを考え続けることが大切です。「自分はどうしたいのかな」と感じる人もいれば、「わかんなくて困っている」人もいます。わからない以前に「今正直、そういうことに向き合いたいと思えない」人もいるでしょう。

僕自身の人生のターニングポイントをつくってきたのは、外の出会いを通じて、自分と向き合った経験でした。やりたいことがわからないことに直面したり、違うかもと感じることに直面した瞬間です。

賛否両論あるかもしれませんが、やりたいことがわからないことに直面しないと探そうとしないのもありますし、向き合わないと始まらないと思います。

ーありがとうございました!和泉さんの今後のご活躍を応援しております!

取材:冨岡姫菜(Instagram / Facebook
執筆:ひろむ(Twitter
デザイン:高橋りえ(Twitter